第40話 パーティーハウスの条件
宿の部屋でしばらく休憩しているとロジャーが依頼から戻ってきた。
「凛、お主から頼まれていた回復ポーションの材料、今日手に入った物を渡しておくか?量は少ないが、一応、錬金できるだけの材料は揃っているぞ。」
「ありがとう。素材の代金は、ポーションの売り上げの半額ということで良い?」
「いや、正式な価格で引き取ってもらおうかな。そちらの方が、凜も気が楽だろう。」
「いいえ。宿代も出してもらっているし、僕としては、売り上げの半分の方が気が楽だよ。」
「子どもがそのようなことをいう物ではないぞ。凛の保護は、儂の一存でやっておる。一緒に住むのは当たり前だ。そうだな。パーティーハウスでも借りることになればパーティーメンバーと儂で折半することにしようかのう。」
「それって、どう言うこと?ロジャーと僕たちで人数割りっていう訳じゃないの。僕たちは、そのつもりで、お金を準備しようと思っているんだけど。」
「儂が半分払うということだ。お前たちは、残りの半分を工面すればよい。儂は既にBランク冒険者なのだぞ。家賃位数回の依頼で貯めることができるのだよ。お前たちこそ、家賃の半分を稼ごうと思ったら大変な思いをしないといけないはずだぞ。」
「そうかな。今回の依頼で稼げる分は銀貨4枚くらいだけど、清掃依頼の汚泥でできる燃料を売って一年分の家賃以上の金額を稼ぐことができると思うよ。まあ、その後もずっと同じくらい稼げるかって言ったら無理だと思うけどね。」
「ほほう。お前たち、凄いな。塩漬け依頼をたった二日やっただけでそんなにことが言えるほど稼いでいるのか。」
「まあ、運が良かったっ言えばそうなんだけどね。ロジャーがみんなの魔術回路を活性化してくれたからだよ。それでさ、パーティーハウスのことも含めてちょっと相談というか、聞きたいことがあるんだけど。」
「聞きたいこと?一体なんだ?」
「今日、孤児院のシスターと色々話をしたんだ。それでさ、昔は、教会の牧師さんが孤児院にいる子に読み書きを教えていたんだけど今は教えてないって聞いたんだ。それって普通なの?それにね。孤児院を出る時に、就職先からお祝い金が出て、それが、孤児院の運営の資金なんだって。それも変だなって思ったんだけど、ロジャーはどう思う?それって変じゃない?」
「まず一つ目の質問についてだが、はっきり言って分からんな。儂も早くに親を亡くして村の家で育ったが、儂たちに読み書きや計算を教えてくれたのは、村の牧師さんだった。しかし、どの教会の牧師もそのようなことをしているかは分からぬな。教会にも色々な事情があるだろうからな。二つ目の質問については、おかしいな。よっぽど必要な人材なら分からぬでもないが、成人してすぐのしかも、職業スキルも何も分からない状態の成人に、お祝い金を出すなぞ聞いたことは無い。何か特別な契約でもしているのではないか?この国では借金奴隷制が認められているからな。まさかとは思うが、奴隷として売られているというようなことは無いか?」
「奴隷として売られているかもしれないの?それって、テラたちにとってはとっても辛いことじゃない?」
「いくらで買われているかにもよるが、奴隷と言うのはかなりの低賃金、しかも、衣食住全ての必要経費を差し引かれてしか賃金は自分の物にならないし、奴隷の身分の時は、手元にそのお金を持っておくこともできない。何十年もかけて借金を返済しないと自由になれないのだ。本来なら借金を返済して自由の身になっているはずなのに、手元に金もなければ技術や知識もないということであれば、奴隷から抜け出すことができないということにもなりかねない。そんな過酷な身分なのだよ。奴隷と言うのは。もしも、奴隷として買われたのでなければ、卒院生が、偶に孤児院に来ているのではないか?一度も来たことがなければ、怪しいと思うぞ。」
「ええ。奴隷ってそんなにひどいの。テラたち、奴隷にされるかもしれなの?」
「そうと決まったわけではない。そもそも、本人の承諾なしには、借金奴隷何て言う身分にはできないはずだ。必ず契約書にサインさせられる。だから、奴隷は成人のみなのだ。ということは、サインをしなければ奴隷にはならないということだ。しかも、無理やり書かされたサインは無効だ。だから、サインは契約書をしっかりと読んで、確認したうえでしないとならないのだ。」
