第38話 汚泥の除去の協力者
「この汚泥を取ったら水が流れ出すと思うから、気を付けてね。」
午後の作業はかなり順調だった。既に穴5つ分の汚泥は乾燥が済んでいる。午前中かけて、作った以上に燃料づくりが進んだということだ。スラムから何人かの人たちが僕たちの作業を見学に来た。ここの汚泥を乾かしたら燃料にできることは、その人たちにも話している。
その内2人が、家からスコップとざるを持ってきて汚泥をざるに汲み上げて水気をきっている。ドライスクロールがないなら、ざるを使えば良いということだ。完全に乾かないと臭いがひどいから、乾燥まで数日はかかるかもしれないけど、ざる1杯分くらいで1日分の燃料にはなるかもしれない。
「お兄さんたち、ざるで水気を切ったら、乾いた場所に穴を掘ってその中に入れて乾かしていたら良いと思うよ。そうしたらそのざるに次の汚泥を入れられるでしょう。」
汚泥は、水気を切るとかさがへり、乾くとさらに減る。お兄さんたちが持っている大きさのざるだとギリギリ1日分の燃料に足りるかどうかだと思う。何日分もの燃料を作りたいなら、ざるで乾かしていたら間に合わない。穴を掘ってその中に移すべきだ。
「なるほどな。ありがとうよ。教えてくれて。ここで燃料を手に入れられたら、今年の冬は、寒い思いをしなくても良くなるかもしれないからな。」
「あ、それから、この後、下水処理場をきれいに洗わないといけないから、乾燥させる穴は、処理場から少し離れた場所に作ってね。」
「おう。分かったぜ。忠告有難う。」
そう言うと、下水処理場からかなり離れた場所に乾燥用の穴を掘りだした。少し強面だけど人のよさそうなお兄さんたちだ。
そんな話をしている間に、臭い沼の水が城壁の向こうに流れ出して行った。魚なんかに影響がなければいいんだけど、流水の浄水力は凄いってテレビで見たことあるから大丈夫でしょう。ひどい臭いだと言うだけで毒性があったわけじゃないから…。そのテレビで言っていたことを信じることにしよう。
沼地の水が少なくなると残っている汚泥がはっきりと分かるようになった。
「おーい。坊やたち。その辺に残っている泥は、俺たちにくれないか?明日中には片付けるからさ。」
「じゃあ、この沼地後に残っている汚泥は全部お兄さんたちに任せていも良い?僕たちは、今から下水処理場の中の汚泥をきれいにしないといけないんだ。」
沼地に残っている汚泥の層はかなり薄くなっているけど、洗い流すことができない位の量はある。全部集めれば、僕たちが使っている汚泥穴の半分以上にはなると思う。お兄さんたちに集めてもらって後で、僕とフロルで汚泥だけ収納すれば一緒に入った砂を取り除けるかもしれない。
「ねえ、お兄さんたち、リンジーが穴を掘るから、沼に残っている汚泥をそれに集めてくれない?そうしたら乾燥のスクロールをあげるよ。多分、ここにある汚泥を全部集めたら、あそこの穴、半分くらいにはなると思うんだ。それって、自分たちの家だけじゃあ使い切れない位の量でしょう。近所に分けてあげたり売ったりしたらいいと思うんだけどどうかな?」
「俺たちを騙そうって言うんじゃないよな。お前らが冒険者だって、俺たちをだましたりしたら、ただじゃおかないぜ。それに、ドライスクロールをくれるなんてお前らに何か利があるのか?俺たちが得するばかりじゃないか?」
「私たちは、下水処理場の清掃依頼を受けているのだ。中をきれいにするためにこの沼の清掃を先に済ませていたという訳なんだが、大体沼の清掃は終ったのだ。しかし、見ての通り完全ではない。そこで、あなた達に残った汚泥の処理を頼みたい。我々だけでやっても良いのだが、燃料になる汚泥だ。取り合いになるのも避けたいと思ってな。それにその穴一杯の汚泥は、自然乾燥では、時間がかかりすぎる。そうなると我々の依頼を終えることができないであろう。それで、ドライスクロールを渡すということだろう凛。」
「そう。その通り。僕たちからあなた達への依頼。依頼料はドライスクロールを必要なだけということで引き受けてもらえるかな?」
「そう言うことなら、引き受けた。俺たちにとっちゃあ、ありがたい申し出だからな。」
「じゃあ、頼んだよ。僕たちは、処理場の中で汚泥汲み上げをしているから外の汚泥汲み上げが終わったら教えてくれない。ドライスクロールを渡すから。」
「了解した。あのな。汚泥の汲み上げ作業は、俺たち以外もやって良いか?きれいに取り除こうと思うなら二人だけだとかなり時間がかかりそうだからな。」
「依頼料は増えないけど良い?あっ。それならザルとスコップをいくつかあげる。何人くらい作業に参加できそう?」
「そうだな。俺たち含めて5人かな。それ以上になると分ける燃料のことでもめそうだ。」
「じゃあ、君たちの分だけ先に渡していて良い?」
「いや、後でにしてくれ。それに、人をそんなに簡単に信じちゃいけないぜ。俺たちが貰った道具を持って戻ってこなかったらどうするんだ?」
「えっ?お兄さんたちそんなことしないでしょう。だったらどうもしないよ。」
「あのなぁ。そんなこと言ってるんじゃなくて…。まあ、いいや。今から手伝い連れてくる。後で声をかけるからスコップとザル宜しくな。」
