第45話 アナライズとコントラクション

 朝の勉強会が終わってリニと相談中だ。


「きっちりと蓋が閉められる容器を作ることはできないかな。それでいて、ふたには小さな穴を付けておいて栓が開け閉めできるようになっていたら尚更いいんだけど。」


「説明だけじゃ何か分からないな。絵にかいてみてよ。」


 イメージとしてはカパッと被せることができる蓋が付いた壺だ。その蓋にタッパーの空気抜きみたいな栓付きの穴を付けて欲しいというリクエストだ。


「材料は何で作るんだ?俺が加工できそうなのは粘土位だぜ。もしかしたら、石も加工することができるかもしれなけど、やったことないからな。それに、そんなに大きな石なんてそうそう転がってないからな。」


「まずは、粘土で作って固めてみてよ。大きさは、薪型燃料が突っ込めるくらいだから、高さを30cmくらいにしておけば良いかな。」


「30cmってどの位だ?」


「リニの膝下の半分位の高さで良いと思うよ。」


「じゃあ、まず下の壺の部分からな。」


 リニは、僕がアイテムボックスから出した粘土に魔力を流し込んで形を変形させていった。沢山の薪型燃料を毎日作っているからクリエイトのスキルがかなり上がっているみたいだ。僕が絵にかいて説明した通りの壺ができていった。


 僕のイメージは、アルコールランプの消火だ。火が付いたランプに蓋をかぶせると火が消える。同じように火が付いた燃料を壺の中に入れて蓋をすれば火が消えるんじゃないかって考えたんだ。ぴったりと閉まらなかったら壺の淵に濡れた布を巻いても良いかもしれない。


「壺の部分はそんな感じ。僕が思った以上の出来だと思うよ。次は、その壺に被せる蓋だね。蓋には、下に向かうほど細くなる小さな穴を開けておいてね。そして、その穴にピッタリ合う栓を作ってくれるかな。」


「栓の元の方は太く丸くするんだな。それは、栓を開ける時引き抜きやすいようにか?」


「そう。かなり強い力で閉まっていると思うから先を細くするのも多分その力を小さくするためだと思うけど、試してみてあんまり開けにくいようだったら後でどうするか考えるよ。」


「了解だ。」


 リニが作ってくれた消火壺を持って孤児院の台所に入って行った。今は、竈に火は残っているけど、料理は何もされていない。燃料が燃え尽きるまで、チロチロと燃え続けているだけだ。午後の調理の火種にできるように薄く広げてゆっくり燃えるようにしてあるみたいだ。


 火バサミを借りて、燃料を消火壺の中に入れて蓋をしてみる。薄く広げてあった燃料が集められたためか一旦火力が強くなった。


「リニ、蓋をして。」


「おっ、おう。う、あっち、あつっ。」


 リニが何とかふたを閉めた。


「大丈夫か?中で燃えてこの壺が壊れたりしないか?ここは土間だから大丈夫だけど、下手したら火事になるからな。」


 竈は殆ど土間に設置してあるから大丈夫だと思うけど、暖炉なんかに使っている燃料は、側に絨毯がある。下手したら焦がしてしまうかもしれない。


「大丈夫だと思うけど、そろそろ良いかな…。熱いかもしれないから、気を付けて…。」


 恐る恐る蓋を触ってみる。思ったよりも熱くない。


「じゃあ、ふたを開けるよ。」


 蓋を掴んで持ち上げようとしたけど、壺も一緒についてきた。やっぱりぴったりとくっついてしまうみたいだ。でも大丈夫。その為の空気穴だ。


「ええ?蓋がくっついちまっているぞ。」


「そうなるんだ。だから、空気穴と栓を付けてもらったんだよ。まず栓を抜きます。よいしょっと。」


『プシュッ。』


 小さな音がして空気が壺の中に入って行ったのが分かった。


「音がしたのが分かった?これで、蓋が開くはずだよ。火が消えてなかったらもう一度栓をした蓋をかぶせると良いんだ。」


 壺の中を除いてみると火は完全に消えていた。


「成功だね。これをいくつか作って道具屋さんに持って行こう。そこそこの値段で買い取ってくれるはずだよ。」


「それって今から作るのか?」


「いや、シモンさんたちも待っているから、燃料づくりと一緒に下水処理場で作ろうか。まずは、ギルドに寄ってからだね。」


 僕たちは、皆で冒険者ギルドに寄って掲示板を確認した。下水処理場に関係するような依頼が追加されていたらその依頼も受けた方が良いと言われたからだ。今の所追加された依頼はない。僕たちと一緒にシモンさんたちも依頼を探している。だいぶ字が読めるようになってきたし、昨日までの依頼で全員冒険者登録を済ませている。昨日は、一人銅貨4枚だけど依頼料を持って帰ることができたって喜んでいた。それまでは、殆ど登録料に回して、一人銅貨1枚ずつしか持ち帰ることができなかったそうだ。今日から、パーティー登録の為のお金を貯めながら頑張るんだといっていた。


「今日から採集依頼もうけることができるようになった。町の外に出る依頼だから少し心配だけど、薬草採集なら今までもやったことがあるからな。」


 薬草採集は、常時依頼だ。依頼取り競争に参加しなくても常時受けることができる。他にも荷物運びや清掃依頼も受けているようだ。Aランク評価を貰うことも多くなってきたと嬉しそうに話してくれた。


 冒険者ギルドでシモンさんたちと別れて、いつも通り下水処理場に向かった。今日も汚泥取りと魔石炭もどきづくりだ。少し時間は遅くなったけど、午前中で乾燥用の穴10杯分の魔石炭もどきを作って、乾燥させている間にリニが薪型燃料を500束作った。処理場の中の汚泥は、半分くらいになっているけど、これまでに貯まったお金は、多分、金貨120枚は超えていると思う。


 午前中の作業を終えて、冒険者ギルドに向かった。穴10個分の魔石炭もどきは、金貨24枚になった。ここのところずっとその値段だ。


「これ、今日の伝票な。上で金を受け取ってくれ。それから、その時ギルマスに呼ばれると思うが、俺からも言っておこう。そろそろこの町に必要な燃料は、十分足りるようになると思う。これから先は、他の町に売りに行くための製品を作って欲しいのだ。考えておいてくれ。では、受付に行け。」


 ヒリスさんにそう言われて受付に行くと、ミラさんからギルマスの執務室に行くように言われた。お金をカードに入金してもらって、ミラさんに案内されてギルマスの執務室に連れていかれた。


「おう。よく来た。ヒリスから話は聞いているな。」


「はい。でも、どう言うことでしょうか。他の町に売りに行くための商品と言うのは、もしかして、薪型燃料のことですか?」


「薪型燃料というのか。お前たちがホンザの所に卸している燃料は。」


 ホンザ?あっ、道具屋のおじさんのことか。


「でも、あの燃料は、道具屋のおじさんと独占販売契約をしてるので、おじさんに聞かないと売れるかどうか分かりません。」


「そのことは、ホンザに聞いて分かっておる。ギルドとしては、同じものを同額で卸してほしいのだが、どうだ。勿論、お前たちから仕入れた薪型燃料は、他の町でしか販売しない。販売手数料がかかるからな、この町よりも高くなってしまうのは当然だ。だから、ホンザの所には決して迷惑はかけない。勿論、お前たちには、ホンザの所を優先して卸してもらっても構わない。そう言う条件でどうだ?もちろんホンザの所への承諾は私たちが責任もって取る。ホンザの承諾後で構わぬから、なっ?」


「ホンザさんの所には、20本一束で銅貨1枚で販売しているんですよ。それが、薪200本分と同じくらいだって言われて。そんなに高く買い取って大丈夫なんですか?」


「うむ。ここは冒険者ギルドだぞ。個人商店などと同じに考えてもらっては困るぞ。ギルドなら10万束以上買い取ることができるぞ。」


「イヤイヤ、そんなに作ることなんてできないですって。今、リニが一人で作っていますからね。」


「えっ?お主、錬金術のスキルを持っているのであろう?何故錬金術式を組み上げて錬金釜で作らないんだ?」


「えっ?錬金術式がないとアルケミーは使えないでしょう?」


「私は錬金術師ではないので詳しくは知らぬが、アナライズで道具を分析してコントラクションで術式を構築できるのではないか?冒険者をしている錬金術師から聞いた話だからどのくらい正確は分からないがな。」


「アナライズとコントラクションですか?やったことないので…、ここで試してみて良いですか?」


「おっ…、おおう。かまわぬぞ。」


「リニ、朝作ったあれ、あの消火壺を出してみて。」


「出してみてって、あれは、凜が持ってるでしょう。」


「あっ、そうだった。何だったっけ。分析って。」


「アナライズよ。ア・ナ・ラ・イ・ズ。」


 テラが教えてくれた。


「アナライズ・消火壺。」


 魔力が吸われてアイテムボックスの中に何かができていくのが分かった。情報?


「その次にええっと術式の構築は…。」


「コントラクションでしょう。コ・ン・ト・ラ・ク・ショ・ン。」


「そうでした。コントラクション。」


「ええっと、何か錬金術師ができたっぽい。錬金してみるね。アルケミー・消火壺・100。」


「なんだ?その消火壺って言うのは。」


「これです。」


 僕は、ギルマスに消火壺を見せてあげた。


「それで、何に使うんだ?」


「ホンザさんからの要望で、薪型燃料は長く燃え続けるので、途中で火を消したいことがあるんだそうです。これは、次にすぐ使うことができるように火を消す道具です。」


「おい、お前たち。その道具は、絶対ホンザの所と販売独占契約を結ぶんじゃないぞ。いくらホンザの要望で作ったといってもな。何なら儂が直々にホンザの所に行って独占契約をしないように言ってやる。」


「分かりました。独占契約はしないで欲しいと冒険者ギルドのマスターから言われたとちゃんと伝えます。」


「よし。今からホンザの所に行くのか?」


「えっ?はい。燃料を卸しに行きます。」


「では、私も同行しよう。ミラ、私は今から出かける。何かあったら…、待たせておけ。では、行くぞ。一緒行くのは誰なのだ。」


「今日は、リニと凜が行きます。私たちは、ここで失礼させていただきます。」


「あれ?テラ姉?契約ごとなら一緒に行くでしょう?」


「私まで一緒に行ったら、パーティーハウスの買い出しが出来なくなるからな。今日は、絨毯と食器を見に行く予定だったろう。もしも、パーティー契約が必要な時は明日で良いか?それとも、院に戻る前にここに寄った方が良いのか?」


「ここに寄ってくれ。その時にパーティー契約をかわそう。テラ、お前は、来月成人になるのか?」


「ん?そうだが、それが、何か?」


「では、特例昇格をしてやろう。ポイントは十分持っているのだろう。どうなのだミラ。」


「はい。テラ様は今、パーティーとしては100ポイント保持してらっしゃいます。そのポイントをどのように分けるかにもよりますが、お一人でお使いになるのなら、Eランクまで昇格できますが、すぐ後にリニ様も成人になられますからお二人で使うとなるとFランクまでが限界かと存じます。」


「Fランクか。テラとリニ、二人は魔術は発現しているのか?」


「「はい。」」


「凛、ホンザの所に行くのは少し待ってくれぬか?二人にFランクの試験をしたい。合格すれば、特別昇格だ。二人ともそれで良いな。」


「成人前に冒険者になれるのですか?しかも、ランクまで頂けるなんてそれって本当ですか?」


「ランクは、試験に合格したら、だ。試験はすぐ終わる剣術と魔術の試験だけだ。後は、その後、契約書にサインと再度魔力登録をすれば終了ということになる。」


「分かりました。頑張ります。」


「あの、後学の為に僕たちも見に行って良いですか?」


「うむ。」

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