第2話 ここは異世界?
痛い。
ドクンドクンと響く下腹部の痛み。さっきより少しだけましになっている気がする。でも、痛い。気を抜くと意識を手放してしまいそうだ。
「おい。大丈夫か。目を覚ますのだ。」
目を開けると目の前に老人の顔があった。
「しっかりしろ。怪我などはしておらぬぞ。騎士殿は立派にお主を守っておった。だから、気を確かに持つのだ。」
「お腹が、お腹が痛いです。お腹の下の方が…。」
老人は、僕の下腹部に手を当てると、目をつぶって何かを咲くっているようだった。
「魔力の滞りがあるようだ。お主、魔力病なのか?」
「魔力病…。(ぼんやりとした知識。)魔力病の僕は、治療の為に…。良く分からない。僕は、僕の名前は、佐伯凜で…。あれ…。何か変だ。僕は、魔力病で…。名前は、レミ。あれ…、違う。僕は凜だ。」
「お主、少し混乱しているようだな。やはり魔力病だろうな。痛み止めで混乱する物もいると聞くからな。そうだ。魔力病の薬が、ストレージの中に残っていたはずだ。かなり昔のものだから効くかどうかは
分からぬが、もしかしたら痛みが治まるかもしれぬ。ちょっと待つのだぞ。」
老人は、手を懐に入れたかと思うと小さな包みを取り出した。
「あれ?ここはどこ?さっきまで病院にいたはずなのに…。」
「病院?何だそれは。診療所のことか?まあ良い。この薬を飲んでみよ。水を渡すからちょっと待つのだぞ。」
老人は、僕を抱きかかえると、手に薬を持たせ、懐から水筒のようなものを取り出して、更にコップも出し水を注いで僕に手渡してくれた。
「おっと、包みのまま飲むわけにはいかぬな。コップは持っておいてやろう。薬を出して全て飲込むのじゃ。」
包みをほどくと赤い錠剤が出てきた。かなり大きい。直径7mmはあるんじゃないだろうか。こんなに大きな錠剤は、飲み込めるんだろうか。しかも赤い。かなり真っ赤な色が付いた錠剤だ。本当に大丈夫なんだろうか。もっとお腹が痛くなったりしないかな…。
「早く飲むのだ。先ほど、お主の腹を触ってみた時に明らかに魔力病の症状だった。魔力が滞って下腹部を石化させようとしている。早く飲んで魔力を流してしまうのだ。」
良く分からない言葉が出てきたけど、僕の病気の原因を知っている人のようだ。このまま薬を飲まなかったらもっとお腹が痛くなりそうだし、おじいさんの言う通り、薬を飲んでみることにしよう。
僕は、勇気を出して、その赤い大きな錠剤をのみ込んだ。水で流し込むと少しずつ痛みが溶けだしていくのが分かった。
「あっ、痛いのが溶けている。痛くなくなっていく。ありがとう。おじいさん。ありがとうございます。」
痛みが無くなっていくのって何年ぶりだろう。なんか、生まれた時からずっと痛かったような気さえする。
「良かったのう。かなり古い薬だから効くかどうか心配じゃたんだ。効いてよかったわい。」
「ええっ。古いってどのくらい前の薬なんですか?」
「約300年くらい前。いや、250年くらいかな。」
「おじいさん。もう、冗談はやめて下さいよ。そんなに昔の薬を懐に入れていられるはずないじゃないですか。いったいおじいさんはいくつ何ですか?」
「わしか?今年で310歳かな。もしかしたらもう少し上かもしれぬし、下かもしれぬ。まあ、その位じゃ。それから、儂は、ロジャー。おじいさんという名前ではないからな。覚えて置け。お主は?凜?レミ?サエキ?一体どれじゃ?」
「もう。310歳なんて冗談ばかり言わないでよ。人間がそんなに生きられるはずないでしょう。ええっと、僕の名前は、佐伯凜です。」
「冗談ではないのだがの。サエキリンか呼びにくい名前じゃの。呼び名は何というのじゃ?」
「サエキリンじゃなくて、佐伯 凛。佐伯が苗字で凜が名前ね。」
「お主、もしかして、地球からの転生者か?」
「テンセイシャ?何それ?」
「転生者だ。地球で生きていて、こちらの人間と入れ替わってやってきた者。こちらの人間も地球とやらに転生してお主の体の中にいるはずじゃよ。」
「そんな…。でも、ここって日本じゃないよね。まして、病院じゃないのは分かるよ。ここって地球じゃないの?ここって異世界なの?」
「まあ、落ち着け。よーく思い出してみろ。頭の中を探る感じだ。お前のこちらでの名前を探してみるんだ。」
「僕のこちらでの名前…。名前は、…。り…、レ…。レミ。僕のこちらでの名前はレミ。レミです。苗字は…。わ、分からない。住まいも、どうしてここにいるのかも…。分からない。」
「よし。よし、もう良い。頭の中を探るのはもう良いぞ。何か思い出したくないことがあったのかもしれぬな。お主の騎士殿は知っていたのかもしれぬが…。」
「騎士殿…。騎士…。マティアス。いつも僕の側にしてくれた。老騎士マティアス。あれ…、どうして涙が出てくるの?マティアスって誰だろう。でも、その名前を思い出すとなぜだろう。寂しくて悲しくなる。」
「そうか。マティアスというのか。立派な騎士殿だった。」
「マティアス?」
「どうした?」
「いや、何か変な気持ちになって、さっき何かを思い出したような気がしたけど、消えたんだ。どうして?」
「そ…、そうか。消えたか。マティアス殿が…。まあ、いずれ思い出すことになるかもしれぬ。それまで、無理せずとも良い。あの薬を飲んだのだから、しばらくの間は、魔力病の心配はいらぬであろう。しかし、地球のお主の体が少し心配じゃ。薬の効き目が少し落ち着いたら、地球でもできる治療を練習してみることにしようかの。」
「地球でできる治療方法がある?」
「うむ。あるぞ。儂とお主で、その治療ができるかどうかはやってみぬと分からぬがな。その治療方法をお主ができるようになれば、地球でも治療することができるようになるはずじゃ。そして、15歳まで生き延びろ。さすれば、地球のお主の体の魔力回路も成熟して、魔力病は完治する。薬が効いている今は、治療できぬが、明日になって薬の効き目が落ち着けば、その治療を試してみることができると思うぞ。」
「本当!絶対、教えて下さい。そして、15歳まで頑張ればいいんだね。」
それから、ロジャーは、コテージって言うのを出してくれて、森の中で一晩過ごすことになった。そのコテージって言うのの中に入ると魔物には襲われないそうだ。その中で食事の準備をしてくれて、魔物の肉のシチューとパン、果物と焼いたベーコンのようなものを出してくれた。生まれて初めて美味しいって思った。お腹いっぱい食べると、眠くなった。歯も磨いていないのに、眠くて我慢できなくなって、いつの間にか深い眠りについていた。
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