第26話 これは、高級万能回復ポーション?

 僕たちは、その足で調剤ギルドに向かった。昨日作った回復ポーションを査定してもらっていくらで販売したらいいか確認するためだ。


 ここでは、ロジャーが販売の手続きをしてくれることになっている。僕がすると子どもだからということで相手にしてもらえそうにないからだ。調剤ギルドは、とにかく権威と伝統が大事にされているそうだ。見習い錬金術師にもなっていない者が錬金したポーションなんてまともに査定さえしてもらえないだろう。ロジャーがポーションを持ち込んでくれたら、最低、査定だけはしてもらえるだろうというとだった。


「今日は。調剤ギルドにようこそ。今日はどのような御用でしょうか?」


「うむ。回復ポーションを10ℓほど手に入れてな。調剤ギルドで査定をお願いできないかと持参してまいったのだ。このギルドでポーションの査定は可能か?」


「1本、2本の査定は行っておりませんが、10ℓもの量であれば、可能でございます。今日は、全てお持ちなのでしょうか?」


「持ってきておるが、ここに出せばよいのか?」


「はい。一旦すべてお出しいただいて、その中から10㎖ほどをサンプルとして頂かさせてもらいます。それでよろしいでしょうか?」


「それで、かまわないのだが、10ℓのポーションを入れる容器を準備していただけぬか?」


「少々お待ちください。すぐに準備いたします。」


 受付のお姉さんは、奥に下がると大きな透明容器を持って、一人の男の人と一緒に戻ってきた。多分検査官なのだろう。白衣を着ている。


「では、こちらの容器にお願いします。」


「連れに持たせている故、この容器をお借りましすよ。凛、この中に回復ポーションを全部入れて出してくれ。」


「はい。」


 僕は、そう答えると、ポーションを透明容器に移してカウンターの上に取り出した。


「透明なエメラルドグリーンですね。このポーションはどこで手に入れたのですか?」


「それは、お伝えしかねますね。私たちの飯の種ですから。ただし、追加することは可能です。この10ℓで終わりという訳ではありませんし、ポーション瓶に入れて卸すことも可能ということでした。」


「了承いたしました。では、しばらくお待ちください。」


 それからしばらくの間待たされた。何をするっていう訳でもなかったから、ロジャーに言われて上級ポーション瓶を100本作っておいた。それでも、時間を持て余したから、受付のお姉さんと話をして、見習い薬師として調剤ギルドに加入するとギルドの図書室に入れるということを教えてもらった。ただし、見習い薬師になるには、薬師に弟子入りして推薦してもらわないといけないらしい。この町にもたくさんの薬師はいるけど、錬金術師系の薬師はいないということだった。


 そんなことをしている間にお昼が過ぎてしまった。少々お腹が空いた頃、ロジャーの名前が呼ばれた。


「ロジャー様。検査の結果が出ましたので、ギルマスのお部屋においでなさって下さい。」


「ロジャー、呼ばれているけど、僕はどうしよう。」


「ついて来て、交渉の仕方を見ておくのだ。これからのお前にも必要なことだからな。」


「うん。分かった。」


 僕たちは、ギルドマスターの部屋に案内された。ギルマスの横にはさっきポーションを試験管みたいなものに入れて持って行った白衣の男の人が座っていた。


「初めまして、わたくし、この調剤ギルドでギルドマスターを仰せつかっております。バルトロメーウス・ユストゥス・ヘンドリック・デ・ヘールと申します。ヘールとお呼びください。」


「先ほどは、挨拶もせず申し訳ございませんでした。私は、このギルドで検査官の任を授かっております。クンラートと申します。宜しくお願い致します。」


 さっきと比べると随分丁寧だ。どうしてだろう。


「では、クンラート、分析結果を伝えてくれ。」


「承知いたしました。ロジャー様、先ほどの回復ポーションの分析結果をお伝えいたします。簡易検査後、精密検査まで行いましたので、時間がかかってしまったことをお詫びいたします。検査の結果、先ほどの回復ポーションは、万能高級ポーションということで間違いないと思われます。10ℓ程ございましたから、ポーション瓶にして約100本分。高級ポーションの瓶に入っていれば、最低でも1本金貨10枚で取引させていただく等級の物でございます。」


