第56話 冤罪

 朝、衛兵が二人で僕たちの宿にやってきた。


「テラという少女を探しておるのだが、お主たちに心当たりはないか?」


「えっ?テラなら昨日の夜来ましたけど、話をして直ぐに家に帰しました。家って彼女の家は孤児院だったと思いますが…。」


「その少女は昨日の夜から行方が知れないのだ。」


「それで、行方を探してるのか?捜索願かないかが出ているということか?」


いや、その少女に窃盗の嫌疑がかかっている。なんでも、金貨数十枚を盗まれたという被害届が出されているのだ。」


「何故、数十枚などと言うあいまいな金額なのですか?はっきりとした金額が分からずとも被害者はおおよそいくら盗まれたくらいは分かっているはずでしょう。」


「ここで言っておらぬだけで聞いてはおる。それで、そのテラの行く先を知っておらぬか?」


「存じませぬ。儂たちも夜遅く女の子が一人で尋ねと来るなど物騒だといって直ぐに帰るように言っただけだからな。ただ、何も食べておらぬというので、町の屋台まで行って串焼きを買ってあげたぞ。それを食べてから帰ったはずだ。」


 ロジャーからその話を聞くと衛兵たちは僕たちから目を離し、宿で朝食をとっている客たちを見渡した。


「ここにいる者たちの中で、テラという少女のことを何か知っている物はおらぬか、賞金はついておらぬが、捜査に役立つ情報を知らせたものには、何か褒美があると思うぞ。」


 そう声をかけられると朝食を食べていた者の中の一人がそそくさと立ち上がり衛兵に耳打ちをしていた。


 僕たちが部屋に戻ろうとしていると


「おい。そこの子ども。ちょっと詰所まで一緒にに来てくれぬか?気になる情報が入ったのでな。」


「何故、子どもだけを連れていこうというのだ。儂が居ては、聞きにくい話か?」


「そういう訳ではない。では、お主も同行してくれ。」


「特に話すことなどないがな…。聞きたいことがあれば、ここで聞けばよいのではないか?」


「ここで聞いても構わぬというのか?では、聞くが、子どもお前の名は何という?」


「僕は、凜です。」


「凜とやら、お主、昨日、テラと別れて宿に戻った時、妙なことを言ってなかったか?宿に戻って来て直ぐにだ。」


「妙なことって何ですか?ここに戻って来た時…。何のことか良く分かりません。」


「テラという娘の戻って行った方向に着いてだ。孤児院の方角ではなかったのではないか?」


「ああ。そのことですか。そうなんです。テラが走って行ったのって孤児院の方じゃない気がして。」


「どちらの方角なのだ?」


「どちらと言われましても…。そうですね。強いて言えば、僕たちが先日までギルドの依頼で清掃をしていた下水処理場の方角かもしれません。」


「下水処理場の方だな。偽りではないな。」


「強いて言えば、その方角だったということですよ。そこに行ったなんて言っていませんからね。」


 二人の衛兵は、僕の言うことなんか聞かずにそのまま走って下種処理場の方に行ってしまった。僕とロジャーは、部屋に戻るとほとんど何も置いていない部屋を全くの空っぽにして宿屋の受付に行った。


「長らく世話になった。ようやく引っ越しの準備が整った故、新たに借りた家に引っこすでな。しかし、この宿の飯はうまかったからな。偶に食べに来たいのだが、宿泊してなくても食わせてくれるか?」


「勿論ですよ。是非いらして下さい。それに、何かいいことがあったら家の食堂を貸切ってお祝いしてもらって良いですからね。いつでも大歓迎ですよ。」


「良し。言質は取ったぞ。その約束たがえるでないぞ。では、失礼する。誠に世話になった。」


「色々有難うございました。失礼します。」


 僕たちは、宿を出るとそのまま冒険者ギルドに向かった。孤児院のパーティーメンバーは既にギルドに来ていた。


「凛。テラが大変なんだ。」


 僕の顔を見ると直ぐにリンジーが話しかけてきた。ロジャーは、続きを離したそうなリンジーを見ると、もう何も話すなと目で制して首を横に振った。


「ミラ、会議室は空いておらぬか?このパーティーにこれからの訓練の仕方と資金の貯め方を確認しようと思うのだが。」


「はい。空いておりますよ。でも、テラさんはどうしたのですか?」


「ちと、トラブルに巻き込まれていてな。今は、この町にいないようなのだ。そのことは、後ほどギルマスにも相談するが、今は、リーダー不在のこの子らにパーティーとしての心得を教えねばならないようだからな。」


「分かりました。テラさんのことは後程ギルマスに相談なさるということですね。お時間は予約しておかれますか?」


「うーん、後日ということにしようかの。そうだな。3日後の午前中に時間が取れるか聞いておいてくれぬか?」


「畏まりました。3日後の午前中でございますね。確認しておきます。確認が終わりましたら、会議室にお知らせに伺った方がよろしいでしょうか?」


いや、ギルドを出る時に受付で聞こう。を話した後、訓練所の方で訓練をするから2時間位はかかると思う。その間に聞いておいてくれれば良いかなら。では、お前たち会議室に入ってくれ。」


 僕たちは、全員会議室に入り、ロジャーは会議室のドアに鍵をかけた。


「暫く静かにしていろ。」


 そう言うとロジャーは、会議室の四隅に魔道具を置いて、手をかざし、魔道具を発動させた。


「結界の魔道具だ。よほどの仕掛けがない限り外から覗かれたり盗み聞きされることは無い。まあ、あまり大きな物音を立てない限りだがな。そあ、リンジー、話したいことがあれば、話しても良いぞ。」


