第24話 それって、見習い冒険者パーティー?

 朝起きるとロジャーの顔があった。


「凜だよな。」


「うん。」


「顔を洗って、朝食に行くぞ。食べ終わったら、まず冒険者ギルドだ。町から出ない依頼を受けるのだぞ。まず、お主一人でできる依頼を受けてみるのだ。見習い冒険者の仲間を探して行っても良い。しかし、自分だけ、自分たちだけでやれる仕事を探すのだ。」


「分かった。自分だけでできる仕事だね。そして、仲間を探したらいいんだね。」


「そうだ。お主の仲間だ。この町で共に活動する仲間を探すのだぞ。」


 それから、宿での朝食を済ませて冒険者ギルドに向かった。既に、ギルドの中は冒険者でごった返していた。依頼の掲示板の側は、近づくことができないほどたくさんの冒険者で埋まっていた。


「こらこら、ここは子どもの遊び場じゃねぇんだぜ。」


 ロジャーから離れた場所から掲示板に近づこうとしたら大人の冒険者に払いのけられた。近づこうとするたびに押しのけられて掲示板を読むことができない。


「もう!僕にも依頼を読ませてよ。近づかないと読めないじゃないか。」


 群がっている大人の冒険者の後ろから大声を出していると手を引かれた。


「今は無理だ。もう少し待つんだ。どうせ、大人の冒険者と俺たち見習い冒険者は受けられる依頼が違うんだからさ。」


「そ…そうなの?僕、今日初めて依頼を受けるんで、良く分からなくて、大っきい子達が割り込んできてさ、どうして並んで見ないのかな…。」


「今並んでいるのは、みんな初級冒険者のランク無しのパーティーだよ。ランクがもらえたらそこそこの依頼を受けることができるようになるんだけど、ランク無しの初心者パーティーは少しでも依頼料が高い依頼かギルドポイントが高い依頼を手に入れないと生活できないから必死なんだ。俺たちは、まだ見習いだからどうせそんなに割のいい仕事なんて受けることができないのさ。Rランクって言うのは初心者ランクって言うことでさ。割の良い依頼は、俺たちには危険な依頼になっちまうからな。でも、俺たちは、冒険者登録できてるけど、お前はできてるのか?冒険者登録していないとRランクの依頼も受けられないんだぞ。一般依頼だけしかな。」


「それは、昨日、ギルドのお姉さんに聞いたよ。ちゃんと冒険者登録してるから大丈夫だよ。」


「そうか。お前、背は小さいのに本当は年行ってんだな。ドワーフ族か?」


「ドワーフ族?じゃないと思うけど、そういう君はいくつなの?君だって小さいじゃん。」


 僕に色々と教えてくれた男の子は、僕よりは背丈も大きかったけど、周りの冒険者に比べたら二回りくらい小さかった。


「余計なお世話だ。確かに男の中じゃ一番チビだけど、剣の腕も力も一番強いぜ。俺は、今年で13歳だ。後2年したら属性と職業を貰って、Cランク冒険者デビューするんだ。」


「自称だな。剣と力がこの中で一番って言うのは。平均値は一番強いかもしれなけどね。力が一番強いのはフロルだし、剣術だってリニに勝てたことないだろう。やあ、私は、このパーティーのリーダーをしているテラだ。こう見えても女だぞ。それから、このチビがリンジーだな。もう一人、後ろの方に隠れているのがサラだ。宜しくな。ところで、君の名前は何というんだ?」


「僕の名前は、凛。昨日、見習い冒険者登録をしたばかりです。」


「そうか。見習い冒険者同士宜しくな。」


「よろしくお願いします。パーティーってお姉さんたちは、パーティーで依頼を受けてるの?」


「見習い冒険者は、パーティー登録ができないから、正式なパーティーとして依頼を受けることはできないんだ。でも、何人かで組まないとできないような依頼もあるからな。そんな時は、私たちで請け負っている。後3ヶ月もしたら私とリニが成人して初級冒険者として登録することができるようになるんだ。本格的にパーティーとして活動するのはそれからだな。」


「でも、よくこんなにたくさんの仲間が集まったね。みんな兄弟じゃないんでしょう?」


「俺たちは、この町の孤児院で暮らしてるんだ。そこの仲間だ。リニとテラは、その孤児院の期待の星さ。俺たちは、成人したら冒険者になって独立するんだ。テラのパーティーでね。その為に頑張ってるのさ。冒険者登録するための金ももうすぐ溜まる。二人分だぞ。凄いだろう。」


