第18話 暗闇に落ちる子
「魔力病を発症した子は、極端な能力を持つと言われています。いや、違いますね。何事もなく有能な子として成人することが多いのですが、王家を滅ぼすほどの力を持つ者となることがあり、そのような王家に仇なす子は暗黒に落ちた子と呼ばれるのです。そして、一月ほど前、予知のスキルを持つ王宮魔術師が、暗闇に隠れるあの子を予知したのです。」
「しかし、暗闇に隠れているだけで暗黒に落ちたとは言えぬであろう。あの子は、確かに重い魔力病だ。成人まで生き延びることができるか分からぬほど。しかし、暗黒に落ちて王家に害をなす子になるとは思えぬ。お前にも懐いておるではないか。」
「アルフォンス様、あの子は、3男ですし、病気の為廃嫡しているのですよ。今更、情けをかけてどうするのです。それに、私とあなた様の間に生まれた子もいるのです。あの子が王家に仇を成し、我が家が断絶させされたらどうしますか?王家への忠誠を示すためには、あの子を葬るしかないのです。」
「我が子を我が手でと申すのか。」
「王室もそこまで非情ではございませぬ。あくまでも事故です。廃嫡された我が子を義父様の所で治療させるために旅に出し、その途中で不幸な事故にあって亡くなるのです。」
「しかし、亡くなった妻の父は、辺境伯。我が領地からは、馬車で一月以上かかる場所に住んでいるのだぞ。そのような場所に息子を一人で旅立たせるなどできるはずもなかろう。」
「そこは、お金で何とでもなります。いらぬ風評が立たぬ程度に護衛代わりの冒険者を付けるのです。勿論、事故が起きることを承知した冒険者を。」
レミは、寝る前の挨拶をしようと両親の部屋を訪れ、この話を一部聞いていた。その時は、自分のことの話だとは思わなかったが、何か善からぬことを話しているということは察し、挨拶をせぬまま、自室に戻っていた。
2週間ほど後、おじいさまの屋敷に移り住むことになったと知らされた。お兄様たちや両親と別れるのは悲しかったが、魔力病の薬に必要な素材が近くで採れるおじいさまの家で治療すれば、治療費も抑えることができるし、魔術スキルが高く、医療の見識もあるお爺様の側なら今よりも治療の効果も上がるからと説得された。
初めは、レミと雇われ冒険者だけでお爺様の屋敷を目指すことになっていたのだが、レミを幼いころから可愛がっていた老騎士マティアスも一緒について行くと屋敷にお暇を願い出た。
2週間ほどは、順調に旅が続いた。体が弱いレミは、その間数回熱を出し、旅は中断したが、それでも、順調だったといえるだろう。
街道最後の町を出て、辺境の地に入り、1日程馬車を走らせた頃マティアスは、辺境伯の屋敷へ向かう道とは違う方向に馬車が進んでいることに気づいた。
「クルト殿、この道は、私が知っている道と違うのだが、新しい道ができたのか?」
クルトは、馬車を御している冒険者だ。
「旦那は、奥様に何もお聞きになっていらっしゃらないのですか?」
冒険者は怪訝な顔でマティアスに聞き返した。
「何のことをだ?儂が聞いているのは、レミ様をマルク辺境伯のお屋敷にお連れすることだけだが?新しい道を行くことなぞ聞いておらぬぞ。」
「そうなんですね…。奥様からの指示で、新しい道を確認してくるように言われているのです。ちょっとだけ遠回りになるかもしれないそうですが、近道になる可能性もあるってことで。遠回りになっちまったらすみませんね。」
マティアスがレミと一緒に馬車の中にいなければ、不自然な間合いの間に御者台で交わされていたハンドサインに気が付いたかもしれない。馬と馬車に乗っている冒険者は5名。少々の魔物なら全く気にならないくらいの戦力だ。増してや街道を行く旅。心配なのは魔物よりも盗賊だろうと言えるような旅だ。それ以上にマティアスは、冒険者たちを怪しむようなことは無かった。レミの護衛任務を任された者たちを信頼していたのだ。
かなり深い森だ。こんな場所が街道途中にあったのかと思うよな場所に野営をするという。マティアスもさすがに不審に思ったが、レミの発熱の所為で旅程が遅れてしまったため、今晩は森の中に泊まることになると説明された。
「マティアス殿、そなたは、馬車の中でレミ様を護衛しておいてくれぬか。夜警は、我々が順番に行うから大丈夫だ。それと、馬は休ませるために馬車から外すが、かまわないな。近くに川があるようだからそこで洗ってやりたいのだ。今から、夕食の準備をする。出来上がったら呼ぶからしばらく馬車の中で待っていてくれ。」
「うむ。心得た。」
馬車の中に入って行ったマティアスは、レミと他愛ない話をして過ごした。
「レミ様、最近は、体調が良い日が少なくなっておりますね。ちゃんとお食事は食べていらっしゃいますか?」
「うん。食べるてるよ。マティアスもちゃんとご飯食べてるの?昔は、良く僕たちと食べてくれたのに最近は、一緒に食事をしてくれないよね。」
「そうですね。レミ様のお母さまが生きていらっしゃるころは、よく一緒にお食事をしておりましたね。まあ、レミ様はちっとも食べていらっしゃらなかったですけどね。」
「あれでも一生懸命食べてたんだよ。マティアスが一緒だと色々なお話をしてくれたから、皆笑っていられたし、食事が辛くなかったんだよね。」
『マティアス様、ちょっと出て来てくれないか。』
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「マティアス…。」
枕が涙でぬれていた。マティアス…。僕を守ってくれた僕の騎士。沢山の狼たちに覆いかぶさられても、負けなかった僕の騎士。血だらけになっても僕を守ってくたマティアス。生きているよね。
病院のベッドは真っ白で清潔なシーツで覆われている。僕は、そのベッドの上で何度も寝返りを打っていた。こっちの世界には、隠れておくことができる暗闇は無くなってしまった。ええっと…、僕の名前は、レミ…。やっぱり思い出せない。只のレミだったのかな…。
そんなことはどうでもいいや。僕は、こっちの世界でお父さんに会えた。そして、魔力病の治療をしてもらっている。これからどうするのかは、ゆっくり考えよう。それから、凜のことは…。考えても分からない。今は、こっちの世界で魔力病の治療をすることを頑張ろう。薬なんてないのだから…。
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