第74話 初めてのダンジョン

「凛。アイテムボックスの入り口を薄ーく広げるんだ。まずそれをやってみろ。」


 砂を収納する時にやった時よりも薄くアイテムボックスの口を広げてみた。薄く広げたアイテムボックスの口に反応する魔物の魔力を感じ取っていく。


「いる場所が分かるよ。魔力もあまり使わない。減っている感じはしないよ。」


「そうか。それじゃあ、凜のサーチを頼りに魔物を退治していこうか。凜は、魔力の感じ方と魔物の種類を一致させるんだぞ。」


「この先、右に曲がった所に2体の魔物がいるよ。同じ種類の魔物みたい。魔力は、この近くにいる魔物の中では大きい方だ。」


「この階層は、スライムとダファビーニアだけだからな。大きい魔力を持っているならダファビーニアだろう。テラとリニ、二人で対応してみろ。核を破壊しなければしぶといからな。奴の攻撃は、粘液に気を付けるんだ。二人の連携を意識して射線を重ねないように。2対2だからな。」


 ロジャーの指示でリニとテラがダファビーニアの方に向かった。直線状に並ばない。間に魔物を置く。ぶつぶつ呟きながら向かっていく。


「俺が奥の奴を倒す。ロックバレット!」


「分かった。アイスジャベリン!」


 テラがアイスジャベリンを使えるようになっている。あっと言う間にダファビーニアを倒して何故だか赤スライムの核が一つドロップした。もう一つはDランク魔物の魔石だ。


「よし。上手い連携だった。凛。次は、スライムの所に案内してくれ。」


「近くにいる魔物は、スライムだけだと思う。ええっと、奥だ。このまま奥に行ったら居るよ。その先を左に曲がって次の角の陰に1匹。」


「それなら、リンジーとバックアップにサラで倒してみろ。核を打ち抜かないといくら攻撃しても倒すことはできないからな。」


「はい。ロジャー。頑張りますわ。でも、凜に案内してもらったら安心して戦えますわ。」


「そうだろうな。しかし、油断をするな。魔物は移動するし、気配を消して潜んでいることもあるからな。気配を消した魔物を見つけることができるかどうかは、凜の能力次第だ。」


「さあ、やってみるのだ。」


 リンジーとサラは、ゆっくりと通路の奥に歩いて行った。リンジーの斜め後方にサラが位置取りしている。魔物に向かって直線に並ばない。射線を確保しておく。二人もぶつぶつ言いながら魔物に向かって歩を進めている。初めての魔物との戦闘だ。緊張している。


