第29話 初依頼達成

「テラ、ちょっといい。みんなで依頼を受ける前にテラとリニに知らせておかないといけないことがあるんだ。」


「何だ?急がないと、良い依頼は無くなってしまうんだぞ。」


「そうだぞ、凛。話は依頼を受けた後の方が良いと思うのだが。」


「大きな声を出さないでね。ギルドの中にはまだ人がたくさん残っているからさ。」


「え?一体どうしたんだ?」


 僕が手招きをするとリニが顔を近づけながら聞き返してきた。


「さっきね。ロジャーから便利な道具を貸してもらったんだ。それで、荷物運びのチームを3つに分けてやったらどうかと思ってさ。」


「その便利な道具とは何なのだ?」


「これだよ。マジックバッグ。これ一つで馬車1台分くらいの荷物が入るんだって。それで、これを使って荷物運びをしたらいいんじゃないかってさ。」


「マジックバッグだって!」


「リニ、大きな声出さないで。それでさ。テラとリニにバッグを預けるからさ、テラが誰と組んだらいいかな?」


「それなら、私とリンジーが良いかもしれない。リニとサラが組んで凛とフロルが組めばバランスが良いのではないか。」


「じゃあ、ペアリングはそれで。今日は初めてだから、あんまり大きな荷物じゃない方が良いと思うんだ。重くても小さめの荷物。報酬は、銅貨1枚でも良いと思うんだけど、そんな依頼から初めてみないかい。」


「そうだな。重くて運びにくい物は割合多く依頼が出ている。俺たちだってそんな荷物は嫌だったから引き受けなかったけど、バッグがあるなら楽勝だな。分かった。そんな依頼を探してみよう。話は、それだけか?」


「うん。ロジャーに言われたんだけど、使い終わったらきちんときれいに拭いて返すようにってさ。」


「勿論だ。大切に使わせてもらう。」


「みんな、集まってくれ。」


 テラの声掛けに掲示板の前で依頼を探していた4人が集まってきた。でも、みんな字が読めないって言ってたけどどうやって依頼を探しているんだろう?


「良さげな依頼は見つかったか?」


「手紙運びがあったけど、他の町かもしれない。Rランクの依頼だったから、遠い場所ではないと思うんだけど。」


 フロルは手紙って言う文字が読めるらしい。


「荷物運びは沢山あるけど、何を運ぶのか良く分からなかったぞ。テラは、少し字が読めるんだろう?俺たちができる依頼を教えてくれよ。」


「分かった、分かった。今から、受ける依頼を決めていくからな。その前に今日の依頼は、3つのグループに分かれて受ける。まず、私とリンジー。リニとサラ。フロルと凜だ。今日からしばらくは、このペアで依頼を受けるから仲良くやってくれよ。では、今から依頼の内容を確認する。今日は、運びにくい荷物の輸送依頼を受けるぞ。やり方は、後でゆっくり確認してくれ。凛とフロルのペアは、凜がやり方を知っているからちゃんと話を聞いてね。」


 それから僕たちは、依頼を吟味し始めた。荷物運びの依頼は、嵩張るけど軽い布を町の倉庫から工房まで運ぶ依頼を引き受けた。量は、馬車2台分ほどだということだったけど、依頼料は銅貨2枚。まあまあの依頼だ。普通はそんな値段じゃ引き受けないかもしれないけど、僕たちなら大丈夫だ。フロルが倉庫の場所も、工房も場所も知ってるということだった。


 テラは、リンジーと一緒に粘土を道具屋の倉庫から工房まで運ぶ依頼で、銅貨3枚を稼ぐ予定だ。リニとサラは、家具を運ぶ依頼を引き受けたようだったけど、大丈夫だったんだろうか?


 フロルと一緒に倉庫街に向かった。倉庫は、町の城門の西側に広がっていた。


「凛、本当にかさ張るんだぞ。布は皺にしちゃあいけないし、汚してもいけないんだ。俺たちで運ぶことなんてできるのか?」


「大丈夫だと思うけど…。僕も初めての依頼だから、絶対できるかどうかは分からないよ。でも、やるって言って依頼を貰ったんだから、やるしかないんだよ。そうだろう。さあ、この依頼書を持って、あのおじさんが受け付けてくれるのかな?」


