第63話 ダンジョン調査1日目
「では、ダンジョン調査に行くことにしようかの。凜たちも途中まで一緒に行くであろう?」
「うん。行くよ。朝ご飯も食べたからね。」
今日の朝ご飯は、サラとリニが作った。テラは今日からのダンジョン探索のことで余裕がなくて朝食を作ることなんてできなかった。僕は、朝食なんて作れるはずがない。その内、錬金術で作れるようになったら担当する。
下水処理場の入り口前には、シモンさんたちが待っていた。全員真新しい防具と武器を身に着けている。
「先生、どうですか?俺たちの武具は。カッコいいでしょう。ギルマスとロジャー様に選んだ貰ったんですぜ。」
「カッコいいと思いますよ。今日から冒険者としての本格デビューですね。」
「まだ、Rランクですが、今回の依頼を終了したら、最低Eランクはもらえるって話でしたよ。頑張りますぜ。なあ、皆!」
「おう!」
「一つ伺って良いですか?」
「何ですか?」
「シモンさんたちのパーティー名って何なのですか?」
「俺たちですか。メティスの福音って言う名前にしました。凜さんたちに知識と学問は大切だって教えて頂いたんで、聞くところによるとメティス様は知識の女神様なのだそうです。」
「良いパーティー名ですね。ロジャーがいるから大丈夫だと思いますが、油断して怪我なんてしないでくださいね。」
僕がそう言うと、シモンさんたちは少し照れたようだったが、僕の目を見てしっかりと頷いてくれた。
「では、中に入るぞ。テラは、後衛だ。前に出過ぎないようにな。全員、ポーションは持ったか?持っていなければ、今のうちに凜から買っておけ。凛。パーティー価格だぞ。原価で販売してくれ。」
「原価っていくらなの。」
「そうだな。魔石と薬草採集の費用と粘土代金だから、一瓶銅貨1枚ならお釣りが来るだろう。その位で売ってやってくれ。そうしないとこ奴らはポーションをケチって命を失いそうなのでな。」
「分かった。材料はたくさん持ってるから大丈夫。それと…。」
「ねえ、ロジャー。容器は、初級ポーション瓶の物を使って良い?上級ポーションをがぶがぶ飲んでいるのを他の人たちに見られるのもどうかと思うんだ。」
「そうだな。そうしてくれ。お主の初級ポーション瓶なら1月や2月ならポーションの劣化などせぬだろうからな。」
僕は、ロジャーが採集してきてくれた初級ポーションの材料で万能上級ポーションを100本分錬金して初級ポーション瓶に入れてテラたちに5本ずつ渡した。残りの70本は念のためにロジャーに持っていてもらうことにした。
「初級ポーションだけど、特性だからね。大抵の怪我なら1本で十分だと思うよ。でも、くれぐれも怪我をしないように気を付けてね。」
「分かった。このポーションは、アイテムバッグの中に入れておく。アイテムポーチって言うポーションなんかを入れる魔道具が道具屋に売っているそうだが、いくらくらいするのだろうな?」
「あの…、俺たちは、一人1本ずつ持っておくようにして、残りは、ロジャー様にお借りしているアイテムバッグで保管するようにしてよろしいでしょうか?」
「それで構わないと思います。何にしても、怪我をしても大丈夫だという訳ではないですからね。何度も言いますが、気を付けて行って下さい。」
『はい。では、行ってきます。』
シモンさんたちとテラは、少し顔色が悪いけど元気一杯の返事でダンジョンの方に向かって歩いて行った。僕たちもその後ろをついて行く。汚泥をできるだけきれいに取り除いて、通路を整備すること。それと燃料の製造。それが僕たちへの依頼になった。
テラたちを見送って、汚泥の採集を開始した。僕たちの護衛は基本リンジーだ。僕とフロルは、汚泥の運搬と乾燥を交互にお来ないってサラは乾燥。リニは、燃料の作成だ。2人でやっていた時よりも忙しいけど、慣れた仕事だからサクサク進む。1時間位で、汚泥を乾燥用の穴5杯分運び終わって、リニ以外で乾燥に回った。
