第64話 1階層の調査結果と燃料製造

 下水処理場前の広場に戻るとリニたちが午後の作業を始めていた。


「凛、錬金術式って作ることができたのか?」


「うん。ギルドマスターにやり方を教えてもらって作ることができたよ。錬金術式は、公開したから錬金術師ギルドでもこの魔石炭もどきを購入すれば作ることができるようになった。」


「そうなんだ。それなら、そんなに急いで作らなくても大丈夫かな?王都に持って行く分なんてすぐに作ってもらえるだろう?」


「そうでもないみたい。一束銅貨1枚じゃあ卸せないだろうってさ。冒険者ギルドとホルツさんに銅貨1枚で卸せるのは僕たちだけみたいなんだよ。」


「まあ、俺の薪製造のスキルも上がったからな。品質も上がったし、作れる量も増えた。そう言っても一日8000束も作ったら、魔力切れで倒れてしまうかもしれないけどな。」


「今日から僕も燃料づくりに参加できるからね。午後から頑張るよ。」


「じゃあ、始めるか。フロル、リンジーと一緒に奥に行って汚泥を集めて来てくれ。凜は、俺と一緒に燃料づくりな。サラは、乾燥だ。頑張れよ。」


「サラは、これ以上無理って言うくらい頑張ってる。でも、午後も頑張るよ。そうしないと終らないからね。」


「ああ、宜しく頼む。フロルが汚泥を持ってきたら入れる場所がないから、穴に残っている魔石炭もどきを一挙に薪型燃料にしてみてくれないか?多分5000束分以上あると思う。できるよな。」


「やってみる。まず、穴の中の魔石炭もどきの収納からだ。アイテムボックス・オープン・収納。」


「アルケミー・薪型燃料の束・オール。」


 オールの指定は、入っている素材で作ることができるだけの物を作るオプションだ。アイテムボックスの中の燃料の束を確認してみると5327束できていた。午前中でリニが作った5000束と合わせると1万束を越えて作ることができたことになる。


「リニ、5327束作ることができたよ。」


「あっと言う間に俺が午前中いっぱいかかって作った燃料を越えてしまったな。じゃあ、次の穴の魔石他もどきは半分収納してみてくれ。残りの半分は俺が頑張って燃料に加工するからさ。」


「わかった。でも、さっきの燃料作りでかなりたくさんの魔力を持って行かれたから、ちょっと休憩してからの方が良いかもしれない。フロルは、2往復で穴を一杯にできるんでしょう。それなら、それが終わって乾燥の方に回ってもらったらいいね。僕は、今のうちにギルドに出来上がった燃料を運んでおくよ。」


「ああ。分かった。そうしてくれ。その内にテラたちも帰ってくるだろう。」


 僕は、リニにそう言うと出来上がった燃料を収納してギルドに行くことにした。午後リニが作り終わった分も合わせると6005束もある。午前中の分を合わせると1万束を越えた。このまま作り続けると新記録になると思う。ギルマスびっくりするかな…。


 ギルドの倉庫に燃料を運んで伝票を書いてもらう。そのまま、処理場前の広場に戻った。僕が戻った時、フロルが2回目の乾燥穴への流し込みを終えたところだった。


「凛、早かったな。魔力はもう大丈夫なのかだぞ。」


「大丈夫だよ。フロルはそのまま汚泥の乾燥に回るんだよね。」


「そうして。サラはもう頑張りすぎていると思うの。魔力切れ寸前になっているの。」


「サラは大丈夫だと思うけど、俺も乾燥に回るぞ。」


「サラは頑張っているの。だから、早く替わって欲しいの。」


「俺は、別にサラと変わるわけじゃないぞ。サラもこのまま乾燥を頑張らないといけないんだぞ。」


「サラも頑張るけど、一人で乾燥するのは嫌なの。フロルも一緒に頑張るの!それに、フロルが乾燥に回るならリンジーも回るの。3人で乾燥するととっても早くできるの。」


「そうだな。これからは、3人で乾燥を担当できる。サクサクっと終わらせてギルドの倉庫に持って行こうぜ。」


「サラもそうしたいの。そして、早く家に帰ってお風呂に入りたいの。」


「良し!あとひと踏ん張りだ。頑張るぞ!」


 リニの気合いで後半の作業が加速した。2時間もかからず5つの乾燥穴の汚泥は全て乾燥が終わり、二つ目の穴の魔石炭もどきも全て薪型燃料に加工した。4つ目の穴の魔石炭もどきの塊を砕いてフロルがギルドの倉庫に運んで行く時に、僕はこれからのリニの加工分の2000束分くらいの魔石炭もどきを残して全て収納した。このすべての魔石炭もどきを使って燃料を錬金する。」


