第33話 魔術回路の活性化

「ングッ!もう、どうして口を押えるんだよ!」


「今、呪文を唱えたら、魔術が発動するかもしれないんだよ。事故が起こっちゃうよ。」


「えっ、本当に?でも、回路が活性化したってどうしてわかるんだ?」


「危なくないところで試してみたら分かるよ。サラ、リンジーと一緒に訓練所に行って魔術の練習をしてきて。リンジーの魔力回路は活性化したと思うから、魔術が発現してるはずだよ。」


「本当?リンジー、魔術を使えるようになったの?」


「さあ、でも、さっき魔術をグルグルしている時、急にロックバレットって言葉が浮かんできたんだよな。それを言おうとしたら凜に口を押えられたんだけど。」


「呪文が浮かんできたのね。それなら、きっと魔術が使えるようになってるわ。じゃあ、サラが訓練所に一緒に行ってあげわ。ついらっしゃい。」


「一番年下の癖に、何威張ってんだよ。まったく。生意気なんだよ。自分だけ魔術が使えるからって。」


 悪態をつきながらも直に後ろをついて行くところがリンジーらしい。二人が会議室を出て行ってほんの少ししてテラたちが入ってきた。


「リンジーの魔力回路が活性化したんですって?」


 扉を開けるなり、テラが聞いてきた。


「そう。リンジーは、ロックバレットの呪文が頭に浮かんできたって言って今ギルドの訓練場に行ったよ。次は、僕が凛と魔力操作の練習する番だからね。テラとリニは昨日ロジャーと一杯、やっただろう。」


「わかった。フロルの番なのね。私たちは、二人でやってみる。でも、凜のやり方を見せてもらって良い?」


「全然、大丈夫だよ。フロルも良いでしょう。それに、ロジャーももうすぐ戻って来ると思うから、二人でやるよりロジャーを待っていた方が安全だと思うよ。」


「そうね。魔力操作が不慣れな二人でやるよりもロジャーさんを待っていた方が良いかもな。」


「うん。昨日は俺たち二人とも魔力の流れを変える方法がうまく掴めなくて、循環させるだけがやっとだったからな。」


「凛とフロルのやり方を見せてもらいましょう。」


「じゃあ、始めるよ。」


 フロルは、リンジーのやり方を見ていたから右手の平を下、左手の平を上に向けて待っている。僕は、手をつないで魔力を流し始めた。


「うん。分かるよ。温かい魔力が凜の右手から僕の左手の方に入ってくる。左肩の方に押し上げられて行って実が肩に向かって右手の方に降りてきたよ。凛の魔力に押し流されている感じだね。昨日はロジャーさんの魔力を感じる所で終わったから…。こんな風に移動していくんだね。うん。なんだかポカポカだよ。」


「魔力の流れを感じたら、まず、首の方に移動させてみて。肩の上に沿って魔力を流して、そのまま、首の方に上がって行くんだよ。」


「首の方だね。肩に沿って流して行って首の所で上に向きを変えて…。できたよ。首の方が温かくなった。それから下に降ろして、右肩から…、手から凜に渡すんだ。」


「肩に沿って流して、首の方に向きを変えるのか…。それは、やってなかったな。直ぐに下に向きを変えようとしていた。」


「今日は、首の方に曲げることからやってみよう。何かできる気がしてきた。」


 テラが、リニと話している。そんな会話を聞きながら僕とフロルは、魔力操作の練習を続けていった。


「今度は、首の方にあげた要領で左肩から直ぐに脇の方に向かって下げてみるよ。少し下がったら右わきの方に向かってね。左肩から左脇だよ。一回下に向かうコツを掴んたら、直ぐにおへそまでは下げられるから頑張って。」


「分かった。左肩から脇だね。左肩から脇の方に左肩から脇の方に曲がって…。右わきの方に移動して…。肩に上がって右手の方に来たよ。下に下がった。良し…。下に下がって右に行って…。できるできた。」


「いいよ。その調子。今度は、脇からもっと下がって行くよ。左脇腹から、おへその下を通って右わき腹に行って上に上がるよ。できそう?」


「できる。できたよ。それからおへその回りをグルリと回すんだよね。回って。回れ。回れ…。何となくグルリ…、で…、できた。」


「何周も回して。グルグルグルグル回していたらその辺りに魔力を吸い込むような場所があるでしょう。魔力が吸い込まれたらそのまま回すんだよ。呪文は唱えないで…。吸い込まれる場所ある…。」


