第65話 初日の成果と清掃依頼のサイン

 素材の買取で調査部隊は、金貨12枚と銀貨6枚を手に入れていた。今日は7人で調査に行ったから、一人金貨1枚と銀貨8枚の均等割りにするそうだ。ギルドの方が気を使って7人で割り切れる買い取り代金にしてくれたのかもしれない。


「一日で、こんなに貰って良いんですかい?俺たちは、兄弟でもらっちまうから金貨3枚と銀貨6枚になっちまいやすぜ。」


「そうです。俺たちも同じで…、こんな大金を一日でもらって帰ったらお袋たちが驚いて腰を抜かしてしまいます。それに、こんな大金を持ってることが近所にばれたら、安心して寝てられないです。」


「お前らは、二人いるから良い。俺なんか一人で金貨なんて持って帰ったら、何か悪いことしたって疑われてしまうぞ。」


「お主らの家族は、お主らが冒険者になったというのは知らぬのか?」


「言いましたよ。その時にギルドカードも見せましたからね。大喜びしていましたが、このカードに装備を全員分揃えられるくらいの金が入っていたなんてことは言ってません。今までは、頂いたお金は、現金ではなく全額カードに入れていましたからね。そりゃあ、一日の入金額は、金貨数十枚でしたが、入金されたというだけで実際にお金を手にしてないんで実感なんて全くないんですよ。それにそのお金は、殆ど装備代金でなくなってしまいました。直接、現金が手渡されたのは…、しかも、一人ひとりに一日分の稼ぎとして手渡さりたのは初めてなので…。」


「それなら、帰りにご馳走でも買って家族に振舞えばよいのではないか。冒険者として依頼を受けて、その時に得た素材の買い取り額を皆で分けた結果だ。一日位贅沢しても良いと思うぞ?それに、家も整えればよい。冒険者になったのだ。家族全員がのびのび暮らせる家位なら準備できるのではないか?」


「俺たちだけで、家族全員が安心してのびのびと暮らせる家を準備できますかね…。それに、町の不動産屋が貸してくれるかどうか…。」


「それなら、金を貯めて買えばよい。お主らならできるのではないか。それを目標に、コツコツと堅実な活動をすると良い。」


「そんなことができるなら、やってみたいですがね。親父やお袋は、まあ、貧乏ですが、正直に生きています。できるなら、そんな両親に、安心して生活できる場所を準備して上げられたら、喜ぶでしょうね。とにかく、ロジャーさんが言ったみたいに、今日は、俺たちの冒険者としての初仕事みたいなものですから、ご馳走を買ってみんなでお祝いします。ありがとうございました。」


『有難うございました。』


 大きな声でロジャーに向かって深々とお礼を言うとシモンさんたちは、家に帰って行った。途中で市場によってご馳走を買って帰るのだろう。


 シモンさんたちは、装備の代金にギルドカードのお金はほとんど使ったなんて言ってたけど、僕たちの装備とそんなに変わらない値段だったと思うから、後、金貨40枚くらいは残っているはずだ。真剣に探せば、直ぐに引っ越し位できると思うけどな…。


 ダンジョンの調査報告の結果、最低4階層まで調査を進めて欲しいということになったのだそうだ。今日のテラやシモンさんたちの様子からロジャーは大丈夫と思ったらしく、その調査依頼を引き受けた。4階層までの調査だと最低でも後6日間は必要だろう言うことだ。僕たちの清掃もその位あれば終了すると思う。


 僕たちが、倉庫で伝票を待っている間にリニとリンジーでホンザさんの所に注文を聞きに行ってくれた。その報告をリンジーが倉庫まで持ってきてくれたから、僕とリニで直接道具屋に行って1000束を卸した。ここでも金貨10枚が手に入った。その上、今日だけでギルドカードに入金される金額は、金貨284枚になる予定だ。全部で、いくら貯まっているのだろう…。まあ、あくまでもパーティー資金だから、一人幾らって言う計算ではないのだけれど…、これから給料制にした方が良いのかな…。ロジャーに相談してみよう。


 ギルドでの報告と伝票の清算が終わった頃には、辺りは暗くなっていた。夕食は、屋台で買って準備して、家に戻ってからテーブルに並べた。


「ねえ、ロジャー、ダンジョンの調査が終わったら、僕たちも中に入れるのかな?」


「そうだな。領主様次第ということになるな。町中のダンジョンとなれば、かなりの価値を持つ。まあ、ドロップ品次第でその価値はかなり変動するがな。その管理は領主様に任されることになるはずだが、これも、まだ確定しておらぬな。兎に角、調査次第ということになるであろうな。」