「今日は。」


「おう。どうしたんだ?ここは、お前たちが遊びに来るようなところじゃねえぞ。」


「これ、この依頼できました。工房まで運ぶ荷物はどこにあるんですか?」


「ええ?布を運ぶ依頼だぞ?台車も何も持たないでどうやって運ぼうってんだ?まさか、1本ずつ運んで行こうって言うのか?布を巻いたものはな、見た目以上に重いし、皺になっちゃいけないんだ。お前たちには、無理だ、布をだめにして弁償金を払えって言われないうちに帰んな。まったく、ギルドは何考えているんだ。親方はこの依頼にいくら出したんだ?依頼料をケチるからいつまでたっても終わらないんだ。」


「おじさん。大丈夫だよ。僕は、荷物運びのスキルが発現しているからね。運べそうかどうかおじさんが確認してよ。ダメそうだったら、諦めて帰るからさ。」


 そう言って倉庫の中に入らせてもらった。


「どの布を運んだらいいの?」


「どの布って、ここに並べてある布は全部だ。なあ、持てないだろう。だからあきらめて帰んな。さっ。」


「アイテムボックス・オープン。収納。」


 一度の魔術で依頼されているすべての布を収納した。


「おっ、おい。そんなに一度に入れて大丈夫なのか?しわになったらいけないんだぞ。分かってるよな。」


「心配でしたら、一度出してお見せしましょうか?」


「おっ、おう。そうしてくれ。今なら、もしも皺になっていても直ぐに伸ばせばなんてことはない。」


「大丈夫ですって。ほら。」


 僕は、さっきと同じ位置に同じ向きで同じように取り出して見せた。勿論、皴なんてできている生地は一つもない。


「ねっ、大丈夫でしょう。今から、工房に持って行っていいですか?」


「おっ、おう。大切にな。宜しく頼む。」


「じゃあ、行ってきます。」


 僕とフロルは、道に迷うこともなく、服飾工房にたどり着くことができた。


「今日は。ギルド依頼の生地を運んできました。どこに出したら良いでしょうか。」


「ギルド依頼?ああ、倉庫から運んでくれたのか?で、生地はどこにあるんだ?」


「僕たちのスキルで、収納しているので、どこに出したら良いのかを教えて頂ければ、そこに出しますよ。置き方がある時は教えて下さい。」


 僕は、そう言うと、棚の開いている場所に次々に生地を出して行った。


「まて、まて。ちょっとまて。」


「えっ?ここじゃなかったですか?」


「いや、そういう訳ではない。いや、そうなんだが、まあ、いい。生地は、全て作業台の上においてくれ。その後、整理を手伝ってくれたら、銅貨1枚を追加する。それでどうだ?」


「はい。この台の上で宜しいでしょうか?あの…、どちら向きに置いて行ったらよいでしょうか?」


「横に並べて行ってくれ。皴にならないようにだぞ。」


「はい。分かりました。」


「フロル、僕が出すから、きれいに並べて言ってね。」


「分かった。」


「待て、待て…。お前、手はきれいか?汚れてないよな。布を触る前は、手を洗ってくるんだ。それから、この手袋を付けろ。良いな。汚したり、傷を付けたりしないようにするのだぞ。」


「分かりました。フロル丁寧にね。」


「分かった。丁寧に扱う。」


 それから、僕が出した布をフロルが丁寧に並べなおしながら預かったものをすべて出した。


「では、これから布の整理をしたいのだが、手伝ってくれるな。」


「フロルどうする?今からギルドに戻ったら次の依頼を受けられるかもしれないよ。」


「そうか…。その生地の整理ってどのくらい時間がかかりそうなの?」


「待て、待て、待ってくれ。銅貨2枚払う。頼むから整理まで手伝ってくれ。この量を整理して入れようとしたら、一日掛かりの仕事になってしまうんだ。」


「じゃあ、まず、どこにどれを入れるか番号を振って整理してくれますか。そうですね。フロル、数字は読めるかい?」


「うん。100までだって読めるぜ。」


「おじさん。今から入れる生地って、棚の開いている所に入れるんだよね。」


「フロル、今から僕が番号札を作るから、それをあいている場所にこちがわから順番になるように貼っていて。おじさんは、この布に棚の番号を貼って行ってくれない。これを間違えると後から大変だから慎重にお願いしますね。フロルは、2本分の隙間には二つの番号札を置くように気を付けてよ。おじさん。同じ場所に入れないといけない時は、同じ番号札が二つあっても良いからね。足りなかったら言って下さいね。」


 フロルが割り振った番号を見ながらおじさんが布に番号札を貼って行く。僕は、その番号札を頼りに生地を収納して番号の場所に置いて行く。400本以上あった生地は、30分程で棚の中に納まって、生地の整理は終了した。