「魔力を回す場所を少しずつ変えて探してみる。グルグルグルグル…。あっ、ある。魔力を吸い込んでいくよ。」


「僕は、もう手を離すからね。吸い込まれた場所に、フロルの体の中にある魔力を流し込んでごらん。体中の魔力が回路にむって流れ込んでくるよ。自分の魔力を流し込んだら、その辺りが温かくなるはずだよ。どう?」


「うん。来た。温かくなって来て…。呪文が浮かんできたよ。うん。今は唱えちゃダメなんだよね。うん。できたと思う。後で確認してみるから。魔力の流れを止めたいときはどうしたら良いの?」


「両方の手の平から魔力を逃がす感じで流れを止めるんだよ。できそう?外の魔力と体の中の魔力を同じ濃さにするイメージだよ。深呼吸しながらゆっくり息を吐いていってごらん。魔力のが流れが収まってこない?」


「うん…。できた。凄い勢いで動いていた魔力が静かになった。これで僕も魔術が使えるのかな…。」


「フロルは、どんな魔術が浮かんできたの?」


「僕の頭に浮かんできたのは身体強化。それと、ストレージオープンって言う呪文だよ。…、あれ?目の前に黒い穴みたいなものが…、何?これ。」


「ロジャーと同じスキルだ。フロルの魔術回路が活性化したんだよ。」


 その時、ロジャーがギルドの依頼終了の手続きを終えて部屋に入ってきた。


「ロジャー、リンジーとフロルの魔術回路が活性化したみたいだよ。」


「ほっ、本当か?昨日は、魔力を感じるのがやっとだったのに…。凜の教え方が上手なのだろうな。」


「僕は、ロジャーに教えてもらったのをそのままやっただけだよ。ロジャーがその時のやり方を忘れているだけじゃない?」


「うむ…。そうなのかのう。フロルはどのようなスキルや魔術が発動したのだ?」


「ストレージと身体強化です。ロジャーさんと同じだって凜が言ってたけど、同じですか?」


「うむ。大体おなじゃな。それなら、儂と一緒に修行ができるかもしれぬな。この町にいる間に一人前になるように鍛えてやれぬこともないな。着いて来れるか?」


「はい。お願いします。まあ、ストレージならその辺の物を入れたり出したりしておけ。そのうち容量が上がったり、収納口が大きくなったりの変化が現れるだろう。回数を増やすことが大切だぞ。」


「はい。分かりました。凛、何か収納できるような物を持っていないか?とにかく練習したい。」


「粘土なんてどうだい?さっきたくさん採って来だろう。」


「このマジックバッグに魔力登録すれば、自由に取り出せるからな。下のギルド訓練所に行って粘度の出し入れを練習してくればいいんじゃないか?」


「いや。待て。どうせなら投擲の練習をした方が良い。凛、お主、この前作ったクナイの錬金はできるな?」


「うん。できると思うよ。でも、材料は持っていないよ。」


「練習用だから、普通の鉄で十分だろう。儂が持っている鉄鉱石を渡すから鉄製のクナイを10本ほど作ってくれないか。フロルは、凜に作ってもらったクナイで投擲の練習をしてくるのだ。ただし、全部ストレージに入れて、投げる時には手元に出すのだ。良いな。初めは、ストレージ・オープンの呪文を唱えても良い。しかし、慣れてきたら呪文を唱えずとも手元に出すことができるように練習しておくのだぞ。良いな。」


「はい。頑張ります。」


 フロルが、訓練所に移動すると直ぐにテラとリニの魔力操作の訓練を始めた。フロルの訓練を見ていた二人は、直ぐに魔力回路を活性化することができた。テラは、ヒールとウォーターボールの呪文が浮かんできて、リニはシールドバッシュの呪文が浮かんできたそうだ。


 ロジャーに連れられ、二人はそのまま訓練所に向かった。そして、僕は資料室に向かう。清掃に使えそうなスクロールと魔道具の錬金術式をできるだけたくさん見つけるためにだ。

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