第48話 汚泥の汲み出し終了

 下水処理場の汚泥回収は今日で終了する。乾燥した魔石炭もどきは、ギルドの倉庫と特別に準備してもらった町の倉庫に山のように保管してある。今、リニは、朝からギルドの倉庫に入っている魔石炭もどきを材料にして薪型燃料を作っている所だ。朝からかかって一日7000束作るのが今の所の限界だといっていた。金貨70枚。これが一日の稼ぎになっている。大金だ。


既に、パーティーのギルドカードのかなには、1000枚近い金貨が貯まっていた。現金もそれぞれのギルドカード金貨40枚近くかそれ以上貯まっている。それは、パーティーの資金ではなく、個人のお金ということになっている。


 ここの清掃に取り掛かって25日間。テラの成人月まで後3日だ。思ったよりも時間がかかった。最初は7日間で終わるなんて言ってたけど、汚泥は取っても取ってもなくならなかった。


 全ての汚泥を採り尽くしたら、洗浄作業が待っている。まだ寒くないから良いようなものの後一月もかかっていたら寒くなって辛い作業になる所だった。


「頑張れば、今日で汚泥取りは終りそうだな。」


「そうだね。サラの乾燥作業もかなり長時間できるようになって、作業効率が上がったからね。」


「それにしても、思ったよりも長くかかったな。」


「そして、思ったよりも沢山のお金を貯めることができたね。これでこの依頼が終わってもしばらくはお金の心配はしないで良いよね。」


「そうだな。しかし、これから外の依頼を受けるようになるなら、しっかりとした装備をそろえるのと戦闘訓練をしっかりしないといけないな。」


「そうだね。兎に角、汚泥取りから始めるよ。フロル頑張ろう。」


 汚泥の運び出しは、2時間位で終了した。後は乾燥だ。錬金術で水分を取り除くことができれば良いのだけれど、今の所上手くいっていない。次に、汚泥から直接薪型燃料を作る錬金術式を作ろうとしたけどそれも失敗してしまった。この燃料になる汚泥含まれている魔力が多すぎるからなのかもしれない。錬金術は、普通の物質には有効なんだけど、魔石や多くの魔力を含む物は扱えないようだ。その辺の違いが良く分からない。もしかしたら僕の熟練度の問題なのかもしれないけど、それも不明だ。


「じゃあ、頑張って乾燥させるよ。」


「ここの汚泥を全部乾燥させたら、町の倉庫に運ぶんだよね。それで、午後から何をすればいいの?」


 フロルがテラに聞いている。


「凛。洗浄用のスクロールはできているのか?」


「うん。送風の魔法陣と普通の洗浄の魔法陣を組み合わせて高出力の洗浄のスクロールを作ってみた。とっても小さなスクロールでしか試してないんだよね。大丈夫だと思うんだけど…。今から、中で試してみて良い?」


「お、おう。やってみてくれ。何なら、私が出力を下げたウォーターボールで洗い流そうか?」


「それでも良いと思うけど、スクロールを使った方が、全員で洗浄作業ができるでしょう。きっと早いよ。」


「そうだな。凛、試してみてくれ。上手くいくように加減をしっかりしてくれよ。」


「了解しました。加減をしっかりする。加減だよね。」


 鍵を開けて、下水処理常に入る。汚泥は全て撤去しているから魔物がいたらすぐにわかる。だから、大丈夫だ。ビビってなんかいない。全然平気だからな。


 スクロールを出して一番手前の床に向けて魔力を流し込んだ。


『ズザザザザザザザー』


 凄い勢いで水が噴き出してきた。噴き出した水は、汚泥を洗い流すとともに凄い勢いで床に当たり霧状になって舞い上がった。その勢いで汚泥も跳ね飛ばしていく。


『ズザザザザザザザー。』


「凛!加減してっ!中が見えないようになってるわよ。」


「その加減が難しいんだって。どうしたら少しだけしか魔力を流さないようにできるの?」


「どうしたらって…。魔力操作で練習したでしょう。魔力の流れをゆっくりにして。」


「ゆっくり。ゆっくりだね。」


『ザザザザザザー。』


 勢いが少し収まって、霧も収まってきた。ようやく床が見えるようになった。床がきれいになっている。床にへばりついてた汚泥は、流されて処理場の外に行ってしまったけどそのまま流れて行くようだ。床や壁にへばりついている汚泥はできるだけ汚水処理の穴の中に入れるようにしよう。全部集めて水だけを取り除いたら今までの汚泥と一緒になる。


