第30話 二日目の障害と大きな依頼

 次の日、見習い冒険者の僕たちが依頼を受けることができる頃には、運搬の依頼がなくなっていた。どこからか、見習い冒険者が、運搬の依頼で一日で銀貨2枚も稼いだって言う話が広まったようだ。たった一日だったのに。


「どうしてだ。昨日まであんなに残っていたのに。」


 テラがそう言いながら、不思議そうに掲示板を、端から端まで確認している。


「なあ、お前たちか?運搬依頼を探しているのって。俺たちが請け負うつもりだった依頼を銅貨1枚で分けてやってもいいぜ。」


「それって、依頼料はいくらなんだ?」


 リニが話に乗って、話しかけてしまった。


「リニ、止めなさい。私たちができる依頼は、運搬だけじゃない。」


 テラは気が付いたようだ。今回、奴らの話に乗ってしまったら、これから先ずっと運搬の仕事は、初級冒険者たちから譲ってもらわないといけなくなってしまうってことに。俺たちより、先に依頼が貼ってある場所に行けるだけで、奴らは、働かなくてお金を手にして、僕たちは、初級冒険者の為に働かないといけなくなるんだ。そんなのおかしい。


「みんな、今日は、別の依頼を探す。私たちにできる依頼を色々持っていた方がこれからの為になるはずだ。」


 テラが言うように、これから冒険者になるなら色々な依頼を受けることができるようにならないといけない。荷物運搬特化の冒険者パーティーなんてそのうち行き詰まってしまう。


「テラ…、俺たちにできる依頼って荷物運びの他には、何だっけ?今までは、メッセージ運びや清掃が多かったよね。でも、清掃もそんなに報酬が良い物はないよ。」


「ねえ、あそこに一般依頼で、失敗の罰則が無しで、しかも、報酬が銀貨2枚って言うのがあるよ。人数制限もないし、良いんじゃない?」


 僕が見つけた依頼のことを話すと、テラとリニが顔をしかめて首を振った。


「それは、無理筋依頼だ。もう何カ月も前から掲示されている依頼だけど、一般依頼にしているのは、難易度の割に報酬が安いからさ。どちらかと言うと役所が責任逃れの為に出している依頼って言う感じかな。」


「どういうこと?」


「それはな。スラム街の先にある下水処理施設の清掃なんだけど、とにかく汚れがひどくてな。臭いが町の中に漂ってくるって言うんで、苦情がいつも出てるんだ。だから、役所がギルドに依頼を出したんだけど、やろうとしているんですよっていうポーズの依頼だから報酬も安くて誰も受けないっていう代物なんだよ。」


「じゃあ、僕たちがこの依頼を受けても、誰も横取りしようとしたりはしないってことだよね。」


「それはそうだけど、この依頼に何かメリットはある?」


「メリットかどうか分からないけど、僕たちの力がギルドやこの町に広がるよ。そうすれば、余計なことをしてくる奴がいない来るかもしれないでしょう。」


「そうね。町にとって役に立つと認識してもらえばね。」


「荷物運びだって、僕たちが慌てて他の連中から買い取ったりしければ、自分たちで引き受けないといけなくなるんだよ。スキルも道具もない初級冒険者が楽に引き受けられる依頼だとは思えない。だから、先取りして、その仕事を僕らに押し付けようとしている初級冒険者たちもその内諦めると思うんだ。諦めるまでの仕事にあの下水処理場の清掃依頼ってちょうど良いんじゃないかな?」


「どのくらいの期間で終わらせるつもりなの?」


「ギルドポイント次第だけど、報酬から考えたら長くて一月ひとつきかな。出来たら5日間くらいで終わらせたいのだけど、どう?」


「5日間で銀貨2枚の仕事だと思えば、割が良い仕事よね。私たち2年間で貯めたお金が銀貨3枚だったんだからさ。」


「でも、いくつかの見習い冒険者が引き受けて一度も成功しなかった依頼だぜ。俺たちもうまくいくとは思えないんだけど…、何か、考えがあるのか?」


「今はない。だから見に行こう。その壊れた下水処理施設って言うのをさ。どこをどんな風に掃除したら良いのか分からないと道具の準備のしようもないしさ。それ以上に、原因が分かってないといくら手の届く範囲をきれいにしても、直ぐに汚れちゃうと思うんだよね。でも、この町の下水って全部その壊れた下水処理場に流れ込んでるの?」


「いや、今は、新しい下水処理場ができていて、壊れた下水処理場には下水は流れ込んでいないはずなんだ。でも、町の雨水なんかは流れ込んでいるし、スラム街の下水も流れ込んでいると思う。でも、これは、俺がそう思うって言うだけで、本当の所は良く分からない。」


「じゃあ、どうしてその下水処理場は壊れたままなの?」


「壊れたままと言うか、新しい下水処理場ができて整備が滞ってしまって壊れたのかもしれないな。でもここ数年ずっと壊れている。早いうちに清掃作業を入れてメンテナンスをすれば良かったんだろうけど、今じゃ、メンテ前の清掃に苦労していて、誰も引き受け手がいない状態だ。ここまでが、私がギルドで聞いて分かったことだ。」


 テラの説明を聞いていると、どうも町の役所の手抜きがそもそもの原因のような気がしてきた。それに、スラムの側にあるというのもメンテが滞った原因と言うかきっかけだったのかもしれない。貧しい人々への予算は付きにくい。下水処理場をスラムの側に作ったのだって、差別意識の表れなんじゃないだろうか。


 とにかく、その下水処理場に行ってみようということになり、一応、下水処理場清掃の依頼用紙を掲示板から剥ぎ取って、受付にいった。


「今から、その下水処理場を見に行ってきます。この依頼は失敗時の罰則はないのですよね。」


「はい。依頼の受注処理だけで良いことになっています。ただし、誰が受注しているのかをはっきりする為に、今皆さんがこの依頼をお受けになると他の方は受けることができなくなります。もしも、依頼を取りやめになさるときは、直ぐにお知らせ願います。」


「それを聞いて安心しました。それと、依頼受注後の達成までの期間と達成の目安と言うのは設定されているのですか?」


「特に設定されておりません。臭いが気にならないくらいきれいになれば依頼達成ということになります。」


「臭いが消えているのは、1日間だけでも良いのですか?下水処施設が壊れているのでしたら、一度きれいにしても直ぐに臭いがしてくると思うのですが。」


「1時間でも、臭いが消えている時間があれば依頼達成とさせていただきます。きれいになったらすぐにメンテが実行されるはずですから、出来ましたら、いつぐらいにきれいにできるか途中経過の報告を頂きたく思います。」


「契約の内容は大体わかりました。それって、書面で契約を交わすのですか?かなり複雑な内容だったように思うのですが…。」


「はい。勿論でございます。この依頼はかなり長期間達成できておりませんから、依頼達成が確認できた時、ギルドからポイントのボーナスを進呈することになっています。依頼金の増額ではなくて申し訳ないのですが、それでご容赦ください。」


「あの…、そのボーナスポイントってどのくらいなのでしょう。」


「そうですね。一人で使用したらCランク冒険者になることができる位のポイントです。みなさん全員に均等に振り分けたとしても、初級冒険者になる費用が免除になってEランク冒険者から出発できるくらいのポイントになりますよ。まあ、その位大変な依頼だということですが、宜しくお願いします。」


「わかった。できるだけ頑張ってみる。」


 テラの一言で依頼の仮受注がおわり、僕たちは、下水処理場を見に行くことにした。

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