第72話 ブックコピー

 家族4人でお出かけなんて何カ月ぶりだろう。もしかしたら数年ぶりかもしれない。まあ、直ぐ近くの図書館までだけど蘭がとっても喜んでいる。僕と蘭が後部座席で父さんと母さんが前だ。


「ねえ、凛。あなたあっちの世界ではお父さんとお母さんは、いらっしゃるの?」


「それが分からなくてさ。レミの記憶にもなくて。」


「じゃあ、あんたは誰と暮らしいてるの?」


「ええっとね。僕を助けてくれたロジャーでしょう。パーティーメンバーのテラとリニとリンジーとフロルにサラの7人だよ。」


「そんなにたくさんで暮らしているの?それって寮か何かなの?」


「違うよ。自分たちで借りている家だよ。7部屋で、使用人用の家が庭にあるんだよ。」


「使用人?あなた達、人を雇っているの?」


いや、雇ってないよ。でも、もうすぐ、留守番なんかをしてくれる人が来てくれるようになるかもしれない。」


「人を雇うって、いったいロジャーって人はどんな仕事をしているんだ?」


「ロジャーが雇う訳じゃないよ。僕たちで雇うんだ。ロジャーもお金を出してくれると思うけど、僕たちも同じくらい出すよ。」


「あなた達もお仕事しているの?」


「そう。お仕事しているんだよ。今日も仕事をしていてちょっとやらかしちゃったから魔力切れになってしまったんだけど…。でも、魔力切れになるかもしれないから危なくないところで錬金したんだよ。倒れたり、気を失ったりしたても怪我しない所でさ。」


「まあ…。あなたが魔力切れって言うのになったのは仕事の所為だったの?あなたが子どもだからって、他の大人が、無理させているんじゃないのよね。」


「全然。ロジャーはそんな人じゃないし、ロジャー以外で一番歳が上なのはテラで、テラも今月15歳になったばかりだよ。だから、僕を働かせて楽している大人なんていないんだ。」


「そう…。本当に騙されているわけじゃないのよね。」


「母さん、そんな心配しないで。大丈夫だよ。運よくとってもいい人に助けてもらっているからさ。でも、それは、僕なんだ。レミじゃないんだよ。だから心配なんだ。早く戻ってあげないと何が起こるか分からないから。」


 そんな話をしているうちに図書館に着いた。駐車場に車を止めて、皆で館内に入る。


「凛。どんな本が欲しいんだ?」


「今は時間がないから、できるだけ図や絵がたくさんある昔の武器や道具が解説してある本が欲しいな。でも、本物の武器じゃないとダメだからね。物語に出てくるような物だったら絶対作れないから。」


「昔の武器や道具の図解か…。でも、それなら、実物を手に入れた方が役に立つんじゃないか?」


「それはそうだけど、日本で実物は手に入らないでしょう。」


「それは、そうだな。絵や写真、解説が付いているような武器や道具の本な。そんなのがある場所を探すんだよな。専門書がある場所か…。凜は、そっちに行ってよさそうなのがあったら直接ブックコピーをしておいたら良い。父さんが新書の場所を探してみる。母さんも色々探してみて武器に限らず、生活に役立ちそうな本があったら、集めてみてくれないか。蘭も頑張ってな。」


「そうね。蘭は、母さんと一緒に本を探しに行きましょう。料理やお菓子の本なんかはどうかしら、レシピ本なんかも良いんじゃない?」


 それぞれ僕がコピーしたら役に立ちそうな本を探しに行ってくれた。僕は、専門書の所にいって乗り物の本や武器のことが書いてありそうな本などを片っ端からアイテムボックスの中に入れてブックコピーを繰り返していった。分厚い本だとコピーするのに10分近くかかる、意識はコピーの魔術の方に行って、注意散漫になりながら、別の本を探してパラパラとめくってみながら次にコピーする本を決めていった。


 自転車の変遷について書かれた本もなかなか面白そうだった。ロジャーも自転車みたいなものを持っていたし、何かの役に立つかもしれない。現代有機化学…。パラパラとページをめくったけど意味不明だ。もう少し基本的な物を理解しないと専門書はいきなり読んでも何が書いてあるのかが全く分からない。中学理科や高校の化学や物理の参考書なんかの方が役に立つかもしれない。


 専門書は諦めて、雑誌や新書のコーナーに探しに来た。料理の場所には蘭と母さんが居て、お菓子の本を沢山集めていた。確かにお菓子のレシピは役に立つかもしれない。特に作ってくれたらアナライズして向こうに行って再現できる可能性がある。そう考えると、家に帰って実際に作ることができる物の方が役に立つのかもしれない。


 それなら、趣味の本で家に帰って作ってみることができる物はないか。今日じゃなくても、僕が作らなくてもいいはずだ。父さんに作ってもらってレミがアナライズできるようになれば、あっちの世界にいても錬金術式を手に入れられるかもしれない。そう考えなおして、家に帰って今日ではなくても作ることができそうな本を探してみた。


 ラジコンボート、ラジコン飛行機、ドローン、ラジコン自動車。自動車の本やオートバイの本も何かしらモノづくりの参考になりそうだ。特にラジコンなんかの本は大きさを変えることができれば本物の乗り物に応用できるかもしれない。


