第14話 これは、アイテムボックス?

 折角頑張ったのに、今日貰ったお金が全部どこかに行っちゃった。


 べそをかいている僕の背なかをガルドが撫でてくれている。ポケットを探してもズボンの中を探してもお金は入っていなかった。道具屋のおじさんには確かに貰ったから、今更、僕のお金何処に行ったんでしょうなんて聞けないよ。


 まだ午前中。魔力はたっぷり残っている。でも、銀貨17枚も貰ったのにどこかにやっちゃったなんて誰にも言えない。


 とぼとぼと歩いて、宿に戻ると、中庭でロジャーが体を洗っていた。


「どうした。凜、元気がないな。」


「あっ、ロジャー。折角、ポーション瓶の代金を貰ったのにどっか行っちゃったんだ。」


「落としたのか?」


「違うよ。目の前に黒いなんか変なのが出て来て、そこに手を入れたら、無くなっちゃったんだよ。手に持ってたのにだよ。」


「黒い、変なの…。凜、お前、その時、アイテムボックスとか言わなかったか?」


「アイテムバッグは、お店の人が持っていないのかって言ってたけど…、そうだ、お店の中に箱、箱、ボックスが落ちていないかなって…。言ってたかな。」


「それなら、アイテムボックスオープンって言ってみろ。失くしたお金が見つかるかもしれないぞ。」


「ええ?そう言ったら出てくるの?あいむぼっくすおーぷん?」


「凜。だ。自信をもってはっきり言ってみろ。」


「アイテムボックスオープン」


「あっ!黒いのがでてきて、あった。銀貨17枚。失くしてなかったんだ。」


 手を伸ばすと、銀貨が手の中に戻ってきた。


「なっ。よし、それなら、もう一度銀貨をその中にしまってみろ。アイテムボックスって唱えれば、アイテムボックスが目の前に現れる。その中にお金を入れれば、収納できたことになるからな。やってみろ。」


「アイテムボックス。黒いのが出てきた。中にお金を入れるね。わっ、無くなった。違うか。中に入った。」


「アイテムボックスオープン。ある。銀貨17枚。ねえ、ロジャー、何も取りださないで、終わりたいときはどうするの?」


「他のことをしたら自然に消えるし、どうしても呪文を唱えたいなら、アイテムボックスクローズで良いんじゃないか?」


「うぁ。本当だ。ロジャーと話している間に消えちゃった。」


「それと、これで…、おめでとうだな。」


「ん?何が?」


「お前の魔力病は、完治した。魔力回路が活性化したからな。地球の凜もアイテムボックスを唱えれば、魔力回路が活性化すると思うぞ。そうすれば、地球のお主の病気も完治することになる。だから、おめでとうじゃ。」


「僕の、病気が治ったの?でも、何も変わってない気がするんだけど…。」


「お主が錬金術師なら、アイテムボックスの熟練度の他に、錬金術の熟練度も上がるはずじゃよ。そうすれば、多分だが、錬金釜に取り付ける錬金術式を作ることができるようになったり、錬金窯をつくれるようになったりするはずなんだがな。今日は、錬金の熟練度が上がったような出来事はなかったか?」


「今日は、初級ポーション瓶を100本一度に精錬して、中級ポーションを200本精錬した。一度にできたよ。それくらいかな…。」


「そんなにたくさん一度に精錬で来たのか。凄いな。よく魔力切れにならなかったな。」


「全然大丈夫だよ。錬金釜に魔力を流すだけだからね。」


「そうか。錬金釜に魔力を流すだけか…。まあ、それが大変なのだがな。錬金釜にも、術式にも歪みや癖があるからな。自分で作った物でも、均一な魔力で錬金するのが難しいと聞くぞ。」


「そうかな…。でも、そうだね。なんか魔力が流れにくい所や流れやすい所があるから、真直ぐしたり、きれいに曲げて歪まないようしたりするのは難しいよ。」


「難しいけど、できるのだな。凜は凄いぞ。魔力操作が上手になっている証拠だな。」


「うん。だって、ロジャーが教えてくれたでしょう。だから、僕も、頑張ったもんね。」


「そうじゃな。凜は、頑張っておったぞ。」


「そうだ。ロジャーもアイテムボックス持ってるのでしょう。なんか便利な使い方ってないの?」


「儂のは、アイテムボックスではなくてな、ストレージというのだよ。だから、アイテムボックスとは、少し使い方が違うのだ。アイテムボックスの使い方は、教えてやれぬが、何に使えるかは、追々おいおい教えてやろうな。熟練度が上がると色々な使い方ができるようになるぞ。」


