第70話 ダンジョン調査終了
「お帰り。」
「「「「ただ今。」戻りました。」」」
シモンさんたちは、僕に対しても妙に礼儀正しい。
「今日の調査はどうだったの?」
「一応、4階層まで到達することができたぞ。4階層は、湖と鍾乳洞の階層じゃったよ。そこそこきれいな階層だったが、あまり詳しくは探索できなんだな。」
「3階層のボスは何だったの?」
「そうさなあ。入り口を守っていたのは、体長5m程のコカトリスだったな。」
「コカトリス?」
「ニワトリ?だったかな。」
「5mのニワトリ。強いの?」
「Cランクの魔物だな。肉や鶏冠を落とす。今回は肉を落としていったぞ。」
「お肉。美味しい肉なのかな?」
「コカトリスの肉ですか?高級素材ですぜ。
「シモンさんのお父さんって料理人なの?」
「そうだったのか?」
「どうしたんですか?言ってやせんでしたか?」
「そう言えば、この前シモンさんたちが市場でご馳走を買って行った時に、何で材料を買ってこなかったんだって言われたみたいなこと言ってらっしゃいましたね。」
「それって、そう言う意味だったのか?」
「儂たちのパーティーハウスに使用人用の家があるのだが、シモンたちが一緒でも良い。そこに住み込んで、我が家の家事を担当してもらえぬか?」
「パーティーハウスの使用人の家ですか?あの…、
「それでしたら、家のおやじは王都の没落貴族の元で執事をしていたそうです。おふくろもメイドの経験があるんで一緒に雇ってもらえたら嬉しいんですけど…。」
「今の所、僕たちのパーティーは資金を沢山持っているから雇うことはできるけど、あの使用人の家に3家族は済むことができるかな…。全員で何人になる?」
「全員の住み込みは無理かもしれぬが…、クーンの所が8人家族でシモンの所が6人そしてフースの所が5人か。」
「住み込みは執事とメイドの役割をしてくれるクーンの所が良いだろうな。執事とメイドの仕事をできるのであれば、簡単な調理もできるであろう?」
「夜食程度とデザートは作っていたというのを聞いたことがある。しかし、家は8人家族だぞ。そんなに大人数を住まわせてもらって良いのか?」
それで、シモンとフースの所は近くに家を借りてもらうというのではどうだ?まあ、屋敷の敷地はかなり広いから、大家の許可が出れば、お主らのパーティーハウスもかねて敷地内に家を作って住んでもらうこともできるかもしれぬがな。」
「ほ、本当でしょうか?もしも、そのようなことができるのでしたら、きっと喜ぶと思います。」
「しかし、そうなると給料はそんなに多くは出せんぞ。それぞれ、一月金貨1枚程からしか払いきれぬと思う。両親とも使用人として働いてくれるのなら、月々金貨2枚ずつだな。」
「そ、そんなに頂けるのでしたら、確実にお受けすると思います。色々な事情があって、この町に来ていますが、俺たちにまともに教育ができなかったことをいつも悔やんでいました。自分たちは読み書きだって計算だってできるのにって…。俺たちが孤児院で勉強するようになって言いだしたことなんで…。両親が読み書きできるなんて言うことも知らなかったんですがね。」
「クーンの所は、字が読めやすのか。
「料理…、そうだ。儂たちの食費も含めてだが、全員分の食糧費として、毎月金貨2枚ずつを渡すことにするというのではどうだ?まあ、冒険者ギルドを通して大家に建て増しのことを確認した後だが、ご両親に聞いておいてくれ。クーンの所を除いては、住み込みはできるとしても後の話だからな。」
「両親が、執事をやっていたって言ってももう20年近く前の話です。実際、雇ってもらっても、執事の仕事をきちんとやっていけるのか聞いてみないと分かりませんので、明日お返事するということで宜しいでしょうか。」
「承知した。きちんと話をするのだぞ。それから、シモン、お主の親父殿は、コックとして通いで働いてもらうのは可能か?どう急いでも建て増しして住み込みで働いてもらうことができるようになるまで数カ月はかかるだろうからな。この話は、早急に決めてもらう必要はない。ただ、話だけはしておいてくれ。」