「テラが言ったようにゆっくり魔力を流し込んでいったら何とかなりそうだよ。午後から、みんなで汚泥流しをするよ。」


「わかった。それなら、まず、この汚泥を全部乾燥させましょう。後、8穴残ってるわ。フロルは、3穴乾燥が終わったら倉庫に運んで行って。どうせ1回じゃ運び終わらないからね。頼んだわよ。」


 フロルも乾燥をしてるけどこの後僕も乾燥作業に加わる。倉庫への運び込みは、僕が3回でフロルが4回でちょうど終る。最後にみんなで移動するためには、乾燥の途中で僕が2回、フロルが3回倉庫に移動させないといけない。という訳で移動が1回多いフロルの方が先に運び込みをしないといけないという訳だ。


 ギルドよりも町の倉庫の方が近くなったのはありがたいけど、倉庫にこの燃料を持って行ったら、入れる場所を作る為に置いてある燃料を移動させないといけないのが大変なんだ。一旦置く場所は必ず確保しておかないといけない。そうしないと燃料の移動ができないからだ。


 フロルが倉庫に向かって言った後も僕たちはみんなで乾燥作業だ。25日間もよく頑張ったと思う。そのおかげで、魔力操作と魔力総量が格段に上達し増えた。


 太陽が一番高くなる頃、ようやく乾燥作業と魔石炭もどきの倉庫への移動が終了した。お昼休憩がてらギルドで薪型燃料を作っているリニの所に行ってみた。


「リニ、ようやく汚泥の搬出が終了したわ。午後から洗浄作業に入る予定よ。燃料づくりは順調に進んでいる?」


「おう。午前中だけで、4000束。80000本も作ったぜ。もう目をつぶっていても作れるくらいだ。後半は、3本までなら同時製造ができるようになったぞ。その内20本同時製作をできるようになってやる。そうしたら一瞬で一束ができるようになる。」


「まあ、あんまり無理しないで頑張って。あっ、それから、これ。さっき買ってきたの。飲んで。」


 テラがリニにフルーツジュースを渡している。根詰めて作業をしているから水分も取ってないだろうしね。


「おう。ありがとう。それからフロル、ホルツさんの所に今日の分の1000束配達してくれないか?その時に、明日も1000束か聞いて来て欲しいんだけど、頼んで良いか?」


「わかった。行ってくる。そう言えば、昨日届けた時に消火壺を100個欲しいって言ってたけどできてる?」


「そうだった。凛。消火壺100個作ってくれるか?俺には、ちょっと消火壺まで作る余裕はない。」


「じゃあ、フロルと一緒に行きながら作るよ。そのまま処理場に回るからテラたちも休憩が終わったら処理場の方に行っててね。」


「了解よ。じゃあ、リニ、頑張ってね。洗浄が終わったら、清掃作業が終了になるからその時には、リニも一緒に処理場の方に行くわよ。」


「おう。分かった。長かったような短かったような。やっぱり長かったな。こんな長期の依頼なんてめったにないからな。もうすぐ終わりか。そう思うと感慨深いな。」


 そんなことをつぶやいているリニを置いて僕とフロルは道具屋のおじさんの所に向かった。


「おう。今日の分を持ってきてくれたのだな。さっき売り切れてしまったところだ。配達しないといけない分もあるからこの時間で助かったぞ。夕方だったら大事になっていた。今日も1000束だな。それと消火壺100個は持ってきてくれたか?」


「はい。持ってきました。どこに出したら良いですか?」


「もう、販売先が決まっているなんでな、店先で良いぞ。すぐに配達するからな。」


「はい。では、この辺りに出しておきます。今日の値段は、薪が金貨10枚でしょう。壺が金貨3枚だから、金貨13枚です。」


「ほいな。金貨13枚な。確かめてくれ。すまんが今から配達なのだ。燃料はいつもの場所に出しておいてくれないか。頼んだぞ。」


「あーあっ。行っちゃった。おばさーん。燃料持ってきました。いつもの場所に入れておきますね。」


「はーい。おねがーい。」


 お店のおばさんが店の奥から返事をしている。フロルいつもどおりだと裏に回って即席の燃料倉庫に持って来た1000束の燃料を入れた。


「おばさーん。入れてるからね。ちゃんと鍵をかけててよー。」


「はーい。今行くよ。」


 パタパタとおばさんが駆けてきた。手には小さな袋を持っている。


「ほい。フロル、凛。いつもありがとうよ。」


 そう言って甘い匂いのするクッキーのようなお菓子をくれた。


「「ありがとう。」ございます。」


 僕たちは、おばさんに貰ったクッキーを頬張りながら、処理場に向かって歩いて行った。



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