第71話 突然の帰還
「レミ!どうした?」
「レミ!どうして?さっきまで…。」
レミ?誰のこと…。僕は凛。凜だよ。父さん…?か…かあさん?
目を開けると目の前に父さんと母さん、それに蘭までいた。
「えっ?どうして?ここ、病院じゃないよね…。」
「そりゃあ、そうだろう。さっき退院してきたばかり…、ぇっ、お前、凜なのか?」
「う…うん。凜だよ。ここってお
「そうだ。今日退院して…。でも、治療を頑張ったのはレミだったんだ。レミは…、レミは大丈夫なのか?」
「う…ん。大丈夫。魔力切れを起こしただけだから。今、寝ているはずだよ。気を失っているって言った方が良いのかな。」
「それで、お前は、今日までどうしていたんだ。どうして戻ってこなかったんだい?」
「こっちの世界への戻り方が分からなかったの。今日戻ったのも偶然だったんだ。多分、魔力切れを起こしたから入れ替ったんじゃないかな。今日がそうだったから。」
「魔力切れ?前の治療の時に急に気を失ったあれのことか?さっきも急に気を失ったものな。」
「急に気を失ったって、そんなことあったっけ…。」
「吉田さんと治療をしていた時、吉田さんが手を放してくれなくて、何かが起こったみたいで、お前は急に気を失ったんだ。それから少ししてレミが目を覚ましたんだ。」
「そうなんだね。そしてね。僕、多分、この病気の治し方分かるよ。やってみて良い?」
「えっ?魔力をグルグル回すって言うあの治療じゃなくてか?」
「そう。多分だけどね。やってみるよ。何か、ええっと。」
僕は、アイテムボックスの中に入れても良いような物を探してみた。目の前にあるココアが入ったカップが良い。
「アイテムボックス・オープン。収納・ココアのカップ」
目の前にあったカップが消えてなくなった。
「おにいたん、凄ーい。カップが消えたよ。」
「えっ?手品か?」
「アイテムボックスっていうスキル。これを使うことで僕の魔術回路が活性化したはずなんだ。魔術回路が活性化すると魔力病は完治なんだって。」
「それで、あのココアとカップはどこに行ったの?」
「ここにあるよ。アイテムボックス・オープン・ココアのカップ。」
「「わっ!」」
さっきとは違う場所にココアが入ったカップが現れて、父さんと母さんがびっくりして声を出した。
「上手ー。」
蘭は喜んで手を叩いている。
「今ので魔力病が治ったと思うよ。」
「その手品の種はどうなっているんだ?スキルとか言っていたけど…。何か種があるんだろう?確かに、魔力グルグルはやってもらう私たちには、明らかな治療効果があって不思議なんだが、その治療効果は、母さんの…、何だったっけ?」
「レミは、ヒールって言ってたわ。」
「そう、そのヒールみたいなもんなんだって言ってたぞ。」
「ヒールとは少し違うかもしれない。だって、僕は、ヒールは持っていないからさ。僕ができるのは、錬金魔術なんだ。」
「「錬金術ーっ!」」
父さんとかあ母さんが声をそろえて言った。ハモってる…。
「錬金魔術ね。できることは、錬金術と同じなんだけど、錬金釜が要らないんだ。」
「ちょっと待ってくれ。そんな、ファンタジー小説か漫画みたいなこと言われても…。確かに魔力病やヒールも漫画やファンタジー小説みたいだけどな。錬金魔術っていったいどういう物なんだ?」
「たとえば、そうだね…。あっ、材料がないと何も作れないんだよね。」
材料がすべてそろっていれば作れるんなら…。
「そうだ。そのプリンターで印刷したものない?」
「昨日、試しに印刷した物ならあったと思う。これ、新しいプリンターなんだぞ。」
僕は、その印刷物を受け取ってアイテムボックスに収納すると錬金術式を作った。
「アナライズ。コンストラクション。」
「よく聞き取れないけど、どこの国の言葉だ?」
「英語かな…。日本語じゃないよ。良く分からない。」
「そ…、そうなのか…。全く英語には聞こえんぞ。」
「プリンター用紙も何枚かもらえないかな。それと、プリンターのインクね。使いかけのインクを貸してくれない。すぐに返すからさ。」
「わかった。これだ。それと、インクだな。全色なのか?」
「うん。全色お願い。」
受け取った紙とインクをアイテムボックスに入れて錬金してみる。
「アルケミー・印刷物。」
魔術は殆ど吸われた感覚がない。さっき分析したお試しプリントと全く同じものが出来上がったようだ。
「アイテムボックス・オープン・印刷物」
父さんに渡してもらった印刷物が2枚になって表れた。
「ほらね。」
「ほらねって…、お前は、人間プリンターか!」
