第61話 次の依頼と次の仕事

「ギルマスを呼んでくれ。獲物を見せたいから倉庫の方が良いと思うぞ。」


「ロジャー様、調査が終わったのでしょうか?」


「依頼されていた調査は終った。あの汚泥の原因と下水道がどうなっているかは調べ終ったぞ。」


「はい。少々お待ちいただいて宜しいでしょうか。ギルマスは、居りますが、只今来客の対応中な物ですから。」


「汚泥の直接の原因となっていた獲物は、ギルマスが来てから見せた方が良いのか、処理場に持って行った方が良いのかだけ聞いて来てくれぬか?」


「分かりました。少々お待ちください。」


 ミラさんにギルマスに伝言を頼むと僕たちは、ギルドの食堂の席に座って休んでいた。


「何か頼もうか?」


 僕が、テラたちと話しているとミラさんが小走りで僕たちの所にやってきた。


「ロジャー様、皆様、直ぐにギルマスは参りますが、一緒に領主様もいらっしゃることになりましたので、宜しくお願いします。」


「領主様か…、丁度良かった。領主様にお伝えした方が良いことだろうからな。この町の在り方に関わることになるはずだ。」


 直ぐに領主様とギルマスはやってきた。


「ロジャー殿、処理場の方で見せてもらえるのか?」


「うむ。では、参ろうか。」


「僕たちは?」


「お主らは、ここで休んでおけ。テラとリニ、それにシモン。お主らは一緒に来るのだ。冒険者として依頼を受けたお主らは、依頼終了までを確認しておかぬとな。」


「はい。…、リンジー、みんなに飲み物を買ってあげて。お金はパーティーのカードから引き落としてもらって良いから。お腹空いているなら何か食べてても良いわ。」


「了解。」


 ロジャー達が処理場に降りていくのを見送った後、僕たちはそれぞれ飲み物とボアの串焼きを注文して食べた。


「下水道の奥にあったあの洞穴の入り口って何なのかな?」


「あれがダンジョンって言うのなら凄いよな。」


「サラは、あれはダンジョンだと思う。」


「ロジャーは、街中のダンジョンって言っていた。だから、多分ダンジョンだ。」


「この町にダンジョンが出来たらどうなるんだ?」


「少なくとも、あのままほっとくわけにはいかないだろうな。スタンピードの心配も出てくるからな。まあ、大惨事になる前に見つけられたのが幸いと言えるだろうな。」


「フース。それってどういうことなの?スタンピードって何?」


「魔物の大群が町を襲う大惨事だ。この辺りにはその原因になるようなダンジョンは見つかってないけど、町中のダンジョンとなるときちんと管理しないと、ダンジョンの中の魔物があふれ出してしまうことになりかねないからな。」


「そう言えば、あの魔物の名前って何って言うのかな?ロジャーたちが退治した粘液を吐き出す奴。あんなのがあふれ出すってことなんだよね。」


いや、スタンピードとなるとあんな低ランクの魔物だけじゃないぞ。それこそダンジョンの深い階層にいる魔物も外に出てくるって聞いたことがある。」


「それって、この町が全滅するの。サラは、それまでに魔物を退治して、孤児院の子たちを守れるくらい強くなれる?」


「俺も、強くなるぞ。孤児院の子どもたちは俺が守るぞ。」


「スタンピードは起きないようにするのだ。起きた時のことは今は考えなくてもよいのではないか?」


 僕たちの話がスタンピードになっている時ロジャーたちが戻ってきた。


「ロジャー、話は終ったの?」


「おう。あの魔物のことも少しわかったぞ。あの魔物はダファビーニアと言うらしい。Dランクの魔物だ。粘液でスライムを捕えて捕食するそうだ。その戦いの時にできたのがやはりあの臭いがきつい汚泥という訳だ。基本、群れを作ることは無い為、今回の下水処理場の汚泥のように辺り一帯が埋め尽くされるようなことは無いらしい。」


 ここまで、話すと僕たちを見回し、話を切った。


「それなのにどうしてあそこはあんなにたくさんの汚泥があったのかを調べぬとならぬ。そこで、新たな依頼だ。しかし、次の依頼は、全員でという訳にはいかない。冒険者登録が終わっている者のみだ。他の者は、燃料作りを頑張ってもらう。凜は、その錬金術式の研究だな。」


「まって。どうして?冒険者登録が終わっている者って、僕たちはパーティー登録は終っているんだよ。それなのに依頼を受けられないの。」


「そうだ。新たな依頼は、ダンジョンの調査なのだ。深い階層まで行く必要はない。浅い階層を探れば、当面のスタンピードの危険性は確認することができるからな。」


「それなら、どうして僕たちは受けられないの?」


「危険を伴うことが分かっているからだ。依頼契約を正式にかわすことができるのは成人のみ、最低冒険者契約を終えている者のみだ。難易度が分からぬダンジョンに潜るためには、一人ひとりとの契約が必要になる。それができるのが冒険者で且つ成人のみなのだ。」


「じゃあ、僕たちのパーティーで参加できるのはテラだけじゃない。」


「その通り。今回はテラとシモンのパーティーで依頼を受けてもらうことになる。勿論、儂も一緒に依頼を受けるがな。」


「あの…、俺は、後4週間後には成人月を迎える。そうなったら依頼を受けることができるのだな。冒険者登録も既に終わっているからな。」


「まあ、この依頼は、2週間もかかることなく終了すると思う。だから、リニもこの依頼には参加することはかなわぬだろうな。」


「くっ。じゃあ、できるだけ早く、燃料作りを終了させて冒険者の訓練をする。成人したらどんな依頼でも受けられるように。」


 そんな訳で、依頼に参加できない僕たちは、これから資金稼ぎのための慣れた仕事を行うことになる。汚泥運びも少しはすることになるらしいけど、ダンジョンの入り口前の清掃依頼だ。今までと同じだけどロジャーはいない。僕たちの護衛は、リニとリンジーが受け持つことになる。でも、ダンジョンの1階層は、徹底的に討伐するから安心しても良いと言われている。


 明日からも今日までと同じことをするけど、なんだかワクワク感が今日までと全然違う。どうしてだ。


「凛。少し気が抜けたような顔をしてるが、汚泥を運ぶ仕事と錬金術式の研究もしないといけないのだぞ。お主は、まだ、リニが作る燃料も作ることができるようになっておらぬのだ。作りたい物があって材料もそろっておるのになぜ作れないのかを研究せねばならないのだぞ。分かっておるのか?」


「うん。分かった。頑張るよ。」


「みんな。会議室で魔力操作の訓練を行うぞ。特にテラとシモンたちは、自分の力をしっかりと把握しておくのだ。それが自分や仲間の命を守ることになる。」


『はい!』


 それから、いつもの訓練を行って魔術回路を活性化した後、訓練所に行って魔術を限界まで放つ訓練を行った。明日からのダンジョン調査に向かうテラやシモンさんたちは顔色が違った。外に出る依頼の前にダンジョン調査の依頼を受けることになったんだ。必死に訓練することで不安を少しでも少なくしようとしているようだった。












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