第32話 資金稼ぎ
昨日だけの魔力操作訓練では、誰も魔術回路は活性化できなかったそうだ。今日の午前中はロジャーは、ギルドの採集依頼を受けて森に行く。昨日スライムの捕獲籠の話をしたら、採集依頼のついでに見つけることができたら取って来てくれると言ってくれた。そんなに強い魔物でもなく、割とどこにでもいて簡単に採集することができるらしい。図鑑にもそんなことが書いてあったから本当だと思う。擬態能力があるから索敵スキルがないと見つけるのが難しいとも書いてあった。ロジャーの索敵能力は高いから全然大丈夫だろう。
僕たちは、資金稼ぎの為に素材集めをすることにした。まず集めるのは、粘土だ。レンガやポーション瓶の素材として大量に必要だ。粘土を掘りだせる場所は、フロルが知っているというのでみんなでついて行っている。
「焼き物に使う粘土は、独特なにおいがするからね。川の側や山の中でも見つかることがあるよ。町の中を流れている川や森の中にあるから俺たちでも採集できるんだ。ただ、かなり深く穴を掘らないといけないんだけど、道具は大丈夫なのかな?」
「大丈夫。昨日資料室でスコップの錬金術式を見つけたからね。鉄鉱石はロジャーに貰っているし、木の部分は途中で拾えるでしょう。」
これは、昨日の話し合いで決まっていたことだ。レンガ造りや僕たちの資金稼ぎの元になるポーション瓶づくりの為にたくさんの粘土がいる。鉄鉱石や魔鉄鋼なんかは到底採集ができないけど、粘土とくず魔石なら何とかなる。城壁の中にもウサギの魔物やネズミに似た魔物は入り込んでいる。そんな小さな魔物を狩ることなら僕たちでもできるし、城壁内でもやらないといけないことだ。魔石の粉はくず魔石でも大きな魔石を砕いた物でも基本同じだ。だから、僕たちが手に入れられる物で作ることができる。
後は、武器だけど資料室の中にはなかった。見つけることができるとしたら錬金術師ギルドだろうけど、錬金術師ギルドに加入するのはなかなか難しいかもしれない。僕は、一般的な錬金術師と違うからだ。錬金術式もコピーしたり使用したりすることはできるけど、錬金釜が必要ない。これが一番大きな違いだ。そう言う意味では、ポーションを錬金できる錬金術師として、薬師ギルドに入れてもらったのは良かったけど、ポーションの素材集めは僕たちには無理だ。つまり、資金集めには使えない。薬師ギルドに武器に関する錬金術式があるとは思えないし、多分ない。だから、当面の課題は、錬金術師ギルドの資料室に入ることができるようになること。一番難しい。
今は、テラたちは、池のほとりでフロッガー取りを頑張っている。フロッガーは30cm位の地球のカエルに似た魔物で、水辺に潜んでいる。特別大きな物だと1m位の物もいるらしいけど流石にそんなに大きな魔物は城壁内にはいない。小さいうちに駆除されるからだ。こん棒で退治できるから、なかなか効率よく魔石が集まっているようだ。フロッガーの肉は美味しいらしいらしくて、魔石を取った後、解体して肉と皮に分けてマジックバッグの中に入れていた。皮は、臭いがしなくなるまで水洗いした後、干して伸ばせばスクロールに使えるそうだ。これも資金集めの素材になる。
午前中で、粘土500kg程とフロッガーの魔石と皮20匹分を手に入れた。これだけあれば、銅貨数枚は手に入れることができると思う。薬師ギルドで万能高級ポーション瓶の錬金術式を手に入れたからだ。これを道具屋に持って行ったら、もしかしたら銀貨何枚かで購入してくれるかもしれない。
もしくは、錬金術工房に行ってスクロールを買い取ってもらう手もある。紙の材料は、森の中で拾った材木で何とかなる。植物紙でスクロールを作って買い取ってもらおう。フロッガーの皮を乾かしてスクロールの台紙にする時間はないし、フロッガーの皮は、下水処理場の清掃に使うスクロールに必要な気がする。大切に下処理をしてもらわないといけない。その処理は、テラとリニができるって言っていた。
「午後からロジャーさんと魔力操作の訓練だな。その前にフロッガーの肉を院に届けて来て良いか?子どもたちがお肉があると喜ぶからな。」
「分かった。行ってらっしゃい。」
リニとテラが孤児院の方に走って行くのを見送りながら、僕たちは冒険者ギルドに入って行った。
「フロルとリンジー、ロジャーがまだ戻って来ていないみたいだから、僕と一緒に魔力操作の練習してみないか?」