昼くらいに穴五つ分の汚泥を乾燥し終わって、リニが完成させた燃料5000束を持ってギルドの倉庫に行った。それから僕は、この燃料を錬金できない原因をさぐって、どうやったら錬金ができるようになるのかを調べるために錬金術師のギルドに向かうことにする。
これまでの乾燥作業でギルドが燃料倉庫として借りている場所は3つまで増えていた。その内の1つだけが薪型燃料の収納場所で残りの2つは魔石炭もどきの塊をそのまま保管している。リニとクーンだけでは、一日の製造数に限界があるからだ。一つの穴の魔石炭もどきで10000束以上の燃料を作ることができるんだけど、リニとクーンがどんなに頑張っても一日3万束以上は作ることができなかった。ここ数日で、クーンとリニで作った燃料はまだ10万束にもなっていない。
冬になれば、この町でもこの燃料は、一日数千束は必要になる。王都で販売するとなると1日数万束では利かない量が必要になるかもしれない。つまり、リニ一人では、王都の一日分の燃料にもならないということだ。だから、できるだけ早く錬金術式を完成させて、錬金釜で薪型燃料を作ることができるようにしないといけない。それさえできるようになれば、急がないといけなくなったら魔石炭もどきだけを錬金術師ギルドに卸せば良いことになる。
どうして、僕の錬金術式では、上手く薪型燃料ができないのだろう。それに、どうしてリニやクーンの薪型燃料はあんなに微妙に形や大きさが違うんだろう。微妙に形や大きさが違うから、錬金術式がうまく作れない。リニにどうして形や大きさが微妙に違うのかを聞いてくればよかった。何かわけがあると思うんだけど…。
サンプルの薪型燃料と材料の魔石炭もどきはアイテムボックスの中に入れている。
そうだ。錬金術師ギルドで魔石炭もどきを材料にして薪型燃料を作るにはどうしたら良いのか聞いてみれば良いんだ。
僕は、錬金術師ギルドの受付にいって中にいるおじさんに声をかけた。
「今日は。僕、凛って言います。見習い冒険者なんですけど、錬金術師の才があるんで、冒険者ギルドのギルマスから書いてもらった紹介状持ってきました。会員になることができるでしょうか?」
「凛…?おめえが凜か…。ちょっと待ってな。ギルマスを連れてくる。」
受付カウンターで立ったまま待っていると直ぐにギルマスって言う人がやってきた。
「お主が、凜か…。おっと、失礼した。私が、この町の錬金術師ギルドのギルドマスターの任についておるヘイノ・エトヴィン・ファン・オースだ。ヘイノと呼んでくれ。」
「どうして、僕の名前をご存じなんですか?錬金術師ギルドには初めて来たのに。」
「お主のポーション瓶がギルドの中で評判になっていてな。是非、会いたいと思っておったのだ。それにしても、噂通り、子どもだな。」
「くっ…、はい。まだ、12歳ですから。では、子どもでしたらギルド会員にはなれないのでしょうか?」
「本来ならなれぬな。しかし、お主は、調剤ギルドのギルドカードを持っており、冒険者ギルドでも見習い冒険者登録をしておるのだろう?そして冒険者ギルドでもギルドカードを持っておる。そこのギルドマスターからの紹介と言うのであれば、話は少し変わるのでな。」
「見習い錬金術師でもよろしいのですが…。」
「年齢が足りぬからな。正ギルド会員という訳にはいかぬな。しかし、師匠がおらぬとなることができぬ見習い錬金術師としてギルドに登録することは許可してやる。ギルドカードも発行するから取り引きも可能になるぞ。」
「資料室に入ることもできますか?」
「むろんだ。ところで、今日の用はそれだけなのか。そうであれば、私は失礼するぞ。」
「あの…、できればで宜しいのですが、この魔石炭もどきから、こちらにある薪型の燃料を製造する錬金術式が分かれば、教えて頂けますでしょうか。」
「しかし、私にこれを見せるということは、ギルドに開示するのと同義になるのだぞ。その意味は分かるな?」
「はい。錬金術師ギルドで作ることができるようになるということですよね。」
「分かっておるのなら良い。」
