第79話 高ランク魔物

 魔物を避けながら進んでいるわけじゃないから、フォレストウルフとゴブリンには何度も会敵してした。でも、魔物の群れには襲われていない。サーチで魔物のいる場所はほぼ正確に把握できている。


「この先に、今までとは違う魔物がいるみたい。かなり大きい魔力を持っている魔物だよ。」


「フォレストウルフでも、ゴブリンでもないのよね。」


「そうみたい。でも、群れじゃい。ただ、狼みたいに、仲間を呼ぶこともあるかもしれないから、油断はできないけどね。」


「それじゃあ、確認に行きましょう。私たちでも戦える魔物かもしれないよ。」


「で…でも、かなり大きい魔力を持っているよ。僕たちで討伐できるかな…。」


「いざとなったら、逃げるのよ。無理はしない。でも、初めから諦めないよ。私たちは、冒険者なんだから。」


「そうだ。俺たちは、冒険者だからな。」


「そう…だね。じゃあ、確認しよう。ダメと思ったら逃げればいい。逃げることは次につながる正しい判断だよね。」


「そう。行きましょう。」


 大きな魔力がある場所に僕たちが着いた時には、大きな魔物が黒い影を形成しつつあった。


「まだ、実体化していないみたいですわ。」


「はい。まず、動きを止める。凛、粘着網スクロールの準備よ。」


「了解。テラ。」


 実体化前の魔物は、動きを止めて総攻撃すれば何とかなるはずだ。僕もテラと同じ考えだ。ただ、さっき確認したように、粘着網で動きを止めた物に酸攻撃をしてはいけない。効果がないだけじゃなく粘着網が効力をなくしてしまう。


「行きます。目一杯、スクロールに魔力を込めまるよ。」


 スクロールを実体化していっている魔物に向けて粘着網で絡めて行った。分厚い網が魔物を動きを止めるよう張り付いて行った。


「テラ、動きを止めたよ。攻撃お願い。」


「まず、リニとリンジー、ロックバレットで攻撃してみて。」


「やってみる。リンジー、同時に攻撃を開始してみるぞ。」



「了解。いくよ。カウントダウン開始。」


「5、4、「3、2、1、はい。」」


 二人のロックバレットが黒い影に降り注ぐ。


『ビュッ、ヒユヒュヒュヒュ…』


「ダメだ。いくら撃ってもダメージが入らない。粘着網が邪魔しているみたいには見えないけど…、損傷が入らないと言うより、直ぐに回復しているような気がする。」


 リンジーが言うようにロックバレットの石は、身体に食い込んでいるようだ。それでも一瞬後にはポトポトと地面に落ちてくる。


「アイスジャベリンで攻撃する。アイスジャベリン!」


『ドビュ・ビュビュビュ…ヒュ・ヒュ…』


 リンジーたちと同じだ。粘着網を貫いて氷の槍が魔物に突き刺さるのだが、ダメージが入っている様子が感じられない。でも、今回の攻撃は、数秒後に地面に落ち居てた。ガチャカチャと音を立てて氷の槍が地面に落ちて砕けている。


「無理みたい。みんな、逃げるわよ。ロジャーさんに頼るしかないわ。」


 テラの一言で僕たちは、撤退を始めた。魔物が実体化を終えるまでは時間がかかるようだ。その前にロジャーの所に行きつかないと危ない。


 走った。遅れないように、足に魔力を回した。今までで一番精いっぱい走った気がする。遅れそうになったけどロジャーがいるはずの場所まで頑張った。


 ロジャーがいない。


「嘘…。」


「凛、ロジャーの気配を探してみて…。その後さっきの魔物の気配を確認しておいて頂戴。」


「ロジャーは、…。シモンさんたちと一緒にいるみたい。魔物を討伐してるんじゃないかな…。大きな魔力を持った魔物が側にいる。」


「それで、さっきの魔物はどう?」


「動いていない。でも、魔力は、どんどん大きくなっているみたい。早くロジャーに知らせないと、僕たちだけじゃ無理だよ。」


「あの魔物が、この階層のどこにいるか分からなくなったら危ないぞ。実体化してその力を全て出せるようになる前に倒さないと大変なことになる。」


「ロジャーがいるのは、あっちの方向だよ。フロル、先に行ってロジャーを呼んできてくれないか。」


「了解だぞ。リニも一緒に来るんだぞ。」


「おう!全速力で走るぞ。」


 僕は、さっきの魔物の方にサーチを向けた。感じる魔力はさっきよりも膨らんでいる。でも、少しずつ変化があるように感じるということは、まだ実体化が終わっていないということだと思う。


