第49話 清掃依頼終了
「配達ご苦労。」
「みんな、お土産があるよ。」
「何?あっ、焼き菓子だ。頂戴!」
甘いものに目がないサラは一番に駆けよって来てお菓子を受け取った。
「みんなの分もあるよ。ほら。」
僕とフロルがお菓子を分けていると。
「孤児院のチビたちの分までは、足りないか…。」
テラがぼそっと呟いた。
「えっ。…、うん。少し足りないね。ちょっと待って。」
僕は、焼き菓子1個をアイテムボックスに収納した。
「アナライズ。…、蜂蜜、小麦粉、ふくらまし粉、オレンジピール。」
「コンストラクション。…、できた。」
「何ができたの?」
「錬金術で、この焼き菓子を作れるようになるかやってみたんだ。材料があれば作ることができるよ。清掃作業の帰りに市場で材料を買って作ってみよう。もしも、上手くできたら孤児院にお土産に買って行けばいいよ。材料はメモしておいたから忘れないよ。」
メモと言ってもデータ化だ。検索したらすぐに出てくる。アイテムボックスの熟練度が上がって中の物を検索出来るるようになったんだけど、覚書と言うか出来事や物の名前なんかも記録してデータ化できるようになった。物を入れる場所と違う場所にそのデータは入れているみたいで、情報の検索と物の出し入れは少しだけ感覚が違っている。必要魔力も違って、情報の格納と取り出しにはほとんど魔力を使わないようだ。
「ええ、サラ、それって楽しみ。美味しかったら、凛に頼んだらいつでも焼き菓子が食べれるようになる。」
「まあ、そうだけど、いつでもっていう訳にはいかないよ。錬金術には材料が必要だから材料がないと作ることはできないからね。」
「サラには、本物の焼き菓子じゃなくて焼き菓子を食べた気分になるスクロールか何かがあった方が良いかもな。それなら紙の材料さえ拾ってくれば作ることができるぞ。」
「えっ?サラ分からない。それってどういうこと?」
「サラは、食い意地が張ってるってことよ。」
「リンジー、それってひどい。凛、リンジーには絶対焼き菓子作ってあげないで。」
「サラ、ごめん。冗談だよ。冗談。そんなに怒んないで。ねっ。」
焼き菓子の錬金術式だけでこんなに盛り上がれるんだから、このパーティーは楽しい。
「はい。休憩はもうおしまいよ。清掃作業の最後の仕上げ、洗浄作業を始めるわよ。それが終わったら、このマスクともお別れできるわよ。」
下水処理場の外の
「できるだけ、汚水処理槽のスライム池の中に入るようにして。水と一緒に流れ込んだ汚泥は私たちが乾燥させて取り除くことになるわ。最後まできれいにするわよ。」
「了解。」
本当なら池の中にスライムが居てそこで汚水をきれいに処理するらしいのだけど、この下水処理場は今は稼働していなくてスライムは1匹もいない。稼働していないからスライムが居ないのかスライムが居ないから稼働していないのかは分からないけど。汚水も流れ込んでこないように止めてあるらしい。
スライムを入れてこの汚水処理場を稼働させるにしてもこのままにしておくにしてもとにかく掃除はしないといけない。この
「全員入り口側の壁と床の方から始めるわよ。お互いに水を掛け合わないように気を付けてね。それから、朝見たように魔力を流し過ぎないように注意して、ゆっくり流し込んでよ。じゃあ、洗浄開始よ。」
入り口側の壁の方をテラがきれいに流した後、全員きれいになった壁側に一列に並んだ。大まかな担当幅を決めて、中央にあるスライム池に向かってへばりついている汚泥を流し込んでいく。あれだけ汲み取ったのにかなりの量の汚泥が池の中に流れ込んでいった。
入り口側の壁と床の汚泥はきれいに取れてヌルヌルツルツルだった床もピカピカになった。次は入り口側から見て左手側と右手側の壁と壁側の床の汚泥を流した。右手側を流したのはテラ。左手側は僕が担当した。テラ側の床をサラとリンジーが担当して床に流れてきた汚泥と床にこびりついている汚泥を池の中に流し込んでいく。僕側の床はフロルが担当している。
