第36話 薪型燃料

 二日目は、朝から汚泥運びと乾燥を頑張った。昼までにリンジーが作った乾燥用汚泥入れ5杯分を下水処理場前の沼から運んで乾燥させた。それで、昼までに沼の汚泥は半分以下に減って、下から白い砂が見えるようになっていた。それでも、水のにおいは半端なく臭い。


 昼前に一度ギルドに戻って、魔石炭もどきを買い取ってもらうとにした。


「なあ、凛。少しだけで良いから、この魔石炭もどきを貰えないか?薪形状にしたものをシスターたちの所に持って行ってあげたいんだが。」


「勿論。これって、僕の物じゃないからね。みんなで集めて乾燥した物だからみんなの物だよ。それに、お世話になっている孤児院に何かしてあげたいってのは当たり前だと思うよ。」


「ありがとう。リニ、これを薪型にしてくれるか?1週間で薪として使う分位を孤児院に持って行きたいんだ。」


「じゃあ、マジックバッグを貸してあげるからこれに入れて持って行ったらいいよ。」


 僕がそう言ってロジャーにあずかっていたマジックバッグを渡すと、リニは直ぐにクリエートで魔石炭もどきを薪型に加工したものを数百本作って、入れた。それだけあれば、1~2カ月は、薪割りをしなくても良いかもしれない。


「リニ、ちょっと多すぎないか?」


「そうか?でも、これだけあれば、休みの日の薪割り当番をしばらくしなくて良くなるぜ。」


「テラ、多すぎるってことは無いと思うよ。リニの魔力とマジックバッグの容量が許す限り作って持って行ったら良い。孤児院には、大きめの薪の収納場所があるんでしょう?」


「あっ、そうか。こんなに作ったら収納場所が足りなくなっちゃうな。納屋を改造したら、今作ったくらいは入れられると思うけど。今日は、この位にしておこうかな。濡れたらどうなるか分からないしな。」


「ねえ、リニ、まだ魔力に余裕あるかい?」


「どうしてだ?」


「昼からのドライスクロールに使う魔力を残しても余裕があるならもう少し薪型の魔石炭もどきを作ってくれないか?」


「だから、何に使うんだ?」


「道具屋に持ってったらどうかなって思ってさ。薪を売ってるけど質があまりよくなくて煙が沢山出るだろう。これを持って行ったら良い値段で買ってくれるんじゃないかって思ってさ。そうだな…。20本を鉄貨1枚くらいで買ってくれるんじゃないかな。」


「20本って、10kgもないだろう。それを鉄貨1枚だなんて吹っ掛けすぎじゃないか?まあ、買うのは道具屋だからな。いくらで買ってくれるか言ってみないと分からないということだろうが。20本を一束として何束くらい作れば良い?クリエートはそんなに魔力を使わないから、30束くらいなら楽勝で作れると思うぞ。」


「じゃあ、30束。そしてそれ以外に10本ほど作っておいてくれ。実際に見せないといくら冒険者ギルドのギルマスが燃料として適当だといっても信じてくれないだろうかなね。」


 リニには自分たちが孤児院に持って行く薪以外に20束と10本の薪を作ってもらってアイテムボックスに収納した。その他の魔石炭もどきはフロルが穴一杯分、僕が残り穴4杯分を収納してギルドに向かう。


 ギルドに着くと真っ直ぐ裏の倉庫入り口に向かって、おじさんに査定をしてもらう。今日は、午前中だけで、昨日の2倍以上、金貨5枚と銀貨5枚で引き取ってもらった。そんなにもらって良いのかな…。でも、こんなにたくさん魔石炭を卸すことができるのは後数回だ。今のうちに稼いでおかないとギルドハウスを借りる資金が足りないかもしれない。


