第58話 魔力操作訓練

 全員で迎える初めての朝。朝食は、屋台で済ませた。みんなお腹いっぱい食べても銅貨2枚で済んだ。でも、毎朝、銅貨2枚の出費は痛いといえるかもしれない。この世界は食費は基本ものすごく安く一般の人たちの年収も低い。テラたちの生活費は、年間銀貨3枚もかかっていないほどだ。そう言う意味では、毎朝銅貨2枚の食費はべらぼうに高いといえる。


 贅沢な朝食を終えると冒険者ギルドに向かった。今日からの依頼は、ロジャーへの指名依頼だ。ロジャーへの指名理由は、僕たちを同行できるということもあるらしい。だから、胸を張って依頼を受けて良いとロジャーに言われた。


「ミラよ。今から下水道の調査に行く。入り口の鍵を預かりたいのだが、ギルマスを待たないといけないのか?」


「いいえ。下水道への入り口の鍵は私がお預かりすることになっておりますが、今日は、調査の初日ということになりますから、ギルマスと依頼内容の確認をして頂きたいと存じます。」


「そうであったな。この依頼はちと特殊な依頼であった。」


「はい。事前に難易度が分からない依頼です。しかも、調査と言う名が付いていますが、下水道がどうして今のような状況になったのかが全く分かっておりません。ですから、依頼達成条件も難易度も調査が終わって決定されるという極めて特殊な依頼でございます。」


「だから、こ奴らを一緒に潜らせるというのだな。下水道を埋め尽くしている汚泥を燃料に変えて、資金に変えることができる者たちをだな。」


「はい。その通りでございます。シルバーダウンスターの皆さんが一緒であれば、最低でも1日金貨数十枚の収益を得ることがお出来になりますから。」


 僕たちが呼ばれた理由は分かった。つまり、今まで通りだ。ただ、奥へ奥へと入って行くこと。採集はするけど清掃ではないことが一番違う。きれいに取る必要はないし、最後に洗い流す必要もないということだ。


「ミラさん、では、燃料の卸し方も今まで通りということですか?」


「そうですね。今まで通りだと聞いております。一束銅貨1枚でしたっけ?」


「はい。その通りです。」


「では、ギルマスをお呼びして再度契約を行いたいと思います。」


「ねえロジャー。汚泥を乾燥させるのをシモンさんたちにお願いしても良いかな?乾燥まで僕たちですると中の汚泥採集と調査が手薄になると思うんだけど。」


「それは、かまわぬが、どのくらいの報酬で依頼するのだ?あまり安いと奴らも引き受けてくれぬだろうし、高すぎるとお前たちの報酬が無くなってしまうぞ。」


「ねえ、リニ、薪型燃料にしたら今まで通り、一束銅貨1枚で買い取ってくれるそうだから、穴1つ分を買取値段の金貨2枚と銀貨2枚の半額ので乾燥してもらうというのはどうかな。スクロールも運搬も僕たちがするということになるからね。穴一つ分の魔石炭もどきで、薪型燃料は10000束近くできるでしょう。」


「それって、俺が、一人で作らないといけないのか?」


「う~ん。そうだよね。僕が錬金術で成形できればいいんだけれど、どうしてもうまくいかないんだ。」


「く~。わかった。シモンさんたちへの依頼料もそれでいいと思うぞ。自分たちだけで無理なら他の人へ依頼するだろうからあまり安いと難しいかもしれないからな。でも、シモンさんたちはもう依頼を貰っているんじゃないか?」


「ねえ、ミラさん。シモンさんたちってもう依頼を受けましたか?」


「シモンさんたちなら、会議室で何かやっていらっしゃるようです。そう言えば、凜さんが来たら、教えに来て欲しいとか何とか言ってらしたような気がします。でも、伝言を頼まれたわけじゃないですよ。独り言みたいにそんなことを言ってたのを耳にしただけですからね。」


「教えてくれてありがとう。この後行ってみるよ。」


「凜よ。ギルマスを呼んでもらう前に、シモンたちに会ってくるか。多分、魔力操作のことであろうな。」


「あの…、私たちも一緒に行った方がよろしいですか?」


「お前たちも久しぶりに魔力操作の訓練をやってみるか?何か新しいスキルが見つかるかもしれぬぞ。」


 ロジャーの勧めもあって僕たちはミラさんに案内されてシモンさんたちが魔力操作の訓練をしている会議室のドアの前に立った。


「シモンさん。お早うございます。凜です。入っても良いですか?」


 中が騒がしくなって直ぐにドアが開いた。


「先生、来てくれたんですかい?伝言を頼んだわけではなかったのですが、申し訳ありません。」


「僕たちがシモンさんたちに用事があって探していたんです。だからちょうど良かったです。」


「先生たちが俺たちを探していたんですか?一体何の用でしょうか?」


「あの…、先生って言うのはちょっとやめて欲しいんですけど…。あっ、用事ね。僕たちからの依頼を受けて欲しいんだ。以前もやったことがあることだけど、少し量が多いし、大変にはなると思う。けど、シモンさんたちも魔力操作がかなり上手になったでしょう。だから、できると思うんだけど…?どう?」