「今回は、全く同じ材料があったから印刷できただけだよ。他の印刷物だとこんなにうまくいかないと思う。多分材料になるインクや紙の原料なんかが必要なんじゃないかな…。」
「例えば、今、コピーした印刷物は、もう一枚作ることができるのか?ええっと、アイテムボックスの中に原本を入れてなくてもってことなんだけが。」
「うん。できるよ。アルケミー・印刷物。」
僕は、もう一枚印刷物を錬金して取り出して見せた。
「そんなことより、異世界に戻らないと…。」
「そんなことよりって…。それに、戻るって帰って来たばっかりなのに…。」
「レミもそうなんでしょう。でも、僕、あっちでレミの記憶が殆ど思い出せなかったんだ。言葉や知識は覚えていたんだけどね。それって、おかしいと思うんだ。それに、レミは、一緒にした人が死んじゃったってロジャーが言っていた。だから、今はまだレミが帰る時じゃないんじゃないかなって思うんだけど、どうかな?父さんたちにあっちの世界のこと何か言っていた?」
「あっちのことは思い出せないとしか言ってなかったな。老騎士マティアスが僕を守ってくれたっていうことは、言っていたと思うんだけどな…。」
「それにさ。一番は、明日みんなとダンジョンの訓練に行く約束をしたんだ。父さんたちもレミとなよか約束したんじゃない?」
「明日は、学校に行って来週からの登校の手続きと教室の確認なんかをする約束をした。そして、明後日から温泉に行くんだ。」
「レミは、それを楽しみにしてるんじゃない?行けなくなったら悲しむと思うよ。」
「確かに、レミも私たちも楽しみにしていたわ。でも、凜が帰って来たのに直ぐに分かれるのも嫌よ。元気になったんでしょう。一緒に色々なことができるようになったんでしょう。」
「それは、そうだけど…。レミは誰ひとり知り合いもいないところに急に行かされたんだよ。それは、僕の不注意というか…。僕がこっちに戻ってこれたのは良かったんだけど…。そして、戻り方が分かったのも良かった。もしも、どうにかして向こうに戻ることになったとしても、いつでもこっちに戻って来ることができるからさ。でも、もう少しあっちで色々なことをやってみたいんだ。レミにも安心してあっちの世界に戻れるようにしてあげたい。」
「そんなこと言っても、一体どうやって向こうに戻るって言うんだ。魔力グルグルで手を離さないっていうのでできそうなのか?」
「できるかな…。やってみても良いけど、魔力回路が活性化しちゃったから、何かしらの魔術が発動してしまうかもしれないね。実際、さっきも魔力を使ったんだけど、あのくらいじゃあ、魔力が減った気がしないんだ。」
「凛。さっきの印刷物の複製なんだけどな。一言一句、図や漢字、数字まで全て同じなんだが、それって、お前のアイテムボックスの中に記録されてるってことなのか?」
「記録とは少し違うかもしれない。錬金術式っていう印刷物を作る為の式になっているんだ。」
「それじゃあ、印刷物にするまで何が書いてあるか分からないってことなのか?」
「そう言うことになるかな…。」
「それなら、本なんかを錬金術で作ろうとしたらどうなるんだ?」
「作ったことないから分からないけど…。やってみようかな。百科事典なんかが良いかな。」
「凜が好きな、科学百科なんかどうだ?」
「うん。それでいいや。その本の錬金術式を作ってみる。できるかな…?」
父さんが僕の部屋から科学百科と何冊かの本を持ってきてくれた。
「ページコピーって言うので本の見開きページをコピーできるはずだからやってみるね。」
「それだと、錬金をしなくても読むことができるのか?」
「そうだよ。でも、それを実体化するには、コピーした物を分析して紙に実体化する術式を作らないといけないみたい。」
「それなら、その本をさっきみたいに分析して、本にするための術式を作ることもできるのかい?」
「術式はできるかもしれないけど、紙の材料やインクの材料なんかがすべてそろってないと本にすることはできないからね。」
「じゃあ、まずは、ページコピーからだな。コピーオールみたいな呪文はないのかい?それか本を丸ごとコピーするブックコピーとか。」
「本を丸ごとコピーできる呪文があったらいいよね。もしかしたらあるのかもしれないけど…。試してみるね。ブックコピーも。」
「やってみてごらん。」
僕は、まず科学百科を1冊収納した。
「ブックコピー…。」
スーッと魔力が吸い取られていった。確かに何かを作っている。
何分くらい時間がかかったのだろう。
「できたみたい。」
「さっきの何か言ってたけど何の呪文を唱えたの?」
「ブックコピーって言ってたつもりなんだけど…。違うこと言っていた?」