「本当!ちゃんと教えてよ。約束だからね。」


「分かった、分かった。約束じゃ。そうじゃ、今から、冒険者ギルドに行くのだが、ついてくるか?」


「うん。着いてく。」


「儂は、しばらく、この町で冒険者として依頼を受けて過ごそうと思うが、凜は、錬金術師の工房で修行をしてみるか?」


「いいの?ロジャーが、この町からどっかに行くんだったらついて行きたいけど、まだ、この町にいるんだったら、錬金術の勉強してみたいな。」


「うむ。儂は、しばらくこの町にいることにしたと言っておるではないか。お主を置いて内緒で出て行くことなどせぬから安心しておいてよい。では、冒険者ギルドに行った後、錬金術師の工房を回って、お主の師匠になってくれる方を探そうかの。」


 冒険者ギルドに着くとロジャーは、受付のお姉さんの所に行ってフォレストウルフの毛皮を取り出した。


「約束の毛皮を持って来たぞ。それから、シロッコの討伐も終了したからギルマスに確認してもらいたのだが、ギルマスはいるか?」


「えっ?…、今何と仰いました?」


「ギルマスはいるかと聞いたのだが?」


「その前です。フォレストウルフの毛皮を持って来たの後は?シロッコと仰いましたか?」


「うむ。言ったぞ。シロッコを討伐したからな。」


「えええっ。少々お待ちください。いや、ギルマスの執務室へいらっしゃって下さい。いや、でも、やっぱり、少々お待ちください。」


「ギルマスーッ!」


 凄く慌ててミラさんは、ギルマスの執務室に駆け込んでいった。すると、今度は、ギルマスとミラさんが一緒に受付に走って戻ってきた。


「ロジャー、シロッコを討伐したというのは本当か…。そ…、シロッコの討伐証明部位は何か持ってきているのか?」


「勿論だ。死体を丸ごと持って来たぞ。ただ、」


「ただなんだ?死体が丸ごとあるのなら何も問題ない。」


「そ、そうか。頭が落ちていても大丈夫なのだな。」


「えっ?頭がないのか?しかし、それでは、…。」


「いやいや、頭はあるぞ。只、首から落ちていてな。毛皮が血で汚れてしまったのじゃ。」


「えっ?首が落ちたシロッコを持って来たのか?」


「まあ、そうだな。それと、首が落ちたフォレストウルフを4体と後の8体は、きれいな毛皮だぞ。前回と同じように仕留めてきたからな。」


「と、とにかく、下の解体場で、見せてくれぬか?お主が言っていることを疑っているわけではないのだがな、到底信じられぬようなことを言っているのだ。お主が。だから、確認させてくれ。失礼とは、思っている。思っているが是非お願いする。」


「別に失礼とは思っておらんぞ。では、その解体場とやらに行くことにするか。案内してくれぬか?」


「はい。御一緒にいらしてください。子ども、お主も一緒に着いて参れ。」


「えっ?僕のこと?」


「うぬ。それとも、ここで待っておるか?」


「行く。一緒に行くよ。着いて行く。」


「して、お主は、なんと言う名なのだ?」


「ぼく?凜だよ。」


「うぬ。リンか。分かった。ところで、お主は、このロジャー殿の何なのだ?ロジャー殿と一緒に街にやってきたようだったが…。」


「えっ?何って言われても…。何だろう。…、ねえ、ロジャー。僕はロジャーの何なのかな?」


「お主か?仲間かのう。それとも、弟子になるか?」


「仲間でいいの?でも、弟子でも良いな。でも、でも、今までは、僕のお医者さんかな…。僕の病気が本当に良くなったんだったら、これからは、弟子にしてもらおうかな…。考え中だよ。」


「そうか。考え中か。ロジャー殿は、弟子をお取りになるのですかな?」


「そうさのう。長らく弟子も仲間も持っておらなんだからのう。久しぶりに弟子か仲間を持つのも良いかもしれぬな。」


「だそうだ。ロジャー殿の弟子になるのも仲間になるのも大変だと思うが、頑張るのだぞ。」


「うん。そうだ。この後、アイテムボックスの使い方を教えてもらうから、もう弟子なのかな…。僕、頑張るよ。」


 そんな話をしながら解体場へ到着した。ロジャーが、ストレージからシロッコの胴体を取り出した。そして、その首の所に切り落した頭を出し、討伐証明として提出した。


「証明を確かに確認した。これで、無理やりBランク冒険者を集める必要がなくなった。感謝する。そして、約束以上の働きなのだが、私が、ギルマス権限で即認定できる冒険者レベルはBランクまでなのだよ。申し訳ないが、Bランクの冒険者カードで勘弁してくれ。」


「勘弁してくれ等、儂とて感謝しておる。冒険者の資格などなくして久しいというのに。端からBランクの冒険者カードを貰えるなど思ってもおらなんだわ。」


「そう言っていただくと気が楽になる。これから、しばらくこの町にいるのであれば、宜しく頼む。それから、他のフォレストウルフの毛皮も買い取らせてもらうからここに出していってほしい。」


「了解した。宜しく頼む」


 ロジャーは、受付で討伐褒賞と、素材代金として金貨を10枚以上受け取っていた。冒険者ギルドでの用事が終わると、宿には戻らないで、僕を錬金術師の工房へ連れて行ってくれた。

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