最後に一番奥側の鉄格子と床だ。鉄格子は下水道と処理場を隔てている。鉄格子の奥の下水道にはまだかなりの量の汚泥があるようだけど、そこの清掃は担当していないし、鍵も貰っていないから入ることができない。届く範囲で汚泥を洗い流すしかない。鉄格子には魔石がはめ込んであって、臭いが処理場に入ってこないように結界が貼ってあるはずだけど、魔力切れの為かその結界は効果がないようだ。
鉄格子にこびりついた汚泥を流して床に落ちてきた汚泥と汚れをスライム池の中に流し込んでいった。床と壁がきれいになると鉄格子のすぐ前に蓋が付いたボックスのようなものが埋め込まれていた。中には魔石が入っている。
「これが臭い結界の魔石かしら。」
「魔力を流し込んでみるか?」
リンジーが魔石に手を当て魔力を流し込んだ。すると少しだけ空気が動き出した。汚水処理池の方から下水道の方に風が流れている。
「風の魔法陣だね。汚水処理場から下水道の方に風を流して臭いが漏れないようにしているんだ。でもその風ってどこに抜けていくんだろうね。」
「今回の依頼には関係ないわ。これで、下水道からの臭いが入ってこないようになったはずよ。スライム池に溜まった汚泥をきれいに汲み取れば、ここの清掃依頼は終了ということになるわ。他に、汚れている所ってどこかしら…。」
「テラ姉、上、天井に汚泥がこびりついているよ。鉄格子の汚泥ももっときれいにした方が良いかもしれない。」
「それじゃあ、凜は、勢いを強くした洗浄のスクロールで鉄格子をきれいにして。他は天井の汚泥をきれいにするわよ。これが終われば長かった清掃依頼も終了よ。凛、全部の洗浄が済んだらスライム池に溜まっている水と汚泥を全て収納して。できる?」
「大丈夫だと思うけど、何度かスライム池も洗い流さないと臭いは消えないかもね。」
「そうだね。少しでも汚泥が残っていたら
僕たちは、天井と鉄格子をきれいに洗浄した後、水と汚泥を取り除いたスライム池も3回ほど洗浄した。池の壁もぴカビになってようやく洗浄は終了した。最後に溜まった汚泥を乾燥させて終了だ。汚泥は、乾燥穴3分の1程溜まっていた。その汚泥の乾燥も終わり、水は、全部どぶ川に流した。最後の仕上げとして、どぶ川もきれいに洗浄したから、汚水処理場一体の臭いはほとんどしなくなったと思う。明日は、ギルマスにお願いして依頼の査定をしてもらわないといけない。
洗浄作業が終了したのは、日が傾き涼しくなってきたころだった。僕たちは市場によって小麦粉や蜂蜜、ふくらまし粉とオレンジピール何かを購入した。勿論、クリーンのスクロールできれいにした後でだ。
「アルケミー・焼き菓子 40」
収納してアナライズした焼き菓子と大きさも形も同じものが40個出来上がった。
市場で紙袋を買って2個ずつ20個の袋に焼き菓子を入れていった。
「チビたち喜ぶよな。」
「そうだね。朝の勉強も頑張ったからな。」
「そうだ。朝の勉強のことなんだけど、テラがもうすぐ孤児院を出ないといけないだろう。それに、読み書きについては、基本的なことは教え終ったから、これから自分たちで続けられないかな。勿論、今まで通り教材は準備してあげるからさ。」
「そうだな。分からないことは、パーティーで活動している時に凜に聞けばいいし。自分たちでやらないといつまでも凜に頼りっきりじゃチビたちが困ることになるものな。俺たちも退院するんだからな。」
「じゃあ、全員での朝の勉強会は明日までということだね。シスターたちにも伝えておいて。」
僕たちは、市場で別れてそれぞれの宿に戻って行った。
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