第15話 町の錬金術師?

 ロジャーに連れてきてもらったのは、町の錬金術師の工房。いくつもの錬金釜が並んでいる。

 金属錬成ための錬金釜、素材を入れ、純粋な金属を取り出したり、希少合金を作ったりする錬金術師の専用魔道具だ。


 僕は、まだ錬金釜を作ることはできないけど、いずれ、熟練度があがれば作れるようになるだろうってロジャーに教えてもらった。錬金釜が作れるようになったら一人前の錬金術師なんだそうだ。


 錬金釜を作れるようになる前には、錬金術式を作れるようにならないといけない。錬金術式は、錬金術の才がある者はだれでも書くことができるが、その錬金術式は、自ら学び理を理解して書くことができるようになるか、師匠から教えてもらうかだそうだ。


 初級ポーション瓶の錬金術式は見せてもらったけど、何を書いてあるのかは、さっぱり分からなかった。今日連れてきた貰ったのはデニス工房。


「この坊主か?錬金術師の才があるって言うのは?」


「うむ。そうだ。既に中級ポーション瓶の同時製造までできるようになっているそうだ。」


「そうだな。それじゃあ、金属錬金の才を見てやろう。まず、鍋でも作ってみるか?お前、錬金術式は何か書けるのか?」


「いいえ。何も書けません。でも、錬金釜に魔力を流して物を作ることはできると思います。」


「ほほう。中級ポーション瓶は、何本位同時錬金したんだ?」


「ええっと、確か100本だったっけ…、200本です。」


「そんなに同時錬金できるようになったのに、錬金術式は覚えられなかったのか?」


「ええ?一杯錬金したら、錬金術式って覚えられるのですか?」


「まあな。そんなに何百本も錬金してたら流石に錬金術式覚えると思うのだがな…。まあ、それは、置いとくか。それでな。うちの工房で錬金しているのは、鉄のインゴットと素材があれば、魔鉄鋼だな。そして鉄から作る鍋とフライパンだ。」


