第25話 ポーション瓶は?

 道具屋に着くと店主が飛び出してきた。


「坊主、待っていたぞ。良かった。来てくれて。」


「どうしたのだ?頼まれたポーション瓶は全部作って渡したであろう?もう売り切れたのか?」


 ロジャーが店主に聞くと。


「そうなんです。次の日に大口の注文が入ったんですが、作ってもらったポーション瓶を全部渡しても、もっと欲しいと追加注文がございまして。お二方の連絡先をお聞きしていなかったこと、悔やんでいた所でございます。」


「今日は、錬金釜を借りに来たんじゃないいんだよ。ポーション瓶の材料を分けてもらおうと思って来たんだ。」


「そんなことを言ってくれるな。注文が入っておるのじゃ。錬金釜も術式も使って構わぬから、初級と中級それに上級のポーション瓶を作ってくれぬか?」


「おじさん、上級ポーション瓶の錬金術式も持ってるの?」


「おっおう。持っておるぞ。お主が作ってくれるのなら、錬金術式を譲ってやらぬでもないぞ。勿論、無料でだ。どうだ?それぞれ200本ずつ。初級も鉄貨5枚、中級を銅貨1枚、上級を銅貨5枚で買い取ろう。それぞれ200本ずつだから初級で金貨1枚、中級で金貨2枚、上級で金貨10枚の合計金貨13枚になるのだぞ。材料はうちの店で持つ。どうだ。破格の報酬であろう。しかし、そのねだんで買いとるには、一つだけ条件があるのだが、良いか?」


「うむ。その条件次第だな。」


「そんなに難しいことではない。その値段以下で他の店で売らないということだ。できれば、ポーション瓶の販売はうちだけにして欲しいのだが、そこまでは言うまい。これでどうだ?」


「凛、それくらいなら良いのではないか?この店よりも安い値で売るようなことをしてたらこの店の営業妨害になりかねんからな。色々してもらっているのに、そのようなことをしては申し訳ないと思うぞ。」


「でもさ。ポーションを売るのはどうするの?瓶ごと売ることになるよ。多分、調剤ギルド経由になると思うけど…。」


「お主が作ったポーションなら、初級であっても銅貨1枚以下になることは無いと思うぞ。だから、ポーション瓶をこの店よりも低額で販売したことにはならないさね。」


「わかった。おじさん。上級ポーション瓶の錬金術式とポーション瓶の材料を持ってきてくれない?まず、初級と中級の瓶の材料200本分ずつを分けて持ってきて。最後に上級ポーション瓶を作るから、その材料と術式も持ってきてね。」


「わかった。すぐに準備するから、工房の方で待っていてくれ。」


 僕は、ロジャーと一緒に工房に移動して、おじさんが材料を準備してくれるのを待っていた。おじさんは、店の人たち総出で材料を工房に運び込んでくれた。僕は、初級ポーション瓶の材料と錬金術式をアイテムボックスに入れると、錬金術式に魔力を流し込んでアイテムボックスの中にコピーした。魔力インクもアイテムボックスの中に入っているからかとってもスムーズだ。別に紙に書き写すわけじゃないんだけど、術式がアイテムボックスの中でコピーされたのが分かった。


「アルケミー・初級ポーション瓶200。」


 そう呪文を唱えるとアイテムボックスの中に初級ポーション瓶ができたのが分かった。


「おじさん、ポーション瓶を入れる箱を準備してくれる?」


「ポーション瓶を入れる箱だな。分かった。すぐに準備する。」


 おじさんがポーション瓶を入れる箱を準備している間に中級ポーション瓶の製造に取り掛かる。同様に錬金術式をアイテムボックス内にコピーして材料を収納したら、呪文を唱える。慣れるまでは、呪文はあった方が間違いないと思う。


