第10話 これは、錬金術?

「大丈夫だったか?」


「何が?」


 冒険者ギルドを出るとすぐロジャーが聞いてきた。


「お主に辛いことを思い出させたのじゃないかなと思ってな。」


「覚えてないんだ。こっちの世界のこと。こんな風に話もできるし、文字も読めるんだけどね。地球のことも覚えているし、向こうで目が覚めた時にしたことも覚えている。だから、こっちの世界の文字と地球の文字が違うことは分かるよ。両方読めるから。でもね。さっきロジャーが言ってたことも全然覚えていない。僕を守ってくれていた老騎士のことも。少し申し訳ないような気もするけど。」


「いや、そもそも、凜とこちらで生きていたもう一人のお主は違う人間だからな。かわいそうだと思ったりすることはあっても申し訳ないと思う必要はないと思うぞ。」


「そうかな。でも、僕は、ロジャーと会って、こっちの世界で、魔力病の治し方を教えてもらった。これは、とってもラッキーで、地球の僕も以前よりも元気になったよ。それは、覚えている。だから、ロジャー、ありがとう。」


「そうか。それは、良かった。もう一人のお主も、元気ならいいのだがな。」


「そうだね。もう一人の僕が元気なら、いつか会えるかな?」


「会えぬな。元々違う世界の人間だ。どちらかしか同じ世界には、いることができんのだよ。体は一つだからな。」


「そうなのか…。でも、会ってみたいな。」


「できぬことを考えてもしょうがない。今から、町の見学に行くぞ。お主が何をできるのかも確認したいしな。」


「まずは、防具屋と武器屋だな。」


「どうして?僕、まだ子どもだよ。武器なんか危なくて持たせてもらえないと思うんだけど…。」


「剣術にしろ武術にしろ、自分を守るための手立ては持っておかぬとならないのだ。この世界は命が安い世界なのだ。人に守ってもらうだけなら、直ぐに他に売り渡されるぞ。その手段を身に着けるため訓練は、どれだけ早く始めても損はない。」


「武器屋で武器の使い方の練習道具を買うの?」


「何を言っている?武器は本物を使って練習せねば身に付かぬだろうが。木剣は、剣術を学ぶなら必要じゃよ。しかし、何回木剣を振っても、大剣は使えるようにならない。レイピアもな。己に合った得物を早く見つけないと自分を守ることはできんぞ。」


「わかった。自分に合った武器を見つけないといけないんだね。」


 武器屋に行って短剣を触ったり、直剣を振ってみたり、剣も触った。色々な武器を振り回したり、装着してもらったりしたけど、どれもピンとこなかった。練習と体力づくりにって言うことで、木剣を1本買ってもらって武器屋を出た。もう少し体力が付いたら、何かしっくりくる武器が見つかるかもしれないっていわれた。そんなものだろうか。


 次に行ったのは、防具屋。僕が来ている服は、割といい服で、子ども用としては上等な物なのだそうだ。子ども用で今来ているもの以上の防具は、大きくなってすぐに付けられなくなることを考えるともったいないって防具屋のおじさんに言われて何も買わないで出てきた。


 道具屋は面白かった。色々あって全部ほしくなった。職業に関係ある魔道具として精錬窯があったんだ。試しに一番簡単な精錬をやらせてもらったんだけど全く反応なし。道具屋のおじさんに才能なしって言われた。がっかりだぜ。


 次の道具屋にも色々あった。一番違うのが錬金釜。道具屋のおじさんが錬金術師なんだって。もしかしたら、さっきの道具屋のおじさんは精錬術師だったのかもしれない。それで、精錬窯と同じように、一番基本的な練習時に使うものとしてポーション瓶を錬金してみることになった。錬金釜にはポーション瓶の錬金術式が書き込まれている。


 このタイプの錬金釜は、魔法インクで窯に術式を書き込んで、材料を入れて道具の錬金をするのだそうだ。材料も入っているし、術式も書いてあるから、後は、魔力を流すだけ。簡単だ。そう言いながらさっきの精錬窯ではできなかったけどね。