「魔鉄鋼でつくる剣も研究しているぞ。魔術具の錬金術式は持ってないからな。そちらを学びたいなら、別の工房に行くんだな。」


「じゃあ、お鍋作ってみたいです。フライパンでも良いので。」


「この錬金釜には、鍋の術式が記述してある。材料は貸してやるから、作ってみるか?出来が良かったら、製造費を支払ってやるぞ。」


「はい。お願いします。」


「まずは、一つ分の材料な。鍋は、取っ手と蓋の一部分に木を使っているからな、合成錬金が難しいのだ。」


「はい。頑張ります。」


 錬金釜に手を添えて魔力を流していく。やっぱりとどこおる場所が何ヶ所かあるな。そこだけ少し魔力の押しを強くして一度流れ出したらもう大丈夫。


「エイッ、よいしょ。あれ?うん。良し。ウーンッ!」


『ポンッ』


「えっ?なんかすごい勢いでできたな。まあ、チェックしてやるから持ってきな。」


「はい。お願いします。」


 僕は、錬金釜の中にできた鍋を両手に抱えて持って行った。僕から受け取った鍋を真剣な表情でチェックしてくれている。


「ほほう。これは、良くできている。初めてにしては、すごく上出来だ。この鍋の製造料は銅貨2枚でどうだ?」


「ええっそんなにもらえるんですか?良いです。買取お願いします。」


「次は、同時錬金で作ってみるか?そうだな…、この出来だったら、50個だな。50個同時錬金で作ってみな。」


「あの…、材料は?自分で準備しないといけないのですか?」


「おお、すまねえ。今持ってくるから待ってな。お~い。誰かいねぇか?鍋の材料、50個分こっちに運んでくれ。」


 二人のお兄ちゃんたちが鉄材と木材を運んできた。50個分だからかなりの量だ。荷車に乗せて運んできたのにとっても大変そうだった。


「材料は、揃っているぞ。初めてみな。」


「はい。」


 錬金釜に手を当て、魔力を流し始める。さっき、一度魔力を通しているからかなりスムーズだ。暫くして…。


「ポポポポポポ…ポポポン!」


 鍋が錬金釜から溢れてきた。さっきのお兄ちゃんたちが慌てて、窯から鍋を取り出している。


「お前、そんな勢いで作ったら鍋に傷が付いちまうじゃねえか。ちったあ、加減するんだ。とにかく、急いで回収しろ。落とすんじゃないぞ。」


 お兄ちゃんたちが鍋を回収して並べてくれたから錬金釜から落ちることは無かった。


「うむ。今からチェックな。ちょっと待ってな。まだ、魔力に余裕があるならフライパンも作ってみるか?鍋より簡単だけど、一応見てやろうか?」


「おい、主、先ほど、魔鉄鋼があれば、魔剣も作っていると言って居ったが、クナイは作ることができるか?あるいは、投擲用の槍とかはどうだ?」


「両方とも投擲用ですね。ちょっと待って下さい。魔剣やそのほかの武器の錬金術式は別の所に置いてあるんですよ。物騒だし、あんまり売れるもんじゃないですからね。俺のおやじが趣味で錬金してたようなもんですから、あちらこちらから錬金術式を集めていたんですよ。でも、その前に、鍋の術式をフライパンに変えてからで良いですか?この坊主の才は中々のものですぜ。俺よりもいい品を作るかもしれないですよ。」


「おお、そうか。であれば、見込みがあるのかもしれぬな。」


「お~い。次は、フライパンの材料を50個分だ。準備できたら、まず1個分だけを錬金釜に入れておいて坊主に錬金させてくれ。俺は、この旦那の要望の物があるかどうか調べてくる。」


 親方と呼ばれている男の人は、鍋の術式をフライパンの物に変えると、そのまま奥の方に入って行ってしまった。すぐ後にお兄ちゃんたちが材料を持って出てきた。それから、計りを使って重さを測って錬金釜の中に入れてくれた。


「準備できたぞ。作ってみな。」


 一人のお兄ちゃんがそう言って僕を錬金釜の方に押しやった。僕は、錬金釜に手を当て、魔力を流した。やっぱりおんなじだ。滞る場所があるけど、少し力を加えると流れていく。調整しながら、魔力を同じように流していく。


「うー、むーおっ、うーーーん。」


『ポンッ』


「できました。」


「親方ー、できました。俺たちがチェックして良いですか~っ!」


「ちょっと待ってろーーー。」


 店の奥から声が聞こえてきた。お兄ちゃんたちは、フライパンを手に取ってチェックしている。


「すげーな。歪みが全くない気がする。」


「おおっ、待たせたな。お客さんちょっと待ってくれるか?まず、フライパンをチェックさせてくれ。」


「うむ。かまわぬぞ。急いではおらぬからな。」


「うーむ。歪みなし、傷もない。いい出来だ。これなら、銅貨1枚でどうだ?」


「うん。良いよ。さっきより簡単だったし。」


「そうか。よし、じゃあ、後49個な。宜しく頼む。」


「はい。畏まりました。」


「凜、お主なかなかやるではないか。」


「うん。」


 お兄ちゃんたちが材料を錬金釜入れてくれた後、魔力を流し始めた。今度は、錬金釜からはみ出さないように気を付けて流したよ。


『ポポポポポ…ポポポン。ポポポ…ポポポン』


「できました。」


「おう。じゃあ、チェックするな。待ってな。」


 親方は、しばらくフライパンとにらめっこしていたが、僕の方を見てニッコリ笑った。


「上出来だ。確かに50個のフライパンを製造してもらったぞ。では、先ほどの鍋の代金と合わせて銀貨15枚と銅貨2枚だな。ありがとうよ。」


「どういたしまして、こちらこそありがとうございます。」


「おお、凛、すごいぞ。もう立派な錬金術師だな。」


「えへ。」


 僕は、少し恥ずかしかったけど、ロジャーに褒めて貰って、とっても嬉しかった。


「それで、クナイでございますが、錬金術式はございました。しかし、今は、材料がございません。鋼鉄か魔鉄鋼が必要で、当工房には、残念ながら全くございません。それで、このクナイの術式を購入なさいませんか?お仲間に錬金術師がいるのであれば、ご自分たちでお作りになるのが得だと存じますが如何でしょうか?」


