第51話 武具購入

 新しい月になった。今月はテラの誕生月だ。


「お早う、テラ。成人おめでとう。」


僕の祝福の声を聞きつけた周りの冒険者たちが、テラの側に群がって来て次々に声をかけてきた。


「おお、姉ちゃん、成人月かい。そりゃあ、おめでとう。早く良い旦那を見つけないといけないな。」


「ええっ。姉ちゃん、成人か?それなら、詐欺に気を着けな。借金背負わされて奴隷落ちなんてシャレにならないからな。」


「あら、あなた成人月なのね。おめでとう。あいつらふざけているようで案外本気で言ってるからね。大人になるってことを軽く考えないようにね。それから、成人の儀には、気をつけなさい。私は、この国で成人の儀を受けてないから良く分からないけど、この国の成人の儀はなんか変よ。出来たらこの国以外の教会で受けたら良いわ。」


 冒険者ギルドであったテラに成人のお祝いを言うと近くにいたおじさんやお姉さん冒険者たちが次々にお祝いを言ってきた。基本冒険者は成人だからここで成人のお祝いが盛大に行われることは無いかもしれないけど、見習い冒険者もたくさんいるんだから、そこまでからかう必要はないと思うんだけどな。


 まあ、人生の先輩として気を付けないといけないことを教えてくれているんだろうからちゃんと聞いておいた方が良いかもしれない。テラは、皆に色々なことを言われながらも少し恥ずかしそうにしていた。


「で、今日はどんな依頼を受けるの?」


「そうね。今日は、依頼を受けるんじゃなくて、ギルマスに選んでもらった装備を買いに行こうと思うんだけどどうかしら。それから、装備になれるためにみんなで訓練を受けて、明日か明後日にパーティー昇格試験を受けるって言うのはどう?」


「パーティー昇格試験ってシルバーダウンスターのランクを上げる試験ってことなのか?」


「そう。リンジーやフロル、凜やサラも含めた私たちのランクよ。一人ひとりのランクよりも優先されるパーティーランクの試験。これをEランクにしてもらえるんですって。RランクもFランクもすっ飛ばしてよ。どう、受けて見ない?」


「装備を手に入れたらすぐに訓練?誰に教えてもらうつもりなの?」


「昨日帰り間際にギルマスが時間があれば指導してくれるって言ってくれたの。だから、早く装備を手に入れて訓練したいって思わない?」


 僕は、Eランクが受けられる依頼を見に行ってみた。討伐依頼は勿論、ダンジョンでしか手に入らない素材の採集依頼もある。ロジャーに何時もお願いしているボアの魔石の採集もEランク依頼だ。もしも、僕たちにその実力があって、安全にその依頼をこなすことができる位の力があれば、自分たちだけで、ポーションの素材をそろえることができるようになる。そうしたら、資金面ではかなり余裕ができるといえる。


「よし。頑張ろう。」


「じゃあ、ギルマスに紹介してもらった武器屋に行くわよ。ええっと、私たちの装備は殆ど1軒のお店で揃うみたいね。フロルだけは、ルーナスさんの店に行かないといけないみたいだけど。まず、ルーナスさんの店からにしましょう。消耗品みたいだからね。投擲用の鉄球とクナイ?だって。」


「クナイは僕が作れるから、鍛冶屋に行って鉄を仕入れておこう。それに、クナイ以外も一回仕入れれば作れるようにできるかもしれない。」


「ねえ、テラは、弓矢を使ってみたいの?」


「ここで話していても装備はやって来てくれないから、まず、鍛冶屋ね。そこに向いながらお話ししましょう。」


「それでね。テラは弓矢でしょう。それならサラはどうするの?」


「サラも後衛だけど、テラみたいに素早く魔術を撃てない。魔術補助の杖にしてポーションで魔力を補充しながら戦わないといけないかなって思ってる。」


「そうか。ポーション併用の戦い方か。でも、魔力ポーションってあんまり売っていないんじゃない?」


「そうなのか?それなら、凜が魔力ポーションを作れるようになればいい。材料は、みんなで集める。」


「そりゃそうだ。でも、僕たちだけで、素材が集められればいいんだけどね。」


「頑張る。」


「サラ、ポーションだよりよりも、総魔力量を増やす方が現実味があるんじゃないか?」


「サラは、魔力枯渇は嫌い。気分が悪くなるから。でも、私やみんなが死ぬのはもっと嫌だから、頑張る。」


「それなら凜はどんな戦い方をするんだ?」


「一応、剣で戦おうと思うんだけど、何か飛び道具って言うか魔道具やスクロールを使った戦い方ができないかなって思っている。だから、片手剣で、もういっばうの手に魔道具かスクロールかな。」