「アルケミー・薪型燃料・オール」


 魔力がググググググッと持って行かれる。僕の総魔力の4分の3以上が消費されたようだ。


「フゥ~。魔力切れにはならなかった。時間は少しかかったけどね。」


 出来上がった燃料は、8272束だった。僕がアイテムボックスの錬金術式に魔力を流し込んでいる間、リニはせっせと薪型燃料を作り続けていた。でも、魔石炭もどきの塊は、後3分の1位残っている。


「リニ、後何束くらい作ることができそう?」


「今、ようやく1500束越えたところだ。後、5~6百束くらいは作ることはできると思う。魔力的にもその位が限界かな…。」


「じゃあ、僕は、残りの汚泥の乾燥に回るね。ここに残っている魔石炭もどきは全部燃料にできるんでしょう?」


「おう。大丈夫だ。頑張れる。」


 リニが、残りの魔石炭もどきを全部燃料にしたら、今日作った燃料は2万束を越えることになる。このペースで作り続けたら、パーティーハウスの家賃なんて心配する必要がなくなる。何しろ今日だけで金貨200枚の収入を越えているのだから。まあ、お金だけあっても力と信用がないとどうしようもなくなるのは目に見えているのだけど…。


 残りの穴4つ分の汚泥の乾燥が終わった頃、ロジャー達が下水道から出てきた。みんな一緒だ。全員怪我無く今日の依頼を終えられたみたいだ。


「お帰り~!」


「只今戻りました。先生!あの凄いポーションは何なのでしょうか?」


「シモンさん、そろそろ先生は止めてもらえませんか…。恥ずかしいです。」


「でも、読み書きだけじゃなくて、魔術まで使えるようにしてもらったんですから、俺たちの先生以外の何だというんですかい。まあ、先生が嫌だって言うなら、先生って呼ぶのは止めても良いですが…。」


「そんなことより、ダンジョンの中はどうだったんだ?テラは、中で役に立つことはできたのか?」


「私限定はひどいな。まあ、初めは全然役立たずだったからな。それでも、一・二階層では、そこそこ戦えるようになったぞ。初め、酸でかなり焼かれたからな。痛かった…。凛、あなたのポーションは凄いな。最初に酸で焼かれたのは、手だったのだが、少し振りかけただけで回復してしまった。それで、戦う勇気を貰ったぞ。」


「俺もです。酸を顔に浴びた時は、人前に出れなくなったって思いましたよ。そんな傷もあっと言う間に回復してしまって。」


「一階層のスライムとダファビーニアの群れはひどかったからな。入ってすぐは苦戦した。しかし、殆ど狩り尽くしたから明日からは今日みたいな目に合うことは無いだろう。安心して良いぞ。」


「はい。それに、収穫もかなりありましたね。貴重品のレッドスライムの核も20個以上手に入りましたから、買い取りで金貨数枚は手に入ると思いますぜ。」


「レッドスライムの核って何なの?」


「知らないんですかい?回復ポーションは作るくことができるのに…?」


「僕は、見習い錬金術師だからね。錬金術師ギルドで調べたら、術式が見つかるかもしれないけど、それぞれの素材で何ができるかなんて知らないよ。」


「凜は、飲んだことがあるぞ。儂が、お主に飲ませた薬だ。まあ、お主に飲ませたのは、三百年近く前に作られた物だったのだがな。」


「赤スライムの核は、あの薬の主な材料だ。勿論その他にもいくつかの薬草が必要になるし作り方も独特らしいがな。」


「そうなんですよ。薬の材料なんでさあ。だから高く買い取ってもらえるんですよ。依頼も時々出ていやすしね。しかも、高額依頼ですよ。その採集依頼は。」


「そうなんだ。それで、1階層はどんな階層だったの?ダンジョンって洞窟なの?」


「そうだな。1階層は洞窟ダンジョンって言ってよいだろうな。しかもかなり湿った洞窟ダンジョンだった。しかし、この下水道のようにひどい臭いではなかったぞ。ダンジョン内では、実体化するまで魔物同士の争いはないからな。実体化してもダンジョンにいる限り、魔物同士で捕食しあうことはほとんどない。捕食が必要になるのは、ダンジョンを出た魔物だ。」