「今は、僕たちだけしか作ることができませんが、王都に持って行こうとする場合、一日に10万束は、使われることになると思うんです。そうなると僕たちだけで作ることなどできようはずもありませんから。」
「お主らの言い分は良く分かった。確かにその通りだ。製造には錬金術師ギルドも協力しよう。卸価格はいくらになっておるのだ?参考までに聞かせてもらおうか?」
「現在一束銅貨1枚で卸させていただいています。原料は自分たちで採集していましたから、十分利益がありましたが、原料を冒険者ギルドから購入するとなるとその値段で作ることができかどうか分かりかねます。」
「現在販売している道具屋に聞いた所、その燃料一束で、薪10束分といわぬ火力ということではなかったか?」
「はい。そのように聞いております。」
「それなのに銅貨1枚で卸しているのか…。独占販売だからもっと高値で卸していいると思っておったのだがな…。わかった。そのかわり、ギルドで販売する場合、卸値は、お主らよりも高くせねばならぬぞ。それでもかまわぬな。」
「私たちはかまいません。でも、道具屋との契約があるので、私たちの卸価格を今以上、上げることはできませんよ。」
「それは、かまわぬ。不足すれば価格が上がるのは当然だからな。」
「それで、僕はどうして錬金できないのか分かりますか?」
「その前にギルドの加入用紙への記入とカードの作成、加入契約を済ませておこう。見習いギルド会員の入会は銀貨1枚だ。持っておるよな?」
「はい。現金で持参しています。この受付で支払えばよいですか?ギルドカードの代金はいくらになるのでしょうか?」
「カード作成費用は、入会費に含んでおる。うむ。確かに、銀貨1枚、受け取った。では、書類を準備する。少しの間待っておくのだ…。
ギルドマスターと一緒に執務室に移動し、僕が失敗している錬金術式をアイテムボックスから出して見せた。
「これは、お主がアナライズしたサンプルと全く同じ組成で同じ大きさの燃料を作る式になっているな。しかし、このような原料が不均一な混合素材の場合、全く同じ組成のものを作るのは現実的ではない。つまり、できないということだ。」
「では、どのようにしたらよいのですか?」
「そうだな。まずは、形をなぞるモールディングを行って、術式構成を行わないといけない。やってみるか?」
僕は、薪型燃料を収納して教えてもらった形をなぞる呪文を試してみた。
「モールディング・薪型燃料。」
次は、術式構成。
「コンストラクション。」
「その流れであっているぞ。術式は、作り上げることはできたか?」
「できました。でも、この術式で燃料を作ることができるのかは、まだ分かりません。」
「お主、自分の錬金釜は持っておるのか?持っておるなら、ギルドの工房を貸してやるぞ。試してみればよい。」
「はい。でも、一人でやってみたいのですが、工房を貸切らせてもらって良いでしょうか?」
「なに?術式が出来上がるまでは見せたくないというのか。」
「はい。少し試したいことがありますので…。」
「うむ。半刻ほどなら特別に許可しよう。その代わり、術式はギルドに公開するのだぞ。」
その半刻ほどの間に錬金術式を試してみた。上手くいった。術式を使うとアルケミーで薪型燃料を作ることができるようになった。燃料作成ができることを確認して一束の薪型燃料を作る錬金術式を構築した。薪を結ぶ紐は、冒険者ギルドの錬金術式の中にあったからたくさん作っておく。その紐を素材にして、出来上がった薪型燃料を束にする錬金術式だ。
「マスター、薪型燃料を作ることができる錬金術式が完成しました。公開しますね。冒険者ギルドに素材は沢山あるので購入して製造宜しくお願いします。」
「うむ。燃料作りについては、ギルドの方で検討する。お主らもしっかり頑張ってくれ。」
こうして、ダンジョン調査初日で錬金術式の問題は解決した。
午後は、頑張って燃料作りをしないといけない。
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