第50話 依頼査定

 朝の勉強会。


「お早うございます。」


『お早うございます。』


「ええっと、昨日、テラたちから聞いていると思いますが、今日で僕がみんなに教える勉強会は一旦終わりにします。20回以上のお勉強会、皆一回も休まずに、よく頑張りました。基本的な文字は大体読めるようになったし、簡単な計算もできるようになりました。次からは自分たちで勉強会を開いてもらいます。」


「ええ、じゃあ、凜先生はもう来ないのかい?」


「孤児院には遊びに来たいと思います。でも、これからは、朝だけじゃなくてみんなが都合がいい時間に勉強会を開いてもらいますね。それに、お昼の空いた時間にシスターにお勉強を習っても良いと思うよ。」


「それは、今でもしています。ねえ、シスター。」


「はい。小さい子達がこの朝のお勉強会に着いて来れたのは、そんな頑張りがあったからです。」


「そうなんだね。よく頑張ったね。それと、シモンさんたちもご苦労様でした。毎日、冒険者活動しているのに、朝の依頼取りの時間に来て、頑張ってくれて。凄いと思います。シモンさんたちは、基本的な知識は身に着けることができたみたいですから、後は実践あるのみです。それと、少し話があるので、勉強会の後、残っていてくださいね。」


 読み書きの勉強では、敬語と丁寧語の勉強をした。貴族や目上の人たちから依頼を受けたりするときに必要になるからだ。計算の学習は、で掛け算を勉強した。掛け算の使い方と考え方を説明して、掛け算九九の一覧表を皆に渡した。何回も練習して直ぐに答えを思いつく様になれば、計算が速くなることを丁寧に説明して今日の授業は終了した。


 全ての授業を終えて、昨日市場で見つけた甘い焼き菓子を錬金してみんなに配った。勉強を頑張ったご褒美だ。大人も子供も嬉しそうに受け取り、笑顔で食べていた。その笑顔を見て僕も嬉しくなった。


 シモンさんたちには孤児院の広間に残ってもらっている。本当なら急いでギルドに行って少しでもいい依頼を見つけたい所だろうけど、時間を取ってもらった。


「シモンさんたちに聞きたいんですが、成人の儀は、お受けになりましたか?」


「恥ずかしいんだが、成人の儀には最低、一人銀貨1枚のお布施が必要でな。その金が準備できなくて俺たちは誰も受けれていないんだ。」


「良かった。」


「良かったってどういうことだ?成人の儀を受けないと魔力回路の活性化ができないから魔術が使えないんだぜ。だから、俺たちは、必死で金を貯めて遅ればせながらの成人の儀を受けようとしてるんだ。」


「成人の儀を受けていないなら、魔力操作の訓練ができるかもしれません。そうすれば、魔力回路が活性化して、魔術が発現するかもしれませんよ。やってみませんか?」


 その話を聞いていたテラがシモンさんたちの所に来て自分たちも魔力操作の訓練で魔術が使えるようになったことを説明してくれた。


「そんな方法があるなら教えてくれ。それって危険はないのか?」


「危険はありませんが、魔力操作を失敗したら、魔力枯渇で気を失うことがあるので、倒れても危なくない場所で練習しないといけません。説明よりも実際にやってみた方が分かりやすいですね。フロルが無属性魔力を持っているのでフロルも訓練に参加してもらいます。」


 フロルを呼んで一緒に手伝ってもらう。


「じゃあ、シモンさんとフースさんからやってみましょう。他の人たちも同じことをするので説明をしっかり聞いていてくださいね。」


「おう。わかった。」


「シモンさんは僕とフースさんはフロルと一緒に訓練します。二人とも魔力登録をしたりスクロールに魔力を流し込んだりしたことはありますから魔力は感じ取ることができますね。」


「おう。何となくだが見よう見まねでできていると思うぞ。どっちかと言うと魔道具に魔力を吸われているって言う感じの方が強いけどな。」


 シモンさんの感想は僕たちが魔道具やスクロールに感じている魔力の動きと少し違う。つまり、魔力を操作しているというより、魔道具の力に引かれて魔力を吸い出されているという感じのようだ。


「まず、左手の平を上に向けて、右手の平は下に向けます。その手に僕たちの手を重ねるので力を抜いて下さいね。」


「うむ。こうか?」


「二人とも姿勢が崩れています。胡坐座りが安定すると思うので胡坐座りの姿勢で、背筋を伸ばして力を抜いて下さい。そうです。フースさん肩に力が入っていますよ。肩の力も抜いて下さい。」


「う…、なんか難しいな。これで良いか?」


「はい。では、今から魔力を渡します。魔力が左手の平から入ってくるのが分かったら教えて下さい。フロルもフースさんに魔力を渡してね。」


「「来た。来たぞ。」」


 二人とも同時に魔力を感じたようだ。


「では、その魔力を左肩の方にあげて…。」


 魔力操作の訓練をするとシモンさんたち全員魔力回路まで魔力を入れることができるようになった。それに、この5人の凄い所は、その日のわずかな練習で、自分たちで魔力のやり取りができるようになったことだ。クーンさんは、マルコとは魔力の相性が良いみたいだったが、マルコは、誰とでも訓練ができた。


「今から、冒険者ギルドに依頼を貰いに行くからこの位で訓練は止めないといけないけど、これを頑張ったら魔術が使えるようになるのか?」


「はい。多分、2・3日訓練を続けたら魔術回路が活性化すると思います。そうなれば、使える魔術が頭に浮かんでくるんで、必ずギルドの訓練場で練習してくださいね。」


「その頭に浮かんだ魔術の使い方は、誰に習ったらいい?」


「ミラさんも知っていることは教えてくれると思いますが、分からない時は、ギルドの資料室に行って聞けば必要な資料を貸してくれますよ。皆さんは、基本的な文字は読むことができるようになっていますから、きっと資料を読めばわかります。」


