第20話 錬金魔術師?

 ルーナスさんの錬金術工房で、魔力インクの錬金を練習用の錬金釜でやってみた。小さめだから余裕で錬金術式を刻み込んで作ることができた。スクロールの錬金術式のように大きな物は刻み込むのが大変そうだけど、何とかできそうだった。


 練習で作ってみたのは、クリーンのスクロールだ。同じように紙と巻いたスクロールを結ぶ紐でできている。ピンと広げる必要がないからか芯になる棒は必要なかった。小さい窯だから5本同時に作るだけで材料がはみ出しそうになる。ぎりぎりの大きさだったけど、錬金術式を刻み込んで、錬金釜に魔力を流し込むと物の10数える位の時間で完成した。


「お前、練習用の錬金釜でスクロールを作ったのか。凄いな。ちょっとでも術式を太い線にしたらはみ出してしまうからな。ぎりぎりの太さで描くことができたということだな。大した魔力操作の腕だ。それも、検品してやろうか?」


「はい。お願いします。」


「うむ。ほほう…。魔法陣は正確に描くことができているな。これなら十分売り物になる。そうさな、紙で作ったクリーンのスクロールは、普通なら鉄貨1枚程なんだが、これだけ緻密な魔法陣なら魔物の皮で作ったクリーンのスクロールと同じくらいの効果なんじゃないか?今はまだ、汚れてないから試しても分からんが、今晩でも確認して値段を設定することにするがそれで良いかな?」


「僕は、スクロール屋さんになるつもりはないから、値段決めは、いつでも良いです。また来るから何か面白い魔道具の錬金術式が手に入ったら分けてもらえますか?」


「おうよ。その練習用の錬金釜で物足りなくなったら鍛冶師ギルドに行って作ってもらったらいいぞ。材料があれば、1週間ほどで作ってもらえると思うぞ。」


「分かりました。色々教えてもらって有難うございました。それに、買い取りも有難うございます。」


「なーに、こっちこそ良いものを作ってもらって助かった。絶対また来るんだぞ。明日が無理なら、7日後までには必ず来てくれ。スクロールをまた作ってもらうからな。絶対だぞ。」


「はい。必ずですね。分かりました。」


 僕は、そう言うとロジャーと一緒に宿屋に戻ることにした。


「凛、たった3日間で金貨を稼ぐことができるようになってしまったな。」


「それって、凄いの?」


「そりゃあ、凄いぞ。見習い錬金術師なんて、一月働いても給金なんて貰えないことが殆どだからな。毎日の食事と着る物や寝る場所を貰えるだけでもありがたいことなのだぞ。親方と同じ仕事ができるようになって初めて少しばかりの給金がもらえるようになるんだ。そうだな。錬金術師の相場は良く知らないが、初めは良くて銅貨数枚程度なのではないか?成人してスキルや職業を貰ったら一人前として扱ってもらえるようになるがな。それから、修行に入る者もいる位だ。成人もしていないお前が、最初っからお金を稼ぐなんて普通はあり得ないことなんだぞ。」


「じゃあ、ロジャーが連れて行ってくれた工房の親方たちが良い人だったんだね。初めて作った物を買い取ってくれたんだから。」


「それもあるだろうが、多分、お前が作った物が、親方たちが作った物よりも品が良かったからだろうなが、それを認めてくれる親方の腕が良かったからだとは言えるだろうな。」


 話をしながら、宿屋に戻った。宿屋について錬金術の復習をすることにした。まず、錬金釜を取り出す。


「凛よ。折角、錬金釜を貰ったのなら、この前作ったクナイを錬金してみてくれないか?でも、術式がないから無理か…。そうだ、あの時頼んだ錬金工房に行って術式を売ってもらってくるか。」


「もしかしたら、術式覚えているかもしれないから描いてみる。紙も魔力インクもあるし、何かかけそうなんだよね。」


 魔力インクと紙があって、ロジャーがクナイって言った時に描けそうな気がした。何となくだけど。


「クナイの術式・アイテムボックスオープン。」


 目の前に紙に書かれた錬金術式が現れた。


「ほらね。紙と魔力インクをアイテムボックスの中に入れたからかな…。何となく描くことができる気がしたんだ。」


「ん?お主、今、何と言った?」


「何となく描くことができる気がしたんだ?」


「いや、その前だ。どうしてそう思ったって?」


「紙と魔力インクをアイテムボックスの中に入れたからかなって。」


「そう、それだ。お主は、今、錬金釜ではなく、アイムボックスの中で、錬金術式を作ったのだな。アイテムボックスの中でインクとペンを操作したわけではないのだな。」


「そう言われれば、そうだね。ペンなんてアイテムボックスの中に入れていないし、魔力インクは錬金釜に術式を刻み込む時に必要な物だしね。」


 錬金釜の術式を貼り替えるって言うけど、本当は少し違う。錬金術式が描かれた魔物の皮や紙の魔力インクに魔力を通して、窯に魔力を刻み込む作業を行うのだ。紙に写しとるにはインクの他にペンが必要だ。そう言われれば、ペンを貰っていない。