「もう終わっちまったぜ。助かった。約束の銅貨2枚だ。それと依頼書を出しな。Aランク評価だ。ほれ!また、手伝ってくれよ。」


「おじさん。ありがとう。また、ギルド依頼、お願いしますね。」


 僕たちが依頼を終えてギルドに戻ってきたのはお昼過ぎた頃だった。依頼書をギルドに提出して、ギルドポイントを受け取る。フロルと二人で分けるけどAランク評価だから、2ポイントずつ貰えた。僕のポイントは、ギルドカードに直接記録される。フロルたちは、ギルドの台帳に記録してもらうのだそうだ。


 テラたちは先に依頼を終えて僕たちを待っていた。リニとサラは、僕たちがギルドポイントの手続きが終わる頃戻ってきた。みんなAランク評価を貰ったといっていた。僕たちが銅貨4枚。テラたちが銅貨3枚。リニたちも3枚だったから、今日の前半だけで銀貨1枚の稼ぎになったことになる。


「今日一日で、一月ひとつきの目標金額になったな。」


 テラが一安心したようにそう言った。


「でも、こんなスムーズに行くのは今日だけだと思った方が良いよ。時間はあるから、後1回ずつ依頼受けようよ。」


「もう一依頼か…。そうだな。じゃあ、同じように重い物、運びにくい物の依頼を中心に依頼を片付けていくよ。」


 テラの一言で全員が動き出す。1回目の依頼でやり方が分かったら、今度はスムーズだ。重かったり、大きかったりしても、移動距離が少ない方が割が良い。そんな風に考えて依頼を探すと割とたくさんある。町の中でも、重たい物や大きな物を運ぶのは大変だからだ。銅貨数枚ではあんまり受けたくない依頼だ。でもスキルと道具があるから、僕たちには、都合がいい依頼だといえる。


 でも、そのことが周りに知れると、この都合が良い依頼もなくなってしまう可能性が出てくる。スタートダッシュが大切だ。僕らが荷物運びに役に立つって町のみんなが認めてくれないとこれからの仕事はやりにくくなる。


 僕とフロルが選んだ仕事は、薪の運搬だ。町の東側にある木材の集積場から薪になる木材を食堂まで運ぶ仕事だ。今回は汚れたり壊れたりを気にしなくていい仕事だったけど、とにかく重たいし、嵩張る荷だ。フロルは、薪に最適な木材を見つけるのがとっても上手だ。建築材にならないような木切れを見つけては、薪として集めて来てくれた。僕はそれをどんどん収納していく。持ち出す前に一度チェックを受けないといけない。建築材になるような木材を持ち出していないかどうかのチェックだ。この時は、正直に全て出してチェックしてもらう。信用問題だから誤魔化しなんてしない。一度でもごまかしたら、スキル持ちはこの仕事が出来なくなってしまう。


 集めた薪を持って食堂にいった。食堂も材木店と契約しているから僕たちが持って行った薪にはしっかりとチェックが入る。


「薪割までしてくれたら、銅貨をもう1枚支払うんだが、やってくれないか?」


「フロル、薪割りってできそうか?」


「そりゃあ、薪割くらいできるぞ。でも、ここにある木材を全部薪にするってのは、きつすぎるぞ。凜のスキルで、ここの木を割るなんてできないのか?」


「薪を作る錬金術式なんて知らないし、無いんじゃないかな…。しょうがないね。折角だけどお断りしようか。その代わり、僕が作った着火のスクロールを20個サービスするよ。」


僕たちは、薪の管理をしているおじさんの所に行って、追加依頼を断った。


「僕たちじゃ、薪割りは無理みたい。でも、その代わりって言う訳じゃないんだけど、僕が作った着火のスクロールをサービスするよ。20個。これがあると、火付けが楽になると思うから、今回の運搬の依頼評価宜しくね。」


「運搬に関しちゃあ、不満はない。その上、着火のスクロールまでサービスしてくれるとなったらA評価をやらない訳にはいかないな。ご苦労さん。これからも宜しくな。」


「次に依頼を受けるまでに、薪づくりの道具か魔術を調べてみるよ。これからもよろしくね。」


 次の仕事もみんなうまくやったようだ。全員がAランク評価を貰って依頼料も合計で銅貨12枚になった。この調子で依頼をこなしていけば、荷物運びだけでも家賃を稼いで、自立することができるかもしれない。そんな淡い期待が感じられた初日だった。

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