「そうなんだ。じゃあ、ロジャー達次第ってことになるの?」


「儂たちがどうこうするわけではない。ダンジョンのランクの参考にはされるであろうが、事前調査が終わった後、ギルドが調整役となって、更なるダンジョン探索が行われることになる。その結果次第でどうなるか決まることになるであろうな。」


「どう言うこと?」


「鉱山的なダンジョンとして常に素材を求めて一定の入場を依頼するだけで良いのか、スタンピードの危険性を排除するためにある程度の深さまで魔物討伐を定期的に行わなければならぬダンジョンなのかなど、今後調べないといけないことはいくつかある。しかし、それは、今回儂らが引き受けた調査の後に行われることなのだ。儂らは、あくまでも低階層の事前調査を行っているだけという訳だ。」


「ロジャーが出て来た時言っていたみたいに、低階層が初心者でも入ることができそうなダンジョンだったら、一緒に行くことができるのかな?」


「そうだな。約束はできぬが、そのようなダンジョンなら連れて行ってみたいのう。お主らの訓練にちょうど良いダンジョンであればよいな。」


「凛、ロジャー様と何を話しているのだ?」


「一緒にダンジョンに入りたいなって話していたんだ。テラもそう思うでしょう。」


「私は、まだ、良く分からないな。それに、ダンジョンは危険なところだ。一緒に入って楽しく過ごせる場所ではないかもしれないぞ。」


「でもさ。冒険してるって感じしない?」


「そうだな。冒険者であることを実感できる場所ではあるな。」


「イレギュラーな魔物の出現が起きにくいという意味では、森のそばの草原よりも突発的な危険は少ないと言えるかもしれぬな…。しかし、町の中のダンジョンだといっても外と同じなのだということを忘れると危険であると思うぞ。」


 それでも、やっぱりダンジョンには入ってみたい。早くロジャーたちの調査が終わらないかな…。


「凛。お主らも早く下水道の清掃依頼を終了せねばならぬのではないか?事前調査が済むと町のお偉いさんたちがあそこを通ることになるぞ。そんな時に清掃が終わってないなんてことになると大目玉を食らうことになるぞ。」


「テラ、僕たち、下水道の清掃依頼を受けたことになっているの?」


「私は、受けてないわよ。だって、個人的なギルド依頼の用紙に必要事項を記入するだけでテンパっていたから…。」


「リニは?」


「俺も知らないぞ。」


「あっ。ミラさんに言われてサラがサインした気がする。期限は、ロジャーさんの調査依頼が終了するまでになっていたわ。」


「サラ!そんな大事なことは、ちゃんと相談してからにして頂戴。」


「だって、ミラさんがサラに聞いてきたんだもん。サラは、一応テラ姉に聞いたよ。依頼受けて良いのって。」


「そうしたら、テラ姉は、怖いけど受けないといけないって言ったよ。リニにも聞いたよ。テラ姉は、怖いけど依頼受けるって言ってるけど、受けて良いのって。」


「それって清掃依頼のことだったのか?てっきりテラの調査依頼のことを聞いてきたのかと思ってた。」


「分かった。兎に角、清掃依頼も受けてるってことだな。汚泥は、後3日間もあればきれいに除去して乾燥できると思う。問題は洗浄作業だ。隅々まで洗浄するとなると、スクロールをいくつ作らないといけないことになる?」


「今日の内から作り始めた方が良いかもしれないわね。それができるのって凜だけだから、申し訳ないけどお願いよ。」


「大丈夫。1000本くらいなら余裕だよ。でも、契約してるってことが分かったから良かったね。下手したら全然清掃しないでロジャーたちの調査終了日を迎える所だった。」


「違約金や罰則はあったの?サラ、ちゃんと読んだ?」


「違約金は書いてなかった。罰則もなかったよ。依頼料は、金貨10枚。ただし、依頼終了が確認できなかった時は、清掃依頼失敗ということで報酬は0になるって書いてあったかな…。」


「ただ働きさせられるということだな。それって十分な罰則だと思うぞ。」


「そうなの?サラ依頼が終わらなかったらお金がもらえないのは当たり前だと思ったの。サインしたらだめだった?」


いや、どうせ汚泥を除去しないと燃料も作ることができないのだから良かったと思うぞ。心配しなくても大丈夫だぞ。みんなで頑張ればなんとかなるぞ。」


「そうね。清掃が終わってなければ、調査を続行すれば良いことだから大丈夫よ。頑張りましょう。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る