第35話 下水処理場の清掃と冬の燃料
僕とフロルが3回ずつ汚泥を運んだら穴が一杯になった。その汚泥をリニとテラがドライスクロール使って乾燥させていく。僕たちが汚泥を集めている間にも乾燥させているから、満タンになって3回ずつくらいドライスクロールを使ったらカラカラに乾燥させることができた。
水分が抜けてもどんどん上から汚泥を足していったから、リンジーが作った穴の4分の3くらいにカチカチになった汚泥が詰まっている。次は、この乾燥汚泥を小さくして焼き場で燃えるかどうかを試す作業だ。
「フロル、ツルハシを使ってこのカチカチ汚泥を小さくしてくれないか?リニはクリエートの魔法でこの汚泥を棒状に変形できるか試してみて。上手く焼けたら良いんだけど。」
「俺は、この汚泥のカチカチを棒に変形させればいいんだな。棒状って言っても薪みたいな形の方が良いんだろう?」
「そうだね。あんまりツルツルだったら火が燃え移りにくいよね。」
「分かった。作ってみるよ。クリエート・ファイヤースティック。」
「じゃあ、俺は力仕事だね。身体強化。」
「おーい。焼き場の整地とレンガ敷きは終わったぞ。次は何をすればいい?」
リンジーが丁度、仮の焼き場準備を終えたようだ。
「今から、焼き場で汚泥を燃やしてみるから、次の汚泥入れを作っておいてよ。上手く焼くことができたら、本格的な焼き場を作らないといけないと思うけど、どっちにしても乾燥はさせないといけないからね。」
「了解だ。穴は、さっき作った場所の隣で良いか?」
「良いと思うよ。テラとリニもそこで良い?乾燥作業邪魔にならない?」
「大丈夫だ。乾燥の邪魔にはならないと思うが、せっかく乾燥させた汚泥が濡れてダメになったりはしないだろうな。」
「そうだね。その心配はあるね。これだけカチカチに乾燥していたら少しくらい水がかかったからって直ぐにダメになることは無いと思うけど、用心に越したことは無いね。どうしたら良いかな?」
「普通に考えて、少し低い場所に作っておけばいいのではないか?どんどん低い場所に作っりながら最初の場所から離していけば、2つか3つ間隔を開けて使えば水が入り込んで困ることは無いと思うぞ。」
「テラ、それ、良い考えだと思う。そうか。2つの穴で何とかしようとしなければ簡単だ。という訳で、隣じゃなくて1m位右下に作っていこうか。それくらい離れていれば大丈夫だと思う。」
「了解だ。」
「凛、上手くいったぞ。薪みたいな形に成型することができた。」
「俺も、砕くことができたぞ。それに、臭いもあまりしなくなったみたいだぞ。鼻を近づけて臭いを嗅いだら臭いけど、汚泥の匂いに比べたら全然臭わないって言って良いくらいだ。」
「乾燥作戦は、成功って言って良いかもね。これで燃やすことができたら、燃料になったりしてね。」
「燃やしたら臭いかもしれないぜ。リンジーが作った焼き場に森で拾ってきた焚き付けと一緒に置いて、サラ、ようやく出番だぞ。しっかり火を点けてくれよ。」
「サラに任せて頂戴。燃え尽きなさい。ファイヤーボール。」
『ゴーーーーーーーッ』
「おいおい、そんな勢いでファイヤーボールを撃ったら、汚泥スティックをせっかく並べていたにばらばらになったじゃないか。」
「細かいこと言わない。火が点けばいいのよ。ちゃんと火は点いているでしょう。ホラホラ、消えないようにドンドン追加していきなさい。」
「次から点火のスクロールを準備しておくね。サラは、乾燥の方に回ってれないか。総魔力量を増やすには、魔力枯渇ぎりぎりまで使うしかないってよ。」
「ええ…。魔力切れおこすと気分が悪くなるのに…。サラ、嫌だな。」
