第44話 穏やかな日々

 朝の勉強会は、昨日よりも5人増えている。文字の読み方と記号の意味を復習して、今日はいくつか文章を読んでみる。


【花が咲いた。】


「はい。はながさいた。読んでみて下さい。」


『はながさいた』


【橋の上の魔物】


「はしのうえのまもの。はい。読んでみて下さい。」


『はしのうえのまもの』


 特別な記号や難しい発音をあらわす文字を使わない文章を考えてみんなに読んでもらう。単純で変な文章もあったからか小さい子どもたちもケラケラ笑いながら読んでくれた。中々楽しい授業だったと思う。


 次は、算術。昨日と一緒で、こちらの数字の読み方と地球の算数の両方を使って教えている。数の数え方は異世界式だ。この教え方は、分かりやすかったみたいだ。まあ、レミの記憶は僕の中にあるから、異世界式の算数でも教えられると思うけど、かなり複雑だ。地球の算数の方がすっきりしているから教えやすい。


 スラムから来ているお兄さんたちも真剣に勉強していた。昨日参加してなかったけどすぐに追いついたみたいだった。ものすごく集中していたみたいで、算数が終わる頃には少し顔色が悪くなっていたけど大丈夫だろうか…。


 朝の勉強会が終わると僕たちは冒険者ギルドに向かった。お兄さんたちの出禁を解いてもらって、見習い冒険者の為の依頼を受けてもらうためだ。成人している人は、登録料を事前に支払わなくても依頼料から差し引きができるシステムがあるらしいってシスターに聞いた。


 受付に行ってミラさんに色々と聞いてみた。そして、シモンさんたちの出禁について尋ねてけど、そんな罰則も処置もないと言われた。良く聞いてみると同じ年位の冒険者といざこざを起こした時に、その見習い冒険者の指導係をしていた先輩冒険者が怒りに任せて言い放っただけらしい。


 シモンさんたちにしてみれば、初めて冒険者ギルドに入った時にいざこざに巻き込まれて何も分からないまま追い出されたような形だ。とっても不運だったというか不運では済ますことができない物がある気もする。まあ、今日は、込み合っている時間でもなければ、自分たちだけで来ているわけでもないからじっくりと依頼を選ぶことができそうだ。そう言ってもまだ、しっかりとは字を読めないから手には、今日渡した文字の一覧表を持って掲示板とにらめっこをしている。


「シモンさん、良い依頼がありましたか?」


「これは、なんて書いてあるんだ?」


「広場の清掃の依頼ですね。道具は貸してもらえるそうですが、ゴミ拾いだけじゃなくて草取りや壊れた道路の簡易補修なんかもしないといけないみたいです。報酬は、あまり高くありません。銅貨6枚で、見習い冒険者の登録料を支払ったら銅貨1枚しか残りませんよ。」


「でも、次からは、全ての報酬を貰うことができるようになるのだろう?それに、見習い冒険者の資格を持っていれば、俺たちの年齢ならFランクの依頼も受けたりできるんじゃないか?」


「ええっとですね。前説明を受けました。見習い冒険者が受けることができるのは、Rランクの依頼までです。成人になって冒険者登録をして魔物を倒す実力があるって認められたらFランクの依頼を受けられるようになるんだったかな。Fランクって言っても討伐依頼が出る魔物は危ないですからね。そこそこの実力がないと依頼を受けられないのじゃなかったかな。でも、僕は、見習い冒険者の説明しか聞いていないので、冒険者登録をする時はきちんと説明を聞いて下さいね。」


「わかった。ところで、冒険者登録をするには、いくら必要なんだ?まずは、俺たちは、それを貯めないといけないんだよな。」


「そうですね。誰か一人でもギルドカードを持っていれば、パーティー登録はできそうですから、ギルドカードの代金が銀貨1枚で、ギルドポイントを貯めていたら見習い冒険者からRランクへの昇給はお金が要らないこともあるって聞きました。心配なら今聞いてみればいいじゃないですか。」


「おっ、おう。そうだな。でも、まず、この公園の清掃依頼を受けてからだな。」


「あっ、ちょっと待って下さい。それよりも、あの下水清掃の方がよくないですか?あれは一般依頼だから、きれいに清掃出来たら全額手に入りますよ。依頼料も銅貨8枚って書いてありますよ。ただし、道具は自分持ちですね。でも皆さんはスコップとザルを持っているでしょう。この依頼を受けて、お金をもらうか。広場の清掃で見習い冒険者登録をしてAランク評価でギルドポイントを貰うか…。迷いますね。一般依頼は、誰でも受けられる依頼だからギルドポイントはもらえないんですよ。どうします?」


「うーん。二つともやってみる。まず、広場の清掃からだ。見習いでも冒険者になっておかないと色々と不便だと思うんだ。いいな。みんな。」


「「「「おーっ!」」」」


 シモンさんの声にフースさんたちが応えて、気合を入れて依頼を受けに受付に向かっていった。ミラさんは少しギョッとした顔をしてたけど、直ぐに笑顔になっていたから問題ないだろう。


 僕たちは、シモンさんたちが依頼の手続きをしているのを横目で見ながら、ギルドを出て下水処理場に向かった。今日も乾燥用のは穴8杯分を午前中で一杯にしてやるんだ。ところで、この燃料づくりは、ギルドポイントに加算されるんだろうか。されないんだったら、2週間以内に別の依頼を受けないといけないかもしれない。まあ、この清掃依頼が2週間で終了すれば、別に問題はないのだけれど。