「サラ、バックアップ頼むぞ。ロックバレット!」


 リンジーはそう叫ぶと、角から奥に向かって走り出した。サラと距離を取って角度を作る作戦をとったようだ。


「ロックバレット。」


 リンジーのロックバレットがスライムの核を破壊したようだ。スライムはダンジョンに吸い込まれてくず魔石が残った。破壊されたはずの魔石がドロップするのが不思議だ。


「私の出る幕はなかったわ。」


「うむ。次はフロルとサラだ。凛。次の魔物の所に案内してくれ。」


「ずっと奥にいる。でも今度は3体だよ。フロルとサラだけで大丈夫?」


「3体か。では、テラも一緒に対応してみるか。3人連携戦になるができそうか?」


「「「はい。」」」


「では、やってみろ。凛、案内してやれ。」


「分かった。行くよ。真っ直ぐだ。暫く歩くよ。」


「分かった。俺が一番前をいくぞ。」


「そうね。一番奥をフロルが担当して。」


「私が2番目と3番目。サラはバックアップよ。いい?初撃で撃ち漏らした魔物を担当するのがサラよ。スライムは核に命中しないと倒せないからね。頼んだわよ。」


 テラがテラ姉になっている。そんなことはどうでも良いけど、この喋り方が自然な気がする。


「行くぞ。」


 角から走り出して移動しながら一番奥のスライムに鉄球を撃ち込んでいく。その後を少し遅れてテラが追いながら2番目3番目のスライムにアイスジャベリンを放った。


 氷の槍に貫かれて2番目のスライムは核を破壊され、ダンジョンに吸い込まれていく。


「サラ、撃ち漏らしにファイヤーボール。」


「もう、放ちましたわ。」


 サラのファイヤーボールがスライムを核ごと燃やし尽くす。魔力の量が上がったからかファイヤーボールの威力が上がっている。


 火が消えた後にくず魔石がドロップした。今回のドロップ品は、くず魔石が3つだ。


「凛。次は、次の階層の入り口を探してみろ。できるんじゃないか?」


「うん。やってみる。次回層入り口…。探す。サーチ。」


 魔物は見えなくなってしまったけど、次の階層入り口までの道は見える。


「見えた。こちらとは反対方向にあるみたいだよ。」


「前回と変わっておらぬようだな。それなら、儂らが案内できる。では、もう一度、魔物をサーチしてみてくれ。ダファビーニアとスライムの区別はつくようになったであろう?」


「ロジャー、でも、僕はまだ魔物と戦っていないよ。」


「確かにそうだが、どのようにして戦うのだ?投擲は練習しておらぬし、攻撃用のスクロールはまだ見つかっておぬではないか。今日は、後方支援に徹した方が良いと思うぞ。」


「でも、魔物と戦うことができないといざという時にやられてしまうよ。」


「うむ…。どうしても魔物との戦闘を経験したいというのであれば…。そうだな。魔物を倒すまで行かなくても良い。魔物を退けるまでやってみよ。お主の洗浄のスクロールであれば、魔物を吹き飛ばすくらいはできるであろう。」


「向こうの方に魔物はいる?」


 テラが指さした方にサーチの薄膜を広げて魔物を探った。


「奥の左側にスライムだと思う。1体いる。」


「では、さっき言ったように洗浄のスクロールで吹き飛ばしてみろ。」


 僕は、洗浄のクロールを出し戦闘の準備をした。魔力を直ぐに流せるようにスクロールを前に向ける。


「この角を曲がったところにいる。」


「うむ。バックアップは儂が行う。凜は、角を曲がって直ぐにスライムを奥の方に吹き飛ばすのだ。」


「分かった。」


 僕は、スクロールを前に突き出して少しだけへっぴり腰で進んでいく。へっぴり腰は自分でも分かっている。サラがくすくす笑っているのも分かっている。でも、怖くて腰が引けているのを止められない。


「凜。いくら反動がないスクロールから水を放出するといっても、しっかりと腰を据えておかねば、狙いが定まらぬぞ。疲れない歩き方を教えたであろう。思い出せ。」


 居た。僕に酸の攻撃をしようと身構えている。スクロールに魔力を流し込んで放水を開始し、スライムを吹き飛ばした。僕が吹き飛ばしたスライムの核をロジャーの鉄球が砕いた。


 僕の放水は、急に止められずに壁を洗った。目一杯魔力を注ぎこんでいたから、放水の勢いは今まで洗浄で使ってたスクロールの勢いの数十倍はあったようだ。


 壁に穴が…。



「隠し部屋か…。」


「隠し部屋?それって何なのですわ?」


「ダンジョンの中にある隠された部屋だ。罠のこともあるからな。中に入るには細心の注意が必要だぞ。」


「中に入ってみるの?」


「勿論。しかし、儂からじゃ。テラ、後方からバックアップをしてくれ。儂の指示がなければ攻撃をするのではないぞ。その他の者は、入り口の前で待機じゃ。」


『はい!』


 ロジャーの指示に全員が声を合わせて小さく短い返事をした。


 ロジャーが気配を殺して静かに中に入っていく。中からは何も音は聞こえない。


 僕は、サーチの膜を隠し部屋の中に広げてみた。魔物は見つけることができなかった。魔物以外のサーチをしたいのだけどやり方が分からない。


 10分程後ロジャーが僕たちを呼んだ。


「凛、お主、この隠し部屋をサーチしたであろう?」


「うん。ロジャーたちが入ってすぐ、でも、魔物はいなかった。」


「やはりな。ほんの少しだが、魔力に触れたように感じたのだ。低位の魔物なら大丈夫だと思うが、今のままのサーチだと高ランクの魔物になると気付かれる恐れがあるぞ。熟練度を上げるか魔力の使い方を工夫せねばならぬだろうな…。まずは、熟練度を上げることであろう。できるだけ頻繁にサーチを使うのだ。よいな。」