「以前もやったことある依頼ってのは、もしかして、汚泥の乾燥ですか?」


「その通り!で、その依頼の前に皆魔力操作どのくらいできるようになったの?」


「俺たち全員一応、魔術回路の活性化はできたみたいです。発現した魔術は、俺が、ファイヤーボールでマルコがロックバレットとマッドウォール。フースは、ウォーターボールと身体強化でルカスがエアカッター。クーンもロックバレットですが、クリエートも発現しました。」


「最初から2つの魔術が発現している人もいるんだね。それで、聞きたいことって何なの?」


「はい。俺たち、訓練所で魔術の訓練とこの会議室で魔力操作の訓練をやった後、運送の依頼を受けているんですけど、魔力量がなかなか増えなくて、俺が一番多いのかどうか分かりませんが、ファイヤーボールを10発が限界で他の連中は、それぞれ5発とか8発とかしか撃てないんです。それじゃあ、外に出た時に心許なさすぎるんで、まだ外の依頼を受けれていないんですけどどうしたら魔力量は増えますか?」


「ちょうど良かった。魔力量を増やすなら、魔力枯渇まで何度も魔力を使うしかないからね。今回の依頼はちょうどいいと思うよ。」


「そうなんですか。それなら、願ったり、叶ったりです。俺たちの方からお願いしたいくらいです。で、どの位の量の汚泥を乾かしたらよろしいのですか?」


「そうだな…。毎日、あの大きな穴5杯くらいかな。穴一杯分の乾燥で、金貨1枚と銀貨1枚を支払うよ。それで、引き受けてくれないかな?」


「ええ?そんな支払ってくれるんですか?でも、俺たち乾燥用のスクロールなんて準備することできないですよ。スクロールの値段も知らないですし。」


「スクロールは、僕が作るから買う必要はないよ。シモンさんたちに必要なのは、魔力だけ。もしも、自分たちの魔力だけじゃ足りなくてどうしようもないのなら、報酬の一部を使って人を雇っても構わないよ。ただし、その時は、スクロールの管理なんかをしっかりしてね。」


「分かりました。是非やらせていただきます。」


「依頼の話は終ったな。では、二人組で魔力回しを始めるのだ。そして、なるべく早く多くの回数魔力回路の中を回してみろ。最低20回は回して、相手に渡すのだ。魔力を変化させないように気を付けるのぞ。属性を付加しないようにな。それから、怪我をしないように同属性か無属性の者と組むようにしろ。」


「はい。分かりました。」


 僕たちは、同属性同志でペアを組んで魔力回しを始めた。


 サラとシモン、テラとフース、リニとクーン、リンジーとマルコ、僕はルカスと組んで、フロルはロジャーと組んだ。全員で魔力回しを20分程行う。魔術回路では、ものすごい勢いで魔力が回っているのが分かるその魔力に攻撃属性を乗せないようにして相手に渡す。魔力が練り上がって大きくなっていく。魔力は、回路を更に活性化しているようだ。


「自分の魔力回路に入りきれなくなった魔力は少しずつ相手に渡すのだ。余裕がある方は受け取って魔力回路の中で魔力を回し続けるようにしろ。放出しないように気を付けろ。良いな。」


 勢い良く回していた魔力を少しずつ落ち着かせていく。魔力は、回路の中で暴れるのを止めて大河の流れのようにゆっくりとめぐりだす。しかし、回路の中に魔力が満ちていることが感じられる。新しい魔術を発現させることができそうな気がする。


 全員つないでいた手を離して暴れる魔力を沈めるように大きくゆっくりと息をしている。みんな魔術回路の中に魔力が満ちていることを感じているようだ。


「よし。今日の訓練は、ここまでだ。このままギルドの訓練場で魔術訓練をしたい所だろうが、今から共同で依頼を受注するためにギルマスと会う。そして、今日から調査と燃料づくりを開始する。体に満ちている魔力は大切に取っておくように。」


『はい。』


 ロジャーの指示に大きな声で応え、僕たちは会議室を出てギルマスと依頼書の確認をする為に受付に向かった。






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