第4話 これは夢の続き?
僕とロジャーは話をしながら、森の道を歩いていた。
「ロジャー、もう昼になるなんて言ったけど、まだ十分朝じゃない。」
「そうでも言わんと凜は目を覚ましそうになかったからな。できれば、明日の夜には町に到着して、宿で魔力病の治療方法を教えてやりたいのじゃ。それにできるだけ早く寝ぬことにはあちらの世界での治療時間が無くなってしまいそうでな。」
「やっぱり、これって夢じゃないよね。」
「ん?何のことだ?」
「だって、夢って、次の日続きを見ることなんてできないから。」
「ああっ。これは、凜の夢だと思っていたのか?それは、そうだな。そう思うのもしょうがないと思うぞ。しかし、ここは、現実の世界だよ。お主は、向こうの世界で意識をなくすたびにこちらに転生しているのじゃよ。しかし、少し変ではある。お主だけが、こちらとあちらで目覚めるなど変な現象ではあるな。」
「これって、夢じゃないんだよね。だったら、ロジャーも本物…。生きている人なんだよね。本当に人なの?僕、時々死んでるってことないよね。」
「時々死んだりしたら、生き返れないだろう。ちゃんと生きておるぞ。地球でもこっちでもな。」
「時々異世界に来たり、病院にいたりするんだ。病院では、病気だからさ。痛いんだよ。さっきはだいぶ痛みがなくなっていたけど、ボーッとしてた。起きてるか寝てるか分からないくらい。」
「そうか。地球では、まだ痛いのだな。早く、治療を始められると良いな。」
「ロジャーは、本当に300歳なの。それなら人間じゃないよね?」
「儂は、本当に300歳だぞ。それに人間だ。まあ、人間族だな。儂は、半分は人間なんだが、半分はドワーフ族なんじゃよ。共に人間族だぞ。ドワーフ族は長生きなんじゃ。平均450歳らしい。儂はハーフドワーフだからなそんなには生きられないかもしれないが、同じくらい生きるかもしれない。でも、もう、長く生きたからな。十分に。儂の仲間はとうの昔に死んでしまったよ。その仲間の一人が地球との転生ができる奴じゃた。お前と違うのは、そいつは、転生していないときは、こっちにいたんだ。そして、そいつが転生している時だけ地球からもう一人の仲間がやって来ていた。そういう意味で、変じゃろ。お主の転生の仕方は。地球から転生したのは信じているぞ。そんなこという奴はおらんからな。名前も苗字という奴も含めてな。」
「ロジャーは、地球からの転生者に会ったことがあるんだね。地球に行ったことは無いの?」
「ないと思うぞ。多分、ないな。」
「自分のことなのに多分なの。」
「そう。多分じゃ。お前もそうだろう。多分異世界に来ているんだろう。」
「そうだね。僕は、多分異世界に来てるんだ。」
「喉は乾いていないか?」
「うん。」
「森を抜けるまで後1日はかかる。今日頑張れば、明日は楽になるぞ。」
しばらく歩くとロジャーが突然立ち止まり、懐から何かを取り出そうとゴソゴソかき回していた。
「やっと見つけた。ずいぶん出さなかったからな。ほい。」
何か大きな物が出てきた。ロジャーよりも少し大きい人…、ロボット?
「儂が使役しているゴーレムだ。ガルドと名付けておる。お主の魔力を登録するからな。右手を出してみろ。」
「う?ん。」
僕は、言われた通り右手を出した。ロジャーはガルドを屈ませると僕の手を胸の丸いボタンのようなものに当てさせた。
「しばらくじっとして。そうだな。右手からガルドに話しかけてみるんだ。挨拶で良いぞ。」
右手から挨拶するってどういうこと?
「今日は。僕は、佐伯 凛って言うんだ。宜しくね。」
少しだけ右手に力を込めて胸のボタンを押した。ガルドは、軽く会釈して僕を認めてくれたようだった。
「ちゃんと魔力を流せたようだな。お主、才能があるかもしれん。もしかしたら、存外魔力病は早く治すことができるかもしれぬぞ。」
「ん?本当。それならいいな。」
「うむ。凜よ、少し疲れただろう。椅子を出してやるでな。少し休憩しておくが良い。ガルド、少しの間、傍を離れる。警護を頼むぞ。信号の魔道具を渡しておく故、何かあったらすぐに打ち上げよ。」
ロジャーは、椅子を出して僕を座らせるとフッと姿を消して森の奥に見えなくなった。木々の枝の上を走っているようだ。なんかすごい。おじいさんなのに。まあ、腰も曲がっていないし体つきもお爺さんっぽくはない気がするけど。顔は完全にお爺さんだ。そんなこと思ったら失礼かなでも、300歳は超えているなんて言ってたし、お爺さんだよね。
10分もせずにロジャーは戻ってきた。僕の前に立つと、ブドウみたいな果物と小さな赤い木の実とモモみたいな果物を見せた。
「食べるか?うまいぞ。」
「うん。食べる。」
ブドウみたいな果物は、味はリンゴかな…。小さな実はサクサクしているけど水気は十分あった。小さな実の中に小さな種が入っている。そして、リンゴよりも甘いと思った。そのブドウリンゴを一房食べたら喉の渇きは無くなってとっても元気になった気がした。
僕は、リンゴブドウを食べ終わると、また森の中を歩き始めた。
「あのさ、…。」
僕が話しかけようとすると、僕を手で静止て、自分の口を押えて静かにするようにサインを送ってきた。僕は小さくうなずいて、話すのを止めた。僕の横に並んで歩いていたガルドが僕の後ろに回った。僕はロジャーとガルドにはさまれている。
ロジャーの視線が動くと
『ビュッ』
っと鋭い音がした。
『ドサッ』
何かが木の上から落ちる音がした。
「ハーッ!」
ロジャーが森の暗がりに向かって声を出した。
『バサ、バサ・ガサガサガサガサガガガ…。』いくつかの羽ばたきや慌てて逃げ去る音が聞こえてきた。
「魔物が何体か近づいて来ていたようだ。一番の大物は仕留めたから大丈夫だ。後の小物は威嚇の気を当ててやったら、逃げ去ったようだな。ガルド、後詰めありがとうよ。」
ガルドは、僕の後ろからまた横にやって来てペースを合わせて歩いてくれてた。時々手を取ってくれるから安心して歩いて行ける。
「凜、何か言おうとしてなかったか?」
「うん。あのさ、さっき魔力登録ってのをしたんでしょう。それと、僕の病気の魔力病って何か関係があるのかなって思ってさ。それを聞きたかったの。」
「魔力病と魔力登録か…。関係あると言えばあるな。同じ魔力が引き起こすことだからな。しかし、お主の病気と関係あるかと言えば、無いといった方が良いのかもしれぬ。魔力病の本当の原因は分かっておらぬ。一番簡単だが、お金がかかる治療は、15歳まで薬を飲み続けることじゃ。15歳で成人の儀を迎えれば、自然と治る。今は、薬も安くなっていると聞いておったが、そうでもないのかの。そういう病気じゃから、子どもの病気じゃ。魔力病の子どもは、貴族の場合ほとんどが大切に育てられておるぞ。成人の儀をすませば、かなりの量の魔力を持った者になると言われておるからの。職業やスキルにもよるが、王宮に仕官することができる者が多いと聞く。この世界では、そういう病気なのじゃ。」
「へぇー。そうなんだ。僕の世界では原因不明の病気だよ。治療方法は分からないってさ。手術だけなんだって。」
「そもそも、地球には、魔法を使える物がほとんどおらんというからな。魔物もおらぬし、ダンジョンもないのであろう?」
「そうだね。ダンジョンや魔物なんて物語の中でしか出てこないよ。」
それから、色々なことを話してもらった。ロジャーの冒険のこと。ダンジョンのこと。職業のこと。どれも面白かった。お父さんが読んでくれた物語に出てくる冒険者の話みたいだった。
「さあ、そろそろ夕方になってきたな。今日は、この辺りにコテージをセットして休むことにしよう。夕食を食べたら、魔力病の治療の仕方を教える。しっかり覚えるんだぞ。」
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