「えっ、良いの?昨日は、テラとリニが先に練習して僕たちは少しずつしかできなかったからさ。あんまりわかんなかったんだよね。」
「僕は、ロジャーに教えてもらったけど、うまく教えれるかどうか分からないよ。それでも良かったら一緒にやってみよう。僕とロジャーとだったら簡単にできるんだけどね。」
「失敗したら、変なことになるなんてことないよね。」
フロルが少しビビリながら聞いてきた。
「僕が失敗した時は、魔力切れになって気を失ったけど、それだけだったよ。痛いとかなかったから大丈夫だと思う。でも、気を失っても危なくないところで練習した方が良いよね。」
「じゃあ、椅子の上じゃなくて床に座ってやってみよう。まず、俺からでいいか?」
リンジーが先にやってみたいと僕の側にやってきた。
「うん。良いよ。リンジーが先にやってみてよ。」
「じゃあ、リンジーと僕でやってみるからフロルは見てて。まず、左手を上に向けて、右手は僕の左手の上。僕が魔力をリンジーの左手に渡すから、魔力が左手に来たらグルーと回して右手に移して僕の左手の平に戻してくれるかい。魔力が左手にわたってきたのが分かったら教えてよ。」
「おっ。来た。暖かいな。凛の魔力って。次から次に来るから押し上げられていく感じだ。左肩まで来て、それを右肩の方に移動させるんだよね。」
「そうそう。そして、右肩から右腕に卸して右手だよ。そして、僕に渡して…。来た!ちゃんと戻せたよ。リンジー、上手い。」
「へへへ…。そ、そうかな。俺って上手い?」
「その調子でしばらく僕の魔力を循環させるよ。グルグルグルグルね。」
「お、おう。グルグルグルグルだな。何となくスムーズになってきた。魔力が回っているのが分かるぞ。どうして昨日はできなかったんだろう。何か簡単だぞ。それ、グルグルグルグル…。」
「じゃあ、魔力の通り道を下の方におろしていくよ。だんだんしてに降ろしておへその下を通って右肩に動かしていって…、できそうかい?」
「魔力を下の方に移動させるんだよね。中々下に行かないみだり肩から下に降りて行ってくれ…。」
「行けっ!下、下。降りてくれ!」
「慌てないで。魔力の流れを感じていればいいよ。そうだ。僕は初めは下に降ろさないで首の方に上げたんだった。リンジーもやってみて。左肩から右肩に行く途中に首があるでしょう。一度首の上の方にあげてみて。それが出来たら魔力の流れを変えるっていう感覚が分かるかもしれない。」
「分かった。一度、首の方だな。肩の上に沿って流れている魔力を肩に沿って上に向かって首だ。そうだ。そう。首にあげることができたぞ。そして、右肩にに行って右手。できた。」
「ねえ、フロル。私とやってみない。」
サラがぼそりと言ってきた。
「サラは、風と火属性の魔力だろう。魔力そのものを右手から出すことができるかい?風魔術や火魔術を発動したらフロルが怪我や火傷しちゃうよ。」
「そうか。だから、同属性か無属性じゃないと危ないんだ。」
「それだけじゃないと思うけど、属性を持つ魔力は、同属性じゃないと共有しにくいのかもしれないね。」
僕は、リンジーと魔力を循環させながらサラと話をしていた。ロジャーと練習していた頃は話をする余裕なんてなかったのに、魔力操作にだいぶ慣れたのかもしれない。
「リンジー、魔力の向きを変える感覚が分かったら左肩からまっすぐ下の方に魔力を移動させてみて。できそう?」
「おお、できそうだぜ。下に少しずつ向きを変えて…。今はおへそまでは下りていないけど、お腹の上の方まで降ろしている。もう少しでおへその下に降りるぞ。」
「うーーーーん。よし。降りた降りたぞ。」
「そのあたりに魔力が吸い込まれそうになる場所ない?」
「どうかな…。おへその下あたりを通して右手の方に上げているんだけど…。」
「その
「おへその周りをグルグル2周だな。ちょっと待ってやってみる。…。グルリと1周回って、もう1周…、そして、右肩の方に上がって…。グルグル回して右肩…。あ、ああああああああ!魔力が…。魔力が吸い込まれて、ああ。ロック…。」
「ダメ!ここで呪文を言ったらダメだよ。」
僕は、大慌てでリンジーの口を押えた。
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