「初級冒険者になるには、ギルドカードを作らないといけないのよね。そのお金が1枚につき銀貨2枚。鉄貨にしたら200枚なの。それがもうすぐ溜まるのよ。」


「あれ?ちょっと待って、ギルドカードって見習い冒険者と初級冒険者の物は違うの?」


「さあ、どうかしら。見習い冒険者のギルドカードを見たことがないから分からないわ。どうして?」


「あのね。昨日ギルドカードを作ったんだけど、銀貨1枚と見習い冒険者の登録料が銅貨1枚だったんだよ。もしかしたら初級冒険者の登録料が銀貨1枚なのかな?」


「じゃあ、あんたは、見習い冒険者の癖にギルドカードを作ってもらったの?」


「うん。僕は、この町を何時か出て行くからね。次の町にはいる時にギルドカードがあった方が便利なんだって。それに、ギルドの資料室にある資料を読ませてもらいたかったから作ったんだ。」


「「作ったんだって。」、銀貨1枚もの大金どうやって手に入れたのよ。犯罪を犯して稼いだんじゃないでしょうね。そんなことしたら、直ぐに没収されてしまうわよ。」


「違うよ。僕が作ったポーション瓶やフライパンを買ってもらった代金で支払ったんだよ。悪いことなんかしてないし。」


「お前、ポーション瓶なんか作れるのか?もしかして錬金術師なのか?錬金術師なら、俺の剣なんかも作ることできるのか?」


「僕は、多分錬金術師みたいなものだけど、錬金術師じゃないと思う。それと、剣はまだ作れないけど、もうすぐ作れるようになると思うよ。錬金術で物を作るには、錬金術式って言うのがいるんだ。剣の錬金術式はまだ持ってないけど、手に入れたら作れるようになる。たがら、作れるようになると思う。これで分かった?」


「「「あんた、私たちの(おまえ、俺たちの)仲間にならい?(か?)」」」


「えっ?どうして?僕なんか、昨日登録したばかりで何もできないよ。今日だって一人でできそうな簡単な依頼を探しに来ただけなんだよ。」


「お前は、俺たちが一番必要なスキルを持ってるんだよ。」


「一番必要なスキル?」


「そう。錬金術よ。私たちは、素材を探してきても安い値段で売るしかないんだ。そして、その素材で作られた物は、高くて手に入れられない。でも、あなたがいたら、その素材をうまく使って私たちの力にしてくれるはずでしょう。」


「後方支援?っていうのかな。それって錬金術師のはまり役って書いてあった。でも、僕、そんなに長くはこの町にいないかもしれないよ。」


「そっか…。でも、この町を出るまででもいいや。その間だけでもパーティーを組まない。勿論、集めた素材は山分けだし、それで作った物は、あなたの物として販売してもらっても良い。ただ、集めた素材で作った物のいくつかをパーティーに分けてくれないかしら。私たちが必要な分だけで良いの。」


「うーん。そうだ。初めは、お試し加入で良い?いくつかの依頼を一緒にやっみて決めるってことで良いかな?冒険者の依頼ってどんなものがあるかも分からないし、もともと、今日は一人で受けることができる依頼を受けるつもりだったからさ。」


 でも、見習い冒険者だけどパーティーか…。見習い冒険者パーティー?本当の意味のパーティーじゃあないよね。見習い冒険者はパーティー依頼は受けられないからさ。だけど、同じくらいの歳の友だちが出来たら楽しいよね。きっと。


 そんな話をしている間に混雑は少しずつ収まって、僕たちでも掲示板に近づくことができるようになってきた。


「あっ、そうだ。受付もすいてきたみたいだから、初級冒険者登録とギルドカード登録の費用について聞いた見たら?」


「そうね。マチルドさんたちに限って私たちを騙したなんてことは無いと思うんだけど…。まあ、聞いてみたらわかることよね。」


「マチルドさんって誰なの?」


「この町の初級冒険者よ。私たちが見習い冒険者登録をする時に色々お世話になった人なの。ギルドカードを持ってるって言ったから、私たちが溜めたお金は、カードにあずかってもらっているのよ。でも、最近会わないわね。この前預けてから何度も依頼を受けたから、お金が銅貨1枚分くらい溜まっているのよね。」


「ギルドカードに入れてもらっているなら安心だね。じゃあ、ついでにマチルドさんのことも聞いてみたら、依頼を受けて他の町とかに行っているのかもしれないよ。」


 僕たちは、そんな話をしながら、受付のミラさんの列に並んだ。だって、ミラさんって、僕の学校の先生みたいで色々聞きやすいんだ。学校には最近行ってないけど、去年までは、時々だけど行くことができた居たんだよね。


 朝一番の受付を済ませた冒険者たちが、ギルドから依頼の為に出て言った後だ。残っているのは、僕たちみたいな見習い冒険者やもっと小さな子どもたちとゆっくりとやってくる上級冒険者だけだから受け付けは人が少なくなっていた。