「アルケミー・中級ポーション瓶・200。」


 初級ポーション瓶よりもほんの少しだけ時間がかかって、魔力が少し減ったのが感じられた。


 最後に上級ポーション瓶だ。中級ポーション瓶にあれだけ魔力が吸われたなら少し用心して作らないといけないな…。まず、100本を作って魔力の減り方を確認しよう。


 最初に、錬金術式のコピーを行う。次に、材料を収納する。


「アルケミー・上級ポーション瓶・100。」


 100本で中級ポーション瓶200本と同じくらいの魔力の減り具合と時間のかかり具合だった。続けて100本作っても全然余裕だ。


「アルケミー・上級ポーション瓶・100。」


「おじさん、その箱の錬金術式と材料もないですか?」


「ポーション瓶入れの箱か?ちょっと待て、あるはずだぞ。どうしてだ?」


「ちょっと試してみたいことがありまして…。できるなら、箱に詰めた状態で渡したいと思いまして…。できるかどうか分からないんだけど…。試してみて良い?」


「そう言うことなら、すぐにでも準備したいのだが、他の店から仕入れたものだからな…。それに、箱の材料は、木材と釘だが、それも錬金できるのか?坊主は?」


「分かんないけど、術式があればできると思う。」


「術式か…。この箱を収納して、その中に入れて出すことはできないか?」


「分かった。やってみるね。」


 僕は、お店で準備してもらった箱を収納した。


「アイテムボックス・オープン・初級ポーション瓶、1箱」


 工房の作業台の上に、箱に入った初級ポーション瓶が50本現れた。


「うまくいったね。じゃあ、残りのポーション瓶を出します。」


 そう言うと、残りの初級から上級ポーション瓶、550本を箱に入れて作業台の上に積み重ねていった。全部で12箱。


「も…もう、出来上がったのか?ちょっと待ってくれ、検品して代金を準備する。それから、さっきポーション瓶の材料が欲しいといっていたな。粘土と魔石だけで良いのか?魔力インクも準備した方が良いのなら準備するぞ。」


「粘土だけで、大丈夫です。それと、初級から上級の毒消しポーションの瓶の錬金術式もありませんか?」


「毒消しポーションの瓶か…。ちょっと待ってくれ。初級と中級なら絶対あったと思う。上級もあったかもしれぬが…、探してみる。粘土はどの位の量欲しいんだ?」


「ロジャー、どのくらい買ってたらいいと思う?」


「お主、昨日10ℓも作っていただろう。あれでポーション瓶100本分だ。それにまだ薬草が余っているからな…。そうだな。ポーション瓶500本分くらいの粘度を仕入れておけば良いのではないか。」


「おいおい。そんなにか…。うちの店の分がほとんどなくなっちまうな…。まあ良いか。600本のポーション瓶があれば、大量注文が入ってもしばらくは、対応できる。その間に粘土を仕入れるか…。」


 店主はぶつぶつと独り言を言いながら、粘土と毒消しポーションの瓶錬金術式を準備してくれた。少し時間がかかったが、毒消しポーション瓶も上級まで術式がみつかった。これで、調剤ギルドに行っても大丈夫だ。


「それじゃあ、粘土と毒消しポーション瓶の錬金術式の代金を教えてもらっても良いですか?」


「粘土は、儲け無しでいい。錬金術式を合わせて銀貨3枚が相場だろうな。それでどうだ?」


 僕は、ロジャーの方を見た。ロジャーはゆっくりと頷いている。


「はい。それで良いです。銀貨3枚を渡して金貨13枚を貰った方が良い?それとも差し引きして金貨12枚と銀貨7枚を貰った方が良い?」


「坊主、計算が早いな…。金貨13枚丁度なんてうちの店にはないからな。どうせ支払いに銀貨も入るのだ。差し引きにしてくれないか?」


「良いですよ。では、金貨12枚と銀貨7枚になります。」


「済まない。金貨10枚と銀貨27枚で支払わせてくれ。銅貨は、お釣りに必要だからな。」


 僕たちが、お金と粘土を受け取って店を出ようとしている時、店主の声が聞こえてきた。早速、ポーション瓶を売る算段が始まったらしい。


「おい。デルク、ストラーテンの旦那の所に行ってポーション瓶が揃いましたって知らせてきな。急いでいらっしゃったみたいだから、直ぐに買取にいらっしゃるだろう。」


「へい。行ってきます。」


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