見習い冒険者パーティー結成

第28話 町の仲間

 冒険者ギルドに着くと、テラが塞ぎ込んでいた。他のメンバーも元気がない。


「どうしたの?」


 リニに聞いてみた。


「マチルドさんが亡くなっていたんだ。」


「えっ?マチルドさんってリニたちがお金を預けていた人だよね。どうして?病気だったの?」


「魔物に襲われたって。フォレストウルフの群れに。森の中でじゃなくて、草原で。薬草採集依頼の途中で…。そんな所にフォレストウルフの群れが出てくることなんて今までかなかったのに。」


 テラは、それで落ち込んでいるようだ。お世話になった人だって言っていたし、そんな人が亡くなるなんてショックだったんだろう。


「テラ、大丈夫?」


「あっ、凛。来てくれたんだね。…、でも、ダメだ。マチルドさんが亡くなったんだって。親切で、剣の使い方だって教えるって言ってくれてたのに…。それに、預けていた銀貨3枚、無くなっちゃった。来月が成人の儀なのに…。それが終わったら孤児院を出て…働きに出される。他の町に…。それまでに冒険者になって独立するはずだったの。孤児院を出て、家を借りてこの子たちを迎える準備をするはずだったのに…。今から銀貨を貯めて家を借りるためのお金を貯めるなんて…、間に合わない。」


「ミラさんに聞いてみたの?銀貨3枚ってテラたちが預けていたお金なんでしょう。それって、ギルドカードから返してもらえないの?」


「預かり証とかがあれば、返せるんだけどって言われた。ギルドカードには、確かに銀貨が10枚程度蓄えられていたけど、その内の銀貨3枚が私たちの物だっていう証拠はないの。預かり証を書いてもらうなんて知らなかったし、マチルドさんは信用できる人だったから。こんなに急になくなるなんて思ってもいなかった…。」


「まずは、銀貨1枚を貯めればいいんだよね。住む場所は、僕とロジャーが何とかするよ。それなら、頑張れそうかい?それとも、命を失うかもしれない冒険者になるのはやっぱり止めるかい?」


 昨日ロジャーと話していたこと。パーティーハウスを借りようかって言う話。テラやリニたちのように、孤児院を出ないといけないパーティーの者を僕たちが借りた家にしばらくは済んでもらうことはできると思う。同じ家の中に住むか、別棟の準備するかは、これから考えるとして、どうせしばらく住む家を借りる話はしていたから、その方向で話を進めても大丈夫だろう。でも、その話にテラたちが乗ってくるかどうかは分からない。


「どういうこと?住む場所は何とかするって。」


「昨日、ロジャーと暫くこの町で生活することにしようって話したんだけどね。そうなるとずっと宿に住むのはもったいないでしょう。だから、家を借りるんだけど、その借りる家をパーティーハウスにしようかってロジャーが言ってくれたんだ。そこに、暫く住めばいいんじゃないかなって思うんだけど、どうかな?」


「パーティーハウスってロジャーさんのパーティーハウス?」


「ロジャーは、今の所ソロだから、僕のパーティーハウス。だって、僕ってこの町に来て間もないし、見習い冒険者登録はしたけど、一人じゃ依頼こなせそうにないでしょう。ロジャーが依頼で家を空けた時に一人では心許ないからさ。僕のパーティーで一緒に生活したらどうかなって…。それは、今僕が考えたことなんだけど、パーティーハウスの話は、きちんと昨日してるからね。ロジャーは、そのつもりで言ってくれたんだと思うよ。」


「私だけじゃなくてリニも一緒にそこで暮らすことになるの?でも…、そんなに大勢で住むことができるお屋敷なんて家賃がいくらかかると思う?私たちの稼ぎだけじゃ到底維持できないわよ。」


