第42話 スラムの青年たち

「おおっ、やっと来たか。お早う。」


「お早うございます。」


「どうだ、ここが前あの臭い沼だったなんて思えないくらいきれいになっただろう。」


「本当だ。お兄さんたち仕事が早いな。」


「で、約束通り、乾燥のスクロールを渡してくれるよな。」


「勿論です。一人2本ずつ渡しますね。乾燥し終わらなかったら言って下さい。またお渡しします。」


「ありがとうよ。どんなふうに使ったら良いんだ?」


「スクロールの術式面を自分に向けて、反対側に効果が発動します。そして、術式に魔力を流し込んで下さい。一度止めると、スクロールは消失してしまいますから、乾燥が終わるか、自分の魔力がなくなるかまで魔力を流し込むのを止めないでくださいね。」


「分かった。途中でやめたらいけないんだな。最後まで、根性で魔力を流し続けてやる。まあ、見てな。大人の仕事ってやつをな。」


「私たちは、処理場内の汚水の撤去だ。フロルと凜が収納。リニが護衛。リンジーは、今のうちに乾燥用の穴を増やしておいてくれ。あと一つか二つ増やしておけば午前中に乾燥させる分は賄えると思う。」


「分かった。」


「じゃあ、収納始めるよ。テラとサラは、乾燥頑張ってね。」


 僕とフロルは少しずつ収納量が増えていっている。昨日の最後が、僕が大きくした穴、丁度一杯分でフロルが半分量だった。今日の一回目はどうだろう。汚水処理場の入り口から少し入ったところにフロルが手を伸ばして汚泥を収納し始めた。僕は、その少し奥の汚泥を収納する。床や壁に分厚くべっとりとくっついている。完全に取りきれないから、収納後も汚泥は薄く壁や床を汚している。それでもかまわず、収納だ。


 1回目、昨日の量とあまり変化はない。心持ち穴ぎりぎりまで汚泥が入ったかなって言う感じだ。フロルは、かなり増えているようだ。穴の7分目くらいまでだ。


「テラとサラの乾燥が終わったらリンジーはリニと替わって、リニは薪型燃料を作っておいて。今日は、100束作って欲しいんだけど、魔力は大丈夫そう?」


「100束くらいなら大丈夫だ。」


「じゃあ、宜しくね。その内、ギルドへの燃料よりも大きな収入源になるかもしれないからね。リニの腕にかかっているよ。」


「そう言えば、シスターたちこの薪型燃料火が付きやすくて長持ちするのは良いんだけど、消すのが大変って言ってた。水につけたら次に使えないし、そこはどうにかならないかなってさ。」


「水につけないで火を消す方法ね…。なんかいい方法ないかな。考えてみる。」


「凛、次の収納に行くぞ。」


「了解。」


 それからも次々、汚泥を収納しては穴の中に移していった。1時間もしないでリンジーが作った8個の穴は全て一杯になった。乾燥が終わっているのは3つ目までだ。テラとサラの二人だけだと乾燥が間に合わない。


「凛。全部の穴が一杯になったから、俺たちも乾燥に回ろうぜ。リンジーは、鍵を閉めて来てくれないか?」


「了解。任された。」


 リンジーが下水処理場の鍵を閉めに行っている間にドライスクロールを30本程錬金しておいた。


「じゃあ、スクロールを渡すね。僕が一人でこの穴の魔石炭もどきを乾燥させるからリニとフロルでその穴を乾燥させて。」


「了解だ。でも、凜は一人で大丈夫なのか?」


「多分大丈夫。魔力量だけは、人並み外れて持ってるからね。」


「お~い。お前たち~。お願いがあるんだが聞いてくれるか?」


「打ち合わせをして、乾燥に入ろうとしたら、お兄さんたちに声をかけられた。」


「どうしたんですか?」


「ようやく乾燥が終わったんだ。お前たちの3分の1位の量しかないのに今までかかったんだぞ。それは、良いとして、固まった魔石炭をばらばらにする道具を貸してくれないか?スコップとザルじゃあどうしようもなくてな。」


「はい。…、あっ、ツルハシを持ってます。でも、僕たちの分しかないですから、終わったら返してくださいね。5本で良いですよね。」


「おう。助かる。必ず返すから、貸してくれ。報酬は何で払ったらいい?」


「そうですね。では、この依頼中、何か困ったことができたら助けていただくって言う約束をして頂けますか?」


「そんなもんで報酬になるのか?俺たちとしちゃあ助かるけどな。この依頼ってのは、下水処理場の清掃依頼か?」


「そうです。その間です。人手が必要になったりしたら手伝ってくれますか?もちろんその時の報酬は別に支払いますよ。」


「わかった。任せとけ。じゃあ、その約束でツルハシってのを借りるぜ。そういやあ、俺たちの名前も言ってなかったし、お前らの名前も聞いてないな。俺は、シモン。こいつがフース。それからあいつらはクーン。それからマルコ。こいつは俺の弟だ。それからフースの弟のルカス。直ぐには覚えられないと思うが、宜しくな。俺、シモンとフースさえ覚えとけば、この辺じゃあ何とかなるぜ。」


「それなら、私たちの紹介は、私がしよう。私は、テラ。こっちがリニ。それからフロル。この子がサラ。あそこで作業しているのがリンジーだ。それから、この子が凛だ。宜しく頼む。」


