第59話 下水道の汚泥除去

 ギルドとの契約と流動的な報酬確認をした後、僕たちは全員で汚水処理場に向かった。スラム街を抜けると汚水処理場の前は、きれいな広場になっている。


「暫くしたらは、またここにひどい臭いの汚泥がやってくるんですね。」


「できるだけ早く乾かしてね。しっかり乾いたらほとんど臭いがなくなるからさ。」


「はい。頑張ります。いいな。お前たも魔力切れを恐れずにスクロールに魔力を絞り出すようにしろよ。」


「「「「うっす!」」」」


 シモンさんの気合いに、気合いの入った返事が帰ってくる。このお兄さんたちは何か変だ。体育会系って言うのかな…。


「シモン。運び出された汚泥はできるだけ早く乾かして臭いが住宅の方に広がらないように注意してくれ。今の所風向きも心配ないようだが、頼んだぞ。」


「はい。分かっております。しかし、スラムの連中なら心配いらないです。今回の清掃のことはみんな感謝しておりますし、今まではひどい臭いが一日してた時もあったのですから、それに比べたらほんの数時間においがしても、文句をいう者などありません。」


「それなら有り難いがな。では、俺たちは中に入るぞ。凛、シモンたちにマスクとスクロールは渡しているのか?」


「はい。さっき渡しました。スクロールは25本渡したよね。」


「はい。これだけで、穴5個分を乾燥し終えるように頑張ります。」


「頼みましたよ。調査に余裕があるようだったら、リニは、薪型燃料の製造の方に回るから、1個目の乾燥は、できるだけ早くお願いね。」


「了解しました。いってらっしゃい。」


 ギルドから預かった下水道への入り口の鍵を開け中に入った。


「流石に臭うな。マスクはあまり役に立たないようだな。」


「ロジャー、そう言ってもマスクがないと到底我慢できないくらいの臭いだよ。試しに外してみてよ。」


「そうなのか。試しはしなくてもよい。つけていても十分たまらん臭いだからな。フロルから汚泥の採集をしてくれ。ストレージ一杯になったら穴に出して乾燥作業に入るように言ってくれ。」


「はい。師匠。」


 フロルはロジャーの言うことは素直に聞く。手袋をはめると目の前に層になっている汚泥を収納して、走って外に出て行った。


「次は、凜だ。できるだけたくさん収納してみるんだ。この辺りには、魔物の気配ないから思いっきりやって良いぞ。」


「頑張る。」


 フロルが収納した時は目の前の汚泥の層が半径2m半円形で位無くなったけど、僕が目一杯収納したら目の前にあった汚泥は、5m程の下水道の幅全ての分が高さ3mの天井まで奥行きで8m程無くなった。


「なかなかの量、収納できるではないか。この調子で頑張るのだぞ。凜も走って穴に汚泥を入れてくるのだ。さっきの分も合わせて2つ穴分近く入れられるのではないか?」


「ロジャーさん。それはないと思います。穴は、俺がかなり大きくしましたから。どんなに頑張っても一つ半くらいの量だと思いますよ。」


「まあ、行って出してみれば分かることだ。早くいって来い。その間に儂たちは、この汚泥の原因の手がかりを探すのだ。」


 汚泥を持って外に出て行こうと下水処理場に入ったところでフロルに会った。


「リンジーがいつの間にか穴を広げたみたいだったぞ。おいらが目一杯収納して運んだのに半分にもならなかった。」


「分かった。僕も目一杯収納したからどのくらいなるか楽しみにしておくよ。」


「直ぐに次の収納しないといけないんだよなだぞ。」


「そうみたいだよ。じゃあ、また後で。」


 僕が外に出るとシモンさんたちが必死の形相で汚泥を乾かしていた。


「上に流し込んで良い?」


「はい。どんどん流し込んで下さい。前も上に流し込まれても乾燥させることができたから大丈夫だと思いますぜ。」


「じゃあ、いくよ。」


『ドドドドドドドドド…。』


 一杯目の穴は直ぐ目一杯になった。続いてその隣の穴に汚泥を流し込んでいく。


『ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…。』


 目一杯まで、後ほんの少し。少し大きくした穴の約1杯半を収納できるということだ。目標の1日穴5杯は、後2往復すれば達成できる。


「これで全部だから、シモンさんたちも頑張ってね。でも、すぐフロルが次の汚泥を持ってくるからね。どんどん乾かさないと汚泥ばかりが増えてにおいがきつくなるよ。」


「「「「「はい!」」」」」


「目一杯魔力を注ぎますから任せて下さい。。」


 頼もしい、シモンさんたちの言葉を聞きながら下水道に向かった。やっぱり、下水処理場の所でフロルとすれ違った。


「フロル、2杯目が少し足りなかったから足しておいて。」


「分かった。今度は、俺も目一杯入れてきたぞ。さっきよりもかなり多いはずだぞ。」


「うん。僕も次はさっきよりも沢山収納できるように頑張ってみる。」


 下水道に戻るとフロルが収納した場所は分からなかった。聞くと、フロルは、切り取られたようになっていた汚泥に手を少しだけつけて端から端までを移動しながら収納したそうだ。僕と同じように切り取ったように収納して1m近く進んだようだった。