「そうだな…。僕とロジャーの個室と女の子の部屋と男の子の部屋と共有の食堂と台所。それがあればしばらくは十分かな。僕は、冒険者以外にもスキルを使って家賃位は何とかできるし、ロジャーはB級冒険者だしね。パーティーで家賃として銀貨1枚を稼ぐことができれば後はなんとかなるとおもうよ。僕のスキルは中々優秀なんだよ。」


「今日から一月で、銀貨2枚ペースで溜めていくことができたら、何とかなるってことかしら?」


「そうだね。それだけ貯められたら、リニやそれに続く子たちの冒険者登録やギルドカードの代金も全然余裕だろうね。やってみるかい?まだ、パーティーハウスも契約していないし、僕がどの位冒険者としてやっていけるかも分からないけど、挑戦してみる価値はあると思うんだけど、どうかな?」


「…、うん。やってみたい。冒険者になることが夢だったの。そして、絶対みんなで幸せになるって思って今まで頑張ってきたのに…。マチルドさんのことで自信がなくなって、ちょっとしたことで死ぬんだって改めて感じて怖くなっていたの。でも、やっぱり、皆と幸せになるってことは諦めたくない。だから、凛に少しだけ力を借りて良いかな?私たちも頑張るから。初めの間少しだけ力を貸してちょうだい。」


「うーん。力を借りのは、多分僕の方だと思う。初めはきっと足手まといだと思うけど、頑張るから、一緒に頑張ろう。」


「じゃあ、凜は、今日から仲間ってことで良いんだな?それなら、俺の弟分だ。面倒見てやるからしっかり頑張るんだぞ。」


「リンジー!調子に乗んるんじゃないぞ。宜しくな。凛。俺は、フロルだぞ。歳はリンジーの3カ月上。13歳だぞ。」


「凜は、リンジーよりも年下なの?私よりも下かな?サラは、サラよ。歳は、12歳。一番下っ端って言われるけど風属性と火属性の魔術が発現してる。ファイヤーポールとウィンドカッターしかできないけどね。宜しく。」


「俺がリニ、それからテラ。今までは、この5人で見習い冒険者パーティー、希望の光だ。これに凜が加わって、今日から新希望の光だな。まあ、みんな見習いだから正式なパーティー登録はできないけど、テラと俺が冒険者になったら、正式登録する予定だ。よろしくな。」


「それじゃあ、新希望の光の初依頼を受けようじゃない。町中の依頼なら報酬は安いけど荷物運びが定番よね。荷台も持ってないから大きな荷物は難しいわ。よさげな依頼を探しましょう。」


「テラ、あんまり大きな声では言えないけど、僕、アイテムボックス持っているからそこそこ大きかったり重かったりしても荷物運びの依頼を受けても良いよ。ただし、あんまり速くは歩いたり走ったりできないから、急ぎの荷物運びは無理かな…。」


「はい。さっきの指示は撤回よ。少々大きくても重くても何とかなりそうよ。銅貨1枚くらいの依頼があれば、飛びつきましょう。」


 その様子をロジャーは見ていたようだった。みんなで依頼が貼りだしてある掲示板の方へ移動しようとしたときにスッと近づいてきた。


「凛。お前に、このバッグを二つ預けておく。これはマジックバッグと言ってな。儂が依然ダンジョンで拾ったものだ。そうだな。大体馬車1台分位の荷物を入れることができると思うから、荷物運びにはこれを使え。この口を開いた所にある魔石に魔力を登録すれば使うことができるようになる。登録した時に、魔力を補充しておくようにな。使い終わったらきれいに拭いて返すのだぞ。」


 僕には、アイテムボックスがあるからこの二つは他の子に貸し出せばいい。魔力を登録しないといけないんだよね。テラに相談して、組み分けをしてもらわないといけないな。できるだけ均等になるように割り振ってもらおう。それに、バッグを持った子たちは、これがマジックバッグだって周りに知られないように気を付けてもらわないと余計に危ないことになるかもしれない。


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