第57話 冤罪回避

 僕たちがパーティーハウスに移り住んで2日が過ぎた。ギルマスとロジャーの話はついている。昨日、ギルマスは衛兵詰所にテラの窃盗についての調査結果の報告に行ったそうだ。


「訴えの内容は、完全にでたらめと言って良い物だったそうで、テラが、教会に保管してあったはずの金貨10枚を盗んで行方をくらましたというものだそうだ。ギルマスもその窃盗の内容を聞いて耳を疑ったといっていた。まず、テラは、現金をその2倍以上持っているはずだということ。それ以上のパーティー資金がギルドカードには貯蓄済みであること。何より、牧師が言うことが色々と変わるため、衛兵部隊も牧師を疑い始めているということだった。」


「それで、テラはこれからどうするの?このままずっと隠れているわけにはいかないよね。」


「うむ。今日、冒険者ギルドに行こうと思う。所持しているお金についてもギルマスが正当性を保証してくれるということだ。それに、テラに聞いた強制的な借金の話をしたら、ギルマスがその金を貸そうとしていていた金貸かねかしを突き止めてくれてな。ちょっと丁寧に聞いたらあっさりと白状した。しかし、その金貨30枚と言うのは、国に決められた金利で正式な契約書で貸すことになっていたそうだ。期間は、王都に到着するまでの1月半で、金利は全部で2分だ。つまり銀貨6枚だな。かなり高いが違法という訳ではない。」


「そのことは、衛兵の詰所で話したの?」


いや、まだだ。無理やり借金をさせようとしただけで、実際に無理やりサインをさせたわけではないし、借りたお金を取り上げたわけでもないからな。胡散臭い言動はあったようだが、証拠がない。」


「じゃうどう言うことになるの?」


「私は、どうしたら良いのでしょうか?」


「今から、ギルマスと一緒に衛兵の詰所に行って身の潔白を証明してもらう。今回は、それだけしかできぬであろうな。牧師の言動があまりに怪しいが…、証拠がないのだ。すまぬが、今回はそこまでしかできぬようだ。」


「あの…、退院生たちは、ここを出てどうなっているのかは調べて頂けないのでしょうか?」


金貸かねかしに聞いた所、今までは、契約期間後、つまり、退院生が王都についた後に金利と借りた金はきっちり返済されたそうだ。今までもずっと同様の契約をしていたと白状したのだ。」


「でも、先輩たちは、どうやってお金を返したのでしょう?王都に着くまでは、お給金が頂けるような仕事はないし、旅費や食費も必要なはずなのに…。」


「そうなのだ。王都への旅費や王都に着いてからの生活に必要なお金としてお金を借りたはずだ。しかし、それを返す手段がない。ここに、神父の企みがあるのかもしれぬ。とにかく、王都へ働きに出るということは、これからの退院生はしないように教えることが必要かもしれぬな。」


「分かりました。まずは、私の身の潔白の証明をしてから、孤児院には、私が成人するまでにかかった費用を返済します。それから、パーティーメンバーの費用も支払って全員孤児院を出るようにしたいと思います。その後、牧師様の悪事を暴きます。時間がかかっても絶対に。」


「そうだな。それは、テラたちの仕事かもしれぬ。しかし、力を付けてからにするようにな。パーティーメンバーが孤児院を出れば、次に成人する者が出るまで時間がある。まずは、自分たちの力をつけることだ。」


「はい。分かりました。ロジャー様。」


 この後、冒険者ギルドに行き、ギルマスとともに衛兵詰所に向かった。テラの身の潔白は直ぐに証明された。冒険者ギルドのギルドマスターがテラたちの所持金の正当性を保証すると神父がテラへの窃盗の訴えをあっさりと引っ込めたからだ。自分の勘違いだったようだと頭を下げてきたそうだ。


 テラは、この2日間どこにいたのかをかなりしつこく聞かれたそうだ。でも、冒険者として何かあった時の、避難場所はぜったい必要だし、簡単に人に教えて良い物ではないから教えられない。そう、ロジャーに教わった通りに答えて、話さなかった。今回は、訴えも取り下げられたから、無理には聞きださないが、いつもそういう訳にはいかないぞと脅されたといっていた。怖かったそうだ。


 その後、ロジャーと一緒に孤児院に行った。パーティーメンバーをパーティーハウスに迎えるためだ。形状は、ロジャーが未成年のメンバー全員を引き取る形式となった。その際、孤児院へ寄付金ということにして、ロジャーは金貨15枚ものお金を支払った。孤児院のシスターはそのようなお金は受け取れないと固辞したが、無理やりおいてきた形だ。その内いくらは、教会の方に接収されるのだろうが、全員が知っているお金だから、神父が着服することは無いだろう。


「これで、テラの冤罪事件は片付いたな。」


「はい。ありがとうございます。」


「今日から、みんな一緒にあのパーティーハウスに住むの?」


「そうよ。また、みんな一緒。」


「一人一部屋なんだぞ。でも、今日は、一人で寝るのはなんか寂しくて怖いぞ。」


「フロルは子どもか?でも、やっぱり、今日は一緒の部屋で寝ようぜ。なっ、リニ。」


「俺は、一人で寝てみたい。フロルとリンジーは一緒の部屋で寝ろ。お前たちよりも少し遅くまで起きて勉強したい。だから、一人部屋に入る。色々作ってみたい物もできたんでな。」


「リニ、それなら、外に工房を作ろうかの。クリエートの魔術を使うなら広い場所が必要だろう。自分の武器や防具を作ってみたいのだろう?」


「スキルの熟練度が上がれば、いずれですが、作ってみたいです。」


「僕の錬金術工房とリニの魔術工房を一緒にして一つの建物に作ろうよ。その内、そんな建物も作れるようになるかな?」


「そうだな。そうなると凄いな。その為にも素材集めができるような力を付けないといけないな。町の中じゃそんなに素材を集めることはできないからな。」


「そうだな。町の外に出ることができだけの力を早く付けないといけないな。」


 テラが後ろから僕とリニの肩に手を乗せていった。もうすぐパーティーハウスに到着する。


「おう。そうだった。明日から儂と一緒に依頼を受けるぞ。下水処理場の奥の下水路の調査だ。汚泥を取り除きながらの調査になる。明日からも大変な仕事になるからな。覚悟しておくのだぞ。」


『はい。ロジャー!』


 ロジャーと一緒に依頼を受けられる。僕たちは、半分遠足に連れて行ってもらえるようなドキドキ気分でその日を終えた。




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