「うん。分かった。…、頑張ります。」


「そうだな。お主のサーチの精度が上がれば、パーティーの生存率は格段に上がるはずだ。精進するのだぞ。」


 ロジャーにそう言ってもらえると嬉しい。戦いにはあまり役に立たないけどパーティーの役に立てるならいる意味がある。


 隠し部屋の中に二つのスクロールが落ちていた。スクロールはダンジョンの中で見浸かるって聞いていたけど、こんな風に見つかるんだ。魔物がドロップするのかと思っていた。


「凛、このスクロールを錬金術で作れるか試してみろ。もしかしたら攻撃のスクロールかもしれぬぞ。」


 一つ目のスクロールを収納してアナライズした。一個目のスクロールは、強酸攻撃を行うアシッドスクロールのようだ。スライムの攻撃をスクロールに表した物らしい。

(やったー!これで僕もスライムだ!あんまりカッコよくないけど…。)


「コンストラクション。」


 錬金術式を構築。


 もう一つのスクロール何となく予想はできるけど…。収納してアナライズ。


 やっぱりだ。粘着液攻撃のスクロール。ビスコサムスクロールだ。


「コンストラクション。」


 錬金術式ができた。(やったー!これで僕は、ダファビーニアだ!これも、やっぱりカッコよくない。)


 この二つの術式を一枚のスクロールにしたら、あの臭い汚泥を放出するスクロールができるかな…。そうしたら、魔力が続く限り燃料の元になる汚泥が作り放題になる。臭くて大変だろうけど…。


「凛。どうした。ボーっとしてスクロールの術式とスクロールはできたのか?」


「術式はできたよ。素材は…。一枚目のアシッドスクロールは、紙と魔力インクとスライムの魔石だね。二枚目のビスコサムスクロールは、紙と魔力インクとダファビーニアの魔石。二つとも魔石の必要量は分からない。一枚のスクロールにどのくらいの量の魔石がいるかは、作ってみないと分からないよ。作ってみて良い?今なら素材が全部そろっているからさ。」


「作ってみてくれ。性能もダンジョンの中だったら試しやすいからな。」


「素材が足りなかったらいくら数を指定しても作ることができないから100枚位作ってみようね。魔力切れにはならないと思うけど…。やっぱり、10枚にしておこうかな…。」


「スライムの魔石なら3個もあるから2個をロジャーに預けて10枚作ってみたらどうだぞ。」


「そうか。そうだね。じゃあ、スライムの核を1個だけ収納して…。」


「アルケミー・アシッドスクロール・10。」


 錬金に必要な魔力は、ほんの少しのようだ。10個のアシッドスクロールが出来上がった。魔石は残っているけどさっきよりも小さくなったような気がする。


「アシッドスクロールは、僕とフロルとサラで持っておくかな…。」


「私と凜は分かりますけど、どうしてフロルも持っておくのです。テラの方が良いと思うのですわ。」


「テラは、アイスジャベリン、ウォーターボール、弓の3種類の攻撃手段があるけど、サラと僕、フロルの攻撃手段が少ないからさ…。ロジャー、誰が持っていたら良いと思う?」


「必要魔力量次第ではないか?サラが魔術を撃つよりも少ない魔力量でスクロールの魔法攻撃ができるのであれば、持っていた方が良いであろう。今は、一応全員持っていてよいであろう。アシッドスクロールは後いくつ位作れそうなのだ?」


「さっきの魔力の減り具合だと100枚くらいは作れると思うけど…。作ってみるね。アルケミー・アシッドスクロール・100。」


5分もかからず100枚のアシッドスクロールは完成した。メンバーそれぞれに2枚ずつ。ストレージがあるロジャーとフロルには10枚ずつ渡した。


「次は、粘着液のスクロールを作ってみるよ。アルケミー・ビスコサムスクロール・100。」


 こちらもさっきと同じくらいの魔力の減り具合だろうと高をくくって最初から100枚の錬金を行ってみた。必要時間は10分。さっきよりも時間も魔力もたくさん必要だった。良かった。2倍で。ダンジョンの中で魔力切れなんてシャレにならない。これからは、そんなことはしないようにしよう。でも、錬金術式の規模もあまり変わらなかったのにこの差は何なのだろう。


 出来上がったスクロールをみんなに配って、次の階層への出発準備は終了だ。


 この後もスライムに2回ほど会敵したけど、サクッと倒して次のかいへ移動した。

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