「ミラさん、お早うございます。」


「あら、凜君、今日は早いのね。で、何の御用かしら?」


「冒険者登録とギルドカードのことを聞きたいですけど、良いですか?」


「冒険者ギルドのギルドカードのことよね。凜君は昨日登録手続きは終っているわよ。」


「僕のことじゃなくて、この子たちのことなんですけど、昨日、ギルドカードの申し込みは、銀貨1枚って言ってましたよね。それで、なんですが、見習い冒険者から初級冒険者になる時、ギルドカードを持ってなかったら一人銀貨2枚必要なんですか?」


「それは、人によって違うけど、銀貨2枚必要な人もいるわよ。例えば、見習い冒険者としてギルドポイントを持ってなくて、字を書くことも読むこともできなかったら、その位必要かもしれないわね。契約書にサインするのに代筆屋を頼まないといけないでしょう。それが、高いのよ。ギルドカードはの登録費用は銀貨1枚でしょう。それに、初級冒険者の登録料が銅貨2枚。残り銅貨8枚分は、代書費用ね。代書屋によってはもう少し安い所もあるけど、もっとお金を取られるところもあるわ。どこの代書屋に頼むかは自分たちで決めないといけないけど、安いだけだと騙されたり、契約ができてなかったりすることもあるから気を付けないといけないわよ。」


「それじゃあ、ギルドポイントがあって読み書き出来たらいくら必要なの?」


「ギルドポイントが十分にあるなら、銀貨1枚ね。テラちゃんとリニだったら、ギルドポイントは十分持ってるから銀貨1枚で大丈夫だと思うわよ。でも、読み書きができないか…。それなら、銀貨2枚は準備しておかないと心配ね。」


「読み書きって、冒険者登録書ってそんなに難しいことを書かないといけないの?」


「そうね。見習い冒険者の登録書とほとんど同じなんだけど、大人だから、自分でしっかり読んで契約しないといけないのよ。見習い冒険者って言うのは、本契約じゃないでしょう。お手伝いの約束ごとみたいなものだから、危険な依頼も基本的にないのよ。でも、初級冒険者となると町の外に出ることが多くなるし、死と隣り合わせということになるから、しっかりと理解して契約してもらわないといけないの。だから、代書屋が付くことになるの。見習い登録みたいにギルド職員が説明して魔力登録して終わりっていう訳にはいかないでしょう。」


「そうなんだね。やっぱり銀貨2枚は準備していた方が安心なんだね。」


「凜君は、字が読めるのでしょう?」


「はい。字が読めないと本は読めませんから。」


「じゃあ、テラたちに読んであげたら?テラたちも凜君の言うことなら信用できるんじゃない?」


「あなた、リンって言うの?なんか、珍しい名前ね。それでさあ、やっぱり、私たちの仲間になってくれない?あなたがこの町にいる間だけでも良いからさ。」


「僕を君たちの見習い冒険者パーティーに入れてくれるってこと?」


「そう。そうなのよ。凜さえよかったら是非。一緒に依頼を受けましょう。」


「それは、楽しそうだけど…。ロジャー、どうしよう。」


 僕は、後ろで僕たちの様子を見ていたロジャーに聞いてみた。でも、ロジャーは何も答えてくれずに、僕たちの様子を見ているだけだった。


「凛、一人で受けることができそうな依頼はあったのか?」


 そうだった。今日は、僕一人で受けることができそうな依頼を探しに来たんだった。そう言われて、もう一度掲示板の所に戻って依頼を探してみたけど、掃除や荷物運びの依頼ばかりで、僕一人で受けることができそうな依頼はなかった。ロジャーやガルドが一緒なら色々な人に道を聞いたりして荷物運びはできそうなんだけど、この町の知っている場所から知ってる場所への荷物運びの依頼なんて一つもなかった。僕は、知ってる場所があまりに少なすぎるから仕方ないんだけど。


「一人でできそうな依頼なんてないみたい。」


「では、今日は依頼を受けることは諦めて道具屋と調剤ギルドに行くことにするか。見習い冒険者の諸君とは、明日、同じ時間にここで会うということにして、それまで、仲間になるのかどうかを考えればよい。一人で受けることができる依頼がないのは、今日だけかもしれぬからな。」


「そうだね。僕は、昨日見習い冒険者になったばかりだから、パーティーを組んだ方が良いのかは良く分かってない物ね…。」


「ねえ、みんな、僕は、今日は受けられる依頼がないみたいだから、明日また来るよ。その時に返事するってことで良いかな?」


 ロジャーに促され、冒険者ギルドを出ようとすると、テラたちがもう一度声をかけてきた。


「明日、この位の時間に待ってる。私たちとパーティーを組まないかって話、ちゃんと考えておいてね。きっとよ。」


「分かった。ちゃんと考えてみるから…。見習い冒険者パーティーだね。」

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