サラは少し不満そうだったけど、ドライスクロールを10本くらい受け取ってテラたちの方に歩いて行った。着火のスクロールは前作ったことがあるから簡単だ。直ぐに20本作ることができた。でも、乾燥汚泥を砕いた物を乗せていったらどんどん火は強くなるから、着火のスクロールは初めに使うだけで良いみたいだ。
「フロル、煙の臭いは変じゃない?体に悪そうな臭いとかしていない?」
「そうだな。特に感じないけど、臭いがなくても体の毒になる煙もあるみたいだから、用心に越したことは無いね。でも、完全に大丈夫とは言えないけど、これだけ近くで作業していも気分が悪くなったり変な気持ちになったりしないから今の所大丈夫だと思うよ。」
「凛、冒険者ギルドに毒に詳しい人がいないか聞いてみて、煙の検査をしてもらったらいいかもしれないな。鑑定スキルがある人がいれば、少しは分かるかもしれないけどな。」
「テラが言う通りにしよう。誰か、今からだけか冒険者ギルドに行って、汚泥が燃えるみたいだから、燃やした時、毒ガスなんかが発生していないか鑑定して欲しいって伝えて来てくれない。」
「俺が行ってくる。他の連中じゃあ、スラムの側を通ってギルドまで行くのは一人じゃ心配だからな。」
リニがそう言うと、そのまま走ってギルドに鑑定依頼に行ってくれた。
「無害だったら、これから冬にかけての燃料に使うことができるかもしれないな。乾燥させたら臭いもないし、火の付きやすさは薪と変わらない。」
テラは、商売っ気があるようで、この汚泥を燃料として売り出そうかと考えているようだ。冬になれば、特に薪なんかの燃料の需要は多くなるから、販売することが出れば一儲けできるかもしれない。
「そうだね。もしも、燃料として販売するなら、水に濡れた時にどのくらい臭うかも確認しておかないといけないかもしれないね。」
僕がそう言うとリンジーが直ぐに被せてきた。
「それは、ここで作業していたら分かるんじゃないか、その内雨も降るだろうしね。」
「鑑定が終わるまでは、あんまり沢山燃やすのは危ないかもしれないから、汚泥運びと乾燥作業を進めていこう。もしも、有害なガスが出るのなら、人気がない所で燃やすなり、高い煙突を作ってガスを上空に逃がすなりしないといけないかもしれないからね。」
「とにかく乾燥したら臭いがしないのなら、できるだけ早く乾燥させて、臭いの元をなくしてしまいましょう。」
テラの指示に従って、汚泥集めと乾燥を始めることにした。リンジーは、その隣下に次の穴を作り始めた。僕とフロルが汚泥を運んで、テラとサラが乾燥作業をして、リンジーがその隣隣下に穴を掘る。二つ目の穴の汚泥が乾燥して、3つ目の穴の汚泥が半分くらい溜まった頃、リニと一緒に、ギルドからギルマスがやってきた。ギルドで一番偉い人が何の用なんだろう。
「やあ、やっとるな。ギルドの塩漬け依頼を引き受けてくれた上に凄い情報を持ってきてくたな。もしも、上手い具合に燃料に使えそうなら、大手柄だぞ。」
そう言うと、一番初めに乾燥させた汚泥の所に行って手をかざした。
「うむ。魔石炭に似ているな。そのものではないだろうが、これを燃やして害になるガスなどは出ないようだが、その場の魔素が若干濃くなるかもしれぬな。魔力病の病人がいる場所では燃やすことはできぬだろうが、それ以外の者には、害になるどころか、健康増進役に立つかもしれぬぞ。」
「それじゃあ、燃料として売り出しても大丈夫か?」
テラが真剣な目でギルドマスターに聞いている。
「うむ。それはかまわぬが、それよりも100kg銭貨5枚でギルドに販売せんか?この穴一杯の魔石炭でそうさなあ、およそ100000kgはあるだろうから銭貨5000枚で銀貨5枚程になるぞ。」
