第11話 あれは、文字?
寝る前に、魔力回路に溜まった魔力をロジャーに渡した。回路の中の魔力はほぼ空っぽだ。これで安心してゆっくり眠ることができる。時刻はまだ、8時前なんじゃないかな。それでも、ベッドに入ると直ぐに眠ってしまったみたい。
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「凜君、お早う。大丈夫?」
吉田さんだ。大丈夫って…。あっそうだ。昨日は、吉田さんと治療した時に、吉田さんが手を放してくれなくて…、そのまま向こうに行っちゃったんだ。
「お早うございます。僕あのまま寝てたんですね。」
「今9時だから、14時間位寝てたわよ。ちょっと心配したのよ。あっ、それから、もうすぐ回診だから起きててね。ええっと、それと、お熱を測っておきましょうね。」
『ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ。』
「ええっと。36度4分ね。平熱。異常なしよ。体調はどうですか?どこか痛い所はありませんか?」
「とっても良いです。痛い所もありません。吉田さんのおかげだよ。」
「えっ?本当に?ばったり倒れたから何か治療失敗だったのかと思ってドキドキしてたんだ。本当に体調良いの?」
「本当だよ。お腹も突っ張ってないし、痛くない。お腹が空いてる。何か食べたいな。」
「本当なの?本当に、お腹空いているの?気を使って嘘ついても先生に診てもらったらすぐに分かっちゃうんだよ。」
「気を使うって…、何?」
「うーん。まっ、いいや。とにかく、もうすぐ先生が来るからね。」
吉田さんは、ひとしきり僕と話すと、点滴のチェックやベッド周りの片付けなんかをしてくれた。そうしてるうちに先生が来た。
「お早う。凜君。調子はどうかな?」
「痛いのも良くなって、ばっちりです。頭ボーッも治りました。」
「昨日から痛み止めを外したからね。炎症はどうかな?ちょっとお腹を出してみて。」
先生はお腹を押さえたり、聴診器を当てたりしてたけど、ちょっと驚いたような顔をしていた。
「凜君が言うように調子が良いみたいだね。熱も下がったということは、炎症も引いたということだと思うから、良い傾向だよ。お腹の動きも久しぶりに出ている。お腹空いたかい?」
「うん。ペコペコです。」
「そうか。ペコペコか。でも、後2、3日様子を見て見よう。この調子で良くなっていくようだったら、食事を再開できると思うよ。ただし、水分と重湯からだよ。」
「はい。ありがとうございます。」
「どういたしまして。頑張ったね。」
宮崎先生が出て行くのを見送って吉田さんが話しかけてきた。
「凜君、良かったね。本当に治療効いていたんだね。午前中にもう一度やってみる?治療。」
「うん。手伝ってもらって良い?」
「勿論。夜勤の間中心配で肩がこっちゃったから、是非お願いしたいわ。」
「じゃあ、お願いします。でも、手はしっかり放してよ。」
「ヘヘッ。任せなさいって。」
吉田さん本当に頼みますよ。
それから、魔力を流す治療をしてもらって、午前中が過ぎて行った。吉田さんは、夜勤明けなのにいつもより元気だって言いながら病室を出て行った。明日には、集中治療室を出て、一般病棟に移るらしい。
夕方、父さんが来て治療をしてくれた。魔力切れになるまで魔力回路の魔力を出したら調子よくなったって言ったら、今日もやってみようってことになった。絞り出して気を失ってしまった。
暗くて暖かい場所。お腹は全然痛くない。なんかお腹が空いている。喉は乾いてないけど…。目を開けてみた。暗いけど周りが見える位の灯りはある。ベッドの上だ。
…、凜?病院?…色々な言葉が…。一度に押し寄せてくる。暖かくて魔物もいないけど、ここは危ない。なんかそんな気がする。僕が知ってる場所じゃない。僕が知ってる世界じゃない。
もう一度、きつく目をつぶった。さっきの言葉は何?緑色のランプで照らされていた「非常口」…、あれは、文字だ。僕が知っていた文字と違う。読めるけど知ってる文字と違う。どうして?
僕はベッドの布団を頭までかけて目を閉じた。僕はレミ。レミ・ド・リーニュ。リーニュ家の三男だ。父の領地はスタットリーニュ。僕が生まれ育った土地だ。それが僕。僕のはずだ。どうして、どうしてこんなところにいるんだ。なんか変だ。魔力病…。そう、魔力病で…。思い出せない。何でこんな所にいる。
さっきまで、何か違うことを考えていたはずなんだ。だけど、何も思い出せない。こっちの言葉が流れ込んできて…。僕の体なのに僕の体じゃないみたい。いや、僕の体だ。思ったように動かすことができる。でも、違う。なんか違う。
薄暗いこの部屋の中じゃ分からいけど、僕は僕だけど僕じゃない。そんな変な感じだ。
『キュキュキュ…。』
変な足音が聞こえてきた。魔物?
僕は、完全に毛布に隠れた。これで見つからなければ良いのだけれど…。
光魔法。光が動いているのが分かる。僕はギュッと目を閉じた。
(こっちにくるな!)
毛布の上を光がとおった気がしたけど何事もなく足音は遠ざかって行った。
暗闇の中、僕は、ギュッと目をつぶったまま音がしなくなるのを待った。時々、足音が近づいてきたけど、何事もなく、時間だけが過ぎて行った。そして、僕は、眠りに包まれていた。暖かい場所で。
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