第6話 ここはどこ?

 痛みが消えている。魔力病の痛み。痛みだけじゃない。昨日までは、食べ物の味もしなくなっていた。魔力病で。薬は、毎日飲んでいた。薄いピンクの錠剤。薬で、魔力病が良くなることは無いといわれた。時を待つしかないと。


 時がくれば、僕の魔力回路は成熟して、きっと士官だってできると励まされた来た。母さんはとても優しくて、いつも僕を大切にしてくれたんだ。本当の母さんが病気で亡くなった後、王都からやってきた母さん。とてもきれいで、いつも優しかった。


『闇に落ちる子は、王家に害をなす子なのです。』


 父さんは、母さんにそう告げられていた。僕が扉の外にいるとは思っていなかったようだ。魔力病の為、ベッドから起きていることの方が少なかったから。でも、聞き間違えだと思っていた。僕のことじゃないとも。森に置き去りにされた時に、もう一度聞こえた。


「王家に害をなす子だとさ。森に置き去りにしろと奥様から言われたのだ。その子は、ここに置いて行く。マティアス、お前は、奥様のご命令に逆らうのか。」


「レミ様は、闇に等落ちておらぬ。何かの間違いだ。」


 マティアス。優しいマティアス。僕が生まれた時から側にいてくれた。老騎士マティアス。


 暗闇の中。暖かい場所。僕は、目を開けないよ。昨日までは、あんなに痛かったのに。良くなっているんだ。闇に身を任せていれば良い。きっと、誰かが助けてくれる。今は、ここに隠れておこう。時々変な声が聞こえる。言葉なのか何なのかは分からない。優しい声のような気もするけど何と言っているのかは分からない。


 今日は、何故か頭がすっきりしているんだ。いつもみたいに眠くなくて。でも痛みもない。魔力病は、きっと良くなっている。15歳の誕生日はまだずっと先だけど、薬も飲んでいないけどここで静かに隠れていれば良くなるみたいだ。


 でも、ここは、どこなんだろう。僕を助けてくれたのは誰なんだろう。森の中じゃないことは分かる。でも、目を開けて確かめることはできない。今は、じっとして隠れてないといけない。そうしないと、また、あの狼たちがいる森の中に戻されてしまう。


「רין-קון, רין-קון」(凜君、凜君)

 誰か呼んでいる。僕の名前じゃない。誰か別の人だ。

「נראה שאתה בהכרה.」(意識はあるようなんですけどね。)

 今、目を開けると、きっと危ない気がする。


『トットットットッ…。』

 妙な靴音。だんだん離れていく。良かった。見つからなかった。義母さんが雇った奴らかもしれない。僕とマティアスを森の中に置き去りにして魔物をけしかけた奴らの仲間なのかも。


 そうだ。マティアスはどこだろう。ここに僕を連れて来てくれたのはきっとマティアスなのだろう。それなら、この場所、暗くて暖かい隠れ家を見つけてくれたのもマティアスなのかな。マティアス。ひどい怪我だった。僕をここまで連れて来て、大丈夫だったのかな…。


 暗くて暖かい隠れ家で僕は、今日も一日静かに隠れていた。もっと深い闇が僕に覆いかぶさってきた。僕の意識は薄くなっていき、深い眠りに落ちて行った。




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 目を開けるとロジャーが目の前にいてくれた。


「おう、目覚めたか。…、凜だよ、な。」


「うん。お早う。ロジャー。」


「お早う。さあ、顔を洗って朝食を食べるんだ。今日もたくさん歩くぞ。そうだな。多分、今日の夕方には町に付くはずだ。それまで頑張れ。」


「わかった。頑張る。それからね。僕地球でちゃんと治療ができたよ。」


「おお、そうか。しかし、話は歩きながら聞いてやる。まずはしっかり朝ご飯を食べないとな。」


「うん。」


 地球では、長いこと御飯なんて食べていなかった。入院している時もしてない時も、ご飯を食べるのは苦痛だった。でも、今は違う。とっても美味しいんだ。モリモリ食べることができる。朝からいっぱい食べた。


「もう良いのか?お昼にお腹空いたって言っても、食べる物なんてないかもしれないぞ」


「昨日の果物はもうなくなったの?お昼にもう一度あれ食べたい。」


「昨日の木の実は、まだ少し残っているが…、森を抜けたらら木の実は採集できないからな。」


「じゃあ、食べれないの?」


「少ししか残っておらんからな。昨日の内にジャムにしたのじゃ。」


「朝食が済んだなら出発するからな。森を抜ける前に木の実があれば採集しておこうかの。」


「ありがとう。宜しくお願いします。」


 朝食が終わったらすぐにコテージを収納して出発した。出発前に初級回復薬という物を一口飲ませてもらった。魔力回路の辺りが少し重くなった気がしたけど痛くはならなかった。その代わり、足が痛いのが治った。今日も一杯歩けそうだ。


 森を抜ける前に一度だけガルドと森の道に立っていた。直ぐに戻るからって、椅子は出してくれなかった。ロジャーが僕たちの所に戻って来た時には、昨日とは違った木の実を手に持っていた。紫色の木の実で僕の握りこぶしくらいの大きさのものだった。今日のお昼ご飯だ。きっとね。

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