第46話 昇格試験
「まず、剣術の試験だ。剣術と言っても得物は何でも構わない。得意な武器を使って良いぞ。二人まとめて相手をするから、かかって来なさい。勝つ必要はない。日ごろの訓練の成果を見せてくれればそれで良いのだ。」
ギルマスが木剣を構えて、テラたちに正対している。ギルマスひとりなのに二人とも攻めていくことができない。
「打ち込んでこないのならこちらから行くぞ。ハァッ!」
「うっ。リニ、前に出て。」
リニが盾を構えて前に出た。後ろに下がったテラが魔術発動の構えを見せる。
「待て!待った。お前たち、魔術連動の戦い方ができるのか?」
「えっ?はい。いつもは体術と絡めての連動戦闘ですけど、ロジャーさんから指導を受けています。私たちは、外に出ることはまだありませんが、木剣の訓練だけだといざという時に役に立たないと言われて、必ず魔術を撃つ流れを作るように練習しています。対人戦闘訓練は受けたことがなかったので、すみません。」
「うむ。分かった。では、まずは止まった的当てからやってみてくれ。テラ、お前の発現魔術は何だ?」
「ウォーターボールです。」
「10発続けて的めがけて撃つことはできるか?」
「はい。やってみます。」
「ウォーターボール・ウォーターボール・ウォーターボール・ウォーターボール・ウォーターボール・ウォーターボール・ウォーターボール・ウォーターボール・ウォーターボール・ウォーターボール。」
全てのウォーボールが的に命中して何本かの的は折れていた。
「次は、一発撃ったら、別の場所に動いて撃て。それも10発連続でやってみろ。」
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「リニ、お前もテラと同じ試験だ。発現している魔術は何だ?」
「ロックバレットです。」
「では、止まって的に向かって撃ってみろ。的が壊れたら、次の的を狙うんだぞ。」
「分かりました。」
「ロックバレット・ロックバレット・ロックバレット・ロックバレット・ロックバレット・ロックバレット・ロックバレット・ロックバレット・ロックバレット・ロックバレット。」
「次は、移動しながらだ。10発撃てるか?」
「はい。」
「よし。初め!」
「ロックバレット・…、ロックバレット・…、ロックバレット・…、ロックバレット・…、ロックバレット・…、ロックバレット・…、ロックバレット・…、ロックバレット・…、ロックバレット・…、ロックバレット。」
一発撃っては移動する攻撃を10回繰り返している。その課題も難なく終わらせると二人ともギルマスの前に立って次の指示を待っていた。
「おいおい、まだ魔術撃てるのか?お前たち本当に成人前の見習い冒険者なのか?ルーキーなんて、魔術連携攻撃なんて夢のまた夢で、剣とか弓とかで何とか魔物との戦いをしのぐ程度がやっとだろう。まあ、いい。Fランクの冒険者試験は終了だ。ギルドポイントが溜まったらDかCランクの試験を受けて良いぞ。ただし、死んだり怪我したりしないようにな。」
「はい?あの、昇格試験は、終わりなんでしょうか?」
「そうだ。終わり。合格だ。明日からお前たちはFランク冒険者だ。パーティー名を決めておけよ。ギルドカードに登録されるからな。」
「え?私たち、冒険者になれたの。うそ…。ええっ?」
訓練場でテラがなんか変になっている。つい最近、冒険者をあきらめようとしていたんだ。その時、ミラさんにギルドポイントがあるから冒険者登録にはお金はいらないって聞いて、また頑張りだしたんだった。良かったねテラ。
喜びで踊りだしそうなテラを横にしてなんか喜び損ねているような感じのリニだったけど、やっぱり嬉しそうだ。おめでとう。成人月を前に二人とも念願の冒険者登録ができた。後は、後に続くリンジーたちの為にパーティーをしっかりと成長させないといけない。
「おい。そろそろ道具屋に行きたいのだが、良いか?」
「えっ?はい。いってらっしゃいませ。」
テラ、言葉遣いがなんか変だよ。
「ギルマス、その前にミラさんたちにお伝えしないといけないことがあるんですが。」
「ん?何のことだ。」
「はい。ミラさんたちが見習い冒険者の時に使用していたパーティーの名前、希望の光って言うんですが、既にパーティー名としては使用されていまして、その名前では、登録できません。」
「あの…、どう言うことでしょう?」
「はい。新たに、パーティー名を考えて頂かないといけないということです。」
「と言うことだ。お前たち、明日までで良い。新たにパーティー名を考えて来い。登録は、明日だからな。」
テラたちは、パーティー名を考えるって言いながらパーティーハウスの買い出しに行った。テラが孤児院を出ないといけなくなるまで、20日程だ。家の準備は着々と進んでいる。
「リニ、ロックバレットあの後何発くらい打てたと思う?」
「あの後って、20発撃った後か?さあ、どのくらい撃てただろうな。まだ、魔力がカスカスになった気はしなかったんだけどな。」
「そうか。毎日クリエートも使っているし、総魔力量が増えているのかな。」
「どうなんだろうな。そもそも、魔力量ってそう簡単に増える物かなのか?」