「分からない時は、助けてくれよ。」


「はい。きっと。」


 魔力操作のやり方を押してた後、僕たちも一緒に冒険者ギルドに向かった。今日はギルマスに汚水処理場清掃の査定をしてもらう。


 ギルドに着くとシモンさんたちは、割がよさそうな依頼を探しに掲示板に向かった。僕たちは、受付に並んでミラさんに依頼終了の報告だ。


「今日は、全員で汚水処理場に行く。初めての大きな依頼達成の日だからな。もしかしたら、まだ清掃が必要な場所があるかもしれないが、昨日まで精いっぱいやったのだ。自信をもって報告しよう。」


「シルバーダウンスターです。依頼終了の査定お願いします。」


「おう。来たか。待っていたぞ。」


 あれ?受付の所にギルマスがいる。ミラさんに報告して呼びに行ってもらうんじゃなかったのかな?


「では、処理場に行くぞ。検査官は俺だ。今回の依頼は、頭痛の種だったものだからな。これでやっと領主をせっつくことができる。」


「えっ?どういうことですか?」


「領主の奴は、下水処理場の清掃をギルドに依頼しているからと数々の苦情をこっちに回していたのだ。清掃が済めば、調査や再稼働の手続きなど領主に手続きをするように言うことができるからな。お前たちのおかげだ。さあ、清掃依頼の成果を見せてもらおうじゃないか。清掃自体は、本来難易度が高い物ではないため、低報酬でも文句が言えなかったのだ。他の清掃依頼との兼ね合いもあるからな。それをいいことにあの無責任領主は。」


「でも、あの汚泥の量から考えれば、魔物の存在が疑われるか、異常があると思われるのではないですか?」


「その通りだ。しかし、汚水処理場に魔物の気配がなくてな。領主の奴は、清掃が終わらないと次の処置ができないと言い張っておったのだ。その言い分はお前たちの働きで、なくなった。ありがとうよ。とにかく、清掃の結果を見せてもらうぞ。」


 ギルドマスターと一緒に下水処理場に着くと直ぐにギルマスは大きな声を出していた。


「おい。ここにあった沼はどうした?酷く臭う沼がここ数年ここにあったはずだが…。」


「ここの沼の水を流さないと汚水処理場に入ることができなかったので汚泥のくみ上げと同時にきれいにしました。それには、シモンさんたちも協力いただいています。」


「おお。そ、そうか。この辺り一帯のにおいもなくなっているな。これは、ここが沼地になる前よりもずっときれいかもしれないぞ。」


 最後に、ドブ川をきれいにした時に回りも掃除したからね。当然だと思う。


「処理場の中の確認をお願いします。臭い結界の魔道具が生きていたので、魔力を補充して稼働させています。多分、殆ど臭わないようになっていると思うのですが、確認お願いします。」


 鍵を開けてギルマスが処理場の中に入って行った。


「なんだ。新品同様にピカピカになっているではないか。壊れたところはなかったのか?」


「汚泥が全面に付着していましたが、破損箇所は見つかりませんでした。ただ鉄格子の幅が私たちが入れるくらい広いのが気になりますが、それは初めからなのか何かの手違いや破損の結果なのかは確認できません。」


「今回の依頼は、清掃だから。完璧だ。Aランク査定だ。ありがとう。早速帰って、終了手続きを行う。ただ、この奥が気になるな。あの汚泥は、燃料にできる物なのか?」


「はい。ここから見える汚泥は、燃料にすることができる汚泥だと思います。」


「わかった。では、一旦ギルドに戻ることにしよう。テラ、成人月の前に依頼が終わって良かったな。」


「はい。これで、気持ちも新たに次の依頼を受けることができます。」


「うーん。そうだな。気持ちは新たにしてくれ。でも、次の依頼は繋がった依頼になるかもしれぬぞ。まあ、ちと覚悟はしていてくれ。」


 ギルドに戻って、報酬の銀貨2枚を受け取った。ギルドポイントは何と100。


「今回のギルドポイントをパーティーランクに使用するか?そうするとEランクまで上げることができるぞ。勿論、パーティーメンバーの戦闘試験はさせてもらうがな。」


「その昇格試験って今日じゃなくても良いか?」


「どうしてだ?」


「お金に余裕もできたし、パーティーランクが上がるのならそれに見合った装備をそろえようと思っているのだ。ギルドマスターに防具や装備を選んでもらえると嬉しいのだが、どうだろうか?ロジャーさんでも良いのだが、最近忙しそうで、中々会うことができぬのだ。」


「俺に装備の相談か。よし、任せておけ。予算はいくらくらいだ?」


「全員分で金貨100枚が上限だ。全装備分の資金だが、足りるだろうか?」


「全員分ということは、ロジャー殿の分も含めてということか?」


「いや、われわれシルバーダウンスター6名分の装備だ。」


「この町で揃えるのなら金貨100枚はいらぬと思うぞ。まあ、中級冒険者にふさわしい装備を探しておく。任せておけ。それぞれ、武器と戦い方を紙に書いて提出してくれ。それにあった武器と防具、それが売っている武器屋を書いて後で渡す。楽しみにしておいてくれ。」


『有難うございます。』


 査定が終わってからは、リニだけが残って薪型燃料づくりを行い、僕たちは、家の準備を行った。2~3日でテラが孤児院を出ることになる。明日から、テラの誕生月だ。

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