「なるほど、やはり、高級回復ポーションであったか。色が透明のエメラルドグリーンであったからそうではないかと思っていたのだ。値段のことはそちらの言う通り、1本金貨10枚で構わないのだが、この高級ポーション瓶を見て欲しい。このポーション瓶に詰めて販売すればよいのか?凛、高級ポーション瓶を出してくれ。」


 ロジャーにそう言われ、僕は、さっき作った高級ポーション瓶を取り出してロジャーに渡した。


「少々拝見させていただきます。」


 分析官は、ポーション瓶を手に取ってあちらこちら細かく観察していた。


「申し訳ございませんが、このポーション瓶は、外傷用の高級回復ポーション瓶でございます。ロジャー様がお持ちなのは、万能回復ポーションでございますから、この瓶ではございません。勿論このポーション瓶に入れて保存しても質が落ちることは無いと思われます。その位この瓶の出来は良いのでございますがデザインが違います。錬金術で製造なさったものであれば、当ギルドに錬金術式が保管されておりますので、それを購入なさって錬金術師に作らせてはどうでしょうか。さすれば、その瓶に入れて卸して下さるということでお話を進めていきたいと存じますが…。」


「それは、良いことを伺った。実は、ここにいる儂の弟子が錬金術の才を持っていてな。材料も持って居る故、錬金術式さえ購入させていただければ、明日にでもポーションを納入できるのだが、どうであろう。まあ、分析結果の保証書さえ書いていただければ、道具屋に納品するということもできるからな。儂としてはどちらでも良いのだがな。」


「保証書を書くこともできますが、手数料が必要になりますし、我がギルドに納品して頂くことをお勧めいたします。80本以上のポーションを納入して頂けるのであれば、万能回復ポーション瓶の錬金術式のお代は必要ございません。ただし、保証料として、ポーションを卸して頂くまではいくらか納めて頂かないとなりませんが…、あるいは、我が町の調剤ギルドの会員になっていただければ、その会員登録料だけで結構でございます。ギルドカードをお作りになる場合は別途手数料が必要ですが、登録料は、銀貨1枚になっております。薬品等の売買手続きを年に1回以上して頂ければ、年会費等は必要ありません。如何でしょうか?」


「ギルド会員になれば、この調剤ギルドにある図書室にも入ることができるのか?」


「はい。勿論でございます。」


「それであれば、ここにいる凜に会員にならせることはできるか?この子がそのポーション瓶を作っているのでな。ポーションが手に入った時は、この子が作ったポーション瓶に詰めてこのギルドに卸すことになるのだ。儂は、このポーションを手に入れてくるのだが最終的にはこの子のアイテムボックスの中でポーションを瓶に詰めることになるという訳でな。この子を調剤ギルド会員にしてくれるというのであれば、会員になろうではないか。儂も会員になる必要があるなら、絶対にならぬという訳ではないが、どちらでもよいなら、凜を会員にして欲しいのだがどうだ。」


「ギルドカードは共有で結構ですし、凜様の会費は特別に免除いたしますので、ロジャー様がギルド会員になっていただけないでしょうか。凜様ですと、年齢が少々不足しておりますので。」


「ギルドカードは別々に作ろうと思う。カードを作って登録するのにいくら必要なのだ?」


「一枚につき、銀貨5枚でございます。ロジャー様の会員登録料と凜様のギルドカードに必要な費用を合わせると金貨1枚と銀貨1枚になります。かなりの出費になりますが…。」


「そのくらいなら大丈夫だ。ここで支払って良いなら支払うが、錬金術式を持ってきてもらいたい。錬金術式を確認して支払うことにする。ギルドカードも2枚用意してくれ。」


「直ぐにギルドカードと錬金術式を準備いたします。錬金術式が先の方がよろしいのですかね。凜様は、アイテムボックス持ちのようですが、その中に錬金釜もお持ちなのですか?」