「それじゃあ、今作っているだけで穴2つ半近く汚泥は溜まっているから3つまで乾かしたら銀貨15枚ってことなのか?」
「おう。そうなるな。ただし、ギルドまでは運んで貰わないとならないぞ。凛には、アイテムボックスがあるようだが、どのくらい運ぶことができるんだ?」
「どうかな。フロル、乾燥した汚泥を詰め込めるだけ詰め込んでみてよ。」
僕がそう言うと、フロルは一つ目の穴に入った魔石炭をストレージに収納しようと手を着けた。」
「ストレージ・オープン・収納。…、うぁー。ぜ全部収納できたよ。でも、もう無理みたい。俺は、穴一つ分で目一杯だ。」
「じゃあ、僕が収納してみるね。アイテムボックス・収納」
僕は、穴一杯分を収納してもまだ余裕がある。
「それなら、凜にもう少し頑張って運んでもらおうな。フロル、リニとギルマスと一緒に一足先にギルドに戻って魔石炭を買い取ってもらって来てくれ。それからすぐに戻って来ること。いい?凜は、もう一つの穴を一杯にして乾燥させたら、穴、2杯分の魔石炭を収納してみてくれないか?そして、時間はまだ早いけど、ギルドに買い取りしてもらいに行こう。全部で金貨1枚と銀貨5枚になるならパーティーハウスの手付金には十分のはずだ。」
「分かった。できるだけ早く次の穴を一杯にするね。サラとテラは、乾燥頑張って。リンジーも乾燥の手伝いをするならスクロール渡すよ。」
「いや、俺は、次の穴を作っておくよ。4つの穴があれば、かなりスムーズに回せると思わないか?」
「それもそうね。じゃあ、リンジーは乾燥穴作りを頼む。私とサラで乾燥を頑張る。」
僕が穴一杯にした汚泥をサラとテラが乾かし終わった頃、リニとフロルが戻ってきた。僕は、穴二つ分の魔石炭もどきを収納しても全く余裕だった。
フロルが道具を全て収納して、皆で冒険者ギルドに向かった。さっきの魔石炭は、全部で銀貨12枚で買い取ってもらえたそうだ。その中には魔石炭もどき発見の報償金も含んでいるということだった。
今度卸す魔石炭もどきの買い取り額がこれから貰うことができる金額の基準になる。
ミラさんの前に並んで、魔石炭もどきの買取りをお願いすると、裏の倉庫に行くように言われた。
「おう、またお前たちか。あの魔石炭もどきは、もっとたくさん集めて来てくれよ。今年の冬の大目玉燃料だからな。さあ、どの位の量を持って来たんだ?」
「ええっと。さっきよりたくさん持ってきてるよ。どこに出したら良い?」
「さっきより多いのか。それなら、あっちの端に出してくれ。しかし、下水処理場の汚泥が燃料になるなんて良く分かったな。偶然見つけたにしても凄いぞ、お前ら。」
「えへへ…。そうかな。じゃ…あ、出すよ。」
『ドゴン、ガラガラ…、ドゴン、ガラ、カラ…。』
かなりの量だ。さっきよりも目一杯穴で乾燥させたし、二穴分だ。おじさんも少しびっくりしているみたいだった。
「おお、こりゃあ凄いな。質は…、さっきと同じだな。この量だとさっきの2.5倍は持って来たか。査定は…、銀貨13枚だな。明日も期待しているぞ。」
今日の稼ぎは当初の予定をはるかに超えて金貨2枚と銀貨1枚もの金額になった。明日にでも早速、家探しに行こうかな…。
僕たちは、おじさんに貰った査定表を持ってギルドの受付に行き、僕の冒険者カードに入金してもらった。やっぱりその金額だと現金で持ち歩くのはちょっと怖い。そうこうしているうちにロジャーが帰って来た。ロジャーが依頼料と素材代として受け取った金額は僕たちよりもかなり多かったようだ。受付のお姉さんもびっくりしていた。
こうして、下水処理場の清掃一日目は思った以上の成果で終わった。明日が楽しみだ。
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