第3話 ここは病院?
お腹が空かないのはどうしてだろう。食べなくても大丈夫なのかな…。目を開けなくても大丈夫だ。暗いけど怖い場所じゃない。暖かくて、身体は柔らかい布に包まれているようだ。何も怖くない。一人でも大丈夫だ。こんなに暖かくてこんなに包まれていることができる場所なのだから。
意識は、闇の中に吸い込まれて、深い深い眠りの中に入って行った。さっきまでは、起きていたんだ。今から眠る。暖かくて暗い場所から眠りの闇の中に降りていくんだ。
目を覚ますと、白い部屋だった。いつもの病院。お腹の痛みは少しだけ収まっている。痛み止めの点滴がい効いてるのかもしれない。意識が何となくぼんやりしていて、今が朝なのかどうかもはっきりしない。鮮明に覚えているロジャーさんのこと痛みが消えた薬のこと。寝る前に食べたシチューの味、ベーコンの味。美味しかった。
うつらうつらしていると看護師さんがやって来て、熱を測ってくれた。37.5℃微熱かな。下腹部に炎症があるそうだ。魔力病による組織の壊死。ロジャーさんは石化って言っていた。こちらの世界では、石のように固くなることは無い。その前に切除してしまうから。
痛み止めの点滴は、僕をうつらうつらさせる。どのくらい時間がたったのだろう。廊下からコッコッコッと足音が近づいてくるのが分かった。
「凜、起きているか?」
父さんだ。嬉しくて目が覚めた。うつらうつらしていた意識がはっきりして、昨日のことを鮮明に思い出した。
「お父さん。昨日変な夢を見たんだよ。」
「怖い夢か?」
「怖い所もあったけど、楽しい所もあった。」
「じゃあ、楽しい所だけ話してくれないか?」
「ロジャーにあったんだ。白髪で髭を生やしたおじいさんで、自分では310歳なんて言ってた。」
「凄いお年寄りだな。歩けないくらいおじいさんか?」
「ううん。とっても元気なおじいさん。そのおじいさんが、薬をくれたんだ。それ飲んだら、お腹が痛いのが直ぐに良くなってね。びっくりしたよ。痛みが溶けて行ったんだ。」
「へーっ。痛みって溶けるんだ。凄い薬だな。」
「それでね。僕の病気のことを教えてくれたんだ。僕の病気は、魔力病って言うんだって。そしてね。15歳まで頑張ったら治るんだってさ。だから頑張れって。明日、薬の効き目が落ち着いたら治療方法、それね。地球でもできるんだってさ。方法を教えてくれるって約束した。だから、ロジャーさんに治療方法教えてもらったら、一緒にしてくれる?僕一人でできても、何か続ける自信がなくてさ。」
「よし。治療方法習ったら一緒に手伝ってやる。だから、頑張るんだぞ。15歳までだな。よし、絶対それまで頑張らせてやる。父さんと約束だからな。分かった。分かったからな。」
父さんは僕に見せないようにしてたけど目に涙を溜めていた。きっと、僕が治らない病気だからそんなことを言い出したのかと思ったのかもしれない。でも、違うんだ。ロジャーが言ったことは本当だと思う。明日になったら、僕に治療方法を教えてくれるはずだ。僕は、治療方法をしっかり覚えてできるようになる。絶対だ。
それから、父さんはいつものように本を読んでくれた。
『面白科学実験』時々解説を入れながら、科学の実験について話をしてくれた。失敗は成功への材料なんだそうだ。分からないことを見つけることが実験の出発点。少し難しい言葉もあったけど、実験って楽しそうだ。酸素とスチールウールの話。磁石にくっつく錆びた鉄の話。磁石にくっつかなくなる針の話。色々な話をしてくれた。お父さんとの楽しい時間は毎日1時間。
1時間経つとお父さんは帰って行く。僕は、病室に一人残って静かに消灯時間になるのを待っていた。楽しかった後の寂しい時間。でも、明日の夕方になれば、また、父さんは来てくれる。
消灯後、僕は、目をつぶり、深い眠りに落ちて行った…。
ほんの少しだけ目を開けてみる。暗い…。いや、ほの暗い暗い場所。でも暖かい。僕は、白い布に包まれている。柔らかいベッドの上。安心できる場所。暗くて暖かくて柔らかい布に包まれている。
お腹は空かない。喉も乾かない。眠っているだけ。それでも安心できる場所だ。僕は、薄く開けた目を固くつぶりなおした。怖いことは何もない。安心できる場所が良い。
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「おい、凜。いつまで寝ているんだ?もうすぐ昼になるぞ。」
「う…、うん?」
目を開けると白髪白髭の老人が僕を覗き込んでいた。
「あっ、お早うございます。ロジャーさん。」
「さんなんて付けずとも良い。ロジャーと呼んでくれ。凜。腹が空いただろう。いったいいつまで寝れば気が済むのだ。」
「寝ていても、寝てないような気がしてですね。いつもの2倍くらい寝ないと足りないみたいだよ。」
「とにかく、早く起きよ。口を濯いで、朝ご飯を食べるだ。そろそろ出かける。今日中に街に付かないと、またコテージで野宿をしないといけなくなるからな。」
僕としては、コテージでの野宿も快適なんだけどロジャーとしてはそういう訳にも行かないのだろう。大急ぎで朝ご飯を食べてコテージの外に出た。
ロジャーはもうすぐ昼になるなんて言ってたけど、まだ、十分に朝だと思う。小鳥は囀っていたし、太陽の光もまださわやかで森の木の上には登り切っていなかった。
僕たちは、小鳥のさえずりを聞きながら森の道を歩いていった。
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