第5話 これは、治療?

 ロジャーに作ってもらった夕食を食べて、水桶に入った水で体を拭いた。今日は、歯もきれいに磨いた。


 ロジャーは、洗浄のスクロールで体をきれいにしたって言っていた。それなんだろう。


「よし。今から治療の方法を教える。しっかり覚えて地球でもやってみるのだぞ。一人では難しいと思うから、誰かに手伝ってもらうのだ。父か母なら、できやすいと思うぞ。しかし、誰とでもできるわけではない。できなくても諦めるのではないぞ。いいな。」


「分かった。地球でも必ずやってみる。」


「よし。その意気だ。では、今からやることを説明する。」


「はい。宜しくお願いします。」

 僕は、背筋を伸ばしてしっかり聞こうと身構えた。


「うむ。気持ちは宜しい。しかし、力は入れないように。大切なことだからもう一度言う。力を抜いて、身体を楽にするように。でもまっすぐ座っておくのだぞ力を入れないでだ。背中をそらさないで、丸めないで、真直ぐ力を抜く。そうだ。だんだん上手になってきたぞ。」


 どうも、色々なところに力が入っていたようだ。姿勢作りが難しい。


「姿勢は本当の所どうでも良いのだ。でも、色々なところに力が入っていると、これから練習する魔力を感じることができにくいからな。もう少しだけ、姿勢作りを頑張ってみるのじゃよ。」


 ロジャーに言われるように力を抜いたり入れなおしたりしているとなんとか楽に真直ぐ座れる場所が見つかった。


「そうだ。いいぞ。では、右手を出してみろ。手の平を下に向けて。」


 僕の手をロジャーは左手の平で受け、支えてくれた。


「次は、左手だ。左の手で儂の手を受けてくれ。手の平を上に向けて。そうだ。この形を覚えておくのだ。右手の平は下に向け相手の左手の上に被せる。左手の平は上に向け相手の右手の平を乗せてもらうのだよ。良いな。」


「うん。分かった。」


「座った姿勢は力を抜いたまま真直ぐな。では、今から儂が無属性の魔力をお主の左手の平に流し込む。暖かい物が入って来たら、ずーっと肩の方に上げていって右肩に回して右手の平から儂の左手に返すのだ。良いな。暖かい物だぞ。では、流すぞ。」


「あっ。暖かい物が来た。」


「おおっ、すぐ気が付くとは、お主、魔力操作の才能があるようだな。」


「えへへっ。そうかな。ええっと、この暖かい物を左肩から右肩に…、動かせたよ。ロジャーってばどんどん暖かい物を送り込んでいるでしょう下から押されて上がって来てるし。」


「ほうほう。良いぞ。そしたら、右手から儂の左手に流し込むのじゃ。」


「うん。行くよ。」


「おおっ!送り出すことができたぞ。まだ数分しか練習しておらぬのに。お主、本当に魔力操作の才能があるぞ。」


「そ、そうかな。これで魔力病が治るの?」


「これだけでは、治らぬな。もう少し練習が必要じゃ。」


「分かった。頑張る。」


「では、次の練習じゃ。左肩からやってくる儂の魔力を下まで下げて見よ。肩からわきの所を通して反対側の脇の下を通して肩から右手、そして送りだせ。」


「うん。脇の下まで下げて、右に動かして、肩から右手…できた。」


「今、心臓の上を通っておるな。次は、もっと下だ。胃よりも下、へそのあたりまで下げられるか?」


「なんか、邪魔なものがあるけどさげるね。少し引っかかってるけど、よいしょ。頑張れ。」


「引っかかっているのが分かるのか。良いぞ。良い。右肩まで上げてそう脇を通してだ。」


「ロジャー、僕の中の温かい物の動きが見えるの?」


「おお、ボーッとだけどな。頑張っているのが見えるぞ。」


「その温かい物は魔力だ。無属性の魔力がお主の体の中を移動しているのだよ。」


「わかった。引っかかっているところも通して、右わきから肩に動かして、右手から出す。だね。」


「よーし。上手いぞ。今度はもっと下、へその周りをぐるりと一周してから持ち上げられるか?引っかかる所があるからな。そこを無理やり流すのだぞ。詰まった泥を流して道を作るみたいに勢いよく流してしまえ。さあ、魔力を渡すぞ。」