「それじゃあ、1階層は、他には、どんな魔物がいたのか教えて欲しいぞ。俺たちにも倒せそうな魔物だったのか?」


「単体なら、お前たちでも十分倒せる魔物だろうな。現れたの各種スライムとダファビーニア、それに階層ボスのピルバーグだな。1階層だから、次からも現れるかどうかはわたらぬが、Cクラスの魔物並みの大きさと力の強さだったな。」


「ロジャー様ですからあっと言う間に倒すことができましたが、私たちだけでしたらかなり苦戦したと思います。丸くなって転がって来た時は、逃げ回るだけしかできませんでしたから。」


「そうですぜ。俺たちの魔術は全然通じませんでした。あんな魔物を一撃で仕留めるなんてロジャー様じゃなくちゃ無理ですぜ。」


「お主たちも鍛錬を怠らず、武術のスキルを磨けばできるようになる。慌てずに毎日積み重ねることが大切だ。」


「1階層の階層ボスって丸くなって転がってくるんだ。それで、どんな形をしているの?」


「虫型の魔物だ。大きさは丸まった時で2m弱だな。体を伸ばしている時は、5mは超えているんじゃないか?」


「魔法攻撃なんかはないみたいだったけど凄いスピードで転がってくるんだ。俺たちは、逃げるだけで精一杯だったよな。」


「お主たちだけで倒すのは、まだ難しいかもしれぬな。しかし、多分だが、もう出てくることは無いと思うぞ。」


「それじゃあ、2階層は、どんな魔物がいたの?」


「2階層は、かなり広い草原の階層だ。十分調査が済んでおらぬからはっきりとは言えぬが、ホーンラビットは居たな。それに、ボアも遭遇した。ドロップ品は魔石しか手に入れておらぬが、薬草なども手に入るのではないかと思うぞ。」


「そうでしたね。森の魔物には出会いませんでした。草原の魔物だけでしたら、私たち、初級冒険者にちょうど良い階層かもしれないです。」


「まあ、もう少し調査を進めてからだな。今日の調査結果はそんなところだ。今からギルドに報告に行くが、お主たちも一緒に行くか?」


「あのさ、今日は、魔石炭もどきを午前中に1穴分を燃料にして倉庫に運んで、午後からも一穴分燃料にしたんだけど、後4穴分は、乾燥させただけなんだ。今から、倉庫に運ぶのを手伝ってくれない。僕が、燃料1万束と一穴分の魔石炭もどきを運んで、フロルが一穴分。残りが2穴分あるんだけど、ロジャーにお願いして良い?」


「うむ。かまわぬぞ。それでは、テラとシモンたちは、先にギルドに行って素材の買取をしてもらってくれ。金は全員で均等分配だ。いいな。調査結果は、儂も一緒に報告する。伝票を受け取ったら受付の所で待っていてくれ。」


『はい。先にギルドに行っています。』


「リニたちも一緒に行っていて良いよ。倉庫に寄ったらすぐにギルドに行くからさ。ただ、伝票を切ってもらうのに数を確認してもらわないといけないから、ロジャーよりも遅くなると思う。あっ、そうだ。昼に貰った伝票を渡して、パーティーのカードに入金してもらっていてよ。1万束分だから金貨100枚になると思うんだ。ホンザさんのとこに卸す分は、材料だけでも残しておかないいけないね。」


「凜は、魔力のこっているのか?俺は、もう無理だぞ。」


「昨日、1000束卸したからそんなにたくさん注文はないと思うんだけど、まあ、1000束くらいだったら何とかなるかな…。」


「それじゃあ、悪いが、ホンザさんの所には、凜が行ってくれ。ギルドの後で良いよな。」


「うん。大丈夫だと思うよ。じゃあ、先に、倉庫に行ってくる。後でね。」


「うん。ギルドで。」












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