 趣味の本の辺りにあった雑誌や専門書は次々にコピーしていった。専門書と言っても2階の専門書棚の本に比べると随分ページ数が少ななくて、ブックコピーにかかる時間は少なくて済んだ。


「凛。そろそろお腹空かない?」


 顔を上げて時計を見るもう、1時近くになっていた。


「うん。お腹空いた。何か食べに行きたいな。」


「何が良い?ファミレスに行くか?」


「ファミレス…?フードコート。イ〇ンのフードコートに行きたいかな。」


 ずっと前、蘭が生まれて間もない頃だったかな。行ったことがあるショッピングモールのフードコート。あそこだったら食べたい物が見つからなくてもレストラン街もあった気がする。


 みんなが、僕の希望を聞いてくれて図書館を出て、ショッピングモールに向かった。僕の希望は色々ありすぎてまとまらない。まず、ラーメンは食べたい。それにハンバーガー。チキンも食べたいし…、にぎりずし、回転ずしでも良いな。


 ショッピングモールまで迷い続けた。でもちゃんとブックコピーは続けていたよ。そのせいで魔力は減っていったけど、大丈夫だった。魔力切れには、まだ時間がかかりそうだった。


「僕、お好み焼きにする。あのデラックスを食べてみたい。」


「蘭ちゃんは、バナナクレープ。」


「蘭。それって御飯じゃなくておやつだよ。まあ、いいかっ。クレープも良いなら僕も食べたいな…。」


「本当に食べることができるの?」


「できるよ。食べて良いの?」


「良いぞ。今日は凜の退院祝いの日だからな。」


 お好み焼きは、豚玉を頼んで、バナナクレープも頼んだ。炭酸ジュースも一緒に頼んで…。お腹がはち切れそうになるくらいお腹いっぱいになった。勿論、アナライズはしておいたよ。でも、向こうの世界で作るのは無理だと思う。小麦粉はあるけどバナナとチョコなんてあるはずないからね。


 ショッピングモールでの昼食を終えて、家に帰る前におもちゃ屋に連れて行ってもらった。ラジコン戦車とラジコンボートとラジコンジープ。さんざん悩んで戦車と船にした。何か大きくしても安心な気がしたんだよね。こんなに贅沢にお金を出してもらえるのは今回までだと思う。ごめん。レミ…。


 家に帰って早速買ってもらったラジコンをアナライズしてみた。無理だ。錬金術式はできない。どうしてだろう。


「じゃあ、借りてきてもらった本を全部出してもらって良い?」


 僕は、全部で40冊の本を受け取って一挙にブックコピーを始めた。


「ブックコピー、ブックコピー、ブックコピー、ブックコピー、ブックコピー…、…、…、ブックコピー。」


 化学や物理の専門書やイラストや写真がたくさん乗っている解説書なんかをまとめてブックコピーした。確かに魔力が吸われていくような感覚はあるのだけれど、魔力切れなんて起こりそうにない。


「父さん。まったく魔力切れの気配がないよ。どうしたら良いんだろう…。」


「その魔力って言うのはどんな時にたくさん必要なんだ?」


「錬金術式に従って物を作る時かな…。」


「それなら作ってみたらどうなんだ?」


「でも、素材がないと作ることができないんだよね。」


「素材か…。では、例えばだぞ。ゴミの中にあるパルプで紙を作るとかできるのか?」


「さあ、やったことないけど、できるのかな…?」


 まずは、A4の紙を分析して用紙の錬金術式を作った。次に、家にあるごみを全部収納した。


「アルケミー・用紙1000枚」


 できた。ゴミから紙ができる。


「何か、収納できそうなものを素材にしてできる物ってないかな…。」


「このコップは、貰いものなんだけど、石英ガラスって言うのでできているらしいんだ。そしてだ。その石英ガラスってのは、近くの海岸の砂の中に含まれている石英っていう鉱物で作ることができるって言うのを聞いたことがあるんだけど、作ってみないか。砂なら、海岸全体から少しずつ拾ってくれば、問題ないと思うんだよな。」


 僕と父さんは、車で近くの海岸までやってきた。秋の海岸。もう夕方になろうとしているから人通りも少ない。アイテムボックスの収納範囲を広く3k㎡程に広げて、0.5mm程の深さで収納した。魔力がほとんど持って行かれた。


「父さん…、魔力がほとんど持っていかれたみたい。」


「大丈夫か?」


「大丈夫。でも、時間がたつと魔力は元に戻るから…。車の中でさっきのコップをアナライズして、このガラスから錬金してみるね。もしも、気を失ったら家まで運んでくれるかな…。」


「分かったぞ。もし、レミが戻って来たら何を伝えたら良いんだ?」


「アイテムボックス・オープンって唱えて、今から作るガラスのコップを取り出してみてって伝えてくれない。それと、手紙を書いてコピーすれば、僕が読むことができるって言うのも、僕が書いた手紙を読んでみてって言うのも伝えて。じゃあ、今から錬金をするね。行ってきます。」


「うん。いってらっしゃい。凛。気を付けるのだよ。」


「うん。アナライズ・コップ。アルケミー・コップ・50。」


 僕は、わずかに残っていた魔力を使い果たした。意識が暗闇の中に沈んでいった。




「あれ?なんで車の中にいるの?」


「ああ、色々あってな。お帰り、レミ。」








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