「ほほう。それが、本物だという証拠はどこにある?」


「どこにと申されましても…、作ればおのずとわかることでございますから…。」


「ならば、魔鉄鋼があれば、良いのか?さすれば、この工房で作ることができるのか?」


「魔鉄鋼と、かなりの熟練の錬金術師が必要です。しかし、坊ちゃんでしたら大丈夫だと思いますぜ。この腕ですからね。」


「では、一度、お主の所の錬金釜を貸してくれぬか?凜に錬金させてみようではないか。」


「しかし、魔鉄鋼か鋼鉄がございませんと。」


「魔鉄鋼か…。10kg程なら持っておる。それでは、クナイの術式をセットしてもらえるかのう。」


「はい。畏まりました。」


「ところで、主人、お主は、クナイの錬金はできぬのか?」


「少々自信がございませぬ。生まれてこの方、クナイなど錬金したことは、ございませんので。」


「そうか。では、凜よ。主人が錬金術式を張り替えたら、錬金してみてくれ。上手く言ったら、その術式を購入することを考えようではないか。」


「へい。宜しくお願いします。坊主、頑張ってくれ。」


「分かった。やってみる。」


 ロジャーに適当に魔鉄鋼を入れてもらって、術式に魔力を流していった。


「ポポポポポポポポポポポポン」


 12本のクナイができた。


「坊主、すごいではないか。ねえ、旦那、本物だったでしょう。これを金貨2枚でどうでしょう。安い買い物だと思いますが…。勿論、今の錬金釜の使用料は頂きません。お得だと思いますよ。」


「お主も商売上手だのう。凛に支払った以上を儂からせしめようという腹だな。良かろう。儂も良い買い物だと思うでな。今は懐も温かい故、喜んで買わせてもらうよ。」


「有難うございます。」


「あれ…?僕が作ったクナイはどうなるの?」


「おおっ、そうだったな。儂から凜にクナイの製造手数料を払わないといけなかったな。」


「あっ、そうか。ロジャーそれならいらないや。僕からプレゼントだよ。それでさあ、またクナイって言うのを作りたくなったら、ここの精錬窯を貸してもらえるの?」


「それは、かまわんが、その時は使用料を頂くぞ。1回、銀貨1枚程だがな。」


「そうか。お金がいるんだね。わかった。」


「それから、坊主、お前、フライパンか鍋の精錬式は覚えたか?あれだけ見事なものを作れるんだったら覚えたと思うんだが、もしも覚えたら、この魔羊皮紙に書き写してくれないか?あれだけ見事な製品ができるんだったら、歪みの部分を修正したものを作っていると思うからな。」


「ええっと…、書き写すってどうするの?そもそも錬金術式ってここの書いてあるじゃない。僕が使ったのってそれだよ。」


「ええ?この錬金術式は、どうしても歪みができちまってたんだよ。お前の作った鍋は、全く歪みがないではないか。どこが悪いのか分からないだが、今まで使っていた鍋は、少し歪んでできてしまっていたのだよ。」


「ああっ。どこが悪いかなら分かるよ。ええっと…。こことこことここ。ここに魔力が通りにくい場所があるんだ。他の所は大丈夫なのにどうしてなんだろうね。」


「えっ。そうなのか。ちょっと待て、ここと…、おおっ。分かった。ここだな。なるほど、ありがとうよ。もしかしたら修正できるかもしれねえぞ。フライパンは、どうだ、とどこおる場所が分かったのか?」


「うん。分かったよ。」


「待て、待て、待て!よし。これだ、これがフライパンの術式だ。滞りはどこにあった?」


「ええっとね。ここでしょう。それと、こことここ。」


「おおおお!なるほど、そこにあったのか。こりゃあ分からねえわ。なるほど、書き換え方は分かる。うむ。坊主、ありがとうよ。このお礼と言っちゃあなんだが、クナイ作りたくなったらいつでも来な。無料で錬金釜使わせてやる。」


「本当。ありがとう。でも、フライパンも鍋も、錬金術式は分からないよ。どうして?」


「術式理解は、才が関係あるらしいからな…。うちの術式が会わないのかもしれねぇな。でも、うちの術式でもあんなに見事な製品を作ることができているのにな。おかしなもんだな。じゃあ、ルーナスさんの所を紹介してやる。明日にでも言ってみな。」


「うん。ありがとう。ロジャー、錬金釜貸してくれるって、クナイもっと作る?」


「そうだな。後、40本程作ってくれるか?魔鉄鋼は、もう少しあるからな。」


「ねえ、親方、この錬金術式ってここに貼るだけで良いの?」


「おう。そうだ。そして、魔力インクをここに乗せて、術式に魔力を流せば、錬金釜に刻み込まれる。錬金釜に錬金術式が刻み込まれたら材料を入れて、魔力を流すだけだな。」


僕は、言われたように、術式に魔力を流し込んだ。錬金釜に錬金術式が書き込まれて準備が終わった。


「では、凛、窯の中に魔鉄鋼を入れるぞ。さっきより少し多めに入れるからな。」


「わかった。魔力を流すよ。ウーンっ。」


『ポポポポポポポポポポン、…、…、ポポポポポポポポポポン』


「はい。出来上がりました。」


「おう、見事なクナイだ。有り難く使わせてもらうぞ。」


「どうしたしまして。」


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