「お前たち、まだ成人してないみたいだけど、冒険者か?」


「うむ。見習いだ。お兄さんたちは、冒険者登録をしていないのか?」


「俺たちか?そんな金はないよ。毎日食っていくのに精いっぱいだからな。」


「冒険者登録がまだでも、受けられる依頼はあるから、お兄さんたちだったら、直ぐに登録料を貯められるんじゃないか。」


「そうなんだろうがな。俺たちが冒険者ギルドに行っても直ぐに追い出されてしまうんだ。なにしろ、字が読めないから、依頼を受けようにもどんな依頼か分からないんだよ。親切に教えてくれる冒険者なんていないしよ。それで、揉めて出入り禁止を食らっちまったんだ。」


「僕も一番最初にギルドで依頼を受けようとしたとき、そんな感じだった。跳ね飛ばされたり、邪魔者扱いがひどくてケンカしそうになっちゃったもの。」


「いらぬ世話かもしれないが、私たちも今読み書きの勉強をしているのだ。もしも、嫌でなかったら、そして、朝早いのが苦手でなかったら、一緒に孤児院で勉強しないか?朝の3の鐘が鳴ってしばらくしたら始めるから、その前に孤児院に来てくれれば良い。その頃に、凜が先生としてやってくるから私たちは、門の辺りで待っている。お兄さんたちが勉強したいなら一緒に勉強できるようにシスターたちに頼んでおくがどうだ?」


「勉強か…。俺たちにできるのかな。その時間ならいつも起きている。今日は、もうここで仕事をしていたからな。それに、明日からこれと言ってやらなきゃならないこともないし…。おい。お前ら、どうする?」


「勉強って何だ?」


「道具も何も持ってないぜ。俺たち。」


「道具は必要ないよ。僕が持っている物で準備するからでも、薪になる木かくず魔石を持ってきてもらったら助かるかな。」


「必要な物は薪かくず魔石だな。分かった。準備できたら参加させて貰うことにするぜ。このままスラムの中でくすぶっていてもしょうがないからな。」


「待ってる。しかし、時間になったら始めるから、遅れないようにしてくれ。」


 良く分かんないけど、明日の受講者が増えるみたいだ。そんなに人数が多くなるならあんまりいい加減なことはできないな。かといって教え方なんてわかんないし…。どうしよう。


「おい。凛、どうした?ボーっとして、お兄さんたちも一生懸命魔石炭掘りをしてるぞ。凜も頑張って乾燥させないと。」


 リニが横から声をかけてきた。あれ?そんなにボーっとしてたかな。


 今日の午前中だけの魔石炭もどきのギルドへ卸した代金は、金貨16枚と銀貨8枚。ギルドに戻った時にはロジャーは、まだ戻っていなかったから、リンジーと二人で道具屋に行った。


今日こんにちは。薪型燃料を持ってきました。」


「おう。ちょうどいい所に来た。お主に頼みたいことがあってな。勿論100束は、貰うぞ。昨日仕入れた燃料はすべて売り切れたからな。でも、お客さんから要望が上がっていることが一つあるのだ。それと言うのが、この燃料の火を途中で消す方法か道具が欲しいという物でな。まだ使えるのに、途中で水の中に入れてしまうのがもったいないというのだ。それと、着火のスクロールも、後800枚程卸してくれぬか?大きさは、日頃のスクロールの8分の1程の大きさで良いのだ。この燃料には直ぐ火が付くならな。それを1枚、銭貨1枚で卸してくれ。頼む。」


「では、まず水に入れないで火を消す道具ですが、2~3日中に作ってお持ちします。今はありません。でも、必ず。それから、着火のスクロール8分の1サイズですね。作ってみます。ちょっと待っていてください。」


「アルケミー・8分の1サイズ着火のスクロール 1000。」


 サイズが小さいのと術式も単純なので直ぐに作ることができた。


「アイテムボックス・着火スクロール・800枚。」


「はい。できました。それから、おじさんの所にきちんと蓋がぴったりと閉まる壺みたいなものありませんか?」


「いや。そんなものは置いておらぬな。酒瓶ならあるのだが、それではダメであろう?」


「それじゃあダメでしょうね。とにかく考えてみます。代金は、ええっと、燃料が、金貨1枚で、スクロールが銅貨8枚です。」


「まっておれ。直ぐに用意する。明日は、燃料は200束頼む。100は、すぐに売り切れると思うでな。」


「凛、今日貰った金額は、現金で持ち歩くには大きすぎるぞ。どうしよう。」


「それじゃあ、皆に確認して今日作ったリニのギルドカードに入れておこうよ。それから、今までの分は、全部テラのギルドカードに移しておこう。ちゃんとメモしてるから間違いないと思うけど、僕たちが見習い冒険者パーティーで稼いだお金は、今の所は僕の冒険者ギルドカードに入っているお金が全部パーティーのお金のはずだよ。」


「でも、スクロールの代金は、みんなの物じゃなくて凜の物だよ。俺たちスクロールに関しては何も手伝ってないからさ。」


「でも、あの材料の木材やくず魔石はみんなで集めたものだよ。全部みんなで分けるようにしないとパーティー活動が出来なくなる。」


「わかった。凜がそう言ってくれるならそうするよ。」


「そうしてよ。それに、僕が、パーティーのみんな以外の人の力で稼いだ時は、その人と折半することになってるから大丈夫だよ。パーティー以外の人ってロジャーのことだけどね。だから、心配しないで良いよ。」


「分かった。それなら遠慮なくパーティー資金にさせてもらうよ。でもさ、パーティー資金って何を買うんだ?」


「まず、装備じゃないか。リニとテラはもうすぐ成人の儀だろう。そうしたらスキルや職業がはっきりするからさ。そのスキルや職業にあった防具なんかを揃えないといけないんじゃない?」


「そうか。そうだな。」

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