「戦闘用のスクロールって聞いたことないぞ。」


「例えば、昨日使った洗浄のスクロールでも戦闘用に使えるんじゃないかな。致命傷は与えられないけど、支援魔法的には効果ない?」


 そんな話をしてると鍛冶屋に着いた。そこでは、地金を100kg程購入し10kgの魔鉄鋼も仕入れた。二つで銀貨4枚だった。


 次にルーナスさんの店に行ってさっきの地金で鉄球を作ってもらった。大きさと重さをいくつも出してもらって丁度良い大きさと重さのものを作ってもらう。フロルにちょうどいい大きさは直径3センチほどの物だった。その大きさの鉄球を50個程錬金してもらった。拾うのは大変だけど、ストレージに入れておけばいつでも投擲できる。クナイは僕が地金で50本ほど作ってあげた。


「ありがとう、凛。しっかり練習するぞ。」


「どういたしまして。ロジャーのクイナと同じ形だからね。練習したら同じくらいの威力になると思うよ。」


「ロジャー師匠に追いつくにはどれだけ時間がかかるのか分からないけど頑張るぞ。」


「次は、武器屋ね。この町では、割と有名なお店よ。安い割には良い物が多いって言う話だったわ。店の名前は、ヴェンデル武具店よ。見つけたら教えて。この先の商店街の通りにあるそうよ。」



「あっ。サラが見つけた。あそこ。」


サラが指さした方にヴェンデル武具店の看板が見えた。


「じゃあ、行ってみましょう。」


中に入るとたくさんの武具が並べてあった。


「お早うございます。御主人はいらっしゃいますか?」


「おう。いらっしゃい。武器を買いに来たのか?」


「はい。冒険者ギルドのシャーキーさんの紹介できました。あの、ここに私たちに合いそうな武具を書いてもらっているのですけど、合わせてもらって良いですか?」


「ルーキーか?えらく若いが、スポーンサー付きなのか?」


「いいえ。私たちのお金で購入します。予算も伝えていましたからそれに合わせた武具を紹介してもらっていると思うのですが。」


「自分たちでこれ全部を購入するって言うのか?全部合わせると金貨30枚を軽く超えるぞ。」


「そのくらいの値段で、Eランクの魔物に備えることができる防具や武器をそろえることができるのでしょうか。」


「いやいや、ここに書いてある武器は、Bランクの魔物でも通用するような物ばかりだ。到底ルーキーが買うことができる武器ではないぞ。だいたい、何をしたらそんなに資金を貯めることができるんだ?」


「私たちは頑張ったんでよ。だから、ギルマスにこの店と使いやすそうな武具を紹介して頂いたんです。」


「おっ、そうだったな。シャーキーさんからの紹介と言っていたな。信用しない訳ではないが、紹介状か何かを持っているか?」


「はい。預かってきています。」


テラがギルマスから預かってきた書状を店主に見せるとようやく信用してくれたようだ。


「わかった。その書状に書いてある武器を出せばよいのだな。それぞれ身に着けてくれ。調整してやろう。」


僕たちは、ギルマス推薦の武具をそれぞれ身に着け店主のヴェンデルさんに調整してもらった。剣や杖も持ち手の滑り止めや魔力受けの位置、鞘の位置なんかも細かく調整しないといけないらしく、午前中いっぱいかかった。


店の中では素振りなどはできなかったが、ギルマスと主人の見立て素晴らしく、手にしっくり体にぴったりとした武具を手に入れることができた。


「代金は、これで間違いないか?」


主人に言われた金貨31枚と銀貨4枚を渡すした。


「この端数の銀貨4枚は俺からのお祝いだ。武具の手入れ道具を買って行け。家にあるのは剣の手入れ道具だけだが、それはサービスで付けてやる。杖や防具の手入れ道具は、防具屋に置いてあるだろう。そこで買ってくれ。俺の所は切らしていてな。その分の代金だと思ってもらっても構わない。お前たち、生き延びるんだぞ。」


『はい。ありがとうございます。』


僕たち、ヴェンデルさんの言葉に全員で力強く返事をした。






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