「じゃあ、尚更、テラたちが文字を勉強するのは大切だね。」
「うむ。そうだな。あの子達が自らを守るためには、学問はとても大切だ。最低、読み書きと計算位はできるようになっておかないと冒険者として生きていくのも大変になる。」
「それとね。今日、10部屋位のパーティーハウスを借りるにはいくらくらい必要か聞いたんだ。」
「ん?何で10部屋も必要なのだ?1年から2年はどんなに多くても儂も入れて7人だろう。それに、今年、孤児院を出ないといけないのは二人だけなのではないか?」
「でも、これから多くなるかもしれないでしょう。それで10部屋って言ったんだけど、それなら最初は何部屋位の家を探したら良いの?」
「そうじゃな。個室は5部屋あれば十分であろう。食堂と台所、会議などをする広間が一つできれば、風呂は欲しいな。長らく入っておらんからな。できれば入りたい。」
「ええっ。お風呂。いいなぁ。僕もずっと入ってないよ。こっちの世界にもお風呂なんてあるんだ。」
「風呂か着いている貸家などほとんどないと思うがな。まあ、自分たちで作っても良いのではないか。個室5部屋と広間に食堂と台所。その他に地下室があった方が良いな。勿論トイレは必要だ。後は水回りに部屋を作れるようなスペースがあれば風呂を後付けしても良い。」
「そんな貸家っていくらくらいで借りれるのかな?」
「そうだな。この規模の町なら高くても一月金貨2枚くらいではないか?契約時に金貨5枚もあれば大丈夫だと思うがな。」
「それくらいなら、もう
「最初の月の家賃は金貨5枚に含まれているから合計で金貨27枚ってとこかな。その内儂が、14枚を出す。凜たちで残りの金貨13枚が工面出来たらパーティーハウスを探し始めようではないか。本当は、金貨3枚が工面できた時点で探し始めようと思っていたのだが、それは既に達成したのであろう?」
「どうして金貨3枚なの。」
「契約月とその次の月まで必要な金額じゃよ。初めの一月は、冒険者として活動できるのはテラだけなのだろう。テラ一人で冒険者活動をしても稼ぐことができる金額はたかが知れているからのう。次の月からは、リニも含めて二人で冒険者活動ができるのであれば、薬草集めができるようになるからな。そうすれば、お前たちのパーティーで集めた素材で何らかのポーションなりができるようになる。それを使えば、凜の力を借りながら安定してお金を稼ぐことができるようになるであろう。そういう訳の金貨3枚だよ。」
「じゃあ、明日からパーティーハウス探しだね。」
「どうしてだ?金貨13枚が溜まってからと言ったであろう。」
「だって、今日と昨日で金貨14枚貯まったからね。明日はもっと増えるから、当面資金の心配はいらないと思うよ。」
「な、なに?凜がポーションを売ったお金は加えたらいけないのだぞ。お前たちのパーティーで稼いだ金額の話なのだがそれでもたまったというのか?」
「勿論そうだよ。昨日と今日で魔石炭もどきを作って売った代金が金貨15枚分を越えたんだ。それに、パーティーメンバーそれぞれが、持っている現金報酬も銀貨1枚と鉄貨8枚あるよ。だから、当面は、家賃の支払いは心配いらないと思う。」
「うむ…。分かった。では、明日は、依頼を早めに切り上げてお前たちと一緒にパーティーハウスを探しに行くとするか。それと、パーティーメンバー全員が銀貨1枚の現金を持っているのなら、今のうちにギルドカードを作ってしまったらどうなのだ?そうすれば、冒険者登録する時も必要なお金が無くなるぞ。ギルドポイントもそれぞれに溜められるし、現金を持ち歩かなくても良くなるぞ。」
「そうか。明日、皆に聞いてみるよ。明日から、朝一番に孤児院で読み書きや計算の勉強をすることになったんだ。」
「では、清掃の依頼はその勉強の後ということか。勉強も大切だからな。それに清掃の依頼には期限がないのであれば、汚泥を材料にした燃料づくりで資金を稼ぐのは、お前たちにとって良い方法かもしれぬな。とにかく頑張るのだぞ。テラたちがしっかりと読み書きできるようになるのは、存外重要かもしれぬからな。」
「うん。頑張るよ。って、テラたちがだけどね。」
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