「全く違う言葉に聞こえたな。それで、できた本のコピーは読むことができるのか?」
「まず、本を出して…。アイテムボックスオープン。」
僕は、本を出して父さんに手渡した。
「本に書いてあることから何か聞いてみてくれる。コピーした本と同じか確かめるからさ。」
「じゃあ、128ページに書いてあることだ。液体窒素は一気圧の時に何度になっているでしょう。」
「液体窒素の温度だね。一気圧の時の沸点は-196℃って書いてあるよ。」
「えっ?もう見つけたのか?見つけるまで1秒もかかってないじゃないか。」
「そうかな…。普通に目次で探してページを開いたつもりなんだけど…。」
「それってすごい能力だね。他の本もコピーして色々試したら良いかもしれなぞ。」
「あのさ。今、アイテムボックスの中を見て分かったんだけど、異世界でコピーした本もこっちで読むことができるみたい。それってすごくない?」
「どうしてだ?」
「だってさ。向こうで、手紙や日記を書いてページコピーしたらこっちの世界で読むことができるじゃない。それに、こっちの世界でアナライズして錬金術式を作ったら材料さえあれば、向こうの世界で作れるってことじゃない?」
「ちょっと待て。それなら、レミと連絡したり、もしも、この後、凜が向こうの世界に行ってもレミを通して連絡が取れるってことなのか?」
「そうか。いつでも二人で連絡ができるって言うことになるんだ。」
「それなら、早くレミをこっちに呼んでそのことを知らせなくちゃいけないね。…、図書館に行こう。」
「え?どうして?」
「さっき、本をコピーした時、ものすごくたくさんの魔力が必要だったんだ。多分だけど、明日の午前中に僕が本を沢山コピーしたら魔力切れを起こすと思う。そうすれば、レミがこっちの世界に戻って来て僕があっちの世界に行くことになる。そして、レミが目を覚ましたら、アイテムボックスの使い方を教えてあげて。それから、魔力切れを起こすことができれば、いつだって向こうの世界に戻ることができるっていうことも。ただし、これからは、お互いに安全を確認して、魔力切れを起こして入れ替わるようにしようってさ。」
「凛、お前、そんなに向こうの世界に行きたいのか?」
「ようやく退院もできて、異世界から帰ってこれたのにね。」
「え…?分かった?」
「もう、見え見えよ。しょうがないわね。」
「まったく…。まあいいか。いつでも帰ってこれることが分かったんだしな。」
「う…、うん。向こうの仲間たちとの約束や活動が一区切りついたら必ず帰ってくるし、レミのことも必ず紹介するからさ。今から行くことができる?図書館。」
「皆んでいきましょう。蘭も一緒に行くでしょう。」
「はーい。」
「僕の図書カードってあったっけ?」
「ちゃんとあるわよ。今日、蘭の図書カードも作って、一人10冊まで貸し出しできるから40冊までは借りることができるわね。」
「どんな本を借りたいんだ?」
「そうだな。科学工作関係でしょう。武器の本でしょう。薬学関係の本に機械工学の本でしょう。車とバイクの本。自転車の本も借りたいな。部品や仕組みができるだけ詳しく載っている本が良い。」
「全部錬金術って言うので作ってみようって言うのか?」
「本があっても作ることはできないけど、明日からダンジョンで訓練があるからさ。できるだけ強力な武器が欲しいんだ。」
「凛、あなた危ないことしているんじゃないでしょうね。」
「危ないことしているかな…。でも、向こうの世界は、そうしないと生きていけない世界なんだよ。でも、命はとっても大切にしているから安心して。そうできるような人たちと一緒だから。」
「そんな。あなたは、まだ、12歳にもなってないのよ。」
「でも、もうすぐ12歳だよ。来年は、中学生なんだよ。確かに、向こうの世界でもまだ子どもだけどさ。いろいろできるようになってきたんだ。だから、信じて。無茶はしないから。ロジャーも一緒にいてくれるから。」
「…、ダメって言っても、どうにかして向こうに行くんでしょうね。それを止める手段はないし、レミのことも心配だから、ダメとは言わないけど、あなたのことは、心配してるんだからね。そのことは忘れないでよ。」
「分かってるって。それに、今の状態なら、僕があっちの世界にいた方が安全だと思うよ。レミには、こっちの世界で色々と勉強してもらいたいな。それに、たくさん楽しんでもらいたい。僕は、向こうの世界でいっぱい楽しんでいるからね。」
「もう、あなたって子は…。兎に角、図書館に行きましょう。」
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