第27話 冒険の準備

 宿に戻ってロジャーと話をした。


「凛よ。これで、この世界で食べていく手立ては手に入ったな。」


「でも、ロジャー、お金は食べられないんだよ。いくらお金を手に入れても、盗まれたり、殺されたりしたら何にもならないよ。生きていく為にお金は便利かもしれないけど、お金があれば生きていけるわけじゃないと思うんだけど…。だいたい、僕がどんなにお金を持っているって言っても誰も信用してくれないだろうし、食堂でご飯食べるのだって、僕一人じゃ無理な気がするんだよね。宿屋のおじさんたちだってロジャーがいるから面倒見てくれてるけど、居なくなったらどうなるか分んないよ。」


「それはそうかもしれないが、儂がいなくなっても一人で生きていけるようにしておかないとな。少なくとも、儂はお前が成人するまでは一緒にして色々と教えてやるつもりだが、もしもということもある。そう言う意味では、お前が独りで生きていけるようになっておくのも大切なことなのだよ。成人までは、まだ3年以上のあるからな。お前は、今年で12歳になるのだろう?」


「それは、良く分からないんだよね。だって、こっちの世界でこの子が何歳なのかもちゃんとは思い出せなくてさ。もやがかかっているような感じかな。名前だけかな…、思い出せるのは。レミだったかな。」


「そうか。お前を守ってくれていた騎士がいたから、貴族か何かだとは思うのだが、あんな辺鄙なところに護衛一人で馬車もなくいたこと自体少し変なのだがな。」


「レミのことが何も分からないんだよね。名前くらいしか。言葉や文字のことは問題ないのに変だよね。」


「そのことについては、凛の体のあるじが、こちらに戻って来た時に分かることであろう。多分、お主がこうして何事もなく元気なのは、あちらで、お前の体の主が元気だからだと思うぞ。」


「良く分からないけど、そうでいてくれないと、僕が帰る場所がなくなっちゃうからね。でも、前は眠ったら戻れていたのに、今は全然戻れなくなったのはどうしてなんだろう…。」


「うむ…。分からぬ。それが分かれば、いつでも戻れるようになるのだがな…。今日、調剤ギルドの会員になれたことは、かなり大きいぞ。しかし、調剤ギルドの会員は、国や町の移動に関してはあまり役に立たぬからな。見習い冒険者の資格はしっかりと守って行かないといけないぞ。」


「そうだよね。でも、僕一人じゃ、多分、配達依頼もこなすことが難しいよね。やっぱり、町に詳しい他の見習い冒険者と組まないとダメかな。」


「そうだな。ポーションの錬金である程度お金は手に入れることができるから、パーティーハウスを手に入れて、この町に詳しい者たちと一緒に活動するのも一つの手かもしれないな。しかし、凜には、人に言えない秘密があるからな。色々と。」


「そうかな…。例えばどんな秘密?」


「お主が異世界の知識を持っていること。錬金魔術師のスキルが顕現していることなどは誰にでも知られて良いことではないな。下手をすれば直ぐにさらわれたり、監禁されたりすると思うぞ。人目に付かぬ場所でこき使うためにな。その為にもしばらくは、早熟の錬金術師として活動することだな。早熟な者は珍しいが、錬金術師は沢山いるからな。」


「そうなんだ。でも、異世界の知識を持ってるって言っても僕は、まだ小学生で、大した知識を持ってないよ。」


「そうかな?まだ、気が付いていないだけで、色々と知っていることがあるのではないか?この世界を便利にしたり、変えていくような知識をな。」


「良く分からないや。でも、この世界が今よりも便利になったら良いかもね。みんな喜ぶんじゃない?」


「そうだな…。喜ぶ者もいれば、歓迎しない者もいるであろうな。」


「それでさ。話は戻るんだけど、誘われた見習い冒険者のパーティーってやっぱりやめた方が良いのかな。」


「しかし、凜一人では、簡単な依頼も難しいのであろう。それなら、この町に住む者たちと協力するのは間違いではないのではないか?」


「えっ?じゃあ、あの子たちと仲間になって良いの?」


「儂は、良いと思うぞ。ただし、対等な関係を維持できるように気を付けないといけないぞ。何か、分からないことがあれば、当面、儂に相談してくれ。お前の仲間を信頼できる確信できれば、仲間たち同士で相談して決めるようになれば良い。その為には、お前の秘密を知らせないといけないと思うがな。そのくらい信頼出来たらって言うことで、慌てることは無いぞ。」


「良く分からないけど、この町の子たちとパーティーを組んでやってみるよ。でも、お金は、僕の方がたくさん持っているでしょう。あの子たちがお金が必要な時はどうしたら良いの?」


「信頼できる仲間になるためには、お前が使うお金は、お前とあの仲間たちが一緒に稼いだ金だけにしておけ。調剤ギルドで稼いだ金は、絶対使わないように。そうだな。素材を自分たちで買ったり集めたりできる物で錬金した道具なら全員で共有しても良いだろう。錬金術式は、冒険者ギルドや調剤ギルドで調べて増やすことができるだろうからな。必要な素材を仲間に集めてきてもらって凜が錬金した物を全員で使うって言うのなら全然問題ないと思うぞ。」


「分かった。協力して活動を広げていけばいいんだね。荷物運びに僕のアイテムボックスを使うのは良い?」


「仲間にアイテムボックスのスキルを見せるのは良いが、商人なんかに大容量のアイテムボックスなんかをホイホイ見せるんじゃないぞ。変な商人だったらお前を馬車代わりに利用しようとするかもしれないからな。悪いことを考える奴はどこにでもいる。お前自身が自分自身を守れるようにならないといつそんな奴らに捕まるか分からないからな。用心に越したことは無い。」


「分かったよ。用心に越したことは無いだね。用心する。」


「では、今から宿に裏で素振りだ。木剣はもっているだろう。」


「えっ?今から。もうすぐ夕食の時間になるよ。」


「夕食まではしばらくある。素振りの後体術の訓練。それが終わって夕食だな。」


「ひえー、どうして急に厳しくなったの?」


「明日から、あいつらとパーティーを組むのだろう?足手まといなったり、逃げ遅れるようなことになったら、凜の命がいくつあっても足りないってことになる上にあいつらにも迷惑をかけるではないか。これから毎日、夕食前には訓練だ。良いな。」


「お…、はい。」



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