「でも、ロジャーが言ってたよ。成長期は、魔力は、使えば使うほど増えて行くものだったさ。」
「でも、それって成人の儀までなんだろう?成人の儀で魔力回路を活性化してもらって、王家と神に誓約を誓ってから魔力回路の成長が止まってようやく安定して魔術を使うことができるようになるって言う話を聞いたぞ。」
「へえ?そうなんだ。でもどうして成人の儀が終わっていないテラやリニはそんなに安定した魔術が使えるんだろうね。魔力容量も増えていっているし、熟練度も上がって使える魔術の威力や種類も変わっているのにね。」
「うーん。分からないな。でも、悪いことじゃないから。気にしないで良いんじゃない。もしかしたら、ロジャーさんや凜に魔力操作の訓練を受けたからかもしれないな。」
「おい。お前たち、俺がいるのに面白い話をしているな。お前たちは、魔力操作の訓練を受けたのか?」
「はい。まず、僕が、ロジャーに受けて、それから、この子たちが受けました。」
「その訓練を受けて魔力が発現したのか?」
「サラ以外はそうですね。サラは、小さい頃から魔術が発現していましたから。」
「して、サラは、魔力操作の訓練を受けたことは無いのか?」
「そうですね。サラは、無いです。でも、前から魔術が発現している割には、総魔力量は多くないですね。小さいから発現していた割にはですよ。歳も一番下だから当たり前といえば当たり前ですが。」
サラは、一番年齢が下だからか、ドライのスクロールを使っていても一番最初に魔力不足で作業が止まる。それでも、徐々に総魔力量は上がっていて、一番初めに比べると2倍以上の時間魔力を流し続けていると思う。そう、皆、魔力量は増えている。だから、一日に卸すことができる燃料も増えているし、作業時間も短くなって、買い物に行ったり勉強したりする時間が長くなっているんだ。
道具屋に着くと、ギルマスが話をしてくれた。消火壺は、一つ銅貨3枚で買い取ってくれるそうだ。100個作ったから金貨3枚。ギルマスに説得されて独占販売はしないということになったけど、2000個の製造予約を認めてもらっていた。一日50個ずつで40日間。まあ、二日に100個卸せばいいということになった。
僕とリニの二人掛かりで作っても良いけど、錬金術式を貸し出して錬金術ギルドで作ってもらうのも良いかもしれない。何もしなくてもお金が入ってくるらしい。道具屋のおじさんが教えてくれた。錬金術ギルドへの紹介状も書いてくれるということだったから後で言ってみようと思う。
「では、この後、ギルドに戻って契約書を作成するぞ。ホンザも一緒に来てくれるな。」
「勿論ですとも。それから、明日からの燃料も一日500束で頼むぞ。大口の注文がいくつも入りそうなんでな。何しろ途中消火の道具ができたからな。それから、申し訳ないのだが、消火壺も明日だけは、500個頼む。大口注文の所からは、途中消火が条件だったからな。」
「えっ?そんなにたくさん卸して大丈夫ですか?壺だけで金貨15枚だし、燃料が金貨5枚だから合わせると金貨20枚ですよ。」
「相変わらず、計算が早いなお前は。任せておけ。お前たちの燃料と着火のスクロールで大分儲けさせてもらったからな。今は、うちの店だけではさばききれないほどの注文が入っているのだ。お前たちのおかげだ。感謝しているぞ。あっ、今日の分は、燃料500束と壺100個でいくらだ。」
「はい。燃料が金貨5枚。壺が金貨3枚ですから、金貨8枚です。」
「わかった。直ぐに用意するから待ってろ。それから、冒険者ギルドに行けば良いんだな。用意してくる。」
ホンザさんから代金を受け取るとそのまま冒険者ギルドに向かった。
ギルドに戻って薪型燃料のギルドへの納入方法と支払い及び、ギルドポイントについて契約書を作った。これからは、直接ギルドに燃料を下ろすのではなく、一時保管してもらうことになった。それを使って薪型燃料を製造して良いということだ。
次に、当面、ギルドには薪型燃料一日1000束を目標に納品すること、しかし最低納品量は一日100束にする。同じく、ホンザへの納品は、一日1000束を上限に一日の製造量によって変化するということになった。つまり、頑張れば、一日金貨20枚の収入が可能だということだ。そう確認しようとしたら、ギルマスが、ギルドへの納品量には上限がないといってきた。当面作れるだけ納品して欲しいそうだ。
ギルドポイントについては、薪型燃料1000束に付き1ポイントを加算してくれることで話はまとまった。6000束納入すれば、僕たち全員の更新ポイントはクリアするということだ。パーティー契約にする方がポイントの振り分けなどが複雑にならないということで、契約は、明日以降、パーティーの正式発足後ということになった。
冒険者パーティーには見習い冒険者も入れることができるということだ。僕たちもテラたちの依頼に同行することが一部だけど可能になるということらしい。なんか冒険物語みたいでワクワクする。
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