第12話 これは、魔力?

 目が覚めた。部屋は真っ暗だ。夜明けには、もう少し時間がかかるかもしれない。部屋の端でゴソゴソという音が聞こえる。着替えをしているのだと思う。


「ロジャー?どうしたの。」


「凜か。起こしてしまったか?」


「ううん。目が覚めただけ。沢山寝たよ。」


「そうだな。良く寝ていた。今から朝食をとって森に出かけようと思うのだ。オオカミは、夜の魔物だからな。明け方まで、森の浅い場所に出て来ているんじゃないかと思ってな。暗いうちでないと、見つけることが難しいのだ。」


「一人で危なくないの?」


「大丈夫だ。もっとたくさんの狼の群れとも戦ったことがあるからな。それに、儂には、マウンテンバイクがある。」


「マウンテンバイクって森から町まで乗ってきた自転車のこと?」


「いや。お前を後ろに乗せてきたバイクは二人乗り用だったろう。儂が今から使うのは一人乗りのマウンテンバイクだ。オオカミくらいなら置いてきぼりにできる。」


「それじゃあ、ガルドも一緒?」


「ガルドは、お前の護衛に置いて行く。魔力登録は済んでいるからお前の言うことはしっかり分かってくれるぞ。」


「よかった。道具屋に行ってお手伝いしたらたくさんお金貰えるでしょう。ちょっと心配だったんだ。ガルドがいてくれたら安心だね。」


「良い心がけだ。お金は見せびらかすものではない。子どもがたくさん持っていると危ない目に合うからな。用心に越したことは無いのだぞ。」


「同じ事何度も言ってるよ。しっかり分かったからさ。ガルド、護衛宜しくね。」


 用事がなければほとんど動かないガルドだけど、小さく頷いてくれたように見えた。


「では、ちと早いが一緒に食事に行こうかの。」


 食堂に降りていくと、そう多くはなかったけど既に何人かのお客さんんが朝食を食べていた。大抵の人は、町を出る人だ。暗いうちから荷物を馬車に積んで、朝日とともに門を出て行く人たちだ。


「おっ、ロジャーさん、今朝は早いねえ。」


「うむ。暗いうちに森に入りたくてな。」


「それならもっと早く起きてこないと。今から外に出たんじゃ森についた頃には明るくなってるぜ。それに、森は最近やけに狼が多いようだから、暗いうちには誰も近づかないよ。」


「その狼の討伐依頼をギルドから受けたのだ。そうだな。今晩には、ギルドから貰った討伐報酬でこの店のみんなに奢ってやるよ。」


「みんなにかい?そりゃあ、大きく出たね。それじゃあ、幾らぐらいの料理と酒を準備してたらいいんだい。」


 親父さんとロジャーの会話に女将さんが入ってきた。


「おお、女将か。言質を取ろうという腹だな。かまわんよ。金貨1枚分だ。今晩は、俺がこの店の料理と酒を金貨1枚分買い取ってみんなに奢ってやるさ。」


「じゃあ、気を付けて行ってきな。話半分で準備しておくさな。怪我しないようにね。」


「おう。金貨1枚分の料理と酒の買取は本気だぞ。まあ、昼前には帰ってきているだろうから、その時金貨を1枚渡してやるよ。」


「昼過ぎだね。待ってるよ。おっと、朝ごはんも終わったようだね。もう出るのかい?その子は、留守番何だろう。それなら、あんたは、まだ、ゆっくり食べておきな。じゃあ、行ってらっしゃい。」


 ロジャーは、真直ぐ扉の方に行くと後ろも見ないで出て行った。あっと言う間に。


「ねえ、おばさん。ロジャーはどうしてあんなこと言ったの?」


「依頼をこなして元気に帰ってくるって言うちかいさ。帰って来たらこの店にたっぷり稼がせてやるから、の面倒を見ておいてくれっていう挨拶とお願いの言葉なのさ。」


 女将さんは、僕の頭をポンポンと叩きながら教えてくれた。


 朝ご飯をお腹いっぱい食べて、部屋に戻った。部屋の隅でガルドはじっと立っていた。明るくなって、お店が空いたら錬金術の道具屋に行くからね。宜しく頼むよ。」


 それからしばらくベッドに寝転がっていた。いつの間にか少し眠っていたみたいけど、病院で目が覚めることは無かった。




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 <父視点>

 今日は、病院の近くの研修所に出張だったため、直帰させてもらった。いつもよりも早い時間だ。この時間の凜は見たことがない。病室に着くと眠っていた。今日は凜の妹の6歳の誕生日だ。家でお祝いをすることになっているからいつもよりも早く帰らないといけない。


 一昨日から始めた治療。魔力を動かすという治療は、すごい効果を表した。医者も驚くほどの効果だ。何度切除手術をした壊死組織。切除すればしばらくは健康な組織ができてくるのだけどすぐにまた壊死が始まる。そんな組織が健康なまま回復している。今までも、手術後しばらくは、組織の回復の方が早く周囲から傷が治ってくのだけど中央部分にどうしても切除しきれない壊死組織が残っていたのに。どんなに完全に切除しても次の日には出来ていたのにそれが消えているそうだ。


 そういう意味では、下腹部組織が壊死するという原因がつかめない病気は、完治したと言って良いと言われた。原因が分からない以上、再発の可能性が高く、直ぐに退院という訳にはいかないけど、明日からは集中治療室から一般病棟に移ると言われた。


 これは、凜が異世界で習って来たというあの治療法が効果をもたらしたのだと思っている。だから、今日も休みたくなかったのだけど…。


「凜。凜。」


 体を揺すっても反応がない。熟睡しているのか…。もしかしたら、異世界に行っているのか…。時計を見ると午後5時になったばかりだ。いつもなら、起きているはずなんだけど…。寝たままであの治療ってできるのかな…。兎に角試してみよう。今日は、5時半には病院を出ないといけない。




 体を揺すらている。

「りん?」


 僕のことじゃない。見つかったのか…。今、目を開けるのはまずい。怖い。何が起こっているのか分からない。


 誰だ。僕の手を掴むのは…。でも、今手を引いたり払いのけることはできない。僕が起きていることが相手にわかってしまう。力を抜くんだ。僕は、今眠っている。


「できるかどうか分からないけど、父さんから魔力を送るぞ。受け取ったらお腹の下の方に持って行くんだぞ。」


 あれ…。父さん…?父上の声とは違う。全然知らない…?あれ、父上ってどんな人だった。


 僕の左手から暖かい物が入ってくる。暖かくて優しい物。これをおへその下に持って行くの?


 何故だろう。言われた通りにしている。そうしないといけないと分かる。


「暖かい物をおへその下に持って行ったらぐるぐる回すんだったな。できてるか?」


 ぐるぐる回す。ぐるぐるぐるぐる。


「暖かい物はまだ、父さんの所に戻ってないぞ。ぐるぐる回したら、父さんに返してくれ。おっ、そうだ。帰って来たぞ。暖かい物だ。またお前の方に渡すからな、ぐるぐる回して父さんに返すんだ。」


 父さん?が右手を離した。暖かい物は僕の中に入ってこなくなったけど、おへその周りを回っている暖かい物は、僕の魔力回路の中の滞っていた魔力を全部引きはがして、父さん方へ流れ出て行った。


 違う。父上じゃない。知らない男の声だ。怖い。僕の魔力を全部奪っていく。


 魔力が空っぽになった僕の意識は…、闇の中に落ちて行った。暖かくて暗い闇の中に。





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