第73話 異世界の話

「凛、そろそろ起きないか。」


 ドアの外からロジャーの声が聞こえる。戻って来れたみたい。でも、何となく寝足りない気分だ。身体は、十分に寝たはずなのに変だ。


「起きたよ。もうみんな朝ごはん食べたの?」


「いや。お主を待っているぞ。あまり早く食べたら、ダンジョンの中でお腹がすきそうだと言ってな。」


 そうだった。今日は、皆と一緒にダンジョンで訓練をするんだった。ダンジョンでの戦い方を教えてもらうんだけど、僕はどうやって身を守ったり魔物を倒したりすればいいんだろう。足の方に魔力を回せば、脚力が上がるのかな?身体強化?


「お早う。」


 僕が着替えて食堂に行くと、市場から買ってきた物なのか、食料が並べてあった。


「これって、市場から買ってきたの?」


いや、シモンの所のご両親がコックと通いのお手伝いさんとして働いくれることになってな。今日から朝食を作ってくれたのだ。」


「朝から凄いご馳走だね。」


「うむ。今日からダンジョンに潜ると言ったら栄養のあるものをって言ってたくさん作ってくれた。余った物をダンジョンに持って行くようにということだ。賄い食は作ったから全部持って行って欲しいそうだ。まあ、シモンたちも一緒に潜ることは伝えてあるからな。奴らの分も含まれているのだよ。」


「凛、さあ、食べるぞ。しっかり食べないとダンジョンで動けなくなるからな。」


 テラは、何か冒険者モードだ。寝不足だのなんだのはこの際どうでも良い。今日からのダンジョン攻略について色々聞いておかないといけない。


「ねえ、ロジャー、ダンジョンに入るの時さ、足に魔力を回して強化しておかないといけないの?」


「魔物から逃走する時などは、そんなこともあるかもしれぬが、普段は、そんなことはない。それよりも魔物の居場所を正確に把握できることの方が大事だと思うぞ。」


「でも、どうやって魔物の位置を把握したら良いの?」


「お主は、汚水処理場でも言っていたではないか。アイテムボックスを広げたら収納前に魔物がいるのかどうか大体分かるって。」


「それは、収納する汚泥の中に魔物が潜んでいるかどうかは何となくわかる気がしたけど…。」


「そう。その感覚を薄く広げればよいのだ。それができれば、余計な争いをせぬとも良くなる。その他にも色々と使いようが出てくると思うぞ。たとえば、ダンジョンの階層入り口を見つけるとかな。」


「そんなことができるのかな。でも、出来たら便利だよね。」


「今からそれをできるようになりに行くのだ。精進するのだぞ。」


「はい。頑張ります。」


 みんなで朝食を終わって、ダンジョンに向かって出発した。途中でギルドの倉庫によって燃料を1万束納めておいた。


「おじさん、帰りに伝票を貰うからね。宜しくね。」


「おう。おめえら、今日から倉庫での作業じゃないのか?昨日、下水道の清掃作業は終ったようなこと言ってたよな。」


「うむ。清掃作業は、終わったのだがな、数日休みをとることにしたのだ。今日の分の燃料は持って来たが、明日は休みということで頼むぞ。」


「そうですか。まあ、これから納品頼みますよ。王都に持って行ったらいくらでも売れると思いますからね。伝票が出来ました。帰りまでお預かりしていした方がよろしいですか?」


「いや、貰っておこう。ほれ、テラ。持っておいてくれ。」


 ロジャーは受け取った伝票をテラに渡した。


「では、行くか。」


 いよいよ、ダンジョンだ。その前に聞いておかないといけないこと、まあ、聞かなくても分かっているんだけど。昨日僕が向こうの世界に帰っていた時のことを確認しておかないといけない。


「ねえ、ロジャー。僕が気を失った後のこと教えてくれる?」


「何故だ。お主は、ずっと寝ていたであろう。あの後、お主を部屋につれて行ってベッドに寝かせた。その後、儂も部屋に戻って寝た。それだけだ。」


「それだけ?」


「その他に何があるというのだ?お主は、ベッドで目覚めたであろう?」


「それがさ。実は、気を失った後、あっちの世界に戻っていたんだ。」


「あっちの世界?」


「ねえ、凛?あっちの世界って何?」


 あっ…。テラたちもいたんだった…。


「僕、違う世界で生きていたんだ。信じられないと思うけど。こっちの世界にいたのはレミって言う子で、今も向こうの世界で生きているんだ。」


「レミって誰だ。」


 フロルが聞いてきたけど、答えられない。


「僕も知らないんだよ。思い出したのは、名前だけでさ。向こうの世界でもレミも自分のことが思い出せないって言ってるらしいんだ。」


「言ってるらしいって、誰から聞いたんですわ?」


「向こうの世界の父さんからだよ。戻った時に話したんだ。」


「凜には、お父さんがいるの?」


「いるよ。母さんも妹も。」


「そうか。みんな元気なんだな。いいな。」


「そうだね。みんな元気だよ。」


「それで、凜は、向こうの世界では何をしてるんだ?冒険者なのか?」


「僕たちの年齢だと、働いている人は殆ど居ないよ。僕は小学生だよ。」


「小学生?何だぞ、それ?」


「勉強して遊ぶだけ。でも、僕はあまり行ってないな。入院してたからさ。」


「入院って何だぞ?」


「病院で寝泊まりして治療しているってこと。こっちの世界には病院ってないのかい?」


「ポーションや治療魔法があるからな。長く病院に寝泊まりすることってあんまりないかな。王都に、軍人病院って言うのがあるのは聞いたことがあるがな。」


「そうなんだ。地球とは全然違うね。」


「凜の話も興味深いが、そろそろダンジョンだ。気を引き締めろ。」


「凛。また、あなたの世界の話聞かせて。冒険の役には立たないかもしれないけど、とっても面白そうですわ。」


「うん。いつでも良いよ。それに、勉強っていうのもやらされている時にはあまり面白くなかったけど、やってみると面白いなって思うんだ。今回、向こうの世界に戻った時、色々な本をアイテムボックスの中に入れてきたんだ。」


 みんなにも読ませてあげられると良いんだけど、向こうの言葉で書かれているからな。


「そうなの?私たち朝の勉強って言うのやったけど、まだ、面白いって言うより、役に立つっていうことしか分からないわ。でも、色々分かるようになったら楽しいのかもしれないわね。」


「さあ、おしゃべりは、お終いだ。ダンジョンに入るぞ。」





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