「分かりやした。でも、金貨1枚の給金を頂けるのでしたら、絶対させて欲しいって言うと思いますぜ。絶対です。」
「クーンの所は、できるとしたら何時から働きに来れるか聞いておいてくれ。儂たちは、この依頼の後王都行きの護衛依頼を受けようと思うからな。できれば、それまでに決めておいて欲しい。留守の間、パーティーハウスの管理をしてもらう人を探さないといけないと思っていたのだ。」
「えっ?この依頼の後王都に行くの?」
「今朝の冒険者ギルドの掲示板を見なかったのか?かなりの人数の護衛依頼が貼りだされていただろう。」
「掲示板なんて見ていないよ。テラたちの成人の儀の話で変な雰囲気になってたから。」
「内々かつ口外せぬという約束で昨日、ギルマスから、依頼の話が来ていたのだ。勿論、何かあった時の為に、燃料製造ができるお前たちも一緒に行くということでな。」
「そうなんだ。いつから?」
「そうだな。一番早い出発で7日後。テラとリニの成人の儀と同日だ。成人の儀は受けずに王都に出発することにしようかのう。のう、テラ、リニ。」
「「はい。」」
そういう訳で、今朝暗い雰囲気になった成人の儀は先送りになった。シモンさんたちのように成人の儀を受けるためにはいくらかのお布施が必要なため、指定の日に受けない者も多い。成人の儀を受けないからと言って、何かしら罰則があるわけではないのだ。ただし、成人の儀を受けなければ、職業、つまり適正が分からない。
「そうとなれば、明日からが少し時間に余裕ができるな。見たところ、清掃依頼も終わったようだしな。王都行きの買い出しなどももう少し後で良いだろうしな。訓練でも行うことにしようかのう。」
「「「「訓練?」ですか?」なの?」でやすか?」
「ギルマスにダンジョンでの訓練をお願いしてみるかのう。」
「「「「「行きたい!」」ぞ!」です!」ですわ!」
「まあ、報告が終わって、ギルマスの許可が出たらだな。」
『はい!』
どうぞ。ギルマスの許可が出ますように…。
ロジャーの話を聞いてワクワクしながら、魔石炭もどきの収納や穴埋め等の後始末と燃料運びを行った。
いつでもダンジョン探索訓練に行けるようにするには、準備が必要だ。もしも、明日、ダンジョンに入ることができるようになったら、明日納入予定の薪型燃料を今日の内に作り上げておかないといけない。最低数は、ホンザさんの所の1000束とギルドには1万束も作っておいたら十分。その材料をアイテムボックスに残しておこう。
そう考えて、今日の午後に乾燥させた汚泥をフロルに収納してもらってギルド倉庫に向かった。ホンザさんの所に卸す1000束は、僕が持っておこうと思って数えてみると足りない。大急ぎでホンザさんの所の1000束を錬金した。歩きながらの錬金で人にぶつかりそうになったけどギルドの倉庫に着く前に錬金し終わった。
「今日の午後の分の1万束です。これで、午前の分と合わせて3万束ですよね。」
「おう。午前の分は記録通りだ。2万束の伝票は渡しているよな。」
「はい。貰ってます。」
「それじゃあ、午後の分の伝票だ。受け取ってくれ。」
「はい。確かに頂きました。では、失礼します。」
ホンザさんの所に回って燃料1000束を渡して、お金をもらうった。
「凛、消火壺が2000個至急必要になったのだ。粘土は、仕入れている。住まぬが、作ってくれぬか。頼む。この通りじゃ。」
「どうして、そんなにたくさん急に必要になったのですか?」
「いやな。消火壺はお得意様だけに販売していたのだが、その情報がどこからか漏れてしまってな。食堂ギルドから至急の注文が入ってしまったのだ。火力の調整が必要な調理には消火壺がなくてはならぬからということでな。すまぬ。お得意様がたくさんいらっしゃるのだ。その方々にはお売りしているのだが、どうにも押さえが聞かぬようになってしまって…。この通り、一つ銅貨4枚、否、銅貨5枚で頼む。儲けの問題ではなく、信用問題なのだ。」