「はーい。行ってらっしゃい。宜しくね。」
「お兄さんたち、行ってしまったな。沼地の清掃は、任せられるだろうから、私たちは、下水処理場の清掃に入るぞ。鍵は、預かっている。やり方は今までと変わらないが、この汚泥ができた原因がはっきりわかっていないから気を付けるように。何か変わったことがあったら必ず報告に来ること。」
「了解。じゃあ、凜と俺が汚泥運びだな。」
「フロル、汚水処理槽に落っこちないように気を付けろよ。俺が護衛に着くんだよな。」
僕とフロルが汚泥の汲み上げをして穴まで運んで、リニが護衛。リンジーとサラとテラは乾燥係だ。テラに汚水処理場の鍵を開けてもらって中に入った。沼の水が流れ出たことで、水浸しだった処理施設が水の中から出て来たけど汚泥の中に埋まっていて清掃作業どころではない。まずは、この汚泥を取り除かないといけない。元々、きれいに処理した下水を川に流し込むための水路だった場所を沼地にするほどの汚泥は全部ここから流れ出たものだと考えられる。
つまり、沼地の何倍もの汚泥がここに詰まっているということだ。フロルは鍵を開けた入り口から手だけを中に入れて汚泥を収納している。僕はその先の汚泥を収納しようと思ったけど、フロルがかなり容量が大きくなったストレージ一杯に収納しても、入り口側の汚泥は取り切れずに床が見えるようにはならなかった。僕も同じ場所の汚泥をできるだけたくさん収納した。限界ぎりぎりの量だ。
「ふぅー。凄くたくさんあるね。本当に全部とれるのかな…。」
「そうだな。暫くは、奥には行けないな。この泥の中に何が潜んでいるか分からないから、油断をしないように。なるべく中に体を入れないようにしてくれよ。後ろからだと護衛がしにくいんだ。」
後ろからリニが心配そうに中を覗いている。ロジャーみたいに索敵のスキルがあれば少しは安心なんだろうけど、僕らには、そんなスキルは発現していないから、慎重に作業を行うしかない。
「じゃあ、リンジーの穴に移しに行こう。僕は、朝よりもかなり頑張って収納したから、かなりの量になっていると思うよ。」
「俺も。この一回だけでリンジーの乾燥穴はほぼ一杯になるかもしれないぜ。」
二人とも自信満々で穴に汚泥を出したけど、僕の収納容量でほぼ一杯弱。リンジーが収納した量だと半分くらいにしかならない。
「やっぱり、穴を大きくしていてよかったろう。」
リンジーがニコニコしながらテラたちと話している。
「でも、乾燥させるのが大変になったんじゃないか。深さは2mしか深くしてないけど、縦横もそれぞれ2mずつ大きくしだろう。どれだけ大きくなったのかなぁ。」
「1.2×1.2×1.4って何倍になったってことなのかな…。暗算じゃできないや。」
僕は地面に式を描いて計算した…。約2倍だね。
「フロルは、さっきの穴の1杯分位収納したみたいだよ。僕が約2杯分だ。これで、午前中と同じくらいの量は組み上げたとことになるね。午後に穴一杯分は乾燥させているから、もう一回、汚泥を組み上げたら終わりにしようか。リニ、念のために昨日の薪型燃料を100束分くらい作っておいてよ。乾燥終わっている分があるでしょう。リンジーは、穴を広げるのが終わっているなら、僕たちの後ろから護衛をお願いして良いかい?さっき、収納ために一回、魔力を広げるみたいにして汚泥のかなを探った時には、怪しい気配はなかったと思うけど、やっぱり心配だからさ。」
「了解だ。新しい穴も大きくしているからさっきと同じくらい汲み上げても大丈夫だぜ。」
リンジーが言ったように、さっきの同じくらいの量。つまり目一杯汚泥を汲み上げて丁度一杯弱だった。フロルはさっきの穴に継ぎ足して丁度一杯分。その後、皆で乾燥させて魔石炭もどきを昨日の4倍近く作った。
僕たちが、引き上げの相談をしている頃、スラムの方からお兄さんたちがやってきた。全員で5人。約束通りにスコップとザルを渡して沼地だった場所に残っている汚泥の片付けをお願いした。
僕たちは、その間に薪型燃料を作ったり、乾燥した汚泥を収納したりすることをやっていた。お兄さんたちもとっても頑張っていたけど、僕たちがいる間には、穴の4分の1も汚泥が溜まっていたなかった。スコップとザルだけで集めるのだから手間がかかる。それでも、とっても頑張ってやってくれていた。短い間だったけど、薪型燃料は20本が60束できていた。リニ…、手早くなっている。
「お兄さんたち、我々は、ギルドに燃料を卸さなければならないから先に失礼する。それで、確認なのだが、道具の管理は、自分たちでやってくれないだろうか。自宅に持ち帰るなり、どこか道具の収納の場所を作るなりして欲しいのだが、お願いして大丈夫か?」
「任せてくれ。折角もらった道具なんだ。大切にする。沼地の汚泥がなくなったら乾燥のスクロールをくれるんだよな。約束は守ってくれよ。」
「勿論です。必ず約束は守りますから、汚泥の除去宜しくお願いします。」
こうして、二日目の作業で沼地だった場所にあった汚泥の除去はほぼ終了ということになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます