第8話 これが治療?
暖かい。今日もお腹はいたくない。時々声が聞こえるけど。
「ללא שם: רין-קון, אתה ישן עד הראשון?」(凜君、いつまで寝ているの?)
ガヤガヤとたくさんの人が近くで話している。なんて言っているのか全く分からない。只の雑音にしか聞こえない。目を開けちゃいけない。この暗闇から出て行ったら、きっと悪いことが起こる。もう二度と、マティアスにもおじいさまにも会えなくなる。
だから、僕はここから出ない。何があっても…。マティアスかおじいさまが助けに来てくれるまで頑張るんだ。
きつく目をつぶる。何も考えない。助けが来るまでは、ここから出て行かない。絶対に…。きつく目をつぶって、ずいぶんと力を入れて体を固くしていたんだと思う。疲れてしまってそのまま、眠ってしまった。深く、心地よい時間。
「ねえ、凜君。もうすぐお昼だよ。そろそろ目を覚ましたら。」
「あっ、お早うございます。」
「お早うじゃないけど、お早う。」
「あれ…?今何時ですか?」
「う~んとねぇ。朝とは言えない時間ですよ。なっなんと、11時40分です。」
「うぁーっ。凄く沢山寝たんだね。」
「そうねえ。二人分くらいは寝てるかなもしかしたら3人分位。」
「ええっ。それはないでしょう。8時間睡眠の3人分だったら一日になっちゃうよ。」
「まっ、そうだね。一日の内に8時間位しか起きてないかもよ。」
「そうかもしれないな。起きていてもすることないし。なんかすごーく眠くなるんだよね。ご飯も食べられないからさ。」
「御飯か…。早く食べられるようになったら良いね。点滴してるからお腹空かないかな…。」
「でも、今日はもしかしたら、少しお腹空くかもしれない。」
「本当?もし、お腹空いたら教えてよ。拍手してあげる。」
「本当に?」
「本当よ。そしてねぇ。ご飯を完食出来たら、3階のナース全員で拍手してあげるわ。だから、頑張ってね。」
「分かった。何をかは、分かんないけど頑張る。」
「治療に決まってるじゃない。病気に勝つ!よ。」
「分かった。今日も父さんが来てくれたら頑張るよ。」
「あれれぇ。お父さんが来ないと頑張れないの?甘えん坊だなぁ。」
「うーん。そういう訳じゃないんだけど、一人じゃできないから…。兎に角父さんが来たら頑張るから、応援よろしくね。」
それから父さんが来るまでの7時間位、本を読んだり、休憩したりを繰り返して時間を潰した。早く来てくれないかな…。
『カッカッカッカッカッ…。』いつもの靴音。父さんだ。
「ただ今。凜。今日も治療頑張るぞ。」
「お帰りなさい。うん。頑張る。」
父さんと手を繋いで、魔力を父さんに渡す。父さんから魔力を受け取って…。ぐるぐるぐるぐる魔力を回す。
だんだん下の方に魔力を降ろして言って、おへその下まで魔力を下ろしたら、おへその周りをぐるぐるぐるぐる。
昨日みたいに引っかからない。ぐるぐる回して、おへその周りの魔力を動かしてぐるぐるぐるぐる。上に持ち上げて右手から父さんに渡す。あっ、また戻ってきた、少し勢いよく流れだしたかもしれない。
下に降ろしておへその周りをぐるぐるぐるぐる。もっと勢いよく流れだした。
「父さん。父さんの右手を離してみて。」
「おう。肩こりは治ってるぞ。昨日からな。なんか今は、今日の仕事疲れも取れた気がする。」
「良かった。じゃあ、また、温かい物渡すよ。返さなくていいからね。」
右手から魔力回路に滞っていた魔力を父さんに流し込んだ。下腹部の張りがなくなっていくのが分かった。昨日から痛みは感じない。一日たつと少し張る感じはするけど痛くなるほどじゃない。
「おお、父さんも何か元気になった気がするぞ。凜、ありがとう。」
「あっ、吉田さん。」
「凜君、今お父さんと治療を頑張ってたの?」
お昼話をした吉田さんが病室を覗いてくれた。
「うん。父さんと治療を頑張ってたんだ。かなり良くなったと思うよ。だって、お腹空いてきたもん。」
「ええっ?本当。じゃあ、拍手しないといけないね。」
「そ、そうか。凜。お腹が空いたか…。凄いな。頑張ってるもんな。」
父さんは、今にも泣きそうな目で僕の手を握ってきた。どうしたんだろう。一緒に治療してたから分かってるはずなのに。
「ええっ?本当にお父様と治療をしてたんですか?ただ甘えていただけじゃなくて…。」
「そうだ。凜。父さんだけじゃなくて、他の人ともおんなじ治療ができるか試してみたらどうだ。そうしたら、もしも父さんが仕事で病院に来れない時も治療ができるぞ。」
「あの…。治療っていったい何をやってるんですか?お父様がいらして直ぐに私はこの病室に来たのですが…、マッサージしてた訳でもないですし…。手を握っていらっしゃっただけですよね。凜君が甘えているだけかと思ってみてました。」
「凜の治療というか、凜に治療してもらってるって言うか…。兎に角、ええっと、あっ、吉田さんですね。吉田さんも凜の治療を手伝ってもらえますか?」
「ええっ。病院の中の治療は、ドクターに許可を貰わないとですね。それに、私たちは、ナースですから、治療はできないというか…。」
「そうなんですね。でも、ドクターに私がやっている治療はできないというか、ドクターにとって治療ではないというか。うーん。」
「ロジャーが誰でもできるかどうか分からないって言ってた。父か母ならできる可能性が高いとも言ってたよ。」
「凜君、ロジャーって誰?」
「いやーっ、それは、置いといてですね。吉田さん、医療で言うところの治療とは違いますから、凜の手伝いをしてもらって良いでしょうか?もしも、出来たら、私が凜の所に来れない時も安心できるのですが…。」
「えっ?ええっ。まず、どんなことをするかをうかがってからでいいでしょうか?」
「そうですね。その方が返事しやすいですよね。じゃあ、凜、吉田さんにどうするかを説明するぞ。違っていたら教えてくれ。」
「分かった。」
「私がやってみますから、大丈夫だと思ったら吉田さんがやってみて下さい。まず、凜の左手を右手で覆います。自分の右手が上、凜の左手が下です。次に凜の右手を自分の左手の上にのせて、凜の右手から暖かい物を受け取るのです。その温かい物を自分の左手から左肩、そして首の下を通して右肩、右手を通して凜に返す。そうすると肩こりが治ります。」
「えっ?凜君の肩こりですか?」
「いいえ。自分の肩こりです。」
「え?凜君の治療何ですよね。」
「そうですよ。それからですね。その温かい物を左肩から首の左側を通して少し上にあげて、首の右側から肩に戻して右肩、右手って通して凜に返したら首のこりも治りますよ。」
「あの…、凜君の治療なんですよね。」
「そうなんですが、治るんですよ。まだ治療は続きますが、自分の調子悪い所も良くなるなら、ウィンウィンだと思いませんか?」
「なんか信じられませんが、そんなんじゃ治療とは言わないですね。とにかくお手伝いしてみます。できなくてもがっかりしないでくださいね。」
「はい。ありがとうございます。」
「凜、吉田さんと一緒にやってみなさい。」
「うん。じゃあ、お願いします。」
「はい。じゃあ、始めましょうね。ええっと、私の右手は下向きよね。凜君どうぞ。そして、左手は上向き。はい、凜君の手を乗っけて。これからどうしたら良いのかしら?」
「吉田さん。椅子に座って力を抜いて、真直ぐ座ってもらえますか?」
「力を抜いて真直ぐね。それって難しいのよね。」
「じゃあ、僕の右手から温かい物を送りますね。温かい物がやってきたのが分かったら教えて下さい。」
「凜君の手温かい。あれ?凜君の手から温かい塊が私の手の方に入ってきた。次々に入ってくる。これね。凜君が言ってた温かい物って。これを左肩から右肩へ動かすのね。動いてくのが分かるわ。そして、右手から、凜君に返すのね。」
「はい。上手ですね。もう少し回しますね。」
「わあ、肩こり直ってくわ~。左肩から首の左側、上に行って、首の右側、そして下ね。それから右肩、右手にやって返す。ぐるぐる回すのね。首のこりも溶けてく~。」
「僕も魔力を回しますね。下に降ろしていって、ぐるぐるぐるぐる。おへその周りをぐるぐるぐるぐるこの位で良いかな。さっきだいぶ出しちゃったから。吉田さんの右手を外してください。僕の魔力を流し出します。」
「ちょっと待って、もう少し。」
「ええっ、手を離してああっ。また戻って来て、ああっ勢いが…、残りの魔力も持って行っちゃうああっ。」
吉田さんは慌てて手を離したけど、魔力回路に残っていた魔力は全部流れて行って…。僕の意識は、薄くなっていって…。
「凜くーん!しっかりして…。りんく…。」
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