「テラ姉が、神父様に落とし入れられた。衛兵が今朝孤児院に来てテラ姉を連れていこうとしたんだ。テラ姉は、昨日から孤児院を出ていたから捕まらなくて済んだけど。それに、昨日、神父様がテラ姉に金貨30枚も借りさせそうとしたって言ってた。それっておかしいでしょう?それなのにどうして衛兵はテラ姉を捕まえようとするの?」


「お前たちの言いたいことはそれだけか?」


「俺もロジャーさんに聞きたいことがある」


「何だ。リニ。」


「テラは、昨日、ロジャーさんたちの所に来たのか?」


「昨日の夜来たぞ。腹を空かせているとのことだったから、屋台で食い物を買って与えてから分かれた。テラは、帰るといっていたが、下水処理場の方に走って行っていた。」


「どうして、テラ姉を助けてくれなかったの?それに、テラ姉は、お腹なんて空いていなかったはずです。」


「サラ、そうムキになるな。そう言うことになっている。テラは、密かに、町の外に脱出したことになっておるのだ。お前たちもそう思っていてくれないと困るのだ。もう少し、冒険者ギルド周辺の警備が緩くなるまではな。」


「訳が分からない。どう言うことなの。テラ姉が町の外に脱出したって。」


「神父の不正を暴くために王都へ向かったと思ってもらわないとな。一人で無茶なことをしていると神父に思わせないといけない。それに、神父はテラが王都に向かうことはどうしても阻止しないといけないはずなのだ。万が一にもテラに王都にたどり着かれては、大変なことになると思っているはずなのだが…。」


「だから、どうしてなの?」


「うむ。分かりやすく言うとだな。捜査を町の中から、町の外に向かわせないといけないのだ。テラが助かるために必要なことなのだ。お前たちは、そのことだけ知っておけばよい。」


「テラ姉は、助かるのか?衛兵に捕まって牢屋に入れられたりしないのか?悪いことをしていないテラ姉が捕まるのは嫌だぞ。」


「そうならないために、テラは、町の外に逃げたことになっておるのだ。いや、なったはずなのだ。お前たちは、何も知らぬ方が良い。儂らも知らぬ。今は、そうしておかねば、犯したくもない罪を犯すことになる。しかも、無益な罪だ。まず、お主らは、自分を守る力を身に着けるのだ。読み書きもそうだが、武術、魔術と戦術もだ。テラを助けるために今お主らにできることはそれだけだ。」


「テラ姉は、捕まったりしないんだな。俺たちが俺たちのできることを頑張れば良いんだな。」


「そう。リンジーの言う通りだ。儂は、お前たちをテラを見捨てたりはしないから安心して大丈夫だ。」


「信じますよ。ロジャー様。」


「リニ、様付けはよせ。良いな。今から訓練所に行って魔術と武術の訓練をする。凛、お主は錬金術師ギルドに行って、攻撃や防御のスクロールがないか探してみてくれ。今のお前は、戦う術が少なすぎるからな。」


「分かった。錬金術ギルドに行ってくる。冒険者ギルドのギルマスから貰った紹介状を持って行けば良いんだよね。」


「うむ。その通りだ。ひとりで行けるか?」


「大丈夫。大通りを真直ぐ北に行ったところにある建物だよね。武器屋に行った時に前を通ったから分かる。」


「では、儂らは、訓練所へ行って訓練をするとしよう。凛、今晩からパーティーハウスに泊まることになる。何か食べ物も仕入れておいてくれぬか?それと、家の中に食料保管庫があったであろう。それに魔力を流し込んで動かして、仕入れた食料を保管しておいてくれ。」


「凜たちは、今日から新しい家に住むのか?俺たちも早く住みたいぞ。」


「フロル、あんたは成人するまで後1年以上あるでしょう。それまでは、孤児院でしっかり勉強しなさい。」


「別に孤児院が嫌なわけじゃないけど、あんな家に住んでみたいって言っただけだぞ。」


「そんなことは、良い。さあ、訓練だ。気合を入れるのだぞ。」


『はい。』


 ロジャーと他のみんなは訓練所に向い、僕は、まず、市場で食料を仕入れて家に向かった。テラは、朝ご飯を食べることはできたかな…。


家のドアのかぎを開けて中に入る。中に入ってから人の気配を探ったけど、まだうまくいかない。何となくテラの他には近くには誰もいないと思う。


テラが隠れている部屋をノックするとカチャッと音がして鍵が開いた。合図は『コンコン・コン・コンコン』だ。


中に入って鍵を閉めるとアイテムボックスから市場で買ってきた食べ物を出した。


「テラ、朝ご飯は食べた?」


「うん。昨日、ロジャーさんがお異って言ってくれたパンは食べた。うぁーっ。美味しそうなお肉。食べて良い?」


「いいよ。まだ温かいと思うから今のうちに食べて。それから、やっぱり、テラは、窃盗の容疑が駆けられて捜索されている。今朝、衛兵が、僕たちが泊っている宿に来た。打ち合わせ通り、ミスリードしておいたよ。」


「それで、私は、いつまでここに隠れてい置けばいいのだ?」


「ロジャーは、2~3日したら冒険者ギルドに行けるだろうって言っていた。そう長くないみたいだから、ここで静かにしていてね。じゃあ、僕は、今から錬金術師ギルドに行くからね。また、後でね。」


「分かった。待っている。」



























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