第23話 これって、初級ポーション?

 宿に戻って夕食を食べると部屋に戻ると、さっそくクリーンのスクロールを錬金した。


「アルケミー・クリーンスクロール」


 ロジャーにスクロールを手渡すと、少し驚いた顔で受け取ってくれた。


「おおっ、すまぬな。ありがとう。」


 それからすぐにスクロールに魔力を流し込みクリーンを発動させると、一瞬フワッとした少し水色がかった薄い光に包まれた。


「おお、べた付いていたシャツもサラッと気持ちよくなったぞ。凜が作ったクリーンのスクロールは凄いな。これなら銅貨2枚でも買ってくれる者がおるであろうな。」


「でも、そんなに高くしたらみんな大変だからさ。今まで通りの値段で良いよ。それよりさ。ポーションの素材って全部手にはいったの?


「調剤に必要な材料は手に入れてきたが、どうしてだ?」


「僕ね、資料室でポーションの錬金術式も手に入れたんだ。だから、材料があれば、作れるかもしれないんだよ。もしも、材料があるなら作ってみたいな。」


「ポーションの材料はかなり集めてきたが、錬金術にはどのような材料が必要なのだ?」


「ええっとねぇ…。ちょっと待って。調べるから。ポーション、ポーション…。有った。回復ポーションは、…。読むよ。薬草。ボアの魔石。蒸留水だね。」


「ボアの魔石と薬草は採集してきたが、蒸留水はないぞ。井戸の水ではいけないのか?」


「ちょっと待ってね。蒸留水は、…。有った。水から錬金術で作れるみたい。水差しの水を収納して…。アルケミー・マジックウォーター。これで錬金術に使う蒸留水はできたみたい。」


「お前、蒸留水って言ったのに呪文ではマジックウォーターって呟いていたが、大丈夫なのか?」


「あれ?そうだった?でも、ここに、蒸留水・マジックウォーターって書いてあるよ。」


「それなら良いのだが…。では、薬草とボアの魔石を渡す。初級回復ポーションの材料のはずだ。」


「中級回復ポーションの材料は何なのかな?」


「さあな。その本に書いてないのか?」


「これは基礎編だから、初級だけしか書いてないんだ。」


「明日にでも、錬金したポーションを調剤ギルドで査定してもらうだろう。その時に中級回復ポーションの材料を聞けば良いのではないか?」


「ええ?ポーションは、錬金工房で査定してもらうんじゃないの?」


「いや、さすがに薬は、専門の所で査定してもらわないとダメだな。錬金工房が、ポーションを作ったとしても調剤ギルド経由で販売することになっているからな。自分の所で作ってる道具屋は、調剤ギルドに卸しはしないが、査定は受けているはずだぞ。」


「そう言えば、ポーションを入れるポーション瓶も作らないといけないんだよね。材料は、魔石と粘土だけどロジャーは持ってる?」


「粘土は、ストレージの中には入っておらぬ。それも明日、道具屋に行って分けてもらわねばなるまいな。」


「分かった。でも、明日は、朝一番に冒険者ギルドに行って依頼を受けるつもりだったんだけどな。2週間で1回は依頼をこなさないとせっかくもらった冒険者ギルドの見習い冒険者資格がなくなるんだって。だから、明日は初依頼を受けるつもりだったんだよね。」


「では、明日は、朝一番で冒険者ギルドに行って依頼を貰い、その足で道具屋に行く。そこで、粘土を分けてもらってポーション瓶を作って、今から作る回復ポーションを詰める。出来上がったポーションを持って調剤ギルドに行き査定をしてもらうという流れだな。かなり忙しくなるぞ。」


「あっ、今日作った回復ポーションって何に入れていたら良いのかな?ロジャーは、瓶なんて持ってないよね。」


「ポーションを貯めておくことができるような器ならいくつかあるぞ。基礎錬金術の本の中に金属や岩石で器を作る錬金術はなかったのか?」


「探してみるね。ええっと、器だよね。器、器…。ガラス瓶がある。でも、白や透明の砂が材料なんだ…。ロジャー、そんなの持ってないよね。」


「砂か…、昔、何かの依頼で大量に収納したような気がするな…。ちょっと待てストレージの中を探してみるからのう。」


「おお、あったぞ。砂だな。そんなにたくさんはないがガラスの器を作るくらいなら十分だろう。手持ちの麻袋に入れて取り出すから収納するのだぞ。」


 そう言うとロジャーは麻袋一杯の砂を出してくれた。僕はそれを収納し、錬金術で器を作った。


「アルケミー・ビーカー。」

「アイテムボックス・オープン・ビーカー。」


 僕は出来上がったビーカーを取り出して、ロジャーに見せた。


「どう?この器。これ一杯にポーションを作ったらポーション瓶何本分くらいかな?」


「それは、1ℓビーカーだな。ポーション瓶10本分くらいの量が入る。しかし、今回儂が採集してきた薬草とボアの魔石をすべて使うと10ℓ以上の初級ポーションができると思うぞ。まあ、一度にそんなにたくさん使うことも売ることもないだろうから、お主のアイテムボックスの中で保管しておけばよいがな。」


「でも、初めてだから、1ℓだけにしておくよ。」


「そうか。しかし、儂が保管していてもどうしようもないからな。お主にすべて預けておく。この位の量の素材なら余裕であろう?」


 ロジャーは、魔石を10個と薬草と毒気し草をどっさりストレージから取り出した。


「それ全部僕が持っておくの?」


「おう。そうしてくれ。儂が持っていても何の役にも立たぬからな。儂は、調剤など細かい作業が性に合わないようでな。ちまちま計量するのが面倒なのだ。だから、ポーションは調剤ギルドか道具屋で買うことにしている。」


「ロジャーにも苦手なことがあるんだね。」


「そりゃあそうさね。何でもできる奴なんてそうそう居ないよ。だから、冒険者はパーティーを組んで活動するのだ。お互いの得意不得意を補い強め合うためにな。」


「良かった。」


「何がじゃ?」


「ポーションを作れたら、僕でもロジャーの役に立てることがあるかもしれないでしょう。」


「そうだな。兎に角、作ってみるか。回復ポーションの錬金術式は分かったのだな。」


「うん。アルケミー・回復ポーション・10ℓ。」


 グググッと魔力が減って行ったのが分かった。でも大丈夫。この位だったら余裕だ。


「おいおい、お主、1ℓしか作らないって言って居ったのではないか?」


「あっ…。でも、できちゃった。これ、初級回復ポーションかな…。」


 僕は出来上がった回復ポーションを1ℓビーカーに半分程入れて取り出した。


「この透明なエメラルドグリーンのポーションは、中級ポーションか上級ポーションではないのか?材料は、初級ポーションの物なのだが…。うーん、まあ、明日調剤ギルドで査定してもらえばわかることだ。それに合わせてポーション瓶は、あっそうか。凛、お主はポーション瓶は中級の物までしか作れなかったのだったな…。」


「うん。どうして?」


「お主が見せたポーションが上級回復ポーションなら、もう一か所寄らないといけないところが増えると思ってな。」


「それって、どこ?」


「錬金術師ギルドだ。上級ポーション瓶の錬金術式などそんなところしか持っておらぬだろうからな。」

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