「汚泥がなくなった場所から、原因が分かるようなものは見つかった?」


「何も出なかったな。暫くは、魔物の気配もないから、儂だけここに残って他の者は、汚泥の乾燥にかかった方が良いかもしれぬな。」


「そうだね。次に僕が収納した汚泥を穴に出したら多分穴4杯が一杯になるはずだよ。僕とフロルとロジャーで魔石炭もどきを運ぶとしても昼までに穴5杯分は軽く貯まると思うからね。乾燥を優先した方が良いかもしれないね。」


「儂が持っている大型のマジックバッグなら穴一つ分の魔石炭もどきを収納できるだろうから、シモンたちに運ばせるかのう。それか、リニが作った薪型燃料を運ばせても良いな。運送代は、一回に付き銀貨1枚でもよいだろう。10往復すれば金貨1枚になるからな。」


「その大型マジックバッグって燃料は何束くらい入るの?」


「1000束は軽く入ると思うぞ。」


「じゃあ、そうしよう。魔物の気配が感じられない間は、ロジャーだけここに残って他は、乾燥と燃料づくりだね。テラ、それで良い?」


「分かったわ。みんな、外に出て、汚泥乾燥に当たるわよ。リニは、燃料づくりね。」


「ええ…。いつも通りか…。まあ、慣れてるからそれでも良いけど…、そうだ。クーンに薪型燃料の成型の仕方を教えても良いか?できるようだったら一緒に作りたい。まあ、できた薪型燃料の質が同じくらいなら、同じ値段でギルドに卸してもらって、質が悪かったら安値で道具屋に卸すって言うのでどうだ?まあ、道具屋が買ってくれるならだけどな。」


「リニと他のみんなが良ければ、僕はかまわないよ。テラたちはどう思う?」


「サラは良いと思う。私たちだけだと大変。」


「そうだな。私も良いと思うぞ。この依頼は、この先どのようになるか分からないからな。しかし、燃料はまだ必要だということだから私たち以外に作ることができるパーティーがいることは良いと思う。」


「じゃあ、リニとクーンで薪型燃料を作れるように頑張ってみて。僕は、次の汚泥収納をしてから外に出るからね。」


「うむ。では、先に出て乾燥を始めておく。スクロールは、手元にあるのか?」


「昨日たくさん作ったから、大丈夫だよ。テラに渡しておくね。」


 僕は、スクロール50本をテラに渡してマジックバッグに収納してもらった。リンジーは、ロジャーから大型のマジックバッグを受け取っている。シモンさんたちの中で一番魔力量が少ないルカスさんに魔力登録をしてもらってギルド倉庫までの往復をしてもらうことにするそうだ。それぞれの役割が決まって、テラたちは外に出て行った。


 僕は、収納できるだけぎりぎりの量の汚泥をアイテムボックスに収納した。汚泥の壁はさらに奥に9mほど奥に移動した。さっきよりも1mもたくさん移動したことになる。さっきは、半径2mの半円分はフロルが収納していたけど今度はその分も僕が収納したことになる。収納量は1回1回かなり増えていっている。それは、フロルも同様だ。


 汚泥を収納して外に出る途中でフロルとすれ違った。


「今回は、凜の足りなかった分を足して、後、穴3分の2近く収納できていたぞ。収納量はさっきよりも増えたぞ。」


「僕も、さっきよりも沢山収納できていると思う。今日中に何m位進むことができるか楽しみだね。」


 そう言えば、アイテムボックス収納に必要な魔力もあまり感じなくなってきた。収納と維持にはほとんど魔力を使っていない気がする。


 外に出ると1杯目の汚泥は乾燥が終わっていて、リニがクーンに薪型燃料の成型の仕方を教えていた。擬音やこうとかそうとかという指示語で会話しているから側で聞いていても何のことか良く分からなかった。でも、僕が汚泥を穴に入れている間に、クーンが薪型燃料を作ることができるようになったようだった。


「リニ、形はこれで良いのか?」


「うん。でも、太さが一定じゃないと売り物としての価値が下がるから気を付けておいて。暫くは、俺が作った燃料を手に持ってトレースしながら作ったらいいぞ。」


「手で太さを確認しながら成型すればいいんだな。分かった。どんどん作るぞ。できたものは、どこに置いたらいい?」


「20本で束にして、ここに置いて行ってくれ。束にするために必要な紐は、ここに置いておくから。ルカス、クーンが作った薪型燃料が1000束貯まったらテラと一緒にギルドと道具屋に行ってくれないか?まずギルドに行って、できた燃料を見せて、道具屋に卸すかギルドに卸すか確認してくれ。見たところ質はほとんど変わらないと思うけど、念のために査定してもらった方が良いな。」


「分かったわ。ルカス、1000束出来たら声かけてね。」


「分かった。1000は、百が10だな。」


「その通り、しっかり数えてくれよ。」


「心得た。」


 そんな会話を聞きながら汚泥を穴に入れていった。フロルが残した3分の1を入れて、次の1杯を満杯にして、合計4杯。目標の5杯目の半分は溜まった。次にフロルが収納した物を入れたら5杯目も軽く一杯になる。


「みんなーっ。もうすぐ目標の5杯目が貯まるからね。頑張って乾燥させてよ。」


 午前中の早いうちに目標の穴5杯分の魔石炭もどきは、取り出すことができた。でも、たった20m程しか進むことができていない。一体どの位収納したら汚泥の壁は無くなるのだろう。















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