 おじさんに伝票を貰うと受付に直行し、代金をギルドカードに入金してもらった。最初心配していたテラとリニのギルドカード代金は全く心配ない金額が既に溜まっている。


「凛、これから道具屋に行くのか?」


「うん。僕とテラが行けば良いと思うから、フロルたちは孤児院に魔石炭もどきを持って行ったら?テラもそれでいいでしょう?」」


「おう。大丈夫だ。フロル、頼む。」


 僕は、フロルに孤児院に持って行く魔石炭もどきの薪バージョンを渡して、テラと二人道具屋に向かった。一番最初にポーション瓶を作らせてもらった道具屋だ。


「おじさん、今日こんにちはー。」


「おう。よく来た、ポーション瓶を持ってきてくれたのか?それとも、他にも何か作れるようになったのか?」


「他にも作れるようになったんだけど、今日持って来たのは、新しい燃料だよ。魔力病の子がいる所ではあんまり燃やさない方が良いそうだけど、それ以外には煙も少ないし臭いもないとっても質のいい燃料なんだ。これなんだけど、おじさん買ってくれない?」


 僕は、薪型に加工した魔石炭もどきを1本おじさんに渡した。それからもう1本、アイテムボックスから取り出すと、軽く地面に叩きつけて、いくつの細かい破片を作って地面に置くと着火のスクロールをその上に置いて、魔力を流した。


「ほらね。着火のスクロール1枚で簡単に火が付くでしょう。そこに、こんな風にに重ねていくと燃え移って行くんだ。扱いやすい燃料でしょう。煙も出ないし、臭いもない。どう?これ、売れると思うんだけど。冒険者ギルドからは、薪型じゃなくて石ころみたいな形の物を売り出すって言ってたけど、この形の方が扱いやすいと思わない?」


「ほほう。こりゃあ、便利な燃料のようだが、どの位の量、卸すことができるんだ?坊やが持っているのとこれだけじゃあ、売りに出すことはできないからな。最低でも100本くらいは必要だぞ。」


「ちゃんと販売出来る位の量は持ってきているよ。20本一束にして30束。600本だよ。どう?買取してくれる?」


「それで、幾らで買い取って欲しいのかい。いくら質が良い燃料だといっても薪に比べてべらぼうに高いんじゃあ、売れないからな。新しい物は、初めは安くしか売れないんだ。そうだな。一束鉄貨2枚が限界かな。」


「いいよ。じゃあ、これだけで銅貨6枚だね。まだたくさん作れるけど、どのくらいまでなら買ってくれる?」


「え?もう代金、計算したのか?そうさなあ…。この燃料の売れ行きを見て決めるんじゃあだめか?薪1本分がその棒何本分なのかがはっきり分かったら、仕入れの量が決められるんだが、まだ、分からないからな。家で使ってみてからだな。はっきり返事できるのは。」


「わかった。明日も買ってくれるならこの店に寄るけど、明日の分の買取ができないのなら他の店に持って行くかもしれないけど良い?」


「今日使ってみれば、大体の性能が分かるからな。明日依ってくれたら、一冬の仕入れ分を伝えることができると思うぞ。薪は、これから必需品だからな。それじゃあ、今日の仕入れ分銅貨6枚だったな。渡すから待っていてくれ。」


 道具屋のおじさんから代金を受け取るとテラに銅貨を6枚を渡した。


「これは、テラたちが持っていて、銅貨なら持っていても危ないことは無いでしょう。それに、防具や武器なんかも少しずつ揃えないといけないよね。リニが加工した物の代金だからテラたちで使ってよ。」


「全部を私たちが受け取ることはできない。確かに、武器や防具をこれから揃えないといけないが、これは、半分は、凜が受け取らないといけないお金だと思うぞ。」


「うーん。じゃあ、人数割りで受け取り分を決めよう。テラたちは5人で僕は1人だから6分の1が僕の分だ。つまり、銅貨1枚だね。」


「え?あ、そうだな。銅貨6枚を6人分分けると一人銅貨1枚になるな。…、ねえ、凛。あんた、字も読めるし、計算も異常に速いけど、元は、お貴族様か何かなの?」


「えっ?僕?全く違うよ。そ…そう。旅をしながらロジャーに終えてもらったんだ。計算は、何故かできるんだよね。スキルかな…?」


 この世界は、スキルという物があるから、誰もできないことをできる人がいても、誰も不思議がらない。そのような物だと納得してくれる。だから、その説明で何となく納得してくれたようだ。


