第62話 母さんの治療と退院予定

「凜君、今日はお父さんは来れないんだった?」


「でも、母さんが来てくれるんだって。蘭も一緒に来るんだって。」


「そう。そうなんだね。珍しいわね。」


「うん。なんか、母さんが治療を練習しただって。」


「あら?凜君と一緒じゃなくても練習できるのかしら…。」


「うん…。分かんない。でも、母さんとは、…。あっ。ええっと、久しぶりだからね。」


「そうね。今回の入院では初めてかな…。お母さんが来たの。」


「うん。だから嬉しいんだ。」


 母さんが来たのは、お昼ご飯が終わって2時間位たってからだった。


「凛君、お母さんが来たわよ。」


「あっ、母さん。いらっしゃい。」


「凛、ごめんね。中々来れなくて…。それでね。凛の治療の練習をしたの。母さんもあったかい物を渡せるのよ。父さんと練習する時に温かい物を渡してぐるぐる回す練習をしたの。でもね。できるかどうか心配なんだけど…。できるわ。一緒にやってみましょう。でも、気分が悪くなったらすぐに言ってね。」


「うん。分かった。治療してみよう。してくれる?」


「じゃあ、始めましょう。私の右手は下向きだよね。左手は上ね。」


「うん。僕から魔力を渡して良い?」


「はい。そうして頂戴。…、来た。凜からの温かい物。左手から肩、右手に回して…、凜に返すのよね。」


「うん。戻ってきた。じゃあ、魔力回路を通して少し魔力を増やすよ。グルグル回して…、母さんに渡して…。うん。戻ってきた。…、凄いよ。母さん、上手だよ。」


「良かった…。父さんが言った通りだった。」


 母さんの目から涙があふれ出した。


「どうしたの?」


「ううん。何でもないの。ただ、嬉しいだけ。凛の治療ができるのが嬉しくて。」


「魔力をグルグル回して…、母さん右手を離してくれる。僕から魔力を送るね。グルグルグルグル…。」


「はい。魔力を貰うね。温かいわ。ふぅー。肩こりも良くなって…。ありがとう。」


「おにいちゃん。マロクって何?」


?ああっ、魔力ね。魔力ってねえ…。何だろう。温かい物かな。お兄ちゃんに中の温かい物が溜まりすぎちゃってお腹が痛くなるから、お母さんに貰ってもらってるんだ。」


「そう。お兄ちゃんね。その魔力が多すぎるみたいなの。でも、他の人に渡したら貰った人はとっても元気になるのよ。」


「へえ?おかあたんは、おにいちゃんマロクをもらって元気になってるんだね。」


「そうなのよ。蘭は、まだできないけど、もっと大きくなったらやり方を教えてあげるわ。凛、魔力は、渡すことできたみたい?」


「うん。できたよ。滞っている魔力は無くなった。今日もちゃんと晩御飯を食べられるよ。」


「そう。さっき先生が教えてくれたんだけど、この調子だったら、後1週間で退院できそうだって。」


「僕も教えてもらったよ。リハビリ頑張ったら1週間以内に退院できるようにしてあげるって。」


「凛?退院したら自宅療養なの?しばらく家で過ごせるんだよね。」


「うーん。先生は、退院したらすぐに学校に行けるって言ってた。なんかそのためのリハビリだって。」


「そうなのね。退院したらすぐ学校に行くんだ。」


「ねえ、僕何組だったっけ。」


「ちょっと待ってね。学校からのお便りも毎週貰ってたんだけど、最近は、メールになっちゃったの。スマホでお便り見れるからね。凜は、6年3組よ。先生の名前は…、何だっけ。」


「僕、6年生になって学校に行ってないから覚えていないよ。来週から学校に行ったら転入生みたいに思われるかな?」


「そうね。でも、友だちもいるんでしょう?」


「友だち…。覚えていないよ。遠足なんかも行ってないし、殆ど出席してないからね。運動会なんかもいつも欠席していたから。」


「そうよね。でも、これからは毎日学校に行けるわよ。友だちもきっとたくさんできると思うわ。」


「もうすぐ2学期も終わるんでしょう。来週で11月終わるからさ。」


「そうね。退院は何曜日かしら…。退院した週は、家で過ごせないかな…。お祝いにどこかに行きたいし…。温泉、遊園地、レストラン…どこがいいかしら。凛、どこか行きたいところない?」


「どこでも良い。だって、僕も一緒に旅行なんて今までできなかったでしょう。そうだな…。遊園地が良いかな。楽しそうだし、一杯体を動かしたいよ。」


「そうね。みんなで旅行に行くなんて初めてかもしれないもの。楽しみ。退院したら、絶対旅行に行きましょう。予約取っておく。遊園地。ネズミの遊園地が良いかな。蘭も行ったことないしね。」


「みんなで行けるんだよね。僕と父さんだけじゃなくてさ。」


「そうに決まってるでしょう。母さんも凜に触っても良くなったんだから。ずっと怖かったんだよ。母さんが凜に触ると凜が具合が悪くなるから、怖くて、悲しくて…。でも…、これからは安心して凜に手を当てられる。良かった。母さん、嬉しいよ。とっても。」


「えっ、どう言うこと?母さんが僕に触ると僕の具合って悪くなってたっけ…。」


「そうなのよ。凜がお腹が痛いって言うから、お腹に手を当てて痛いの良くなれってしてあげた時、凜は急に苦しみだしたの。そま後、緊急入院になったのよ。1度だけじゃなくて、3回も…。今回もそうだったでしょう。凜は、覚えていないの?」


「覚えてないや。母さんが救急車呼んで、父さんと一緒にここに来たのは何となく覚えているけど。」


「そうなのね。でも、そうだったの。私にも?がたくさんあるみたいってお父さんが言ってたわ。私と魔力をグルグル回す練習をした時に、私から父さんに温かい物を渡したから。凜からは、その魔力を貰わないといけないんじゃかって。手の置き方と放し方さえ気を付ければ大丈夫だって言ってたの。そして、その通りだった。母さんが凜に触った時、凜の方に魔力が行かないように気を付けたのよ。」


「そうなんだ。母さんにも魔力があるんだね。それなのに母さんが魔力病にならなかったのはどうしてなんだろうね。」


「魔力病って言うのが良く分からないけど、母さんは元気よ。そしてね。母さんが手を当てて、元気になれって強く念じたら元気になる人が沢山いたのよ。信じられないでしょうけど。」


「ヒールだね。母さんは、ヒールができるんだ。」


「ヒールって言うのは、ホ〇ミみたいな魔法のこと?そんなゲームみたいなことができたらすごいと思うけど、残念ながらそこまで効果はないようよ。それに、凜に効果がなかったら何にもならないわ。」


「僕が15歳になってこの病気が完全に治ったら、母さんのヒールが効くようになると思うよ。それまでにしっかり練習しておいてね。」


「そうしたら、母さんは、魔法使いの治癒師ね。本当、ゲームみたい。」


「そ…、そうだね。本当にそうだったら凄いよね。」


 母さんは、涙を流した後、笑顔いっぱいになって帰っていった。僕の今日の治療は、僕の治療だったけど、母さんの治療もできたのかもしれない。本当に嬉しそうだったから。


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