「さっきよりも大きくなっている気がする。初めて感じる魔力の大きさだよ。」


「そのまま、サーチを続けていて。魔力の大きさが変わらなくなったら教えて頂戴。」


「うん。」


 階層入り口のすぐ前でさっきのサーチでの魔物の観察を続ける。まだ、魔力変化は終っていない。少しずつ増えて行っている。


「ロジャーさんはまだ来ないの…。」


 この階層入り口から魔物のいる場所までは全速で走ったら20分程だったと思う。僕たちはそのくらいの時間で戻ってきた。魔物が僕たちを認識したらそれこそあっと言う間に詰められる距離だ。


 リニたちが探しに行って10分くらいの時間が過ぎたと思う。ロジャーの魔力を感じた場所は、かなり奥の方だったから、まだ到着していないかもしれない。でも、ただ、待つだけの時間は長く感じる。


「実体化が終わったみたい。魔力の大きさに変化がなくなったよ。」


「こっちに向かってきていない?」


「動きはない。もしかしたらあの粘着網が効いているのかもしれない。」


「どうしたのだ。」


 自転車に乗ったロジャーが現れた。


「私たちが向かった方に、巨大な魔力を持った魔物が現れた。私たちが見つけた時は、実体化している途中だったが、もう実体化は終ってしまったようだ。」


「お主たちでは討伐できなかったのか。」


「粘着網で固定して、私たちが持っている最大火力で攻撃したけど、効果はなかった。攻撃でのダメージよりも回復の方が早い感じだった。」


「そうか。お主ら、その魔物を見つける前にも粘着網を大量に使わなかったか?」


「使った。その前にフォレストウルフの群れと遭遇したから。」


「お主たちも同じだな。分かった。その魔物の所に案内するのだ。テラが一緒に行くか?」


「はい。お供します。」


「では、後ろに乗るのだ。しっかりつかまっておるのだぞ。」


「僕たちも後からついて来ていい?」


「お主らが到着したころには1度目の討伐は終っておると思うがな。着いて参れ。その次の討伐があるはずだ。」


「えっ?どう言うこと…。」


 ロジャーの言葉の意味が理解できないまま、魔物を発見した場所に走った。僕たちが到着した時には、魔物が粘着網と一緒にダンジョンに吸収されている最中だった。


「シロッコであった。Bクラスの魔物だ。」


 大きな魔石と1本のスクロールがドロップされた。


「凛。スクロールを回収してアナライズしてみよ。」


「うん…。分かった。」


 僕は、ドロップしたスクロールを収納してアナライズしてみた。


『風刃のスクロール』


 風の魔法のスクロールだった。


「コンストラクション。」


 錬金術式を構築すると、酸や粘着網のスクロールよりも術式が大きくて複雑だった。錬金には、かなりの魔力が必要かもしれない。


「エアカッターのスクロールみたい。アナライズでは風刃のスクロールって解析できたけど、同じ効果だと思う。」


「それでしたら、凜もエアカッターが使えるようになったということですわね。」


「まあ、僕だけじゃないけど、そう言うことだよね。」


「なんかズルいですわ。私も他の魔術が使えるようになりたいです。」


「その内、新たなスクロールが手に入るであろう。そう拗ねるな。ところで、凛よ。この周辺の魔物をサーチで探ってみるのだ。新たに魔物が実体化しようとしている場所がないか?」


「サーチで探ってみる。サーチ。」


僕がサーチの網を広げて行くと魔力が膨らんでいる二つの魔物を直ぐに見つけることができた。


「ある。この近くだよ。どうして、分かったの?」


「やはりな…。あの粘着網が次の魔物を作っているようだ。もしかしたら、酸攻撃も同様かもしれぬが、今回は酸攻撃のスクロールは使用しておらぬからな。」


「え?」


「魔物と一緒に粘着網がダンジョンに吸収されていったであろう。あれは、粘着網の魔力を吸収しているようなのだ。その吸収した魔力で次の魔物を実体化していると考えて良いだろうな。そうでなければ、こんなに頻回に上位の魔物が実体化するはずはないのだ。」


「ということは…、ダンジョンの中で粘着網や酸攻撃をしちゃいけないってこと?」


「いけない訳ではない。自分で狩れるなら効率が良い魔石採集方法になるだろうがな。お前たちには、まだ難しいと言うだけだ。では、その実体化しつつある魔物の場所に移動しようかのう。」


僕が魔力を感じ取った場所まで移動すると、二つの大きな魔物が徐々に形をはっきりとさせていっていた。


魔物が実体化して動き出そうとした瞬間、ロジャーの大きな投げ斧がその首を落とした。連続して2体の魔物がダンジョンに吸収され、2個の魔石と1個の肉がドロップした。


「コカトリスだ。肉は、高値で販売できるぞ。」

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