「スキルか…。それなら教えることって無理だな。」


「いやいや、僕のスキルは、教えられると思うよ。読み書きも含めて、そんなに特別なスキルじゃないから。ある意味勉強法っていう物かもしれないよ。そうだな。明日から、読み書きや計算スキルも練習しようか。」


「本当か?メンバー全員まとめてやってくれるのか?」


「う…、うん。ぜんぜん問題ない。どうせなら、孤児院で、小さい子達もまとめて勉強しようか?大きくなって字が読めないと不便だろう?計算は、小さい子達には無理かもしれないけど、読み書きの勉強は一緒にできるんじゃないかな。」


「本当か?孤児院のシスターたちもそれを聞いたら喜ぶかもしれない。昔は、読み書きを教えることができるシスターもいたらしいのだが、今はもういなくてな。…、シスターたちも一緒に勉強したいと言ったら許可してもらえるか?」


「教えられるかどうか分からないけど…、孤児院に本はある?」


「本…、あったかな…。どうしてだ?本がないと何か困るのか?」


「そういう訳じゃないんだけど、たとえば、テラが好きな物語とかない?」


「あるぞ。騎士の物語でな。本当は女なのだが、男と偽っているのだ。子どもの頃からな。そして、宮廷騎士団に入るのだが、そこで王子と恋に落ちてな。」


「その話って、最初から最後までお話しできる?」


「うっ…、最初からか…、うーん。できる。できると思うぞ。」


「文字の読み書きができたら、物語をずーっと正確に伝えたり話したりできるようになるんだよ。だから、好きな本が読めるようになるのを目標に字の勉強をしたらいいかなって思ったんだ。もしかしたら、冒険者ギルドに、テラが好きな騎士の物語があるかもしれないよ。ない可能性の方が高いけど、もしかしたらね。」


「そ、そうか。字が読めたら冒険者ギルドとの契約の時に費用が安くなるだけじゃなくて、花の騎士様の物語も読めるようになるのか…。」


「そうだよ。一つだけじゃなくて色々な物語も読めるようになるよ。だから、字の勉強と計算の勉強をしようよ。もしも、テラがその物語を全部話せるなら、本することもできるかもしれないよ。少しずつだけどね。」


「それは、私たちからお願いしたいことよ。明日から…。院に来てくれる?今日帰ったらシスターたちに話しておく。約束だぞ。字の勉強と騎士様の物語の本を作ること両方約束したからな。」


「うん。約束だね。明日、朝、冒険者ギルドに行く前に孤児院に行くね。朝一番に勉強してから冒険者ギルドに行くことにしよう。」


「凛は、いつも冒険者ギルドに行くくらいの時間に孤児院に来てくれ。それまでに朝の仕事を終わらせて勉強の準備をしておくから。そんなに早く来る必要はないぞ。」


「分かった。いつも冒険者ギルドに行くくらいの時間に孤児院に行けば良いんだね。そうするよ。今日の内に孤児院までの道を確認したいから、一緒について行って良いかい?」


「勿論だ。案内する。」


 この日は、金貨2枚と銀貨5枚がパーティー収入だ。一人銅貨1枚は、それぞれの必要に応じて使うお金ということにした。好きな物を買っても良いんじゃないかって話しながら、テラについて行って、孤児院までの道を確認した。


「孤児院でシスターたちと会っていくか?明日の朝から、字や計算を教えてくれるなら、会っていた方が良いだろう?」


「分かった。テラが紹介してくれるかい?」


「勿論だとも。さあ、入ってくれ。」


 僕は、テラに連れられて孤児院の中に入って行った。


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