 シモンさんたち分かれて、燃料づくり兼清掃作業を行い、9個の穴が一杯になったところで僕たちも乾燥作業に入った。一個穴が増えているのは、1杯目の汚泥が乾燥するまでにリンジーが増やしたからだ。一個目の穴の乾燥が終わったらリニは薪型燃料づくり担当になってリンジーが護衛に着くというローテーションになっていた。ということは、これから毎日穴の数が増えるのかな…。イヤイヤ、リンジーには、乾燥作業に回ってもらおう。そんなにたくさん穴を増やされたら、乾燥させた魔石炭をギルドに運ぶのに2往復では利かなくなる。昨日でも2往復しないと全部持って行くことができなかったのだからこれ以上増やされたくない。


「リニ、薪型燃料は、200束作っておいてね。僕たちは、今から乾燥に入るけど、リニの魔力は、持ちそう?」


「うん。大丈夫そうだ。」


 午前中にできた魔石炭もどきの代金は、金貨19枚と銀貨6枚。全部、テラのギルドカードに入れてもらった。合計金額金貨44枚と銀貨6枚、銅貨2枚になった。成人の儀の後すぐにテラには冒険者登録をしてもらって装備をそろえないといけない。


 午後も同様に穴9個分の魔石炭もどきをギルドに卸した。倉庫の管理をしているおじさんの名前は、ヒリスさんって言うんだけど、そのヒリスさんに書いてもらった伝票を持って受付に行った。全ての穴にかなりギリギリ一杯溜めて乾燥させたから今までよりもヒリスさんが書き込んだ金額が大きかった。それに、道具屋に燃料を持って行っていないからその分の代金も少しだけど増えたんだと思う。


「お願いします。」


「凄いわね。金貨20枚なんて今までになかった金額よ。稼いでいるお金だけならあなたたちはCランク冒険者よりも凄いかもしれないわよ。」


「本当か?でも、私たちはまだ見習い冒険者だからな。あっ、そうだ。ミラさん。私たちは、毎日ギルドに魔石炭もどきを卸しているんだが、ギルドから頼まれた物を集めてくるのもギルドポイントに換算されるのか?」


「大丈夫ですよ。皆さんにはそんなに多くはないですが、ギルドポイントは加算されていますよ。テラさんは既にFランク相当のポイントは溜まっています。実技試験に合格すれば、今日にでもFランク冒険者になれます。まあ、成人しないと無理ですけどね。だから、無理しなくても全然大丈夫ですからね。」


「わかった。ありがとう。無理はしないようにするが、頑張ろうと思う。」


「はい。頑張ってください。」


「毎日の燃料づくりでギルドポイントが溜まっているなら何も心配することは無い。この調子、このペースで依頼を最後までやり通そう。」


「無理せず、最後までね。頑張ろう。」


 テラの一言で全員頷き。今日の仕事は終了した。


「おう。先生!」


 僕たちが冒険者ギルドを出ようとしたとき、シモンさんたちが戻ってきた。でも、先生呼びは、こんな場所では止めて欲しいんだけど…。


「もう、今日の依頼は終ったの?」


「やっと一つ目が終わったところだ。今日中に二つ目の依頼を終わらせて、俺が冒険者登録することにした。」


「えっ?どういうこと?」


「全員一緒に冒険者登録するとお金が足りないからな。今日の稼ぎを全部合わせると銀貨1枚と銅貨3枚になる予定なんだよ。ミラさんが教えてくれたから間違いないとおもう。そうすると冒険者登録とギルドカードを手に入れることができるんだとさ。俺が冒険者の資格を取ると依頼の幅が広がるだろう。だから、まずは、俺から冒険者登録をすることにしたんだ。」


「なるほど。シモンさんたちはみんな成人の歳を越えてるからね。資金さえ溜めることができれば、冒険者登録ができるんだものね。じゃあ、頑張ってね。冒険者登録が済んでも朝の勉強には来るの?」


「ああ、勿論だ。折角字を読むことができるようになるチャンスなんだ。必ず行くから、明日もよろしくお願いしますぜ。」


「じゃあ、頑張ってね。僕たち、今日はこれで終わりだから、また明日。」


「おう。今日はどうもありがとうな。」


 シモンさんたちと別れて、みんなで、家具や台所用品の買い出しに行った。昼間金貨2枚を現金で受け取っているからそれを使ってギルドハウスの家具をそろえようということになったからだ。


 それぞれの部屋に入れるベッドや物入れなども見て回った。ベッドや部屋の家具は贅沢をしなければ銀貨1枚で一人分が揃ってしまうようだ。台所道具も銀貨2枚で殆どそろえることができた。僕のアイテムボックスに購入した家具や台所用品を入れてパーティーハウスに行ってみた。リニの部屋とテラの部屋、僕の部屋にそれぞれの家具を出しておいた。レイアウトは後でじっくり考えることにしようということになり、台所の道具を並べて、家に鍵をかけた。


「カーテンや絨毯も必要かな。」


「食堂に大きなテーブルも欲しいです。みんなで食事ができるようなテーブルを買いましょう。」


「テラ?どうしてお姉さんみたいな喋り方してるの?」


「え?だって、他の冒険者いないじゃないですか?それに、普通でしょう。この喋り方。」


「ちがう。そんな喋り方テラじゃない。そんな喋り方したら、テラ姉って呼ばないといけないぞ。」


「私は、お姉さんだぞ。失礼な。これからは、私のことは、テラ姉って呼びなさい。良いわね。」


そんなことを話しながら、家からそれぞれの寝床に帰って行った。

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