「この魔鉄鋼をお前のアイテムボックスの中に入れてみてくれ。クナイは、魔鉄鋼だけで作ることができたからな。」


 僕は、ロジャーが出した魔鉄鋼をアイテムボックスに収納した。


「どうだ、クナイは作れそうか?」


「アイテムボックス・クナイ・10本。」


 ほんの少しだけ、アイテムボックスに魔力が吸われる感じがした。その感覚が収まってアイテムボックスを開いてみる。


「アイテムボックス・オープン・クナイ。」


 中でできていたクナイを取り出すことができた。


「凛、お前は、錬金術師ではなく、錬金魔術師のようだ。」


「それって何なの?」


「錬金釜で、色々な物を錬金して作るのが錬金術師だ。錬金魔術師は、錬金術に錬金釜を必要としない。アイテムボックスの中で錬金できるからな。俺が知ってるのはその位だな。」


「じゃあ、錬金術式は、どこに刻んだらいいの。僕は、錬金釜で錬金したことがある物にしか錬金できないよ。」


「それは、どうなのだろうな。もしかしたら、アイテムボックスの中に錬金術式を入れるだけで錬金できるようになるのかもしれないな。」


「それでも、錬金術式は作ることができないんだよね。親方たちは、作れるようになった物の錬金術式は自分で作ることができるようになるって言っていたでしょう?」


「そこは、俺には分からないな。今度、錬金術師に聞いてみたらいいのではないか?もしかしたら、錬金術師ギルドに錬金術式が書いてある本か何かがあるかもしれないな。」


「でも、僕は、錬金術師のギルドには登録することができないのでしょう。」


「そうだな。だが、錬金術の才があると工房の親方に証明してもらったら見習い錬金術師として登録して、ギルドの中に入れるようになるかもしれないな。こんどルーナスに聞いてみるか。」


「本当。きっとだよ。それなら、ルーナスさんに錬金術の才があるって証明してもらえるように、錬金の練習をしておかないといけないね。さっき作ったスクロールをアイテムボックスで作れるかやってみるね。材料は、全部アイテムボックスの中に入っているからすぐできるはずだよね。」


「そうだな。それなら、以前に狩っていた魔物の皮も渡しておくか。」


「うん。お願い。」


 ロジャーに魔物の皮や魔石なんかを貰ってアイテムボックスの中に収納しておいた。


「アイテムボックス・洗浄のスクロール・100本」


 グググっと魔力が吸い込まれて中にアイテムボックスの中何かができたのが分かった。少し時間が必要だった。


「この洗浄のスクロールを持って行ったら錬金術師ギルドの紹介状を書いてくれるかな。」


「どうだろうな。まあ、喜んでくれるとは思うが、紹介状を書いてくれるかどうかは分からんな。」


「ねえ、今から行って書いてもらって良い?」


「うむ、さすがにそれはどうだろうな。さっきスクロールの作り方を習いに来たばかりなのに、練習が終わったからギルドに紹介状を書いてくれと頼みに行くのか?早すぎるのではないか?」


「ええっ?でも、ギルドに登録しないと、ギルドの資料室にも入れないんでしょう?まだ、字の練習はしてないけど何となく読めるから資料があれば、新しいものを作れるようになると思うんだけどな…。」


「錬金術式ではないが、冒険者ギルドにも魔道具の資料やもしかしたら錬金術式の資料があると思うぞ。冒険者の中にも錬金術の才を持つ者がいるからな。見習い冒険者に登録してみたらどうだ?それなら登録は直ぐ済むし、ギルドの資料も見せてもらえるかもしれないぞ。」


「本当?本当に錬金術の資料があるの?」


「詳しい資料はどうか分からないが、入門者向けの資料ならあると思うぞ。冒険者としての戦い方なども含めてな。訓練所もあるから、出来上がったスクロールの性能なんかを試すのに丁度いいのではないか?」


「分かった。じゃあ、冒険者ギルドに登録に行く。」


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