「うん。貰った魔力をおへその周りでぐるぐる回す。えい!回してあげて、ロジャーに渡す!できた。」


「よし。滞った回路に魔力が回るようになったぞ。次ができるようになったら魔力病は治る。完治できるぞ。いいか。やり方を教えるぞ。今は、儂の魔力で回路の滞りを押し流した。次は、お主の魔力を儂に渡せ。魔力回路の中に滞っている魔力を吐き出すのだ。さすれば、魔力病は解消する。だたし、ゆっくりだぞ。いいな。調子に乗って魔力を出し過ぎると魔力切れになってしまうぞ。いいな。ゆっくり、ゆっくりだ。では、お主の左手を離すぞ。儂の魔力は入れていないからな。」


「わかった。おへその周りの魔力をぐるぐる回して脇から肩へ右手から、でてけー!」


「おい!ゆっくりだと言ったで…。」


 僕の意識は、フッと途切れた。



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 白い部屋。病院だ。


「凜君。お早う。目が覚めたかい?」


 病院の先生。宮崎先生だ。


「お早うございます。」


「お腹の痛みはどうだい?」


「はい。だいぶ良いみたいです。あまり痛くありません。」


「じゃあ、少しだけ痛み止めの点滴を減らしてみようかな。痛くなったら直ぐに教えてね。」


「はい。分かりました。」


 それから、うつらうつらしながら父さんが来るのを待った。夕方になって父さんが来たら、魔力病の治療を手伝ってもらうんだ。きっとうまくいく。


 それから、長かった。痛み止めのせいでやけに眠い。これでも、減らしてくれたんだ。父さんが来るまでに何回寝てしまったんだろう。明るかった窓の外が暗くなった頃、いつもの『カッカッカッ…』って言う足音が聞こえて、病室の中に父さんが入ってきた。


「ただいま。」


「お帰りなさい。」


「今日は、調子はどうだ?痛みは治まったか?」


「痛み止めのせいで何かぼんやりしてるけど…痛いのはだいぶ収まったみたい。それからね。昨日話した治療方法を習ったんだよ。父さん手伝ってくれるよね。」


「おっ、おう。手伝うぞ。どうしたら良いんだ。」


「ええっとね。まず、右手を出して。手の平を下に向けて、僕の左手の上に置くの。そう。次は、左手を出してね。手の平は上。そして、僕の手の平を乗せてくれる。そう。じゃあ、今から僕が父さんの左手に魔力を渡すから、右手から僕の左手に返してね。」


「わかった。できるかどうか分かんないけど、凜から貰った暖かい物を凜に返せばいいんだな。」


「そう。じゃあ、始めるよ。ぼくは、右手から父さんに魔力を渡す。体の中に散らばっている魔力を集めて父さんの左手に流してあげる。」


「おおっ。凜の手の平から暖かい物がやってきたぞ。これを動かすのか…。どうやったら動くんだ。」


「とうさん。力を抜いて、無理やり動かさなくても、後ろから来る魔力に押されてだんだん肩の方に上がっていくでしょう。」


「おっ、そ、そうか。力を抜けばいいんだな。ふぅーっ。おっ、おおーっ。動き出した。凄いな。肩こりがスーッと取れていくぞ。なんか凜の治療をしているんじゃなくて凜に治療をしてもらってるみたいだ。」


「そうしたら、右手を通して、右手の平から僕の左手に返して。そう。帰ってきた。しばらくこのままにしてて。僕が魔力をおへその下まで下げていくから。」


 魔力は、僕と父さんの間をぐるぐる回っている。元々は僕の魔力だから、魔力病が悪化することは無い。おへその下まで魔力を下げて行って…。おへその周りを回す。引っかかっているところも無理やりまわす。ぐるぐるぐるぐる…。引っかかりが無くなった後、右手の方に魔力を上げていって…、左手は離しておく。


 ズーンと痛かった下腹部の痛みが消えて行った。ぼんやりとしていた頭もすっきりしてきた。ぐるぐると回した魔力を父さんに渡す。魔力でパンパンに膨れ上がって固くなっていた僕の魔力回路あたりが、しぼんで柔らかくなっていくのが分かった。静かに右手を離した。


「うん?どうした。終わったのかい?」


「うん。ありがとう。とっても楽になった。もう全然痛くないよ。痛み止めもいらないから止めてもらって良いかな?」


「ちょっと待って。宮崎先生がいたら見てもらうから。ちょっとの間だけで良いからな。」


「うん。分かった。待ってる。」


 その間にも眠気が襲ってきた。痛みがなくなったからか、痛み止めの点滴のせいなのか、とにかく眠い。先生、早く来てくれないかな…。

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