「え?あ、はい。持っています。小さいですけど…。でも、錬金釜を出さなくても大丈夫ですよ。術式さえ頂ければ、作ることはできます。」


「それは、素晴らしい。長年、このギルドで検査官をやってまいりましたが、アイテムボックスの中で錬金釜を操作できる方を始めてみました。」


「そ、そうですか。僕もできるようになって日が浅い物ですから、それほど珍しいのですかね。」


 別にアイテムボックスの中で錬金釜を使っているわけじゃないけど、まあ、そう思ってもらっても別段構わないか。


 そんな話をしていると錬金術式が準備できた。僕は、術式を収納コピーして錬金製造の準備を整えた。声に出さないように気を付けながら


(アルケミー・万能回復ポーション瓶・200)


 多めにポーション瓶を作っておく。ポーション瓶を作り終わると小さな声でロジャーに耳打ちした。


「ロジャー、ポーション瓶を作ったよ。100本分の回復ポーションをおさめて良いかな?」


「うむ。分かった。では、ギルドカードができ次第、ポーションを納めて帰ることにしよう。」


「ギルドマスター殿、待っている間に凜がポーション瓶の製造を終えたようですから、まず、1本お出しして、検査官殿に検査をお願いしてよろしいですかな?」


「え?もう、製造が終わったのですか?高級ポーション瓶ですぞ。1本作るだけでもかなりの魔力が必要だと聞いたことがあるのですが、それを待っている間に作り終えたと?」


「はい。終わりました。ポーション箱がありましたら、箱に100本のポーションを入れて出しますので、準備お願いできますか?箱の精錬式と材料があれば、それを作って箱に入れて出すこともできると思います。あっそうだ。先に分析用の1本を出した方がよろしいですか?それとも、100本のポーション瓶の中からどれか一つを選んで検査しますか?どちらでも大丈夫です。」


「では、先に分析用の1本をお出しください。クンラート、ギルドの資料室にポーション瓶の箱の錬金術式はあったか?あれば、それと、その材料を準備してここに持ってくるように言ってくれ。」


 分析用のポーションを出すとギルマスは、クンラートさんに渡して箱の錬金術式を探してくるように指示を出していた。クンラートさんが分析の為、席を立つとまたしばらく待つことになった。その間にポーション瓶の箱の錬金術式と釘や板が運ばれてきた。


 ポーション瓶の箱2つはあっと言う間に製造が終わり、99本のポーションを箱に入れ、テーブルの上に出した。


 その間に、ギルドカードが準備できて一旦、ロジャーが金貨1枚と銀貨1枚を支払い、僕とロジャーの魔力登録をした。手続きがすべて終わった頃、クンラートさんがポーションを持って戻ってきた。


「間違いなく、先ほどの万能回復ポーションでございました。」


 箱に入った99本のポーション瓶を見て一瞬目を見開いていたけど、何事もなかったように手に持ったポーションを箱にあった1本分の隙間の場所に戻した。


「これで、100本の高級万能回復ポーションの納入は終了だな。」


「はい。確かに高級万能回復ポーション100本お納めいただきました。代金は、現金でお受け取りになりますか?それとも、ギルドカードにお納めいたしますか?」


「金貨1000枚は持ち歩くには少々多すぎるな…。どうだ凛、お主のギルドカードに入れてもらっていて良いか?」


「何かあった時のことを考えると半々が良くない?僕、そんな大金を持っていても良いことないと思うんだけどカードに入れておくなら少しは安心かな。」


「そうだな。では、500ずつカードに入れておいてくれ。それから、もう一度確認するが、ギルド会員ならここの図書館の本や資料を見ることができるのだな。凜が来ると思うが、必ず案内をしてくれよ。」


「畏まりました。錬金術師様なら大歓迎です。最近薬師系の錬金術師が少なくなっておりますからいろいろ勉強して、素晴らしいポーションを作れるようになって頂きたいと思います。」


 こんなは訳で、あっと言う間に僕たちは凄いお金持ちになってしまった?ロジャーが採集してきたのって初級回復ポーションの素材のはずだったのにいつの間に高級万能回復ポーションなんかになったんだろう。不思議だ…。

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