「じゃあ、魔力を流してみな。」


 道具屋のおじさんの指示で魔力を名が込んだ。

『ポポポポンッ』と音がしてポーション瓶が4本出来上がった。


「お前凄いな。何にも練習なしで初級錬金をマスターしたぞ。同時錬金ができたら次のステップに移れるんだ。」


「本当。じゃあもう少し練習したら次のステップも教えてくれる?」


「ちょっと待て、同時錬金はできたけど、品質がどうかだ。鑑定してみるからな。」


「ええっとな。ふむふむ。傷無し。歪み無し。初級魔法陣良し。合格だ。この瓶は材料費と差し引きして、鉄貨1枚で買い取るぞ。もっと作ってみるか?」


「買い取ってもらう。もっと作っても良いの?」


「お前の魔力がもつならな。お前くらいの歳だったら後、4個か5個作ったら魔力切れだろう。作れるだけ作ってみな。」


「わかった。じゃあ、材料を入れて、粘土と魔石の粉でしょう。魔法インクはこの容器に入れておけばいいんだよね。で、魔力を注ぐっと」


『ポポポポポポポポポポンッ』


「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10。10本で来たよ。まだ作って良い?」


「凄いな。本当に凄いぞ。14本か。じゃあ、作れるなら後、16本作ってみるか?そうしたら30本になる。銅貨3枚分だ。やってみな。」


「さっきよりも粘土、魔石の粉を多くこの目盛りまで入れて。インクは大丈夫だから、よし、魔力を流すよ。」


『ポポポポポポポポポポポポポポポポンッ』


「1、2、3、…、14、15、16。良し。16本全部で30本だね。」


「本当に30本作っちまった。お前凄いな。魔力は大丈夫か?」


「うん。まだ全然大丈夫だよ。できれば、もう少し魔力を流しておきたいな。何か作れるものない?」


「じゃあ、中級ポーション瓶を作ってもらおうかな。術式が違うだけで材料も同じだし錬金釜も同じだ。それだけの同時錬金ができるなら熟練度は問題ないだろう。まず、1本だけ練習のつもりで挑戦してみな。」


「やってみる。材料は同じなの?」


「おお。同じだ。術式を描き替えるからちょっと待ってろ。」


 おじさんが錬金釜に魔力を流して初級ポーション瓶の術式を消して中級ポーション瓶に書き換えた。


「おじさんが、最初に錬金してチェックするからな。」


『ポンッ』


 おじさんは、自分で錬金したポーション瓶を錬金釜から取り出してチェックしている。


「チッ、ちょっとゆがみが出ちまった。ギリ商品として出せる範囲か。坊や、術式を書き込むときに少し歪んじまったようだ。上手く魔力を調整しないとポーション瓶の形にならないかもしれないぞ。今日は、止めとくか?」


「魔力を流す時に何に気を付けたら良いの?」


「魔力が流れやすい場所と流れにくい場所ができちまったんだ。だから流れにくい時は、少し強めに、流れやすい時は、少し弱く魔力の流れを調整しておんなじ量で流れるようにしないといけないんだ。かなり難しいぞ。」


「やってみる。粘土と魔石の量は大丈夫かな?」


「ちょっとまて…。大丈夫だ。ちょうど1本分くらいだろう。」


「やってみるよ。ムムムッムムンー。」


『ポンッ』


「できた。」


「おおっ。できたか。ちょっと待て。チェックだ。歪み無し。傷無し。魔法陣、良し。…、上出来だ。これは、鉄貨5枚で買い取りだ。いいな。」


「まだ作れるよ。これ、あと何本作って良い?」


「ええっ、そんなに作れるのか?じゃあ、20本だ。それ以上はいらない。」


「わかった。材料を入れるよ。20本分はどこまでなの?」


「粘土は、ここまでだ。そうだ。魔石の粉は、ここまでな。いいぞ。ぴったりだ。魔法のインクは、大丈夫そうだな。じゃあ、頑張ってくれ。」


「はい。うんと、ムムムムッ。ウーン。ムムムムム、ウーーンウーーーーーーッ」


『ポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポンッ』


「できた―!」


「チェックするからちょっと待ってろ。ええっと、良し。良し、良し、…、良し。丁度20本出来てた。合計で21本分な。これは、鉄貨105枚だから銅貨10枚と鉄貨5枚だな。さっきの銅貨3枚と合わせて、銅貨13枚と鉄貨5枚だ。銀貨で受け取るか?」


「ロジャー、どっちが良いの?」


「銀貨でもらっておけ。銅貨3枚と鉄貨5枚もあれば、しばらくは買い物に困ることは無いだろう。」


「分かった。じゃあ、銀貨でお願いします。」


「ほらよ。明日も手伝いに来てくれるか?」


「はい。宜しくお願いします。」


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