「分かりました。粘土を出して頂くのでしたらいつも通り銅貨3枚でも貰い過ぎな位です。でも、原価計算が良く分からないので銅貨3枚でおつくりします。」
「アルケミー・消火壺・2000」
魔力がかなり持って行かれた。かなりと言っても燃料5000束よりは少ないのだけど。
「そこに出したら良いですか?」
「うむ。頼む。代金は、本当に一つ銅貨3枚で良いのか?」
「はい。ですから金貨60枚と燃料代が金貨10枚ですね。合計金貨70枚です。そんなに大金支払って大丈夫なんですか?」
「何、お主たちのおかげで商売は、順調だよ。ありがとう。大感謝だ。」
ホンザさんの所をでてギルドに向かう。そろそろロジャー達が報告を終わっている頃だと思う。明日からのダンジョンでの訓練許可が出たかな…。
僕たちがギルドに到着した時、ロジャーは、受付でミラさんと話をしていた。
「おう、間に合ったな。今、7日後の護衛依頼の契約をしていた所だ。見習い冒険者5名とDランク冒険者テラのパーティー、シルバーダウンスターの初護衛依頼契約だ。」
「ロジャー様は、Bランク冒険者としてソロでお受けいただくのですか?」
「うむ。その方が、契約しやすいだろう。EランクパーティーとBランク冒険者の合同パーティーだと儂に合わせた契約だと大赤字だし、シルバーダウンスター合わせると儂は入れないからな。」
「はい。ソロ冒険者としての護衛契約書はこちらになります。しかし、そうなるとシルバーダウンスターの兵力が少々心配になりますね。」
「その心配をなくすために、明日から2日程、調査が終わったダンジョンで訓練を行わせてもらうことになった。ドロップ品は全てギルドに最低額で卸すことを条件にな。ただし、自分たちだけで使用する採集品だけは許可を貰っている。ミラも確認しておるな?」
「はい。ギルマスから聞いています。でも、シルバーダウンスターの皆さんだけでなく、メティスの福音の皆さんもご一緒なんですよね。」
「あやつらも、護衛依頼は初めてになるからな。馬車や護衛対象を守りながら戦う方法を身に着けなければならぬ。」
「ロジャー、明日から一緒にダンジョンに入れるの。」
「うむ。訓練だぞ。遊びに行くわけではないのだからな。それにお主は、まだ、戦い方を十分に見つけておらぬからな。色々と厳しい訓練になることを覚悟しておくのだぞ。」
「やったー!リンジー、フロル、サラ、リニ。一緒にダンジョンに入れるんだよ。」
「頑張りますわ。」
「やるぞ。」
良し。家に帰って、寝る前に燃料を作ってしまおう。1万1千束。明日までには、魔力が戻っているはずだから、そして、明日は、精いっぱい頑張るんだ。初めてのダンジョン。少し怖いけど…、楽しみだ。
家に戻って、食事が終わって、みな部屋に戻っていった。
「ロジャー、明日、ダンジョンに行くんだったら、今日の内に燃料なんかを作っておこうと思うんだ。ホンザさんの所に卸す分も含めて1万1千束。出来上がった燃料は、どこに置いていたら良いと思う?」
「地下に、倉庫がある。そこに置いておけばよいのではないか。しかし、凜は、そんなにたくさんの燃料を作ることができる位魔力が余っているのか?」
「多分大丈夫だと思うけど、もしも魔力切れを起こしたら、ベッドに運んでくれる?」
「うむ。任せておけ。では、そこのソファーで倒れても大丈夫な姿勢で作るのだぞ。」
「うん。じゃあ、もしもの時は、宜しく。多分大丈夫だとは思うけど、おやすみなさい。」
僕は、薪型燃料の術式に魔力を流し込んだ。
「アルケミー・薪型燃料・1万1千束。」
そう言えば、ホンザさんの所の薪型燃料と消火壺を錬金してから3時間もたっていないんだった。僕の意識は、薄くなって暗闇の中に吸い込まれていった。
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